2022年12月23日

中国経済:景気指標の総点検(2022年冬季号)-しばらくは感染拡大・死亡増で混乱も、この難局を乗り越えれば、ウィズコロナで経済活動は勢いを取り戻す

三尾 幸吉郎

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1. 中国経済の概況

(図表-1)中国の国内総生産(GDP) 2022年の中国経済は目標とした「5.5%前後」の成長率に届きそうにない。この1年を振り返ると(図表-1)、第1四半期(1-3月期)には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染が少なかったこともあって、前年同期比4.8%増と成長率目標をやや下回ったものの堅調だった。しかし、第2四半期(4-6月期)には新規感染が急増し死亡者も多くでて上海市などで事実上のロックダウン(都市封鎖)が実施されたことなどから、同0.4%増と成長率目標を大きく下回った。第3四半期(7-9月期)には新規感染が減り死亡者もゼロだったが、党大会(開幕は10月16日)が間近に迫る中で、中国政府がちょっとした感染に対しても厳格な防疫管理を行なう「ゼロコロナ政策」をとったため、同3.9%増と緩やかな景気回復にとどまった。このようにいずれも「5.5%前後」の成長率目標に届いておらず、1-9月期累計の成長率は前年同期比3%増にとどまった。第4四半期(10-12月期)に入り、10月に党大会を終えた中国では11月11日に「20条措置」を発表しゼロコロナ政策を緩和し始めた(図表-2)。しかし、その方針が地方政府に十分徹底されなかったため抗議活動が起こるなど混乱を招き、経済活動はさらに落ち込んだ。12月7日に改めて「10条措置」を発表した上で、孫春欄副首相が前面に出て防疫緩和を徹底しているものの、経済活動と防疫管理の両立は世界各国政府がもがき苦しんだ難題だけに、ウィズコロナへの移行は道半ばといったところである。2022年通期の成長率は3%前後と見込まれる。
他方、インフレの状況を見ると(図表-3)、2022年(1-11月期)の工業生産者出荷価格(PPI)は前年同期比+4.6%となった。原油高を背景に生産財の値上がりが顕著で、特に鉱物資源は同+24.9%と高騰した。しかし、PPIの上昇率が高かったわりに消費者物価(CPI)は同+2.0%と安定的に推移し、抑制目標「3%前後」を下回った。景気低迷でサービス価格があまり上昇しなかった。
(図表-2)COVID-19の新規感染者/(図表-3)消費者物価(CPI)と工業生産者出荷価格(PPI)

2. 供給面の3指標

2. 供給面の3指標

鉱工業生産(実質付加価値ベース)を見ると(図表-4)、11月は前年同月比2.2%増と直近でピークとなった9月の同6.3%増から2ヵ月連続で減速した。季節調整後の前月比では0.31%減(年率換算すれば3.7%減程度)と今年4月以来のマイナスで、新型コロナ前(2019年12月)を100とした指数は前月の123.0から122.6に縮小した。主力産業のひとつである自動車生産を見ると(図表-5)、11月は238万余りにとどまり前年同月比7.7%減となった。不振が長引く商用車が同33.4%減と大きく落ち込んだのに加えて、消費刺激策として実施された減税の影響で好調だった乗用車も同3.6%減と7ヵ月ぶりにマイナスとなった。
(図表-4)鉱工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移/(図表-5)中国の自動車生産
製造業PMI(製造業購買担当者景気指数)を見ても(図表-6)、11月は48.0%と拡張・収縮の境界線となる50%を2ヵ月連続で下回った。詳細を見ると新規受注が46.4%と5ヵ月連続で50%を割り込んだのに加えて、予測指数も48.9%と2020年2月の41.8%以来となる50%割れに落ち込み、これまでの楽観ムードは悲観ムードに転じた。

非製造業PMI(非製造業商務活動指数)を見ても(図表-7)、11月は46.7%と2ヵ月連続の50%割れとなった。インフラ投資で支えられた建築業は55.4%と50%超を維持したものの、サービス業が45.1%に落ち込んだ。先行指標となる新規受注も42.3%と、5ヵ月連続の50%割れとなっており、厳しい状況にある。予測指数は54.1%と楽観ムードが残るものの、上海市が事実上のロックダウン下にあった4月(53.6%)以来の低水準まで低下した。
(図表-6)製造業PMI/(図表-7)非製造業PMI(商務活動指数)

3. 需要面の3指標

3. 需要面の3指標

個人消費の代表指標である小売売上高を見ると(図表-8)、11月は前年同月比5.9%減で、10月も同0.5%減だったので、2ヵ月連続の前年割れとなった。季節調整後の前月比では0.15%増(年率換算1.8%増程度)と小幅ながらもプラスとなったが、新型コロナ前(2019年12月)を100とした指数は2021年10月のピーク(107.2)より低い104.0の水準にある。消費者信頼感指数を見ても(図表-9)、持ち直す兆しは無く、しばらく厳しい状況が続きそうである。
(図表-8)小売売上高の推移/(図表-9)消費者信頼感指数
投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると、11月は前年同月比0.2%増(推定1)と直近でピークとなった9月の同6.7%増(推定)から2ヵ月連続で減速した。内訳を見ると(図表-10)、製造業は同5.3%増(推定)、インフラ投資は同10.9%増(推定)と堅調だったが、不動産規制強化の影響で不動産開発投資が同19.8%減(推定)と大きく落ち込んだ。先行指標となる新規着工を見ても低迷しており、先行きは楽観できない。なお、投資全体の前月比(季節調整後)は0.87%減(年率換算10.0%減程度)で、10月の同0.13%減(同1.5%減程度)から続落した。

輸出(ドルベース)の状況を見ると(図表-11)、11月は前年同月比8.9%減と2ヵ月連続の前年割れとなった。数量ベースでは8月から3ヵ月連続の前年割れであり、先行きは楽観できない。
(図表-10)投資の3大セクターの推移/(図表-11)輸出(ドルベース)の推移
 
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。

4. その他の4指標と景気の総括

4. その他の4指標と景気の総括

以上で概観した供給面3指標と需要面3指標に、電力消費量、道路貨物輸送量、工業生産者出荷価格、通貨供給量(M2)を加えた10指標に関して、それぞれ3ヵ月前と比べて上向きであれば“○”、下向きであれば“✖”、横ばいなら“-”として一覧表にしたのが図表-12である。
(図表-12)景気評価総括表(○×表、3ヵ月前と対比)
現在の景気の方向性を表す評価点(〇の数)を見ると、COVID-19の第2波が沈静化した6・7月に景気が回復していることを示す8点・9点(10点満点)に上昇したあと、8月以降は景気良悪の分岐点となる5点を4ヵ月連続で下回った(11月は道路貨物輸送量が未公表だが、それが“○”でも4点にとどまる)。ここ4ヵ月の中国経済は低迷している。

需要面の指標を見ると、11月は2つが“✖”、1つが“○”だった。外需の代表指標である輸出は4ヵ月連続で“✖”となり、投資の代表指標である固定資産投資も“○”から“✖”に転じた。一方、消費の代表指標である小売売上高は4ヵ月ぶりに“○”となった。

供給面の指標を見ると、11月は3つとも“✖”となった。鉱工業生産は4ヵ月連続の“✖”で、特に11月は前月比0.31%減とマイナスに落ち込んだ。10月に“○”に転じた製造業PMIも11月は再び“✖”に転じた。そして非製造業PMIは9月以降3ヵ月連続の“✖”である。

その他の指標を見ると、電力消費量は9月以降3ヵ月連続の“✖”と低迷している(図表-13)。道路貨物輸送量は前述の通り11月は未公表だが、10月は4ヵ月ぶりに“✖”に転じていた。但し、モノの動きを表わす他の指標を見ると入港船舶が回復しているので、“○”に転じたかもしれない(図表-14)。工業生産者出荷価格(PPI)は9月まで5ヵ月連続の“✖”と下落基調だったが、10月・11月は2ヵ月連続の“〇”と底打ちの兆しがある。通貨供給量(M2)は10月に一旦“✖”に転じたものの11月は“〇”に戻った。昨年10月以降、中国政府(含む中国人民銀行)は金融緩和を進めてきたが、現在もそれを維持していることが分かる。但し、社会融資総量の伸びは依然として鈍い(図表-15)。金融緩和を進めたにもかかわらず、投資意欲は盛り上がりに欠けている。
(図表-13)電力消費量/(図表-14)入港船舶の推移(主要20港)
最後に、鉱工業生産、サービス業生産、建築業PMIの3つを説明変数として、実質成長率を推計した「景気インデックス」を確認しておこう(図表-16)。11月は鉱工業生産が前年同月比2.2%増、サービス業生産が同1.9%減、建築業PMIが55.4%で、いずれも10月より悪化した。実質成長率の推計値は前年同月比1.3%増である。10月の推計値は同3.3%増だったので、10-11月累計では前年同期比2.3%増となる。これを欧米先進国で一般的に用いられている前期比年率に変換すれば、1.6%減程度という落ち込みである。

11月に景気が落ち込んだ背景には防疫管理緩和を巡る混乱があった。中国政府は11月11日、「20条措置」を発表し防疫管理を緩和し始めた。ところが、その方針が地方に徹底されず、11月下旬には行動制限に飽き飽きした国民が抗議活動を起こすなど混乱を招いた。さらに防疫管理緩和に伴って北京では感染が急増し、死亡者も増え始めており、年明け1月21日~27日の春節連休では人流が増えるため感染爆発は中国全土に広がる可能性が高い。それにもかかわらず中国政府は断固として防疫管理緩和を進めている。12月7日には改めて「10条措置」を発表し、孫春欄副首相が前面に出て地方に防疫管理緩和を徹底した。したがって、ここしばらくは中国全土での感染爆発とそれに伴う死亡者急増という修羅場となりそうだ。但し、日本を含むほとんどの先進国はこうした修羅場を乗り越えた上で現在のウィズコロナに至っている。中国もこの難局を乗り切れば、経済活動は徐々に勢いを取り戻すだろう。現在は夜明け前の最も暗い時間帯と言えるだろう。
(図表-15)通貨供給量(M2)と社会融資総量/(図表-16)経済成長率とインデックス
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2022年12月23日「Weekly エコノミスト・レター」)

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