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- ECB政策理事会-PEPP購入ペースの減速を決定
2021年09月10日
1.結果の概要:PEPPの購入ペースの減速を決定
9月9日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・PEPPの購入ペースの適度な減速を決定
【記者会見での発言(趣旨)】
・実質成長率見通しを21年5.0%、22年4.6%、23年2.1%と上方修正
・リスクは中立的である(変更なし)
・PEPPの終了については12月の理事会で包括的に議論する予定
2.金融政策の評価:出口戦略の詳細は12月に議論
今回の理事会では、PEPP購入ペースを適度に減速することが決定された。
今回は3か月ごとに作成されるスタッフ経済見通しも公表され、実質成長率は主に21年を上方修正、インフレ見通しは全体的に若干上方修正されている。
PEPPの購入ペースは、今年3月に購入ペースを加速させた際に、スタッフ見通しの公表と合わせ、3か月ごとにインフレ見通しと良好な資金調達環境を評価して判断するのが合理的としていたが、この枠組みに則して、減速という判断がなされた形である。
ECBは7月に戦略見直しを受けて物価目標を「中期的に2%」(これまでは「2%に近いがやや下回る」)と変更し、その後に開催された理事会では金利のフォワードガイダンスを修正し、以前よりも利上げに対しては慎重な姿勢を明確にし、ハト派的な色彩が強かった。
一方、今回はPEPPの購入ペースの縮小が決定され、今後はコロナ禍後の金融緩和からの正常化が意識されやすくなるだろう。記者会見でも出口(正常化)に関する質問が多くみられたが、ラガルド総裁はそれらに関する議論は12月の理事会で行われることが適切との見解を示している。
具体的には「PEPPの来年3月での終了」「TLTROIIIの今年12月での終了」「(PEPP終了後の)APPの柔軟化(例えば、投機的格付けであるギリシャ国債の購入、国債保有の33%上限ルールの引き上げ)」「APPのフォワードガイダンス(利上げ直前まで購入を継続するのか)」といった論点はすべて12月に持ち越された形になった。
次回の理事会は10月に予定されているため、そこで出口に関する議論がなされる可能性はあるが、ラガルド総裁自身がスタッフ見通しの作成される12月の理事会の重要性を強調しており、次の政策決定は12月の理事会でなされる公算が高い。
なお、8月のインフレ率が3%まで急上昇したこともあり、質疑応答ではインフレリスクに関する言及も多くみられた。ラガルド総裁は大部分が一時的であるとの見解を示しているが、一方で、物価上昇により賃上げ交渉が強まり、賃金上昇により持続的なインフレ圧力になるリスクにも触れている。
今後は12月の理事会に向け、経済やインフレが今回の見通しで示した経路を辿るのか、ECBがどのような金融政策正常化の道筋を描くのか、が注目されるだろう。
今回は3か月ごとに作成されるスタッフ経済見通しも公表され、実質成長率は主に21年を上方修正、インフレ見通しは全体的に若干上方修正されている。
PEPPの購入ペースは、今年3月に購入ペースを加速させた際に、スタッフ見通しの公表と合わせ、3か月ごとにインフレ見通しと良好な資金調達環境を評価して判断するのが合理的としていたが、この枠組みに則して、減速という判断がなされた形である。
ECBは7月に戦略見直しを受けて物価目標を「中期的に2%」(これまでは「2%に近いがやや下回る」)と変更し、その後に開催された理事会では金利のフォワードガイダンスを修正し、以前よりも利上げに対しては慎重な姿勢を明確にし、ハト派的な色彩が強かった。
一方、今回はPEPPの購入ペースの縮小が決定され、今後はコロナ禍後の金融緩和からの正常化が意識されやすくなるだろう。記者会見でも出口(正常化)に関する質問が多くみられたが、ラガルド総裁はそれらに関する議論は12月の理事会で行われることが適切との見解を示している。
具体的には「PEPPの来年3月での終了」「TLTROIIIの今年12月での終了」「(PEPP終了後の)APPの柔軟化(例えば、投機的格付けであるギリシャ国債の購入、国債保有の33%上限ルールの引き上げ)」「APPのフォワードガイダンス(利上げ直前まで購入を継続するのか)」といった論点はすべて12月に持ち越された形になった。
次回の理事会は10月に予定されているため、そこで出口に関する議論がなされる可能性はあるが、ラガルド総裁自身がスタッフ見通しの作成される12月の理事会の重要性を強調しており、次の政策決定は12月の理事会でなされる公算が高い。
なお、8月のインフレ率が3%まで急上昇したこともあり、質疑応答ではインフレリスクに関する言及も多くみられた。ラガルド総裁は大部分が一時的であるとの見解を示しているが、一方で、物価上昇により賃上げ交渉が強まり、賃金上昇により持続的なインフレ圧力になるリスクにも触れている。
今後は12月の理事会に向け、経済やインフレが今回の見通しで示した経路を辿るのか、ECBがどのような金融政策正常化の道筋を描くのか、が注目されるだろう。
3.声明の概要(金融政策の方針)
9月9日の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
(政策金利)
(資産購入プログラム:APP)
(パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
(資金供給オペ)
(その他)
- 資金調達環境とインフレ見通しの評価に基づき、理事会はこれまでの2四半期よりもより適度に減速したペース(moderately lower pace)でのパンデミック緊急購入策(PEPP)でも良好な資金調達環境を維持できると判断した
- 理事会はまた、その他の手段、つまり将来に関するフォワードガイダンス、政策金利、APP、元本償還の再投資、長期資金供給オペについても次のように承認した
(政策金利)
- 政策金利の維持(変更なし)
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:0.00%
- 限界貸出ファシリティ金利:0.25%
- 預金ファシリティ金利:▲0.50%
- フォワードガイダンス(変更なし)
- 対称的な2%のインフレ目標と金融政策戦略に沿って、見通し期間が終わるかなり前(well ahead)までにインフレ率が2%に達し、その後見通し期間にわたって持続的に推移すると期待され、現実に中期的な2%に向けたインフレ率の安定という十分な進展が見られると判断されるまでは、理事会は政策金利を現在もしくはより低い水準で維持する
- そのため、一時的にインフレ率が目標をやや上回る可能性もある
(資産購入プログラム:APP)
- APPの実施(変更なし)
- 月額200億ユーロの純資産購入を実施
- 毎月の購入は、緩和的な政策金利の影響が強化されるまで必要な限り継続
- 政策金利の引き上げが実施される直前まで実施
- APPの元本償還分の再投資(変更なし)
- APPの元本償還分は全額再投資を実施
- 政策金利を引き上げ、十分な流動性と金融緩和を維持するために必要な限り実施
(パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
- PEPPの継続(政策の変更なし)
- 総枠1兆8500億ユーロの純資産購入を実施
- 購入期間は少なくとも2022年3月末、そして新型コロナ危機が去るまで実施する
- 資金調達環境とインフレ見通しの評価に基づき、理事会はこれまでの2四半期よりもより適度に減速したペース(moderately lower pace)でのパンデミック緊急購入策(PEPP)でも良好な資金調達環境を維持できると判断した(購入ペースの減速を決定)
- 理事会は、市場環境を見つつ資金調達環境のひっ迫(tightening)を防ぎ、感染拡大によるインフレ見通しの下方圧力に対抗するという観点から柔軟に購入を実施する(変更なし)
- 理事会は、実施期間・資産クラス・国構成に関して柔軟に購入を行うことで、円滑に金融政策が伝達するよう支える
- PEPPは良好な資金調達環境が維持される場合は総額を利用する必要はない。平等に、必要があれば枠(増額)の再調整を行う
- PEPP元本償還分の再投資の実施(変更なし)
- PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2023年末まで実施する
- 将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する
(資金供給オペ)
- 十分な流動性供給の実施(政策の変更なし)
- リファイナンスオペを通じて十分な流動性供給を継続
- TLTROⅢによる資金は、引き続き金融機関に対する、企業・家計への貸出支援としての魅力的な資金源となっている
(その他)
- 追加緩和へのスタンス(変更なし)
- インフレが目標に向け推移するよう、必要に応じ、すべての手段を調整する準備がある
4.記者会見の概要
政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
(冒頭説明)
(経済活動)
(インフレ)
(冒頭説明)
- ユーロ圏の経済回復は急速に進展した
- 経済水準は年末にはコロナ禍前の水準を上回ることが期待できる
- 欧州の70%以上の成人がワクチン接種を完了しており、大部分の経済活動が再開したことで、消費活動や企業の生産活動が可能になっている
- 新型コロナウイルスへの免疫の増加によって、パンデミックの深刻さは軽減しているものの、デルタ株の世界的なまん延は経済の完全再開を遅らせる要因となっている
- 足もとのインフレ率の増加は大部分が一時的なものであり、物価上昇圧力の基調は緩やかなものにとどまる
- 新しいスタッフ見通しにおけるインフレ見通しは若干上昇修正されたが、中期的なインフレ率は依然として2%を下回ると予想している。
- 企業、家計、公的部門の資金調達環境は、前回6月の四半期評価以降、良好さを維持している
- 良好な資金調圧環境は経済回復を継続し、コロナ禍のインフレ率への悪影響を相殺するために不可欠である
- 資金調達環境とインフレ見通しの評価に基づき、理事会はこれまでの2四半期よりもより適切に減速したペース(moderately lower pace)でのパンデミック緊急購入策(PEPP)でも良好な資金調達環境を維持できると判断した
- 我々はまた、物価安定目標のためのその他の手段、つまり政策金利、将来に関するフォワードガイダンス、APP、元本償還の再投資、長期資金供給オペについて、声明文にある詳細の通り、承認した
- 我々は、インフレが中期的な2%の目標に向け安定して推移するよう、必要に応じ、すべての手段を調整する準備がある
- ここでは経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい
(経済活動)
- 経済は今年の4-6月期には2.2%回復し、予想を上回った
- 7-9月期の力強い回復に向けた軌道に乗っている
- 回復は欧州のワクチン普及の成功によってもたらされ、大部分の経済活動が再開できた
- 経済制限の緩和によって、人々が店舗やレストランに戻り、旅行や観光が回復したことでサービス産業は恩恵を受けている
- 製造業は原材料や設備不足による停滞が続いているものの、非常に好調である
- デルタ株のまん延は今のところ、ロックダウンを課すような状況をもたらしていない
- しかし、世界貿易や経済活動の完全再開を鈍化させる可能性がある
- 消費者はパンデミックの状況についていくらか慎重だが、個人消費は増加している
- 労働市場も急速に改善しており、所得と消費の増加が見込まれる
- 失業者数も減少し、雇用維持政策の利用者も昨年ピークと比べ2800万人減少した
- 域内や世界の需要回復が企業の楽観的な見方を促進させており、設備投資を支えている
- 同時に、コロナ禍の被害を克服するまでには、まだ道のりが残されている
- コロナ禍前と比較して、特に若年層や低技能者を中心に、雇用者数はまだ200万人以上少ない
- 雇用維持政策の利用者は引き続き多い
- 回復を支えるため、野心的、重点的で協調した財政政策が、引き続き金融政策を補完する
- 特に、次世代EUプログラムはユーロ圏各国での力強く均一な回復に貢献すると見られる
- これはまた、グリーンやデジタルへの移行を加速させ、構造改革と長期的な成長力の上昇を支援するだろう
- 我々は中期的に経済が堅調に回復すると予想する
- 新しいスタッフ見通しでは、実質GDP成長率を21年5.0%、22年4.6%、23年2.1%と予想している
- 6月の見通しと比較すると21年は上方修正、22年・23年はほぼ変わっていない
(インフレ)
- 8月のインフレ率は3.0%となった
- 我々は秋にインフレ率がさらに上昇するものの、来年には低下すると見ている
- 現在の上昇は主に、昨年中盤以降の原油価格の大幅上昇、ドイツの一時的なVAT引き下げが終了した影響、昨年の夏のセールが遅れたこと、一時的な原材料や部品不足による価格上昇圧力、によるものである
- 22年中にこうした要因が緩和し、前年比で見たインフレ率への影響は解消するだろう
- インフレ基調はやや上昇した
- 金融政策手段に支えられつつ経済が回復するにつれ、インフレ基調も中期的に上昇すると見ている
- 経済が完全に回復するまでは時間を要するため、この上昇はあくまでも緩やかで、したがって賃金上昇も緩やかなものにとどまるだろう
- 長期的なインフレ期待は上昇を続けているが、我々の2%の目標からはまだ距離がある
- 新しいスタッフ見通しのインフレ率は21年2.2%、22年1.7%、23年1.5%を予想している
- 6月の見通しとの比較では上方修正している
- コアインフレ率の見通しは21年1.3%、22年1.4%、22年1.5%であり、これも6月見通しから上方修正している
(2021年09月10日「経済・金融フラッシュ」)
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経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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