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- Amazonに対する競争法訴訟-事実上の最安値要求は認められるか
2024年02月16日
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4――Amazonはオンラインスーパーストア市場で独占力を有する(一般的な立証方法)
1|Amazonは2つの市場で独占力を有する
上述の通り、FTCは不公正競争行為を問題として提訴しているが、それは結局、私的独占の禁止であるシャーマン法2条違反抑止を目的とする。この私的独占の禁止条項を適用するには、被告(Amazon)が関連市場で独占力を有しており、不当な独占力の構築・維持行為があり、弊害が生じていることを示す必要がある。
そうすると規定の適用にあたってはまず、対象事業者(=Amazon)が独占力を有していると考えられる市場を画定する(これを関連市場という)。次に関連市場で独占力があることを示す必要があるが、ここで独占力を有していることを立証するには、二つの方法があり、①独占的シェア(一般には65%以上)を有し、重大な参入障壁を有していることという一般的な立証方法と、②制限された産出量(restricted output)と超競争的な価格(supercompetitive price)の存在を立証する直接的な立証方法がある12。後者②は、商品価格を少額であるが、実質的に上昇させた、あるいは品質を少しであるが実質的に低下させた場合でも顧客の購入量の変動がないことを立証する方法である。
そして、最後に独占力を獲得・維持するための違法な反競争法的行為が存在し、かつ弊害が生じていることを示すによりFTC法およびシャーマン法違反となる。立証すべき事項を図示したのが図表4である。
上述の通り、FTCは不公正競争行為を問題として提訴しているが、それは結局、私的独占の禁止であるシャーマン法2条違反抑止を目的とする。この私的独占の禁止条項を適用するには、被告(Amazon)が関連市場で独占力を有しており、不当な独占力の構築・維持行為があり、弊害が生じていることを示す必要がある。
そうすると規定の適用にあたってはまず、対象事業者(=Amazon)が独占力を有していると考えられる市場を画定する(これを関連市場という)。次に関連市場で独占力があることを示す必要があるが、ここで独占力を有していることを立証するには、二つの方法があり、①独占的シェア(一般には65%以上)を有し、重大な参入障壁を有していることという一般的な立証方法と、②制限された産出量(restricted output)と超競争的な価格(supercompetitive price)の存在を立証する直接的な立証方法がある12。後者②は、商品価格を少額であるが、実質的に上昇させた、あるいは品質を少しであるが実質的に低下させた場合でも顧客の購入量の変動がないことを立証する方法である。
そして、最後に独占力を獲得・維持するための違法な反競争法的行為が存在し、かつ弊害が生じていることを示すによりFTC法およびシャーマン法違反となる。立証すべき事項を図示したのが図表4である。
上記①(一般的な立証方法)に関し、Amazonはオンラインスーパーストア市場、およびオンライン販売仲介サービス市場の二つの市場で独占力を有するとFTC等は主張する。二つの市場で独占的なシェアを獲得していることに加え、オンラインスーパーストアはオンライン販売仲介サービスとしても機能する。Amazonのオンラインスーパーストアでの顧客は、オンライン販売仲介サービスの顧客となり、その逆も生ずる。そしてPrime会員制度が顧客の購買行動を制約するため、Amazonは市場独占力を両方の市場で獲得すると主張する13。
上記②(直接的な立証方法)に関し、Amazonの独占力の直接的な証拠も存在するとFTC等は主張する。Amazonは自然な検索結果にかぶせるように関連性の薄い商品広告を表示し、Amazonの販売したい商品へと誘導することにより検索品質をシェアの低下を伴わず劣化させたことなどを主張している。
訴状では、まず①一般的な立証方法によって独占力の存在を立証しようとしているので、以下で述べる。
12 基礎研レポート「エピックゲームズ対Apple地裁判決-反トラスト法訴訟」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=69124?pno=4&site=nli 参照。
13 前掲注1 p43
上記②(直接的な立証方法)に関し、Amazonの独占力の直接的な証拠も存在するとFTC等は主張する。Amazonは自然な検索結果にかぶせるように関連性の薄い商品広告を表示し、Amazonの販売したい商品へと誘導することにより検索品質をシェアの低下を伴わず劣化させたことなどを主張している。
訴状では、まず①一般的な立証方法によって独占力の存在を立証しようとしているので、以下で述べる。
12 基礎研レポート「エピックゲームズ対Apple地裁判決-反トラスト法訴訟」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=69124?pno=4&site=nli 参照。
13 前掲注1 p43
2|オンラインスーパーストア市場は一定の関連市場として画定される
独占力の存在を立証する前提として、その独占力がどの市場で存在するかをまず画定する必要がある。例を挙げると、コンビニとスーパーがあるA町という地域があるとし、コンビニで、サンドイッチの価格を上げると顧客がスーパーに流れるようであれば、コンビニだけの市場は成立しない。他方、コンビニとスーパーの両方がサンドイッチの値段をあげても隣町B町のパン屋に顧客が流れないのであれば、A町のコンビニとスーパーとで市場を画定することができるというものである。また、サンドイッチの価格を上昇させたときに、おにぎりの需要がたかまるのであれば、市場としてはサンドイッチとおにぎりで画定をすべきこととなるというものである。
独占力の存在を立証する前提として、その独占力がどの市場で存在するかをまず画定する必要がある。例を挙げると、コンビニとスーパーがあるA町という地域があるとし、コンビニで、サンドイッチの価格を上げると顧客がスーパーに流れるようであれば、コンビニだけの市場は成立しない。他方、コンビニとスーパーの両方がサンドイッチの値段をあげても隣町B町のパン屋に顧客が流れないのであれば、A町のコンビニとスーパーとで市場を画定することができるというものである。また、サンドイッチの価格を上昇させたときに、おにぎりの需要がたかまるのであれば、市場としてはサンドイッチとおにぎりで画定をすべきこととなるというものである。
ここでの議論は図表5の色付きの部分に関するものである。オンラインスーパーストアは顧客の購買時間と労力を削減する特徴を有し、このことにより顧客に幅広い商品を購入する目的で再訪させることができる。以下に述べるような特性から、オンラインスーパーストア市場は、実店舗や単一ブランドなど小規模のオンラインストアとの間で互換性がなく、単一市場として画定できるとFTC等は主張する14。
FTC等の主張は概ね以下の通りである。
(1) 多様なブランドの多種多様な商品を提供できること、ニッチ商品まで販売していること
-実店舗では展示できる点数に物理的限界がある。オンラインストアでは多様なブランドを販売していない。
(2) 営業時間や場所の制約がないこと
-実店舗では営業時間があり、物理的に店舗まで行かなければならない。
(3) 過去の顧客の購買履歴に基づいて適切な推奨ができること、その人にあった購買体験を提供できること
-実店舗や小規模オンラインストアでは商品カテゴリーをまたがった推奨をすることができない。
(4) その商品の過去の購買顧客の評判という選択ツールを表示できること
14 前掲注1 p44参照。
FTC等の主張は概ね以下の通りである。
(1) 多様なブランドの多種多様な商品を提供できること、ニッチ商品まで販売していること
-実店舗では展示できる点数に物理的限界がある。オンラインストアでは多様なブランドを販売していない。
(2) 営業時間や場所の制約がないこと
-実店舗では営業時間があり、物理的に店舗まで行かなければならない。
(3) 過去の顧客の購買履歴に基づいて適切な推奨ができること、その人にあった購買体験を提供できること
-実店舗や小規模オンラインストアでは商品カテゴリーをまたがった推奨をすることができない。
(4) その商品の過去の購買顧客の評判という選択ツールを表示できること
14 前掲注1 p44参照。
まずシェアについては、Amazonや産業の専門家は、価値ベースでAmazonはオンラインスーパーストア市場で60%を大きく上回るシェアを有していると認めている。
総合商業価値(Gross Merchandise Value、GMV)は特定期間における顧客への販売された商品の販売価値を指し、通常オンラインストアの市場シェアを追跡することに使われる。これを用いてAmazonのシェアは2022年に82%を占めると算定されるとする15。
一般に米国ではシェア65%以上あるときに、独占的シェアを有するとするのが前例である。FTC等の主張では、専門家等は60%を大きく上回るとし、GMVベースでは82%を有することから、Amazonはオンラインスーパーストア市場で独占的シェアを有するとする。
そして、このような独占的シェアを有するときに、参入に重大な障壁があるときに独占力を有すると認定される16。それが次項(4|)で述べられている。
15 前掲注1 p57参照。
16 基礎研レポート「エピックゲームズ対Apple地裁判決-反トラスト法訴訟」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=69124?pno=4&site=nli 参照
総合商業価値(Gross Merchandise Value、GMV)は特定期間における顧客への販売された商品の販売価値を指し、通常オンラインストアの市場シェアを追跡することに使われる。これを用いてAmazonのシェアは2022年に82%を占めると算定されるとする15。
一般に米国ではシェア65%以上あるときに、独占的シェアを有するとするのが前例である。FTC等の主張では、専門家等は60%を大きく上回るとし、GMVベースでは82%を有することから、Amazonはオンラインスーパーストア市場で独占的シェアを有するとする。
そして、このような独占的シェアを有するときに、参入に重大な障壁があるときに独占力を有すると認定される16。それが次項(4|)で述べられている。
15 前掲注1 p57参照。
16 基礎研レポート「エピックゲームズ対Apple地裁判決-反トラスト法訴訟」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=69124?pno=4&site=nli 参照
17 前掲注1 p60参照。
5――Amazonはオンライン販売仲介サービス市場で独占力を有する
FTC等の主張は概ね以下の通りである。
(1) 巨大な顧客ベースへのアクセスがあること。オンライン販売仲介サービスは、米国の販売者が直接オンラインショップを運営しなくともオンライン販売を可能にするサービスの場を提供するものである。そのもっとも重要な特徴は巨大な顧客ベースへのアクセスが可能になることである。
(2) 卸売業者(実店舗およびオンラインを問わない)との互換性はない。卸売業者は小売業者に卸売価格で商品を販売し、小売業者は商品の所有権を得てから顧客へと販売する。オンライン販売仲介サービスでは、販売手数料を徴収するだけであって、販売者は商品の所有権を直接顧客に移転するという形態をとる。
(3) SaaS(Software as a service)を利用したサービスとの互換性はない ShopifyのようなIT事業者は販売者にSaaSというソフトウェアを販売し、販売者は自社で顧客と直接つながるオンラインストアを構築・維持する。SaaSサービスはオンライン販売仲介サービスとは異なり、巨大な顧客ベースへのアクセスを提供しない。
以下では、まず上記4-1|でいう①の一般的な立証方法で独占力の存在を立証しようとしている部分である。
18 前景注1 p63参照。
(1) 巨大な顧客ベースへのアクセスがあること。オンライン販売仲介サービスは、米国の販売者が直接オンラインショップを運営しなくともオンライン販売を可能にするサービスの場を提供するものである。そのもっとも重要な特徴は巨大な顧客ベースへのアクセスが可能になることである。
(2) 卸売業者(実店舗およびオンラインを問わない)との互換性はない。卸売業者は小売業者に卸売価格で商品を販売し、小売業者は商品の所有権を得てから顧客へと販売する。オンライン販売仲介サービスでは、販売手数料を徴収するだけであって、販売者は商品の所有権を直接顧客に移転するという形態をとる。
(3) SaaS(Software as a service)を利用したサービスとの互換性はない ShopifyのようなIT事業者は販売者にSaaSというソフトウェアを販売し、販売者は自社で顧客と直接つながるオンラインストアを構築・維持する。SaaSサービスはオンライン販売仲介サービスとは異なり、巨大な顧客ベースへのアクセスを提供しない。
以下では、まず上記4-1|でいう①の一般的な立証方法で独占力の存在を立証しようとしている部分である。
18 前景注1 p63参照。
GMV(前述3―3|参照)ベースで、Amazonのシェアは2018年には66%を超え、2022年には71%超に達した。シェア2位のeBayの5倍、3位のWalmartの34倍の売り上げを誇っている。
上述のオンラインスーパーストア市場の項で述べた通り、シェア65%以上のときに独占的シェアがあるということはここでも同様であり、FTC等はAmazonがオンライン販売仲介サービス市場でも独占的シェアを有すると主張する19。
そして、もう一つの要件である重大な参入障壁について述べているのが次項である。
19 前掲注1 p67参照。
上述のオンラインスーパーストア市場の項で述べた通り、シェア65%以上のときに独占的シェアがあるということはここでも同様であり、FTC等はAmazonがオンライン販売仲介サービス市場でも独占的シェアを有すると主張する19。
そして、もう一つの要件である重大な参入障壁について述べているのが次項である。
19 前掲注1 p67参照。
(2024年02月16日「基礎研レポート」)
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03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2025年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
松澤 登のレポート
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