2023年05月26日

「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向(3)~アベノミクス以降、「駅近」の評価が上昇、「広さ」のプライオリティが低下。「中心部までのアクセス」はコロナ禍を機に評価が高まる~

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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1. はじめに

前回までのレポート1では、東京23区における新築マンション市場の需給環境について説明した後、新築マンションの販売データを用いて、新築マンションの品質調整をした「新築マンション価格指数」と、サブインデックスとなる「エリア別価格指数」および「タワーマンション価格指数」を作成し、その価格動向について解説した。

東京23区の新築マンション価格は、次の3つのフェーズに分類できる。1つ目は、「2005年~2008年:リーマンショック前までの価格上昇期」(以下、上昇フェーズI)、2つ目は、「2009年~2012年:リーマンショック後の価格下落期」(以下、下落フェーズII)、3つ目は、「2013年~2022年:アベノミクス以降の価格上昇期」(以下、上昇フェーズIII)、である。

今回のレポートでは、新築マンション価格の決定構造が分析期間(2005年~2022年)においてどのように変化したかを確認する。
図表-1  「新築マンション価格指数」 (2005年=100)
 
1 吉田資『「新築マンション価格指数」でみる東京23区の市場動向(1)』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2023年4月11日 。吉田資『「新築マンション価格指数」でみる東京23区の市場動向(2)』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2023年4月21日

2. 新築マンション価格の決定構造の変遷

2. 新築マンション価格の決定構造の変遷

本章では、「新築マンション価格指数」の算出に際して、各年度のデータを用いて推計2を行った結果を活用して、新築マンション価格の決定構造(2005年~2022年)が、どのように変化したかを確認する。

リクルート住まいカンパニー「首都圏新築マンション契約者動向調査」(以下、「リクルート調査」)によれば、物件を検討する上で重視した項目は、「価格」(90%)との回答が最も多く、次いで「最寄り駅からの時間」(83%)、「住戸の広さ」(73%)、「通勤アクセスの良いエリア」(60%)との回答が多かった(図表-2)。

そこで、以下では、(1)「最寄り駅までのアクセス時間」、(2)「住居の広さ」、(3)「中心部までのアクセス時間」に対する評価が、マンション価格に対してどのような影響を及ぼしているのかを確認したい。
図表-2 物件を検討する上で重視した項目(上位項目)
 
2 推計式は、『「新築マンション価格指数」でみる東京23区の市場動向(1)』の「3. 「新築マンション価格指数」の作成」を参照されたい。
2-1. 「最寄り駅までのアクセス時間」に対する評価~アベノミクス以降、「駅近」の評価が高まる
「最寄り駅までの徒歩所用時間」の回帰係数の符号は、分析期間中、一貫してマイナスとなっている(図表-3)。これは、最寄り駅までの徒歩所用時間が長くなる(短くなる)につれて、新築マンション価格(坪単価)が下落(上昇)することを意味する。

各フェーズ(I~III)における回帰係数の推移をみると、「上昇フェーズI」と「下落フェーズII」では、上下動を繰り返しながら概ね同水準で推移していた。しかし、「上昇フェーズIII」に入り、係数の値は2013年の▲1.6%3から2022年の▲2.1%へ、マイナス幅が拡大した。これは、アベノミクス以降、新築マンションが最寄り駅から遠いと価格評価が低く、駅近だと高くなる傾向にあることを示唆している。

また、「最寄り駅までのバス所用時間」の回帰係数の符号はマイナスで、「徒歩所用時間」と比較して係数の値が一貫して大きい(平均:徒歩▲1.8%・バス▲4.1%)。バス便を前提とした新築マンションは、「徒歩所用時間」以上に、駅までのアクセス時間が価格評価に影響を及ぼしているようだ。また、「上昇フェーズIII」に入り、係数の値はマイナス幅が拡大しており、最寄り駅から時間がかかると、マンションの価格評価がより厳しくなる傾向にあることを示唆している。
図表-3 「最寄り駅までの徒歩所用時間」の回帰係数(1分増加あたりの価格変化)/図表-4 「最寄り駅までのバス所用時間」の回帰係数(1分増加あたりの価格変化)
このように、「駅近」の新築マンションの価格評価がより高まった要因として、共働き世帯の増加が挙げられる。独立行政法人労働政策研究・研修機構によれば、専業主婦世帯が539万世帯(2022年)に減少する一方、共働き世帯は1,262万世帯となり、専業主婦世帯の2倍以上に増加した(図表-5)。リクルート調査によれば、首都圏のマンション購入世帯に占める共働き世帯の割合は、39%(2005年)から57%(2022年)へ大きく増加している(図表-6)。共働き世帯は、(1)通勤時間の短縮、(2)生活利便性(仕事帰りの食事や買い物)、(3)保育園等の送迎などを勘案して、「駅近」物件を志向する傾向があるとされる。

また、実需層の購入に加えて、その資産性に着目した投資資金の流入や、老後の生活利便性(通院や買い物など)を重視するシニア層による購入増加も要因として挙げられる。リクルート調査によれば、新築マンション購入世帯に占めるシニアカップル世帯(世帯主年齢が50才以上の夫婦のみの世帯)の割合は、4%(2013年)から8%(2022年)へ増加している。
図表-5 専業主婦世帯と共働き世帯の推移(全国)/図表-6 マンション購入世帯に占める共働き世帯の割合(首都圏)
 
3 当該物件から最寄り駅までの徒歩所用時間が1分増加した場合、新築マンション価格(坪単価)が▲1.6%下落する。
2-2. 「住居の広さ」に対する評価~アベノミクス以降、「広さ」へのプライオリティが低下
「住居の専有面積」の回帰係数の符号は、分析期間中、一貫してプラスとなっている(図表-7)。これは、住居が広くなる(狭くなる)につれて、新築マンション価格(坪単価)が上昇(下落)することを意味する。

各フェーズ(I~III)における回帰係数の推移をみると、「上昇フェーズI」はプラス幅が拡大、「下落フェーズII」はプラス幅が縮小傾向にある。これは、価格上昇局面では「広さ」へのプライオリティが高まり、価格下落局面では「広さ」へのプライオリティが低下する傾向にあることを示唆している。その後、「上昇フェーズIII」は、価格上昇局面であるにもかかわらず、2014年の+0.8%4をピークにプラス幅が縮小傾向にあり、「広さ」に対するプライオリティの低下を確認することができる。近年では、「広さ」より「駅近」を優先する傾向があるとの指摘5がある。また、アベノミクス以降、マンション価格の高騰が続くなか、総額を抑えるため「広さ」の優先度を下げざるを得ない事情が考えられる6。ただし、コロナ禍を経て、在宅勤務が浸透したことで、住居に「広さ」を求める動き7もみられることから、今後は「広さ」に対する価格評価が変化する可能性もあり、引き続き注視が必要であろう。
図表-7 「住居の専有面積」の回帰係数(1㎡増加あたりの価格変化)
 
4 専有面積が1m2増加した場合、新築マンション価格(坪単価)が+0.8%上昇する。
5 朝日新聞「都市のマンションが高いわけ 専門家に聞いた」2021/2/3
6 東京23区の新築販売マンションの平均面積は2013年の67.7m2から2022年の64m2に縮小。
7 東京読売新聞「[コロナ 新たな日常](1)住まい 「在宅」増で 広さ重視」2020/8/25
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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