「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向(3)~アベノミクス以降、「駅近」の評価が上昇、「広さ」のプライオリティが低下。「中心部までのアクセス」はコロナ禍を機に評価が高まる~ | ニッセイ基礎研究所
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「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向(3)~アベノミクス以降、「駅近」の評価が上昇、「広さ」のプライオリティが低下。「中心部までのアクセス」はコロナ禍を機に評価が高まる~
金融研究部 主任研究員 吉田 資
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1. はじめに
東京23区の新築マンション価格は、次の3つのフェーズに分類できる。1つ目は、「2005年~2008年:リーマンショック前までの価格上昇期」(以下、上昇フェーズI)、2つ目は、「2009年~2012年:リーマンショック後の価格下落期」(以下、下落フェーズII)、3つ目は、「2013年~2022年:アベノミクス以降の価格上昇期」(以下、上昇フェーズIII)、である。
今回のレポートでは、新築マンション価格の決定構造が分析期間(2005年~2022年)においてどのように変化したかを確認する。
1 吉田資『「新築マンション価格指数」でみる東京23区の市場動向(1)』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2023年4月11日 。吉田資『「新築マンション価格指数」でみる東京23区の市場動向(2)』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2023年4月21日
2. 新築マンション価格の決定構造の変遷
リクルート住まいカンパニー「首都圏新築マンション契約者動向調査」(以下、「リクルート調査」)によれば、物件を検討する上で重視した項目は、「価格」(90%)との回答が最も多く、次いで「最寄り駅からの時間」(83%)、「住戸の広さ」(73%)、「通勤アクセスの良いエリア」(60%)との回答が多かった(図表-2)。
そこで、以下では、(1)「最寄り駅までのアクセス時間」、(2)「住居の広さ」、(3)「中心部までのアクセス時間」に対する評価が、マンション価格に対してどのような影響を及ぼしているのかを確認したい。
2 推計式は、『「新築マンション価格指数」でみる東京23区の市場動向(1)』の「3. 「新築マンション価格指数」の作成」を参照されたい。
「最寄り駅までの徒歩所用時間」の回帰係数の符号は、分析期間中、一貫してマイナスとなっている(図表-3)。これは、最寄り駅までの徒歩所用時間が長くなる(短くなる)につれて、新築マンション価格(坪単価)が下落(上昇)することを意味する。
各フェーズ(I~III)における回帰係数の推移をみると、「上昇フェーズI」と「下落フェーズII」では、上下動を繰り返しながら概ね同水準で推移していた。しかし、「上昇フェーズIII」に入り、係数の値は2013年の▲1.6%3から2022年の▲2.1%へ、マイナス幅が拡大した。これは、アベノミクス以降、新築マンションが最寄り駅から遠いと価格評価が低く、駅近だと高くなる傾向にあることを示唆している。
また、「最寄り駅までのバス所用時間」の回帰係数の符号はマイナスで、「徒歩所用時間」と比較して係数の値が一貫して大きい(平均:徒歩▲1.8%・バス▲4.1%)。バス便を前提とした新築マンションは、「徒歩所用時間」以上に、駅までのアクセス時間が価格評価に影響を及ぼしているようだ。また、「上昇フェーズIII」に入り、係数の値はマイナス幅が拡大しており、最寄り駅から時間がかかると、マンションの価格評価がより厳しくなる傾向にあることを示唆している。
また、実需層の購入に加えて、その資産性に着目した投資資金の流入や、老後の生活利便性(通院や買い物など)を重視するシニア層による購入増加も要因として挙げられる。リクルート調査によれば、新築マンション購入世帯に占めるシニアカップル世帯(世帯主年齢が50才以上の夫婦のみの世帯)の割合は、4%(2013年)から8%(2022年)へ増加している。
3 当該物件から最寄り駅までの徒歩所用時間が1分増加した場合、新築マンション価格(坪単価)が▲1.6%下落する。
「住居の専有面積」の回帰係数の符号は、分析期間中、一貫してプラスとなっている(図表-7)。これは、住居が広くなる(狭くなる)につれて、新築マンション価格(坪単価)が上昇(下落)することを意味する。
各フェーズ(I~III)における回帰係数の推移をみると、「上昇フェーズI」はプラス幅が拡大、「下落フェーズII」はプラス幅が縮小傾向にある。これは、価格上昇局面では「広さ」へのプライオリティが高まり、価格下落局面では「広さ」へのプライオリティが低下する傾向にあることを示唆している。その後、「上昇フェーズIII」は、価格上昇局面であるにもかかわらず、2014年の+0.8%4をピークにプラス幅が縮小傾向にあり、「広さ」に対するプライオリティの低下を確認することができる。近年では、「広さ」より「駅近」を優先する傾向があるとの指摘5がある。また、アベノミクス以降、マンション価格の高騰が続くなか、総額を抑えるため「広さ」の優先度を下げざるを得ない事情が考えられる6。ただし、コロナ禍を経て、在宅勤務が浸透したことで、住居に「広さ」を求める動き7もみられることから、今後は「広さ」に対する価格評価が変化する可能性もあり、引き続き注視が必要であろう。
4 専有面積が1m2増加した場合、新築マンション価格(坪単価)が+0.8%上昇する。
5 朝日新聞「都市のマンションが高いわけ 専門家に聞いた」2021/2/3
6 東京23区の新築販売マンションの平均面積は2013年の67.7m2から2022年の64m2に縮小。
7 東京読売新聞「[コロナ 新たな日常](1)住まい 「在宅」増で 広さ重視」2020/8/25
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
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