2021年07月26日

堅調な米個人消費-サービス消費に回復の兆し。一方、新型コロナ感染拡大、物価上昇が消費回復の重荷になる可能性

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

米国の個人消費は新型コロナの感染拡大と感染対策としての経済活動制限の影響で20年の春先に大幅に落ち込んだものの、その後は回復基調が持続している。個人消費の回復は経済活動が段階的に緩和されていることに加え、昨年春先からの累次に及ぶ経済対策に伴う家計向けの直接給付や失業保険の追加給付などから可処分所得が増加したことが大きい。

個人消費は金額ベースでは21年1月時点で既に新型コロナ流行前(20年2月)の水準を上回った。もっとも、個人消費の内訳をみると財消費が新型コロナ流行前を大幅に上回る一方、サービス消費は経済活動制限の影響で飲食や旅行などの対面サービスを中心に回復が遅れていた。しかしながら、足元で経済活動制限が全面的に緩和される中で、これら対面型サービス消費にも漸く顕著な回復がみられている。

本稿では、足元の個人消費の動向について確認した後、今後の見通しについて論じている。結論から言えば、今後も経済正常化の動きが続く中で家計は十分な消費余力を有していることから、当面は堅調な個人消費が見込まれる。もっとも、足元でワクチン接種率が頭打ちとなる中で新型コロナ感染者数が増加に転じており、感染者数の増加に歯止めが掛からない場合には再び経済活動が制限されることや、顕著な物価上昇が消費者の購買意欲に影響する兆候がみられており、消費回復の重荷になることが懸念されるというものだ。
 

2.個人消費の動向

2.個人消費の動向

(21年1-3月期の個人消費)前期から大幅に伸びが加速
実質GDPにおける個人消費は21年1-3月期が前期年率+11.4%と前期の+2.3%から大幅に伸びが加速した(前掲図表1)。個人消費の回復は新型コロナの新規感染者数の減少に伴う経済正常化や経済対策に伴い可処分所得が増加したことが大きい。

実際に、新型コロナ新規感染者数(7日移動平均)は21年初の25万人から3月末には6万人台前半へ急激に減少した(図表2)。また、米政府による感染対策の厳しさを示す厳格度指数は年初の68.4から3月末に62.4に低下するなど経済活動制限が緩和されたことを示している(図表3)。
(図表2)米国のコロナ新規感染者数およびワクチン接種完了率/(図表3)米政府による感染対策の厳しさ(厳格度指数)
(図表4)可処分所得(経済対策内訳)と貯蓄率 一方、GDPにおける実質可処分所得は21年1-3月期が前期比年率+62.0%と前期の▲7.6%からプラスに転じ、1950年の統計開始以来最大の伸びとなった。可処分所得が大幅に増加した要因は、20年12月に成立した経済対策に盛り込まれた1人当たり最大600ドルの直接給付に加え、21年3月に成立した経済対策に盛り込まれた1人当たり最大1,400ドルの直接給付が可処分所得を大幅に押し上げたことが大きい(図表4)。

また、貯蓄率は21年5月が12.4%と新型コロナ流行前の7%台を大幅に上回る水準となっており、米家計が所得対比で依然として消費余力を有している。
(サービス消費の回復)高頻度データは対面型サービス消費の顕著な回復を示唆
個人消費の回復基調が持続する中、名目個人消費は金額ベースで21年1月以降は新型コロナ流行前(20年2月)の14.9兆ドルを上回って推移している(図表5)。
(図表5)個人消費の内訳 一方、20年2月を100とした場合の個人消費の内訳をみると、21年5月の耐久財消費が133、非耐久財消費が113と財消費のいずれも100を上回っている。しかしながら、サービス消費は99と依然として100を下回っており、財消費に比べて回復が大幅に遅れていることが分かる。

サービス消費の回復が遅れている要因は、経済対策などによって消費原資は潤沢なものの、新型コロナの感染対策として移動や飲食などの経済活動が制限された結果、旅行、宿泊や外食などの対面サービス消費が抑制された影響が大きいとみられる。

もっとも、足元では感染者数の減少を受けてハワイ州を除く49州が経済活動制限を全面的に緩和するなど、ソーシャルディスタンシングの解消に伴う経済正常化の動きが加速している。実際に前述の厳格度指数は足元で42.2に大幅な低下がみられている(前掲図表3)。
そのような中、高頻度データは漸く対面サービス消費の回復が顕著となっていることを示している。米国の空港保安検査場を通過した人数は20年3月に大幅な落ち込みを示した後、緩やかな回復に留まっていたが、年初からは禍福ペースが加速しており、足元では200万人台前半と新型コロナ流行前の水準に回復した(図表6)。

また、米国内にあるホテルの客室稼働率も20年4月に20%まで低下したものの、年初からの回復が顕著となっており、足元は60%台後半と、こちらは新型コロナ流行前を上回る水準に回復した(図表7)。
(図表6)米空港保安検査場通過人数/(図表7)米国内ホテル客室稼働率
(図表8)レストラン予約件数(19年比増減) さらに、昨年の春先に壊滅的となっていた米国内にあるレストランの座席予約件数も、年初から回復基調が鮮明となっており、日によって変動が大きいものの、足元では19年を僅かに下回る水準まで回復していることが分かる(図表8)。

このようにみると、財消費に比べてこれまで回復が遅れていた旅行、宿泊、飲食などの対面型サービス消費は年初からの回復が顕著となっており、既に旅行や宿泊は新型コロナ流行前の水準を回復していることが分かる。

今後もソーシャルディスタンシングの解消など経済正常化の継続が見込まれる中で、対面型サービスを中心にサービス消費の堅調な回復が見込まれる。
(4-6月期の個人消費動向)堅調な個人消費が持続
7月29日に発表される21年4-6月期の個人消費も堅調な伸びを維持しそうだ。クレジット・デビッドカード支払い額は21年3月末に20年1月を+11.7%上回っていたが、直近(6月6日時点)では+16.5%と増加幅が拡大しており、4月以降も個人消費が増加していることを示唆している(図表9)。

一方、小売売上高は季節調整済の前月比が、21年6月に+0.6%(前月:▲1.7%)となり、前月からプラスに転じた(図表10)。内訳をみると、車載半導体の不足から価格が上昇している自動車販売が▲2.0%(前月:▲4.7%)と前月に続いて減少したほか、建材は▲1.6%(前月:▲5.3%)と3ヵ月連続で減少した。一方、ガソリンスタンドがガソリン価格の上昇から+2.5%(前月:+0.2%)となったほか、レストランなどの食品サービスが+2.3%(前月:+3.7%)となった。とくに、食品サービスはレストラン予約の好調にも反映されているように、年初からの回復が顕著となっており、消費が財からサービスにシフトしている可能性を示唆した。

また、GDPにおける財消費との連動が大きい自動車、ガソリンスタンド、建材、食品サービスを除いたコア小売売上高(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は6月が年率+14.1%と3月の+29.0%を下回ったものの、高い伸びを維持した。
(図表9)クレジット・デビッドカード支払い額(個人消費支出)/(図表10)小売売上高
前述のように高頻度データはサービス消費が顕著な回復を示しており、クレジット・デビッドカード支払い額が堅調に推移していることを考慮すると、対面型サービス消費の回復などから、GDPにおける21年4-6月期の個人消費は前期に続いて堅調な伸びとなろう。

3.今後の見通し

3.今後の見通し

米国経済は今後も経済正常化の動きが続く中で、高い貯蓄率にみられるように家計は十分な消費余力を有していることから、当面は堅調な個人消費が見込まれる。

もっとも、ワクチン接種を完了した人数が人口の49%で頭打ちとなる中、新型コロナの新規感染者数(7日移動平均)が足元で4.4万人と6月中旬の1万人台前半から感染者数のリバウンドが明確となっている(前掲図表2)。過去1ヵ月の新規感染者のうち、デルタ株の割合が66%となっており、足元のリバウンドは感染力の高いデルタ株の拡大による影響が大きいとみられる。今後、感染者数の増加に歯止めが掛からない場合には、感染対策として再び経済活動が制限されることで個人消費の回復に影響が出よう。

一方、消費者物価の総合指数が21年6月に前年同月比+5.4%と08年8月以来、物価の基調を示すエネルギーと食品を除いたコア指数も+4.5%と91年11月以来の水準に上昇するなど、足元で物価上昇が顕著となっている(図表11)。消費者物価の急激な上昇は実質購買力の低下を通じて個人消費にはネガティブに影響する。

ミシガン大学の消費者信頼感指数は21年7月が80.8(前月:85.5)と前月から▲4.7ポイント低下した(図表12)。同調査を担当したチーフエコノミストは消費者にとって足元で雇用喪失よりインフレが懸念材料となっていることを示しており、インフレが消費者センチメントを悪化させている兆候を示した。

実際に、同調査で家具、テレビなどの大型耐久財や自動車、住宅の購買意欲を示す指数はいずれも100を下回っており、これらの購入時期として現在は「悪い」時期であるとの回答が「良い」とする回答を上回った。このため、価格上昇がこれらの購入意欲を減退させている可能性を示している。

今後も物価が高止まりする場合には、高額商品などを中心に消費回復の重荷になろう。
(図表11)消費者物価指数(前年同月比)/(図表12)消費者信頼感指数および購買意欲
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

(2021年07月26日「Weekly エコノミスト・レター」)

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