コラム
2022年03月01日

拒否権のパワー-国連安保理で常任理事国と非常任理事国の投票力格差は?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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(*) アメリカが投票したときに議案が成立するような条件を満たす投票順の数について
 
安保理の議決は、15ヵ国のうち9ヵ国以上が賛成した場合に可決・成立となる。このため、アメリカの投票順は、9番目以降である必要がある。
 
また、他の4つの常任理事国(イギリス、フランス、ロシア、中国)がアメリカの前に投票を終えていることも必要となる。
 
アメリカが9番目に投票した段階で議案が成立するような投票順がいくつあるか、考えてみよう。
 
それには、アメリカの前に投票する8ヵ国の中に、他の4つの常任理事国がすべて含まれていることが必要だ。これは、言い換えると、アメリカの前に投票する8ヵ国の中に、非常任理事国が4ヵ国含まれているということでもある。非常任理事国10ヵ国の中から、アメリカの前に投票する4ヵ国を選ぶ。この組み合わせは、全部で210通りとなる。アメリカの前に投票する8ヵ国の投票順は8の階乗(8!) = 40,320通り。アメリカの後に投票する6ヵ国の投票順は6の階乗(6!) = 720通り。そこで、この3つの数を掛け算して、6,096,384,000通りとなる。
 
同様に、アメリカが10番目に投票して議案が成立するような投票順は、252通り、362,880通り、120通り、の3つの数を掛け算して、10,973,491,200通り。
 
11番目に投票して議案が成立するような投票順は、210通り、3,628,800通り、24通り、の3つの数を掛け算して、18,289,152,000通り。
 
12番目に投票して議案が成立するような投票順は、120通り、39,916,800通り、6通り、の3つの数を掛け算して、28,740,096,000通り。
 
13番目に投票して議案が成立するような投票順は、45通り、479,001,600通り、2通り、の3つの数を掛け算して、43,110,144,000通り。
 
14番目に投票して議案が成立するような投票順は、10通り、6,227,020,800通り、1通り、の3つの数を掛け算して、62,270,208,000通り。
 
15番目に投票して議案が成立するような投票順は、1通り、87,178,291,200通り、1通り、の3つの数を掛け算して、87,178,291,200通り。
 
こうして算出された、9番目から15番目の投票順の数を、すべて足し算すると、256,657,766,400通りとなる。

(**) 非常任理事国のパワーを直接計算で求める場合について
 
本稿では、非常任理事国のパワーを、全体(1)から常任理事国のパワーの合計を引き算して求めている。これを、直接求めてみよう。
 
非常任理事国のうちの1ヵ国について考える。この国が投票した段階で議案が成立するような投票順は、いくつあるだろうか。
 
それには、この国の前に、5つの常任理事国がすべて投票を終えていて、かつ、この国が9番目の投票をすることが必要だ。これは、言い換えると、この国の前に投票する8ヵ国の中に、非常任理事国が3ヵ国含まれているということでもある。
 
この国を除いた残りの非常任理事国9ヵ国の中から、この国の前に投票する3ヵ国を選ぶ。この組み合わせは、全部で84通りとなる。この国の前に投票する8ヵ国の投票順は8の階乗(8!) = 40,320通り。この国の後に投票する6ヵ国の投票順は6の階乗(6!) = 720通り。そこで、この3つの数を掛け算して、2,438,553,600通りとなる。
 
これを、15ヵ国が投票する投票順の数 (15の階乗(15!) = 1,307,674,368,000通り) で割り算する。その結果、この国のパワーは、2,438,553,600/1,307,674,368,000となる。これは、約分すると、4/2,145となり、0.001865 という値になる。

(***) 拒否権が発動されても、他の14カ国の賛成で再可決・成立できるよう議決方法を変更した場合
 
このように議決方法を変更した場合の投票力を計算してみよう。
 
常任理事国のパワーについては、(*)の計算過程を少し変更する。
 
15番目に投票して議案が成立するような投票順は、1通り、87,178,291,200通り、1通り、の3つの数を掛け算して、87,178,291,200通り。という部分は、カウントしない。
 
その代わりに、アメリカが14番目に投票して議案が成立するような投票順として、(*)であげたほかに、15番目にアメリカ以外の常任理事国が投票するケースをカウントする。これは、アメリカの前に投票する13ヵ国の投票順、13の階乗(13!) = 6,227,020,800通りと、15番目に投票する常任理事国の選び方、4通りを掛け算して、24,908,083,200通りとなる。
 
(*)の計算結果をもとに、計算しなおすと、合計で194,387,558,400通りとなる。
 (= 256,657,766,400 - 87,178,291,200 + 24,908,083,200)
 
したがって、アメリカのパワーは、194,387,558,400/1,307,674,368,000となる。これは、0.14865 という値になる。
 
ちなみに、非常任理事国のパワーを直接求める(**)の計算は、つぎのように変更となる。
 
ある非常任理事国が14番目に投票して議案が成立するような投票順として、15番目に常任理事国が投票するケースをカウントする。これは、この国の前に投票する13ヵ国の投票順、13の階乗(13!) = 6,227,020,800通りと、15番目に投票する常任理事国の選び方、5通りを掛け算して、31,135,104,000通りとなる。
 
これと(**)であげたものを加えて、合計で33,573,657,600通りとなる。
(= 2,438,553,600 + 31,135,104,000)
 
この国のパワーは、33,573,657,600/1,307,674,368,000となる。これは、0.025674 という値になる。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2022年03月01日「研究員の眼」)

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