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「福岡オフィス市場」の現況と見通し(2022年)

金融研究部 主任研究員 吉田 資
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天神地区5では、容積率や航空法の高さ制限の緩和等により再開発を誘導する「天神ビックバン」プロジェクトが2015年にスタートした(図表-19)。このプロジェクトでは、延床面積は44.4万m2から約1.7倍の75.7万m2に拡大、雇用数は4万人から約2.4倍の9.7万人に増加、年間8,500億円の経済波及効果が発生すると試算されている。
2021年9月に、「天神ビックバン」プロジェクトの第1号案件となる「天神ビジネスセンター(延床面積:約6.1万m2・地上19階建て)が竣工した。
2022年は、「旧大名小学校跡地」で、25階建て(延床面積:約9.1万m2)の複合ビルが開業予定である。この開発プロジェクトでは、九州初となるラグジュアリーホテル「ザ・リッツ・カールトン ホテル」が開業するほか、ワンフロアの貸床面積が2,500m2以上のハイグレードオフィスが配置される6。
2023年以降も、「天神ビックバン」の優遇施策を活用した再開発が複数予定されている。ヒューリックは「ヒューリック福岡ビル」を、ホテルを核とした大型複合商業ビル(延床面積:約2.1万m2・地上19階建て)に建て替えを行い、2024年9月に完成予定である7。西日本鉄道は、「福岡ビル」跡地の天神一丁目 11 番街区に複合ビル(延床面積:約14.7万m2・地上19階建て)を開発し、2024年12月に開業予定である8。また、日本生命保険と積水ハウスは、「日本生命福岡ビル」と「福岡三栄ビル」を、オフィスを核とした大型複合ビル(延床面積:約3.9万m2・地上18階建て)に建て替えを行い、2025年3月に完成予定である9。
5 天神交差点から半径約500mのエリア
6 ⼤名プロジェクト特定⽬的会社「九州初の「ザ・リッツ・カールトン ホテル」 誘致決定「スタートアップ&グローバル」新ビジネス拠点誕⽣へ」(2019年7月8日)
7 ヒューリック株式会社「(仮称)ヒューリック福岡ビル建替計画」の概要について」(2021年10月1日)
8 西日本鉄道株式会社「創造交差点 MEETS DIFFERENT IDEAS | 福ビル街区建替プロジェクト」
9 日本生命保険相互会社・積水ハウス株式会社「日本生命福岡ビル・福岡三栄ビルの建替について」(2021年12月13日)
その後も、大規模開発計画が複数予定されている。JR九州、福岡地所、麻生の3社で構成する企業グループは、「福岡東総合庁舎敷地」を活用し、12階建てのオフィスビル(延床面積:約2.2万m2)を建設し、2024年3月に開業予定である12。また、西日本シティ銀行は福岡地所と共同で、博多駅前の保有ビル(本店本館ビル・本店別館ビル・事務本部ビル)の連鎖的な建て替えを行う13。2025年に本店本館ビルの竣工、2028年には本店別館ビル、事務本部ビル跡地の新ビルの竣工を予定している。延床面積は現行の約2.6万m2から2倍以上に拡大する見込みで、一部をテナントに貸し出すとしている14。
10 つながり・広がりが生まれる広場の創出など、賑わいの拡大に寄与したビルの容積率を最大で50%拡大する等の優遇処置。
11 NTT都市開発株式会社・大成建設株式会社「博多駅東一丁目敷地(旧博多スターレーン跡地)における開発計画概要について」(2020年3月6日)
12 九州旅客鉄道株式会社・福岡地所株式会社・ 株式会社麻生 「~人流・ビジネス・エリア再開発の起点となる次世代オフィス~福岡東総合庁舎敷地に新たなランドマークが誕生します!」(2021年11月26日)
13 西日本シティ銀行「西日本シティ銀行保有ビルの連鎖的再開発のお知らせ」(2019年12月19日)
14 西日本新聞 「西シ銀新本店25年完成 正式発表「博多再開発の象徴に」」(2019 年12 月20日)
2021 年の福岡の新規供給面積は、「天神ビジネスセンター」や「博多深見パークビルディング」、「T-Building HAKATA EAST」等、大規模ビルの竣工が相次ぎ、過去最高水準を更新し、30,900坪に達した(図表-21)。
今後も、福岡市では、「天神ビックバン」プロジェクトや「博多コネクティッドボーナス」を背景に、多くの大規模開発が進行中で、2022年と2024年は、年間20,000坪を超える新規供給が予定されている。今後3 年間(2022 年~2024 年)の総ストックに対する供給の割合は6.1%と、主要地方都市の中で最も高水準になる見通しである(図表-22)。
前述の新規供給見通しや経済予測 、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2026 年までの福岡のオフィス賃料を予測した(図表-23)。
福岡市では、人口の流入超過が継続しているもののその勢いは鈍化しており、福岡県の就業者は、10 年ぶりに減少に転じた。また、コロナ禍が「企業の経営環境」に与えたダメージは、全国平均と比べて大きく、「雇用環境」は本格的な回復には至っていない。そのため、福岡市のオフィス需要はしばらくの間、力強さに欠けることが予想される。
一方、福岡市では、「天神ビックバン」プロジェクトや「博多コネクティッドボーナス」を背景に、多くの大規模開発が進行中である。今後3 年間(2022 年~2024 年)の総ストックに対する供給の割合は主要地方都市の中で最も高い水準になる。以上を鑑みると、福岡の空室率は当面の間、上昇傾向で推移すると予測する。
福岡のオフィス成約賃料は、空室率の上昇に伴い、下落基調で推移する見通しである。2021年の賃料を100 とした場合、2022 年は「99」、2026年は「86」への下落を予測する。ただし、ピーク(2021 年)対比で▲14%下落するものの、2017年の賃料水準「74」を上回る水準であり、リーマンショック後のような大幅な賃料下落には至らない見通しである。
(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年05月30日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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