2022年06月08日

2022・2023年度経済見通し-22年1-3月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1. 2022年1-3月期の実質GDPは前期比年率▲0.5%へ上方修正

6/8に内閣府が公表した2022年1-3月期の実質GDP(2次速報値)は前期比▲0.1%(年率▲0.5%)となり、1次速報の前期比▲0.2%(年率▲1.0%)から上方修正された。

1-3月期の法人企業統計の結果が反映されたことにより、設備投資が前期比0.5%から同▲0.7%へと大幅に下方修正されたが、民間在庫変動が前期比・寄与度0.2%から同0.5%へと大幅に上方修正されたことが設備投資下振れの影響を上回った。また、3月のサービス産業動向調査などの結果が反映されたことから、民間消費が前期比▲0.0%から同0.1%へと上方修正された。

1-3月期の成長率は上方修正されたものの、その主因は民間在庫の積み上がりであり、在庫変動を除いた最終需要は1次速報の前期比▲0.5%(年率▲1.8%)から同▲0.6%(年率▲2.5%)へと下方修正されている。最終需要が低迷する中で在庫が大きく積み上がっており、表面的な成長率以上に内容は悪い。
日米欧の実質GDPの比較 日本経済は、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年4-6月期に前期比年率▲28.1%と過去最大のマイナス成長を記録した後、2020年後半は高成長となったが、2021年に入ってからはマイナス成長とプラス成長を繰り返している。実質GDPは、米国が2021年4-6月期、ユーロ圏が2021年10-12月期にコロナ前(2019年10-12月期)の水準を上回ったが、日本の実質GDPは2022年1-3月期時点でもコロナ前を▲0.6%下回っている。

また、日本は消費税率引き上げの影響で2019年10-12月期に前期比年率▲10.9%の大幅マイナス成長となっており、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化する前に経済活動の水準が大きく落ち込んでいた。直近のピークである2019年4-6月期と比較すると、2022年1-3月期の実質GDPは▲3.4%低い水準となっている。経済活動の正常化までにはかなりの距離があるといえるだろう。
(収益環境が厳しさを増す中でも、企業収益は堅調を維持)
財務省が6月1日に公表した法人企業統計によると、2022年1-3月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比13.7%(10-12月期:同24.7%)と5四半期連続で増加した。製造業が前年比18.4%(10-12月期:同22.1%)、非製造業が前年比10.9%(10-12月期:同26.4%)と前期から伸びは鈍化したものの、前年比で二桁の伸びを維持した。

季節調整済の経常利益は前期比0.2%(10-12月期:同17.4%)と2四半期連続で増加した。2022年1-3月期の経常利益(季節調整値)は23.1兆円と、コロナ前(2019年10-12月期)の水準を24.0%上回っている。直近のピーク(2018年4-6月期の23.8兆円)に比べれば▲3.1%低いが、製造業の経常利益は9.39兆円となり、過去最高水準(2018年4-6月期の9.44兆円)に近づいた。原油高に伴うコスト増、まん延防止等重点措置による行動制限の強化などのマイナス要因はあったものの、企業収益は堅調を維持した。

一方、設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比3.0%(10-12月期:同4.3%)と4四半期連続で増加したが、伸び率は前期から鈍化した。法人企業統計の設備投資は増加が続いているが、企業収益に比べると回復ペースはきわめて鈍い。2021年度の経常利益は前年比36.8%の高い伸びとなったが、設備投資は同3.4%の低い伸びにとどまった。

企業の設備投資意欲を示す「設備投資/キャッシュフロー比率」は50%台前半と過去最低水準にある。コロナ禍が長期化する中で、原材料価格の高騰やウクライナ情勢の深刻化などの悪材料が重なったこともあり、企業は慎重姿勢を一段と強めている。
経常利益(季節調整値)の推移/設備投資とキャッシュフローの関係

2. 実質成長率は2022年度2.0%、2023年度1.7%を予想

2. 実質成長率は2022年度2.0%、2023年度1.7%を予想

2022年1-3月期のGDP2次速報を受けて、5/19に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2022年度が2.0%、2023年度が1.7%と予想する。実質成長率の見通しは5月時点と変わらない。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
(実質GDPが直近のピークを超えるのは2023年度)
まん延防止等重点措置が3/21に終了したことを受けて、サービス消費との連動性が高い小売・娯楽施設の人出は持ち直しており、5月のGWにはコロナ前を明確に上回る水準まで回復した。GW終了後は減少に転じたものの、2020年、2021年の同時期の水準は大きく上回っている。

日本銀行の「消費活動指数」によれば、実質サービス消費は、2021年10-12月期に前期比8.1%の高い伸びとなった後、2022年1-3月期は同▲3.1%と落ち込んだが、月次では2022年1月の前月比▲4.5%、2月の同▲3.0%の後、3月が同4.9%、4月が同2.0%の増加となった。
小売・娯楽施設の人出 また、総務省統計局の「家計調査」によれば、対面型サービス消費(一般外食、交通、宿泊料、パック旅行費、入場・観覧・ゲーム代)は、2021年10-12月期に前期比29.1%と急回復した後、2022年1-3月期は同▲16.2%と大きく落ち込んだが、月次では2022年1月の前月比▲19.0%、2月の同▲12.7%の後、3月が同17.6%、4月が同10.3%の増加となった。

足もとまでの人出の動きを踏まえれば、5月以降のサービス消費は水準をさらに切り上げる可能性が高い。
小売・娯楽施設の人出とサービス消費/対面型サービス消費の推移
2022年4-6月期は前期比年率3.9%のプラス成長を予想する。ロックダウンの影響で中国向けの輸出が急減し、外需が1-3月期に続き成長率の押し下げ要因となるものの、外食、旅行などの対面型サービスを中心に民間消費が前期比1.8%の高い伸びとなることが成長率を大きく押し上げるだろう。また、1-3月期の設備投資は前期比▲0.7%の減少となったが、高水準の企業収益を背景に基調としては持ち直しの動きが続いていると判断される。4-6月期は前期の落ち込みの反動もあり、前期比2.2%の高い伸びとなることが予想される。

2022年7-9月期以降も、緊急事態宣言などの行動制限がなければ、これまで積み上がってきた貯蓄の取り崩しによる民間消費の高い伸びを主因として、潜在成長率を上回る成長が続くことが予想される。ただし、資源価格の一段の高騰、中国経済の低迷長期化、金融引き締めに伴う米国経済の減速、電力不足による経済活動の制限など、下振れリスクは大きい。また、新型コロナウイルス感染症を完全に終息させることは困難であり、新規陽性者数は今後も増減を繰り返すことが見込まれる。感染拡大のたびにこれまでと同様に行動制限の強化を繰り返すようであれば、消費の持続的な回復は実現しないだろう。
実質GDPが元の水準に戻る時期 2022年1-3月期の実質GDPはコロナ前(2019年10-12月期)の水準を▲0.6%下回っているが、4-6月期にはようやくコロナ前の水準を回復するだろう。

ただし、日本はコロナ前の段階で消費税率引き上げの影響で経済活動の水準が大きく落ち込んでいたため、コロナ前の水準に戻るだけでは、経済の正常化とは言えない。実質GDPが直近のピークである2019年4-6月期の水準を回復するのは、2023年10-12月期になると予想する。
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2022年4月に前年比2.1%と、2015年3月(2.2%)以来、消費税率引き上げの影響を除くと2008年9月(2.3%)以来の2%台となった。

これまでコアCPIを大きく押し上げてきたのは、原油高に伴うエネルギー価格の大幅上昇だったが、ここにきて上昇ペース加速の主因は食料品(除く生鮮食品)へと移りつつある。

食料品は2021年7月の前年比0.1%と上昇に転じた後、2022年4月には同2.6%まで上昇率が高まったが、川上段階の物価は、輸入物価が前年比で30%程度、食料品の国内企業物価が前年比で4%前後の高い伸びとなっている。川上段階の物価上昇を消費者向けの販売価格に転嫁する動きがさらに広がることにより、食料品(生鮮食品を除く)の物価上昇率は2022年夏場には4%近くまで加速する可能性が高い。

原油価格(ドバイ)は、1バレル=110ドル台で高止まりしているが、物価高対策(燃料油価格激変緩和措置)の影響で、エネルギー価格の前年比上昇率は徐々に鈍化することが見込まれる。一方、円安による物価上昇圧力が高まる中で、食料品に加え、日用品や衣料品などでも価格転嫁の動きが広がることが見込まれる。

コアCPI上昇率は、エネルギー価格の上昇ペース鈍化を食料品の上昇ペース加速が打ち消すことにより、当面2%台前半の推移が続いた後、携帯電話通信料値下げの影響が一巡する秋頃には2%台半ばまで高まることが予想される。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 ただし、物価上昇のほとんどは、原材料価格の大幅上昇を販売価格に転嫁することによって生じたものであり、消費者物価指数の約5割を占め、賃金との連動性が高いサービス価格は低迷が続いている。春闘賃上げ率は2022、2023年と改善が続くものの、ベースアップでみればゼロ%台の低い伸びにとどまることが見込まれる。サービス価格の上昇を通じて物価の基調が大きく高まることは期待できない。原材料価格高騰による上昇圧力が一巡することが見込まれる2023年度後半には、コアCPI上昇率はゼロ%台後半まで鈍化する可能性が高い。

コアCPI上昇率は、2022年度が前年比2.2%、2023年度が同0.9%と予想する。
日本経済の見通し(2022年1-3月期2次QE(6/8発表)反映後)
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2022年06月08日「Weekly エコノミスト・レター」)

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