2023年05月31日

日本の子どもの性被害(3)-児童ポルノ事犯では女児がターゲット、SNSに起因する事犯での性被害は1700人超で、スマホのフィルタリングなしが8割強-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛

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1――はじめに

近年の日本では、元大手アイドル事務所に所属していた現歌手による性被害会見や、男性保育士による複数の女児に対しての強制わいせつ罪での逮捕、ベビーシッターマッチングサイトを介した性被害等が話題となっている。

これらの事件を受けて、初稿では1、子どもの性被害の定義や性被害後の身体的、精神的影響について整理し、児童買春・児童ポルノ禁止法や児童福祉法に違反した場合には懲罰と罰金の併科がある重罪であること、居住自治体の青少年保護条例を各自で確認する必要性を示した。

また、子どもの性被害に関する身体的影響では、性器周りの損傷に留まらず、長期的な言動を観察しケアする必要があること、精神的な影響では、日常生活や成人後の社会生活にも長期的な人生に影響を及ぼし兼ねないストレス障害等が生じる可能性があることなどをまとめた。

第2稿では2、警察庁が公表している罪種別の子ども性被害の統計データを用いて、子どもの性被害の実態を分析した結果、2022年には1,461人の子どもが性被害を被っており、2013年と比較すると全体的な被害人数は減少しているものの、児童買春事犯の被害人数が微増、みだらな性行為等の被害人数は千人前後で大きな変動がなく、コロナ明けの社会活動の活発化に伴う性犯罪被害の拡大に懸念が残ることが分かった。

また、被害児童の5~6割は高校生であり、室内や限定的な空間における性被害が特徴的であることから、行動範囲が拡大した高校生においての情報モラルの知識習得や夜間外出禁止、行動範囲の制限などのリスク回避が重要となり得ることが示唆された。

本稿では、さらに具体的に児童ポルノ事犯における被害状況や、SNSに起因する事犯について特徴を分析する。
 
1 乾 愛 基礎研レポート「日本の子どもの性被害(1)」(2023年5月26日)
 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=74890?site=nli
2 乾 愛 基礎研レポート「日本の子どもの性被害(2)」(2023年5月29日)
 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=74915?site=nli

2――警察庁の罪種別子どもの性被害

2――警察庁の罪種別子どもの性被害

2-1|児童ポルノ事犯の検挙を通じた新たな被害児童は1487人
レポート(2)では、子ども性被害の人数を罪種別にとりあげた結果、2022年の児童買春・児童ポルノ事犯の被害児童合わせて422人であることが分かった。

これらの被害人数に加え、児童ポルノ事犯のみで検挙した事例から、新たに特定された被害児童が存在していることが分かったため、図表1へ示した。
図表1.警視庁令和4年児童ポルノ事犯の検挙を通じて新たに特定された被害児童数(年次推移)
その結果、2022年の被害児童は、男性206人、女性が1281人、合計で1,487人の新たな被害児童が存在していることが明らかとなった。2013年と比較すると、全体の被害人数は、2013年:646人➡2022年1,478人へ832人も増加しており、およそ2.3倍も増加していることが明らかとなった。

また、男女別に被害をみていくと、圧倒的に女性の被害人数の方が多く(全体の86.1%)、年次推移からも女性の被害人数は増加の一途を辿っていることが分かる。

児童ポルノ事犯においては、女性をターゲットとした性犯罪が多いことが一目瞭然であり、女児をもつ保護者はより注意が必要となる。
2-2|SNSに起因する被害児童は1732人で、重要犯罪被害が増加傾向
次に、子どもの性被害の中でも、SNSに起因する性被害の実態を図表2へ示した。その結果、2022年の被害児童は、1732人であることが判明した。

詳細を見ていくと、わいせつ行為などの児童福祉法の違反事犯についての被害児童は12人、みだらな性行為等での青少年保護条例違反における被害児童は583人、児童買春や児童ポルノ法違反事犯における被害児童は979人、重要犯罪における被害児童は158人であった。

被害児童人数の年次推移をみていくと、合計被害人数は2013年には1293人であったのが、2020年には1732人と増加しており、児童買春・児童ポルノ法違反と青少年保護条例違反における被害児童数は依然と高く、児童福祉法違反と重要犯罪事犯における被害児童の人数は低めではあるが、重要犯罪における被害児童は年々上昇傾向にある。
図表2.警視庁令和4年SNSに起因する事犯の被害児童数(年次推移)
2-3|SNSに起因する事犯の被害児童のアクセス手段はスマートフォン
続いて、SNSに起因する事犯における被害児童のアクセス手段について図表3へ示した。

その結果、2022年の被害児童数は、1732人であり、そのうち、スマートフォンからのアクセスによって性被害を受けた児童が、1,657人(95.6%)と大半を占めていることが明らかとなった。

2022年に内閣府の「令和4年度青少年のインターネット利用環境実態調査」では3、高校生の98.2%が自身専用のスマートフォンを所持する結果が示されているため、現実的に所持しない選択は現実的ではない。スマートフォンの利用時間の制限やフィルタリングをかけて安全性を確保する方が現実的な対策と言えよう。
図表3.警視庁令和4年SNSに起因する事犯の被害児童のアクセス手段(年次推移)
2-4|SNSに起因する事犯の被害児童の8割強はフィルタリングなし
最後に、SNSに起因する被害児童におけるスマートフォンのフィルタリング利用状況を図表4へ示した。

その結果、2022年の被害児童981人のうち、フィルタリングを利用している者は、117人(11.9%)で、フィルタリングを利用していなかった者は864人(88.0%)であることが明らかとなった。

この結果から明らかなように、SNSに起因する性犯罪では、フィルタリングがかけられていないスマートフォンによるアクセスが引き金となり被害へ発展している流れが明白である。

前述した内閣府の調査では、保護者5,000人を対象にフィルタリングに関する認知度を調査したところ、「知っていた(59.9%)」、「なんとなく知っていた(31.3%)」、「全く知らなかった(6.7%)」と、保護者のフィルタリングに関する認知度は6割程度であり、その認知度自体も年々減少傾向にあることが指摘されている。
 
また、実際にフィルタリングサービスを利用している者は4割合程度であるとの結果も示されており、高校生のスマートフォン利用率が98%の現状において、保護者のフィルタリング認知が6割、実際のフィルタリング利用が4割というのは、子どもの性被害回避の観点からは喫緊の課題であると言えよう。
図表4.警視庁令和4年SNSに起因する事犯の被害児童のフィルタリング状況(年次推移)

3――まとめ

3――まとめ

本稿では、警察庁が公表している罪種別の子ども性被害の統計データを用いて、子どもの性被害の実態を分析した。

その結果、児童ポルノ事犯の検挙を通じて、1,487人の被害児童が新たに特定されており、その被害のうちの86%が女児であることが明らかとなった。

また、2022年のSNSに起因する被害児童は1732人にのぼり、罪種別では児童買春・児童ポルノ法違反と青少年保護条例違反における被害児童数は依然と高く、重要犯罪における被害児童は年々上昇傾向にあることが明らかになった。

さらに、その被害児童の9割強はスマートフォンからのアクセスであることが判明しており、フィルタリング制限をかけていた者は1割程度に留まり、被害児童のうちの9割近くがフィルタリング制限をしていないことで性被害のリスクが上昇していた可能性がある。

しかし、このフィルタリング制限に関する一般の保護者の認知度は6割、実際にフィルタリング制限を実施しているものは4割に留まることから、この情報社会の中で子どもの性被害を回避するためには、スマートフォンのフィルタリング利用促進に関する策を講じることが重要になると示唆された。
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生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・高齢社会・健康・医療・ヘルスケア

経歴
  • 【職歴】
     2012年 東大阪市 入庁(保健師)
     2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了
         (看護学修士)
     2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
     2019年~大阪市立大学大学院 看護学研究科 研究員(現:大阪公立大学 研究員)

    【資格】
    看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

    【加入団体等】
    日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

(2023年05月31日「基礎研レター」)

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