2023年10月10日

新NISAでは何に投資したら良いのか-長期の資産形成ではリスクよりもリターンを気にすべき

基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.319]

金融研究部 研究員 熊 紫云

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1―はじめに

2024年から、従来の少額投資非課税制度(NISA)の抜本的拡充や恒久化が実施され、新NISAの導入が予定されている。このレポートでは、一般的な投資家が長期の資産形成において、新NISAをどのように活用すべきかについて考えたい。

長期的な資産形成の目的は十分な資金を準備することである。今から老後資金の形成を始める若い人等は、老後の生活に必要な金額を事前に算出して、適切な目標金額を設定することは難しい。

一方で、現時点で自分がどのくらい投資できるのかは比較的容易に分かるのではないだろうか。尚、長期の資産形成においては、投資対象の選択がとても重要なのだが、新NISAの投資対象は数多く、株式(個別株)の他、各種ファンド(投資信託)等がある。

では、実際何に投資したら良いのか。ここでは、過去のデータを用いて、初心者におすすめできる代表的な市場インデックスに毎月5万円の積立投資を行い、20年後の最終的な時価残高がどうなるかを確認する。

2―20年後の時価残高はいくらになる

新NISAの「つみたて投資枠」の投資対象は、現行つみたてNISA対象商品と同様であり、国内外インデックス型投資信託が主である。一方で、「成長投資枠」の投資対象は範囲がとても広く、個別株、国内籍の投資信託、上場投資信託(ETF)及び上場投資法人(REIT)等がある。

投資経験が浅い投資家にとって、個別株やアクティブ運用型投資信託等の多くの金融商品から良い商品を選別することはとても難しいし、現実的ではないと思われる。

一方、市場インデックスは、数多くの銘柄を組み込んでおり、十分に銘柄分散されている。さらに、銘柄数が一定数に限定されている市場インデックスへ投資する場合、一定のルールに基づいて選ばれるため、銘柄選択効果が期待できる。したがって、運用のプロでない人にとっては良い選択肢であると言える。

このレポートの投資対象として、代表的な市場インデックスに投資する国内債券型、外国債券型、国内株式型、先進国株式型、S&P 500連動の米国株式型(以下、S&P 500)、ナスダック100連動の米国株式型(以下、ナスダック100)に加えて、低リスクのバランス型(以下、バランス型)を取り上げる。

1984年12月末から2004年12月末までの20年間のケースから、1か月ずつ投資開始時期をずらして、2003年6月末から2023年6月末までの20年間のケースまで、全223ケースで試算を行った。

各投資対象を購入した場合の最終的な時価残高の詳細を図表1で確認してみよう。投資元本は1,200万円である。
[図表1]20年後の最終時価残高
米国株式型と先進国株式型の最終的な時価残高の平均値は2,851万円~3,552万円でかなり高い。

一方、国内債券型、バランス型と国内株式型との最終的な時価残高の平均値は1,536万円~1,751万円と相対的に低い。

投資対象のリターンが高い場合、時価残高の増加が加速していく。一方、リターンが低いと時価残高があまり増えず、リターンが高い投資対象との最終時価残高の差はかなり広がっていく。

尚、日本株式は2013年アベノミクス前後で投資特性が異なると思われる。アベノミクス以降では日本株式のリターンは先進国株式並みになっており、日本株式へ今後投資するかどうかの判断においては、今回の試算結果はそのまま使うべきではないことに注意すべきである。

また、参考情報であるが、高いリターンが期待できる投資対象に投資する場合、一括投資等で早めに投資元本を投入する方が、最終時価残高の平均値は高くなる傾向があることが分かった。

ところで、この最終時価残高の平均はあくまでも全223ケースの平均値にすぎない。各ケースの最終時価残高が平均値になるわけではなく、平均値よりも高くなったり低くなったり、バラツキがある。このバラツキは主として価格変動リスクによるものである。

投資のリスクには価格変動リスクの他に、信用リスクや流動性リスク等がある。新NISAの投資対象である市場インデックス型投資信託には銘柄選択効果が期待できるため、信用リスクや流動性リスクは最小限に抑えられている。したがって、最終時価残高のバラツキにすべてのリスクが反映しているのだが、市場インデックス型投資信託の投資のリスクは、主に価格変動リスクによるものと考えられる。

そこで、最大値や最小値という極端なケースではなく、多くのケースが該当する図表1の75%範囲に注目して、バランス型、先進国株式型とナスダック100を具体例に、図表2で長期投資における最終時価残高の増加とバラツキを分かりやすく説明したい。
[図表2]長期投資におけるバラツキのイメージ図
低リスクであるバランス型へ毎月5万円を積立投資した場合の20年後の最終的時価残高は75%範囲内の最大値が1,810万円、75%範囲内の最小値が1,496万円となり、75%範囲内の最大値と最小値の差が314万円とバラツキは小さい(図表2:青の三角形)。

高リスクである先進国株式型へ投資をした場合は75%範囲内の最大値が3,990万円、75%範囲内の最小値が1,818万円となり、75%範囲内の最大値と最小値の差が2,172万円とバラツキがかなり大きくなる(図表2:緑の三角形)。

さらにリスクが高いナスダック100へ投資をした場合は、75%範囲内の最大値が6,393万円、75%範囲内の最小値が1,799万円、75%範囲内の最大値と最小値の差が4,594万円とバラツキは極めて大きい(図表2:赤の三角形)。

3つの三角形を見ると、ナスダック100、先進国株式型、バランス型の順で三角形の上への拡がりが大きい。長期投資では、高リスク高リターンの投資対象に投資すると、最終時価残高が雪だるま式に増えていく。勿論、リスクが高いため最終時価残高のバラツキも大きくなるが、実は最終的な時価残高の増加のメリットを台無しにするほど大きくはないのである。従って、長期の資産形成においては、一般的に言われている投資対象ごとの短期的なリスクの大小をそれほど気にせず、むしろリターンの大小を気にすべきであると思われる。

3―新NISAで何に投資すべきか

以上を踏まえると、若いうちはまず新NISAの「つみたて投資枠」で、リスクを必要以上に恐れることなく、先進国株式型等の将来的に高いリターンが見込める市場インデックスの投資対象に無理のない範囲で積立投資することが良いと思われる。同じ税制優遇制度である確定拠出年金制度(企業型DC及びiDeCo)でも同様の投資を行い、将来に向けた十分な資産形成を早めに開始することが何よりも大切である。

その上で、もし収入や資金に余裕があれば、新NISAの「成長投資枠」も活用し、米国株式等、より高いリターンが見込める市場インデックスの投資対象になるべく多くの金額を早めに投資するのが得策であると思う。

一方、残りの投資期間があまりない人は、株価暴落等のリスクの影響を極力軽減するため、ある程度満足ができる資産形成ができたら、バランス型等リスクの低いポートフォリオもしくは預貯金に移行する方が良い。

これから長期の資産形成を始める人は、新NISAの活用に向けて、リスクよりもリターンを重視し、勇気を持って第一歩を踏み出してほしい。
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金融研究部   研究員

熊 紫云 (ゆう しうん)

研究・専門分野
資産運用・資産形成

経歴
  • 【職歴】
     2020年   日本生命保険相互会社入社
     2021年4月 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2023年10月10日「基礎研マンスリー」)

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