2021年10月29日

2021年7-9月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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●7-9月期は年率▲0.9%を予測~2四半期ぶりのマイナス成長

2021年7-9月期の実質GDPは、前期比▲0.2%(前期比年率▲0.9%)と2四半期ぶりのマイナス成長になったと推計される1

外需寄与度は前期比0.1%(年率0.3%)と成長率を若干押し上げたが、緊急事態宣言の長期化や反動不足などの供給制約の影響で、民間消費(前期比▲0.6%)、設備投資(同▲0.9%)が減少し、国内民間需要が2四半期ぶりに減少した。ワクチン接種の進捗を反映し政府消費が前期比0.7%の増加となったが、公的固定資本形成が同▲2.2%の減少となったため、公的需要は前期からほぼ横ばいにとどまった。

実質GDP成長率への寄与度(前期比)は、国内需要が▲0.3%(うち民需▲0.3%、公需0.0%)、外需が0.1%と予測する。
 
名目GDPは前期比▲0.0%(前期比年率▲0.1%)と3四半期連続で減少するが、実質の伸びは上回るだろう。GDPデフレーターは前期比0.2%(4-6月期:同▲0.6%)、前年比▲1.1%(4-6月期:同▲1.1%)と予測する。国際商品市況高騰の影響で輸入デフレーターが前期比6.3%の高い伸びとなり、輸出デフレーターの伸び(前期比3.1%)を上回ったことがGDPデフレーターを押し下げたが、輸入物価の上昇が国内物価に波及し、国内需要デフレーターが前期比0.8%の上昇となった。
実質GDPと実質GDIの推移 なお、輸出入デフレーターの差によって生じる所得の実質額を表す交易利得(損失)は、2021年4-6月期の前期差▲2.1兆円から、7-9月期は同▲3.0兆円と減少幅の拡大が見込まれる。この結果、実質GDPに交易利得を加えた実質GDIは前期比▲0.8%(前期比年率▲3.2%)となり、成長率のマイナス幅は実質GDPを大きく上回ることが予想される。

2021年入り後、交易条件の悪化に伴う海外への所得流出が続いている。
 
2021年7-9月期の実質GDPは、緊急事態宣言が続く中で半導体不足などの供給制約が加わったことで、2四半期ぶりのマイナス成長となった。日本経済は緊急事態宣言が再発令された2021年入り後、停滞が続いている。

緊急事態宣言は9月末で解除されたため、10月以降は外食、旅行などの対面型サービスを中心に個人消費が持ち直しているとみられる。現時点では10-12月期の実質GDPは民間消費の高い伸びを主因として前期比年率5%台の高成長を予想している。ただし、新型コロナウイルスの感染再拡大に伴う行動制限の強化、半導体不足などの供給制約の長期化、国際商品市況の上昇を受けた交易条件の悪化など、リスク要因は多い。
 
1 10/29までに公表された経済指標をもとに予測している。今後公表される経済指標の結果によって予測値を修正する可能性がある。

●主な需要項目の動向

●主な需要項目の動向

・民間消費~財、サービスともに弱い動き~
民間消費は前期比▲0.6%と2四半期ぶりの減少を予測する。外食、旅行などのサービス消費の低迷が続いていることに加え、巣ごもり需要の一巡や供給制約に伴う自動車販売の落ち込みなどから、財消費も弱い動きとなっている。
消費関連指標の推移 足もとの消費関連指標を確認すると、「商業動態統計」の実質小売業販売額指数(小売業販売額指数を消費者物価指数(財)で実質化)は一進一退の動きとなっているが、供給制約による大幅減産の影響で自動車販売台数が9月に前月比▲26.6%(当研究所による季節調整値)と急激に落ち込んだ。

また、外食、宿泊などの対面型サービス消費は、緊急事態宣言長期化の影響から低水準で横ばい圏の動きが続いている。
・住宅投資~増加を続けるが、住宅価格の上昇が下押し要因に~
住宅投資は前期比0.6%と4四半期連続の増加を予測する。
新設住宅着工戸数の推移 新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は2019年10月の消費税率引き上げ後に90万戸を割り込んだ後、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化した2020年4-6月期以降は80万戸程度へと水準を大きく切り下げたが、足もとでは80万戸台後半まで持ち直している。

先行きについては、木材価格の高騰(ウッドショック)が住宅投資の下押し要因となる可能性がある。
・民間設備投資~2四半期ぶりの減少~
民間設備投資は前期比▲0.9%と2四半期ぶりの減少を予測する。

設備投資の一致指標である投資財出荷指数(除く輸送機械)は2021年4-6月期の前期比8.1%の後、7-9月期は同▲2.1%と4四半期ぶりに減少した。また、機械投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は2021年4-6月期に前期比4.6%と2四半期ぶりに増加した後、7、8月の平均は4-6月期を1.1%上回っている。

日銀短観2021年9月調査では、2021年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア投資、除く土地投資額)が2021年6月調査から0.3%上方修正され、前年度比10.5%となった。
設備投資関連指標の推移/設備投資計画(全規模・全産業)
企業収益の回復を背景に設備投資は基調としては持ち直しているが、資源価格の高騰、半導体不足などの供給制約といった外部環境の悪化を受けて、7-9月期は足踏み状態になったとみられる。
・公的固定資本形成~3四半期連続の減少~
公的固定資本形成は前期比▲2.2%と3四半期連続の減少を予測する。
公共工事請負金額、出来高の推 公共工事の先行指標である公共工事請負金額は2020年10-12月期から4四半期連続で減少し、2021年7-9月期は前年比▲12.0%となり、4-6月期の同▲2.2%から減少幅が大きく拡大した。一方、公共工事の進捗を反映する公共工事出来高(建設総合統計)は、2019年4-6月期から2021年4-6月期まで9四半期連続で増加したが、2021年7、8月の平均は前年比▲1.9%(4-6月期:同0.6%)と減少に転じている。

公的固定資本形成は、災害復旧や国土強靭化関連工事の進捗を反映し増加傾向が続いてきたが、2020年末をピークに頭打ちとなっている。
・外需~輸出入ともに落ち込むが、3四半期ぶりのプラス寄与~
外需寄与度は前期比0.1%(前期比年率0.3%)と3四半期ぶりのプラスを予測する。供給制約の影響で財貨・サービスの輸出が前期比▲3.0%の減少となったが、国内需要の低迷を背景に財貨・サービスの輸入が同▲3.4%と輸出を上回る落ち込みとなったことから、外需は成長率を若干押し上げた。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移 2021年7-9月期の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前期比▲8.5%(4-6月期:同11.7%)、EU向けが前期比5.8%(4-6月期:同12.8%)、アジア向けが前期比▲2.9%(4-6月期:同1.3%)、中国向けが前期比▲4.6%(4-6月期:同▲0.6%)、全体では前期比▲2.4%(4-6月期:同1.1%)となった。

EU向けは堅調を維持しているが、米国向け、アジア向けが弱い動きとなっており、自動車輸出の割合が高い米国向けの落ち込みが特に大きくなっている。資本財、情報関連財は堅調を維持しているものの、サプライチェーンにおける部品不足の影響で自動車が大きく落ち込んでいることから、輸出全体としては回復の動きが一服している。


 
日本・月次GDP 予測結果
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2021年10月29日「Weekly エコノミスト・レター」)

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