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中国経済の見通し-2022年は前年比3.4%増、23年は同5.3%増、24年は同5.2%増と予想
三尾 幸吉郎
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1. 中国経済の概況
ここ10年ほどの中国経済を振り返ると(図表-1)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が襲来する前の中国経済はすでに緩やかな減速傾向にあり、2019年の経済成長率は6%まで低下していた。習近平国家主席が2014年末に、これからは高度成長期を終えて中高速成長期に入るとして「新常態」を宣言し、「量より質」を重視して過度に高い経済成長を目指さなくなったからだ。そして2020年以降はCOVID-19に翻弄された3年間となった。2020年には第1波が襲来し中国経済は失速した。中国政府が景気対策で支えたにもかかわらず前年比2.2%増にとどまった。2021年は第1波がおさまり景気がV字回復したため、財政政策では持続可能性を高め、金融政策を引き締め気味に調整したものの、同8.1%増の高成長となった。2022年はCOVID-19の第2波が襲来して再び失速したが、景気対策で何とか3%台を確保できそうである。このCOVID-19に翻弄された3年間を均して見ると年平均4.5%前後と、5%前後と見られる潜在成長率を下回ったものの、同時期における米国経済の年平均成長率よりは高い経済成長を維持した。
2. 需要面
総資本形成(≒投資)もCOVID-19が大きな打撃となった。コロナ前3年の平均が+2.4ポイントだったのに対し、コロナ禍3年平均は+1.2ポイントとプラス寄与を半分に減らした。投資の実態を探るため固定資産投資の内訳を見ると、不動産デベロッパーの経営不安が表面化した不動産開発投資はコロナ禍3年平均で前年比0.9%増と、コロナ前3年(同8.8%増)を大幅に下回り、中国政府が景気対策を講じたインフラ投資もコロナ禍3年平均で前年比3.3%増と、コロナ前3年(同8.9%増)を下回った。また投資主体別に見ると、国有・国有持ち株企業はコロナ禍3年平均で前年比6.3%増と、中国政府が投資を促したこともあってコロナ前3年(同6.3%増)と同水準を維持したものの、民間企業の投資はコロナ禍3年平均で前年比3.3%増と、コロナ前3年平均の半分の伸びにとどまった。「国進民退」が進んだと言えるだろう。
他方、純輸出にはCOVID-19がむしろ追い風となった。コロナ禍3年平均で+1.1ポイントとコロナ前3年平均(+0.2ポイント)を大幅に上回った。国内における消費・投資の低迷で輸入が減る一方、世界に先駆けて生産体制を正常に戻した中国は輸出を伸ばしたため、貿易黒字が増えた。
3. 供給面
COVID-19の影響からなかなか抜け出せないでいる産業としては、交通・運輸・倉庫・郵便業、卸小売業、宿泊飲食業、製造業の4産業が挙げられる。交通・運輸・倉庫・郵便業、卸小売業、宿泊飲食業の3産業は、COVID-19の第1波が襲来した2020年に大きく落ち込み、それが沈静化した2021年には急回復したものの、第2波が襲来した2022年には再び大きく落ち込むこととなった。製造業に関しては、2020年の落ち込みはその他3産業に比べて軽微で、2021年には輸出が好調だったこともあって急回復したものの、2022年(1-9月期)は前年同期比3.2%増とコロナ前3年平均(5.7%)を大幅に下回る伸びにとどまり、回復は道半ばといったところである。製造業もCOVID-19の影響からなかなか抜け出せないでいる産業のひとつと言えるだろう。
COVID-19の影響とは別に成長の勢いが鈍化してきた産業としては、不動産業と情報通信・ソフトウェア・ITの2産業が挙げられる。不動産業は不動産規制強化の逆風を受けて2022年(1-9月期)は前年同期比4.4%減に落ち込んだ。不動産開発の先行指標として重要な分譲住宅の新規着工面積も大幅な前年割れとなっており、今後も引き続き経済成長を押し下げる要因となりそうである。情報通信・ソフトウェア・ITは2022年(1-9月期)も前年同期比8.8%増と高い伸びを示した。但し、コロナ前3年平均(23.3%)と比べると明らかに成長の勢いが鈍化してきた。中国政府がプラットフォーマーに対する規制を強化したことが背景にある。
4. 今後を予想する上でカギを握るポイント
したがって、2023年春に開催される全人代では、景気水準を適正レベルに引き上げるべく財政赤字(対GDP比)を「3.0%前後」まで高め、地方特別債も年内に前倒し発行した分を上乗せするのではないかと筆者は見ている。但し、2021年のように持続可能性を重視した財政方針とする可能性も残るため、新首相がどうするか注目したい。
第二に金融政策の方針である。2022年3月に開催された全人代では、「通貨供給量・社会融資総量(企業や個人の資金調達総額)の伸び率が名目GDP成長率とほぼ一致」と前年と同じ基本方針を掲げた上で、「流動性を合理的かつ十分に維持する」と付け加え、景気を支える姿勢で臨むこととなった。そして、預金準備率を引き下げるなど量的な金融緩和を実施し、2022年1-9月期の通貨供給量・社会融資総量は名目GDP成長率(前年同期比6.2%増)を大幅に上回る伸びを示した。
一方、金利の引き下げに関しては慎重姿勢を堅持した。景気を回復させるためには大幅な利下げで不動産市場を刺激するのが最も有効だと中国政府は誰よりも良く知っているものの、バブル抑制を優先してきた。そして「住宅は住むためのもので投機するためのものではない」を旗印に、「不動産を短期的経済刺激の手段としない」という位置づけを堅持し、事実上の政策金利とされるLPR(ローンプライムレート)の引き下げを小幅にとどめてきた。また米国で利上げが加速する国際環境下、米中金利差が広がって人民元が売り込まれる恐れがあったことも、中国政府(含む中国人民銀行)に利下げを躊躇させた要因となった。
筆者は2023年もバブル抑制第一のスタンスを堅持すると見ている。景気を回復させるために「不動産を短期的経済刺激の手段」として使えば、チャイナショック(2015年)のときのようにバブルが急膨張する可能性が高い。そしてそのバブルが崩壊するような事態となれば、習近平国家主席が何より重視する「安定」が脅かされるからだ。但し、米国経済が過度な利上げで失速し長短金利が低下する状況になれば、人民元が売り込まれる恐れもなくなるため、中国にとっては大幅利下げに踏み切る環境が整う。新首相がどうするか注目したい。
第三にゼロコロナ政策の行方である。周知のとおりCOVID-19の感染爆発が世界で初めて起きたのは中国の武漢(湖北省)で、2020年1~2月のことだった。しかしその第1波のあと、中国政府はゼロコロナ政策で感染を抑え込み、新規感染は多くても3百名を超えず、死亡者もほとんど無い状態が2年近くも続いた。ところが、2022年3月に第2波が襲来し、4月中旬には無症状を含めると3万人近い新規感染が確認される事態となり、死亡者も累計600名近くに達した。この第2波に対して中国政府はゼロコロナ政策で臨んだため、中国経済は失速することとなった。
それでは、この度の党大会でスタートを切った新指導部もゼロコロナ政策を堅持するのだろうか。これまでのところウィズコロナ政策に舵を切る見通しは立っていない。しかし、その前提条件は整いつつある。(1)ワクチン接種が34億回を超え、飲み薬の供給にもメドが立ってきたこと。(2)2021年8月に“ダイナミック・ゼロ”と呼ぶようになり、それまでのゼロコロナ政策を軌道修正し始めたこと、(3)感染症対策の第一人者(鍾南山氏)がゼロコロナ政策の長期継続に否定的見解を示したこと、(4)復旦大学などの研究チームが高齢者のワクチン接種率を引き上げ、抗ウイルス療法を推進し、マスク着用など厳格な非医療介入を行なえば、死亡者を平年のインフルエンザで発生する8.8万人程度に抑えられると指摘したこと、(5)そして何より世界のほとんどの国がウィズコロナ政策に移行する中で、中国だけがゼロコロナ政策を堅持すれば“鎖国状態”に陥る恐れがあることである。
但し、いまウィズコロナ政策に移行すれば、インフルエンザ並みに抑えられたとしても9万人近い死亡者を出すことになりかねない。欧米先進国では数々の大波(日本では第8波)を経験し、死亡者急増という修羅場を乗り越えて、防疫と経済活動のバランスが大切との世論が形成されて、ようやくウィズコロナ政策に移行する心構えができた。しかし、まだ第2波の中国ではそうした修羅場を乗り越えた経験が少なく、そうした世論も形成されていない。またゼロコロナ政策を堅持したことで、欧米先進国よりも遥かに少ない死亡者数に抑制できたという誇りや、中国経済を世界に先駆けてV字回復させたという自信が邪魔する面もある。さらに5年に1度のビッグイベント(党大会)を控える重要な時期だったことも、大きな方針転換を躊躇させることとなった。
したがって、党大会を終えて新指導部が発足した今、このままゼロコロナ政策を堅持するのか、それともウィズコロナ政策へ移行するのか注目される。少なくとも検討が本格化することだけは間違いないだろう。その検討に際しては、2022年7月に香港の新たな行政長官に就任した李家超氏が9月下旬に取り組み始めたコロナ規制の段階的緩和が試金石となりそうだ。また、世界保健機関(WHO)がパンミックの収束宣言に踏み込めば、それが中国にとってはウィズコロナ政策へ軌道修正するキッカケとなるかもしれない。経済成長率を大きく左右するだけに、その動向を注視したい。
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