2023年02月28日

ウクライナ侵攻開始から1年-加速し複雑化する供給網再編を巡る動き-

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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ウクライナ侵攻で加速した世界の変化

22年2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻を開始してから1年が経過した。

この間、西側は、ロシアへの制裁強化とウクライナ支援強化によって向き合ってきた。

ウクライナ侵攻は、西側、特に欧州とロシアの関係は、経済的に相互に依存する関係から、西側が金融や技術を「制裁手段化」し、ロシアがエネルギーや食料を「武器化」して対抗する関係へと変わった。

世界的な低インフレ、低金利局面は唐突に終わりを告げた。食料や肥料、エネルギーの供給の不安定化、価格の高騰、主要中銀による急ピッチの利上げを通じて世界に広がった(図表)。

世界経済は減速した。22年の実質GDPは侵攻されたウクライナが30.3%減、侵攻したロシアが同2.1%減1とマイナス成長に転じた。米国は同2.2%、ユーロ圏は同3.5%だったが、米国では利上げによる民間需要の低下が鮮明になっている。欧州は手厚いエネルギー危機対策と暖冬の恩恵で、10~12月期のマイナス成長転落を辛うじて免れた。新興国・途上国、いわゆるグローバルサウスの殆どの国は戦争や制裁に直接関わっていないが、世界的なインフレ、金融環境の急激な変化からの圧力を受けている。とりわけ食料やエネルギーを輸入に頼り、資本流入を必要とする国々の状況は厳しさを増している。
図表 ウクライナ侵攻前後の世界経済の変化
 
1 国連総会緊急特別会合「ロシア軍に撤収を求める決議」23年2月23日。決議に反対した7カ国はロシア、ベラルーシ、エリトリア、シリア、マリ、ニカラグア、北朝鮮。

グローバルな供給網の再編圧力は強まっている

グローバルな供給網の再編圧力は強まっているが、単純な二分化ではない

1980年代以降、非西側も巻き込む形で広がったグローバルな供給網の再編圧力は強まっている。分断を深める要因となっているのは、西側とロシアの制裁・対抗措置ばかりではない。侵攻以前から始まっていた経済安全保障強化、環境・人権など持続可能な成長のための規制強化も分断の圧力となる。

しかしながら、グローバルな供給網が、「西側の民主主義国家による価値の同盟」と「中ロの権威主義国家」に二分化されるとは思えない。数の上では、2つのブロックのどちらか一方に属する国の方がむしろ少数である。2月23日の国連総会の「ロシア軍の撤収を求める決議」も賛成141、反対7、棄権32と侵攻直後の22年3月2日の決議と同じ圧倒的多数で採択されたことが示すように1、ロシアの軍事行動を問題視する国は多い。しかし、中国のほか、インドも棄権、決議に賛成した新興国・途上国でも、西側の制裁の影響を懸念し、ウクライナの特別扱いを「二重基準」と見る国は少なくない。

中ロは、ともに権威主義国家であり、西側主導の国際秩序に不満を抱いているが、一枚岩ではない。侵攻直前の首脳会談の共同声明で「無制限の友好と協力」を約束したとは言え、中ロは、侵攻後のロシアへの積極的な支援は控えてきた。ウクライナ侵攻から1年を機に中国外務省が公表した文書2でも、西側の姿勢を批判し、ロシアの主張に寄り添いつつも、原子力発電所の安全性や核兵器の使用に懸念を示すなど、中立姿勢をアピールしてもいる。但し、米国の高官らが警鐘を鳴らすように3、中国がロシアへの武器供与へと踏み切れば、中ロの距離は近く、西側と中国との距離は開くことになる。
 
2 中国外務省「ウクライナ危機の政治解決に関する中国の立場(23年2月24日)」では、「すべての当事者は火に油を注いだり、緊張を高めたりすべきではない」として西側のウクライナへの軍事支援を暗に批判、「一方的な制裁」にも反対の立場を示した。他地域の安全保障を犠牲とする「軍事ブロックの強化・拡大」では平和は実現できないとしてロシアの主張に理解を示している。
3 中国のロシアへの武器供与を巡る報道や高官発言については、高濱賛「中国は対戦車ミサイルや榴弾砲をロシアに供与するか、米専門家の見方」JBpress 23年2月23日に詳述されている。

西側のパートナーシップ

西側のパートナーシップも安全保障分野と経済分野で性格が異なる

西側のパートナーシップも安全保障分野と経済分野では性格が異なる。

安全保障分野では、米欧は、北大西洋条約機構(NATO)による強固な集団防衛の枠組みを形成している。同盟の強固さは、ウクライナ侵攻への対応で証明された。

米欧の経済は企業の活動を通じて深く結びついている。EUの域外貿易相手国として、財の貿易では中国が米国を上回るようになっているが、サービス貿易や直接投資も含めた総合的な関係では、米国はEUにとっての最大のパートナーであり続けている4。米欧関係を特徴づけるのは双方向の直接投資、すなわち米欧をまたがり活動する企業を通じた結びつきの強さである。欧州委員会統計局によれば2021年時点の直接投資残高は米国からEUへの投資が2.3兆ユーロ、米国からEUへの投資が2.1兆ユーロに上る。貿易面でも企業内の取引がおよそ3分の1を占める5

しかし、米EU間では自由貿易協定(FTA)は締結されておらず6、バイデン政権が新たなFTA締結に慎重な姿勢をとっているため、当面締結の見込みはない。
 
4 欧州委員会「EU米国貿易関係 ファクト、数字、最新の動向」による。
5 欧州委員会「EU米国貿易関係 ファクトシート」による。
6 13年から包括的な貿易投資協定「環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)」交渉が進められていたが、オバマ政権期の16年末に交渉が中断、トランプ政権期の19年末に交渉は正式に終了している。

トランプ政権期に悪化した米欧の外交

トランプ政権期に悪化した米欧の外交・通商関係は改善

それでも、トランプ政権期に戦後最悪と言われるほど悪化した外交・通商関係は、バイデン政権の発足後、改善に向かっている。

21年6月の米国EU首脳会議の合意に基づき立ち上げた「貿易技術評議会(TTC)」は、「世界貿易、経済技術的課題へのアプローチを調整し、共通の価値観に基づく大西洋間の貿易と経済関係の深化」を図るフォーラムとの位置付けである。

TTCの下、米国とEUは政策担当者間が実務協議を行うための作業部会を立ち上げ、定期的に閣僚会合7を開催している。閣僚会合は、これまでに21年9月、22年5月、22年12月の3回開催されており、次回は23年半ばの開催を予定する。
 
7 米国側はブリンケン国務長官、レモンド商務長官、タイ通商代表部(USTR)代表、EU側は欧州委員会のドムブロフスキス執行副委員長(経済総括・通商担当)、ベスタエアー執行副委員長(欧州デジタル化対応総括・競争政策担当)が参加。

進展する米欧間のTTC

進展する米欧間のTTCを通じた政策対話・規制協力

当初、TTCへの期待は必ずも高いものではなかった。TTCが、インド太平洋経済枠組み(IPEF)と同じく、FTAの要素は含まないことも一因である8

しかし、TTCの枠組みは、意図した結果でないにせよ、対ロシア制裁の輸出規制の検討する上で機能したほか、新興技術での規制や規格協力、半導体供給網の強靭化などで、具体的な取り組みも進展している。

22年12月の第3回閣僚会合では、人口知能(AI)、量子情報科学技術、EV充電インフラなどの新技術や半導体供給網構築での協力などが議題となった9

うち、AIに関しては、「信頼できる開発・運用に向けた初の共同ロードマップ」が発表され、同ロードマップをAIに関する国際標準化団体での協調的なアプローチの叩き台とする方向性が示唆された。

量子情報科学技術については専門家によるタスクフォースを立ち上げる。タスクフォースは、研究開発に関わる障壁の削減、技術の準備状況に関する評価の共通の枠組みの開発、知的財産や必要に応じて輸出管理関連の課題について協議し、国際標準化に向けて共に取り組む。共同声明には、こうしたアプローチを、他の新興技術分野でのより強化された協力の基礎とする可能性も明記された。

EV充電インフラについての規格協力も進展している。22年5月に大型車向けの充電システム(MCS)の規格協力で合意、産業界によるプロトタイプの開発が進展している。遅くとも24年までに、共通の国際標準を採択するため、作業を継続する方針を確認している。23年中にはEV普及のための充電インフラの政府支援に対する提言や、電力網と連携するEV車両(Vehicle-Grid Integration(V2G))の実証実験の公開デモンストレーションに関する提言も行うという。
 
8 TTCの作業部会は(1)技術標準化協力、(2)気候・クリーン技術、(3)安全な供給網(半導体)、(4)情報通信技術・サービス(ICTS)の安全保障と競争力(5G・6G、改定ケーブル、データセンター、クラウドシステムなど)、(5)データ・ガバナンスと技術プラットフォーム、(6)安全保障と人権を脅かす技術の乱用(AI技術)、(7)輸出管理協力(デュアルユース品目など)、(8)投資審査協力、(9)中小企業によるデジタル技術へのアクセスと利用促進、(10)世界的な通商課題の10の領域にわたる。IPEFは、(1)公平で強靭(きょうじん)性のある貿易、(2)サプライチェーンの強靭性、(3)インフラ、脱炭素化、クリーン・エネルギー、(4)税、反腐敗の4本柱からなる。
9 第3回閣僚会合の成果は、ホワイトハウス「米EU貿易技術評議会共同声明(22年12月5日)」から確認できる。第2回閣僚会合までの成果をまとめたものとして、前田厚穂「米欧主導の国際ルール形成に向けたプラットフォーム~米国・EU貿易技術協議会(TTC)」NPIコメンタリー、2022年6月10日がある。

供給網強靭化では半導体について優先協議

供給網強靭化では半導体について優先協議。補助金競争と市場の歪曲回避への取り組みも

供給網の強靭化では、半導体について優先的に協議されてきた。米国商務省と欧州委員会が共同開発した半導体の供給網の混乱に関わる「早期警告メカニズム」は、実証実験を終え、導入のための行政上の取り決めの段階に入りつつある。

補助金を巡る「透明性」確保のため、情報の相互共有の枠組みを導入することで合意、志を同じくする国々との協同を目指す方針である。合意の背景には、米国が、「CHIPS及び科学法(22年8月)」を通じて、EUは「欧州の半導体エコシステムを強化するための政策枠組みを創設する欧州議会理事会規則(通称「半導体法」、22年2月欧州委員会提案)」を通じて、半導体のエコシステム強化の公的支援に動いていることがある。

世界需要に関する共通の理解、供給網混乱時の協力関係、補助金や研究開発に関する情報の共有を通じて、補助金競争と市場の歪曲を回避することで、半導体の供給網の強靭化を図ろうとしている。

供給網に米欧共通の脆弱性が認識される領域は半導体以外にもある。第2回会合の共同声明では10、重要な鉱物、クリーン・エネルギー、医薬品を例示、今後、これらの領域へと協力の範囲が広がると見られる。

TTCにおける協議は、新興技術の国際標準化に少なからず影響し、同盟国・同志国による「フレンドショアリング」の叩き台ともなり得る。
 
10 米国商務省「米EU貿易技術共同声明(22年5月16日)」

懸案事項への対応進展

懸案事項への対応進展の一方、浮上した米国のインフレ抑制法(IRA)を巡る対立

バイデン政権発足後は、米欧間の懸案に関する取り組みも進展した。17年間にわたり対立が続いた米欧の航空機大手ボーイングとエアバスへの補助金問題については、相互に賦課していた追加関税5年間凍結することで合意した。鉄鋼・アルミニウムの追加関税問題は、一定数量まで追加関税を課さない関税割当(TRQ)によって対応が図られた11

その一方で、22年8月に成立した「インフレ抑制法(IRA)」の補助金問題という新たな火種も生まれている。IRAは、2032年までに3690億ドル(1ドル=132円換算で48.8兆円)をクリーン・エネルギー技術と温室効果ガス排出量を削減するグリーン投資に振り向ける。EUは、IRAの米国政府による気候変動対策への具体的なコミットメントという側面を歓迎しつつ、「超党派インフラ投資法(21年11月成立)」、「CHIPS及び科学法」に続く、米国の製造業と雇用の支援策としての側面を懸念する。

EUの反発の背景には、ロシアからのガス供給の削減への対応として、米国産LNGへの依存を強めざるを得なくなっていることがある。米国との比較で見て、EUの産業の立地条件は、エネルギー供給の安定性とコストの面で大きく悪化している。それだけに、IRAの税額控除や補助金等が、米国製や北米製を優遇すること12が、欧州から米国への技術力のある企業の流出を招くことへの懸念が強い。

IRAを巡っては、22年12月のTTC閣僚会議でも議題の1つとなり、米国はEUの懸念を理解し、建設的な対応を約束した。
 
11EU・米首脳会談開催、民間航空機への対抗措置の5年間停止に合意」JETROビジネス短信、2021年6月16日、「米国、EUと鉄鋼・アルミ貿易で合意、追加関税に関税割当導入」JETROビジネス短信、2021年11月02日
12 IRAのEV税額控除の対象車両の要件には、北米(米国、カナダ、メキシコ)での最終組み立て、電池材料の重要鉱物のうち調達価格の40%(27年以降は80%)が自由貿易協定を締結する国で採掘ないし精製されるか北米でリサイクルされること、電池用部品の50%(29年以降は100%)が北米で製造されることなどがある。他に、バッテリーや太陽光、洋上風力の米国産部品への税制上の優遇措置提供、基準値以上の米国産鉄鋼を使用した風力エネルギー計画への税額控除の引き上げなどがある。

IRAの対抗の性格

IRAの対抗の性格を薄めた「欧州グリーンディール産業計画」

EUの欧州委員会は2月1日に「グリーンディール産業計画」を公表した。ネットゼロ技術と持続可能な製品のEU域内の製造能力の拡大を支援するものである。

計画は、(1)規制環境の改善、(2)金融アクセスの迅速化、(3)労働者のスキルの強化、(4)公正な貿易の促進の4本の柱からなる。

うち、IRAとの関係で特に注目されるのが、(2)に盛り込まれた補助金をより積極的に活用する方針である。EUは、域内の競争を歪めるとして、加盟国による補助金を原則禁止してきたが、20年3月にはコロナ対応のためルールを緩和した。コロナ対応の緩和措置はすでに終了しているが、22年3月からは、ウクライナ侵攻による脱ロシア産化石燃料の加速やエネルギー価格高騰策への対応のためにルールを緩和している。さらに、「グリーンディール産業計画」では、25年末までの時限措置として、グリーン移行に必要な技術力や生産能力向上を目的とする投資のための補助金のルールを緩和する。

この他、国家補助の適用対象外とする「欧州の共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)」13の認定基準を合理化、簡素化し、新規の投資プロジェクトの迅速化を狙う。

さらに、中期的な措置として、欧州委員会は23年夏までに、EUとして資金を調達し、加盟国がネットゼロ技術への投資需要を満たすための補助金として活用できる「欧州主権基金」を提案する方針である。

産業計画の公表に先立ち、フォンデアライエン欧州委員会委員長らがIRAへの懸念を表明していたことから、計画をIRAへの対抗措置として打ち出し、米欧間の補助金合戦がエスカレートすることが懸念されていた14

結果として、政策文書では、パートナー国におけるネットゼロ産業支援を「心強い兆候」とするなど、IRAへの対抗措置というトーンは薄められ、「中国の不公正な補助金と長期にわたる市場の歪曲」への対抗措置という位置づけになった15。米国の善処への期待や米欧の対立は中ロを利するだけとの判断があったのかもしれない。
 
13 複数のEU加盟国が戦略分野の新技術に資金提供を行っている大規模プロジェクト。欧州委員会の政策文書(European Commission ‘A Green Deal Industrial Plan for the Net-Zero Age’ COM (2023) 62 final, 1.2.2023)によれば、これまでにマイクロエレクトロニクスで1件、バッテリーで2件、水素で2件の認可事例があり、バッテリー、水素での追加案件や太陽光、ヒートポンプなどの新規認可が見込まれている(10~11頁)。
14 米国の政策が誘発する補助金競争を懸念する論考として ‘The destructive new logic that threatens globalisation’ The Economist, Jan 12th 2023。ジャナン・ガネシュ「[FT]保護主義、西側の敗北招く 中ロと同じ土俵でよいか」(2023年2月1日、日経電子版)は、戦略的と位置付ける産業が拡大する可能性を指摘、西側が保護主義に傾倒することは、中国やロシアにイデオロギー面において譲歩することに等しいと指摘する。
15 前掲2ページによれば、米国のIRAの2032年まで3600億ドル以上の動員、日本の最大20兆円のGX経済移行債のほか、インドや英国、カナダなど計画に言及し、「これらすべてのパートナーとより大きな利益のために協力することを約束している」とする一方、「中国は長期にわたってEUの2倍の補助金を供与」し「5カ年計画の優先課題としてクリーン技術のイノベーションと製品に補助金を供与」しており、「2800億ドル相当のクリーン技術投資が予定されている」ため、欧州とそのパートナーは不公正な補助金と長期にわたる市場の歪曲と戦うために、より多くのことをしなければならない」とした。

加速し複雑化する供給網

加速し複雑化する供給網を巡る駆け引き

規制や補助金によるグローバル経済の断片化は、効率性の低下、コスト高につながる。ごく限定した範囲に留めることが理想だ。欧米の当局者間では、TTCの半導体供給網に関わる合意や「グリーンディール産業計画」の政策文書に見て取れるように、パートナー国間の補助金競争は回避すべきという思いは基本的に共有されているようだ。

他方、中国との対抗のためには、中国が活用してきた規制と大規模な補助金の活用を排除できない事情もある。さらに、それぞれ、国内・域内に、グローバル化の負の影響を受けた地域や人々を抱え、戦略産業の投資誘致、雇用拡大への取り組みが期待される政治的な事情を抱える。供給網が混乱したコロナ禍の経験もある。米国のイエレン財務長官が提唱する同盟国・同志国による「フレンドショアリング」は半導体などの緊急時の相互融通などの仕組みとしては機能するとしても、産業政策は、国内回帰「リショアリング」や隣接する地域での供給網構築「ニアショアリング」に傾きやすい。

しかし、補助金を活用した産業政策が、期待通り実行され、成果を上げるかも不確かだ。コロナ禍からの回復過程では人手不足が深刻な問題となっている。原材料の価格上昇もある。そもそもEUの場合、本稿執筆時点で、「半導体法」は未成立で投資競争での出遅れが心配されている。「グリーンディール産業計画」も、必ずしも広く加盟国の支持を得ている訳ではない。計画は、単一市場の分断を回避し、共通の対応を追求する狙いがあるが、補助金規制の緩和に対して、中小国は、独仏の二大国の優位が固定化するとの懸念を抱く。「欧州主権基金」を巡っても、コロナ禍からの復興基金「次世代EU」が稼働していることもあり、補助金の効果に懐疑的で財政の健全性を重視する国々は、反対の立場を取ると見られる。
 
ウクライナ侵攻から1年で、規制の強化、パートナー国間の協力の枠組みの深化、デジタルやクリーン技術を巡る研究や投資支援のための補助金を巡る競争など供給網の再編につながる動きは加速した。企業活動の厚みもあり、米欧間では深い協力が可能だが、競合する関係でもある。

供給網再編と戦略産業の投資誘致を巡る競争は、民主主義対権威主義という単純な図式には収まらない複雑な様相を呈している。
 
 

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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

(2023年02月28日「Weekly エコノミスト・レター」)

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