2021年11月10日

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(2) 賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、前年比でプラスを確保したものの頭打ち感も見られる。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2021年第2四半期の賃料は前年比でシングルタイプが▲0.6%、コンパクトタイプが+1.8%、ファミリータイプが+0.2%となった(図表-12)。また、高級賃貸マンションの空室率(2021年9月末)は5.7%(前年比+0.1%)、賃料は18,602円/月坪(前年比+4.8%)と4期連続で前年比プラスとなった(図表-13)。
図表-12 東京23区のマンション賃料
図表-13 高級賃貸マンションの賃料と空室率
(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、新規感染者数の増加に伴う行動自粛により百貨店とスーパーの施設売上が減少した一方で、コンビニエンスストアは増加した。商業動態統計などによると、2021年7-9月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が▲3.1%、スーパーが▲1.1%、コンビニエンスストアが+1.2%となった(図表-14)。9月単月では、百貨店が▲4.2%(2カ月連続マイナス)、スーパーが▲0.3%(2カ月連続マイナス)、コンビニエンスストアが+0.6%(2カ月ぶりプラス)となっている。
図表-14 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店、前年比)
ホテルセクターは依然として厳しい状況が続いている。宿泊旅行統計調査によると、2021年7-9月累計の延べ宿泊者数はコロナ禍以前の2019年対比で▲49.0%減少し、このうち外国人が▲94.3%、日本人が▲39.4%となった(図表-15)。東京五輪の無観客開催や緊急事態宣言の長期化に伴う夏季行楽シーズンの宿泊需要の消滅により、苦しい経営環境を強いられている。STR社によると、9月のホテルRevPARは2019年対比で全国が▲66.9%、東京が▲74.0%、大阪が▲73.5%となった。
図表-15 延べ宿泊者数の推移(月次、2019年対比、2020年1月~2021年9月)
物流賃貸市場は、首都圏では大量供給に伴い空室率が上昇した一方で、近畿圏の空室率は1%台を維持した。シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2021年9月末)は前期比+1.1%上昇の2.6%となった(図表-16)。先進的物流施設への需要は3PL企業を中心に引き続き堅調で、2021年第3四半期の新規需要は約13万坪となったが、新規供給は複数の大規模物件の竣工により過去4番目に多い約18万坪に達し、空室率が上昇した。今後も高水準の新規供給が続くことから、立地やスペックによる物件の選別傾向が一層進むとのことである。近畿圏は新規物件、既存物件ともにリーシングが順調で空室率は1.6%(前期比▲0.1%)に低下した。

また、一五不動産情報サービスによると、2021年7月時点の東京圏の募集賃料は4,470円/月坪(前期比+1.6%)となった。
図表-16 大型マルチテナント型物流施設の空室率

4. J -REIT(不動産投信)市場

4. J -REIT(不動産投信)市場

2021年第3四半期の東証REIT指数(配当除き)は6月末比▲3.7%となり6四半期ぶりに下落した。セクター別では、オフィスが▲4.5%、住宅が▲4.2%、商業・物流等が▲2.7%となり全てのセクターが下落した(図表-17)。7月までは上昇基調を維持し9カ月連続で上昇となったが、その後は好調な株式市場への資金シフトや公募増資の増加、米国金利の上昇などを受けて下落に転じた。9月末時点のバリュエーションは、純資産11.1兆円に保有物件の含み益4.2兆円を加えた15.3兆円に対して時価総額は17.1兆円でNAV倍率は1.12倍、分配金利回りは3.5%、10年国債利回りに対するイールドスプレッドは3.4%となっている。
図表-17 東証REIT指数の推移(2020年12月末=100)
J-REITによる第3四半期の物件取得額(引渡しベース)は4,857億円(前年同期比+82%)、1-9月累計で1兆1,589億円(+18%)となり金額を大きく伸ばした(図表-18)。アセットタイプ別の取得割合(1-9月累計)は、オフィス(44%)、物流施設(22%)、商業施設(13%)、住宅(13%)、底地ほか(7%)、ホテル(1%)の順となり、これまで低調であった商業施設の取得が回復した。
図表-18 J-REITによる物件取得額(四半期毎)
ところで、J-REIT市場は今年9月に創設20周年を迎えた。当初、金融商品としての認知度が低く、取引スタートの翌日に「9.11(米国同時多発テロ)」に直面する不運もあり厳しい船出を余儀なくされるなか、投資口価格の低迷が続いた。しかし、現在は世界第2位の市場規模へと大きく成長し、世界の投資家が注目するマーケットとしての地位を確立している。

そして、創設からの20年間の総合収益率は+416%(年率+8.6%)となり、国内株式や国内債券を上回るパフォーマンスを実現し、J-REITがインカム収入だけではなく長期の資産形成にも適した金融商品であることを示している(図表-19)。

こうしたJ-REIT市場の高い収益率はファンダメンタルズに裏付けされたもので、バブルではないと考えられる。同期間のJ-REIT市場全体の1口当たり分配金の成長率(年率)は+2.6%、1口当たりNAVの成長率は+3.6%となり、名目GDP成長率(+0.2%)を上回る伸びを確保している。これは、派手さはなくても安定成長(Stable Growth)が期待できる資産は、途中に山も谷もあるけれども、長期保有することによって素晴らしいリターンを投資家にもたらしてくれることを示唆している。

20年前と現在を比較した場合、J-REITの基本設計は変わらないが、その内容はより洗練され進化している。20年後、今に受け継がれる良き部分を守りつつ、さらなる成長を遂げたJ-REIT市場の姿に期待したい。
図表-19  J-REIT、国内株式、国内債券の総合収益率(2021年8月末時点)
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2021年11月10日「不動産投資レポート」)

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