2022年02月04日

感染拡大収束後の消費行動

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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3職業別~学生は友人と会うが首位、就業者は飲み会や通勤、学生は通学など各々平常時の行動を再開
職業別に見ると、学生以外では首位は「外食」だが、学生では首位は「友人と会う」で、次いで「飲み会・会食」、「外食」と続く(図表6)。主な傾向としては、経営者・役員や正社員などの就業者で「飲み会・会食」や「通勤」など、公務員を中心とした雇用者で「国内旅行」や「海外旅行」など、学生で「通学」や「対面や集合形式の習い事」など、専業主婦・主夫で「外食」や「店舗でのショッピング」などが多く、行動制限が緩和されると、それぞれの職業における平常時の行動を再開する様子がうかがえる。

また、無職・その他や自営業・自由業で「特に再開したことはない」が多い。なお、無職・その他の約半数は60歳以上だが、前項のライフステージ別では孫誕生などで「飲み会・会食」を除き、「国内旅行」をはじめ比較的、行動再開に積極的である傾向が見られたため、シニア層では外出自粛傾向の強い層とリスクを避けながらアクティブに過ごす層の両者の存在がうかがえる。
図表6 職業別に見た感染状況が改善した時期に再開したこと(複数選択、2021年12月)
4個人・世帯年収別~高所得層の首位は国内旅行、現役世代の多い高所得層ほど行動再開に積極的
個人年収別に見ると、1,000万円以上や600~800万円未満では首位は「国内旅行」だが、その他では首位は「外食」である(図表7)。主な傾向としては、個人年収200万円未満の低所得層と比べて、高所得層で「国内旅行」や「舞台やコンサート鑑賞」、「飲み会・会食」、「通勤」が多い傾向があげられる。また、個人年収200万円未満では「特に再開したことはない」が多い。これらの背景には高所得層ほど経済的な余裕があることのほか、就業者の多い現役世代が多い影響があるだろう。なお、個人年収200万円未満では約4割が60歳以上である。
図表7 個人年収別に見た感染状況が改善した時期に再開したこと(複数選択、2021年12月)
世帯年収別に見ると、全ての階級で首位は「外食」である(図表8)。個人年収と同様、低所得世帯と比べて高所得世帯で「国内旅行」や「舞台やコンサート鑑賞」、「飲み会・会食」、「通勤」が多い傾向があり、世帯年収200万円未満では「特に再開したことはない」が多い。
図表8 世帯年収別に見た感染状況が改善した時期に再開したこと(複数選択、2021年12月)
5感染不安別~不安の強さによらず首位は「外食」だが、不安が強いほど行動再開に積極的
感染による健康状態の悪化や人間関係への悪影響についての不安の強さ別に見ると、不安の強さによらず、いずれも首位は「外食」である(図表9)。全体と比べると、不安層では「外食」や「友人と会う」、「店舗でのショッピング」、「帰省・離れて暮らす家族と会う」、「映画館など屋内レジャー施設の利用」などが多く、多方面において消費行動の再開に積極的である様子がうかがえる。背景には、不安層では感染拡大下では様々な行動の自粛傾向が強いことがあるのだろう。一方、非不安層では「特に再開したことはない」が多い。

なお、不安層は男性より女性が、年代別には60歳代以上が、ライフステージは孫誕生や第一子大学入学が多い傾向があるが、例えば、20歳代を対象に不安の強さ別に見ると、やはり全体と同様に不安層の方が全体的に行動再開に積極的な傾向がある。
図表9 感染不安別に見た感染状況が改善した時期に再開したこと(複数選択、2021年12月)

4――おわりに

4――おわりに~オミクロン株による感染拡大収束後はデルタ株収束後より積極的に消費行動再開か

本稿ではオミクロン株による感染拡大収束後の消費行動を予測する上で、ニッセイ基礎研究所の調査を用いて、デルタ株の感染拡大が収束し、感染状況が改善した時期に再開した行動を見てきた。その結果、属性によらず「外食」が首位、あるいは上位にあがり、以前、ワクチン接種後にやりたいこととして、行動制限緩和後に消費者の希望を尋ねた結果では圧倒的に「国内旅行」があがったことなどをあわせて見ると、消費者は感染状況が収束した途端、最も希望の強い行動をするのではなく、外食や飲み会など感染拡大下ではリスクが高く制約の多い行動、あるいは、友人と会うことなど日常生活に近い行動から楽しみ始める様子がうかがえた。

これは感染状況の収束と休暇等の取りやすい時期が必ずしも重なるわけではないため、当然とも言えるかもしれないが、感染状況が改善へ向かった途端、マスクを着用せず外出を楽しむ姿が増える欧米などの状況と比べれば、やはり日本ではコロナ禍において慎重に行動を再開すると言えるだろう。

また、本稿で属性別に見た結果では、元々消費意欲が旺盛な層や時間のゆとりがある層、感染不安が強く自粛傾向の強い層などで、行動制限が緩和されると積極的に行動を再開する傾向も見られた。一方で、感染不安が弱い層などでは「特に再開したことはない」が多く、感染拡大下でも自粛傾向が弱い傾向も見てとれた。

冒頭で述べた通り、既に欧米ではオミクロン株による新規感染者数はピークアウトしており、日本でも追随するとすれば、3月頃には感染状況が改善している可能性がある。本稿で見た通り、デルタ株による感染拡大収束後は外食を中心にやや慎重に消費行動を再開する傾向が見られた。一方で私達はコロナ禍の過ごし方のコツもつかみつつある。コロナ禍においては、出来るときにやりたいことをする、会いたい人に会っておかないと、次がいつになるのか分からない。よって、今回の爆発的な感染拡大の収束後は、やはり外食を中心としつつも、春休み頃というタイミングも相まって、旅行やレジャーなどの非日常的な消費行動も、デルタ株による感染拡大収束後と比べれば積極的に再開されるのではないか。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2022年02月04日「基礎研レター」)

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【感染拡大収束後の消費行動】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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