- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 日本経済 >
- 取り残される対面型サービス業-新型コロナウイルスの感染者数、死亡者数とワクチンの効果をどうみるか
2021年04月09日
●取り残される対面型サービス業
(二極化が進む日本経済)
2021年1月に再発令された緊急事態宣言の影響は、2020年4、5月の緊急事態宣言時と異なり一部の分野にとどまっている。
2021年1月に再発令された緊急事態宣言の影響は、2020年4、5月の緊急事態宣言時と異なり一部の分野にとどまっている。
さらに、新型コロナウイルス感染症の影響を強く受けた労働市場の動向を確認すると、2020年4月の緊急事態宣言の影響で急速に落ち込んだ雇用者数はその後の持ち直しも緩やかにとどまっているが、下押し要因となっているのは、対面型サービス(運輸、宿泊・飲食サービス、生活関連サービス・娯楽)でそれ以外の業種では比較的順調に回復している。対面型サービスを除いた雇用者数はすでにコロナ前の水準を回復している(図表3)。
このように、日本経済は全体としては新型コロナウイルスの打撃から立ち直りつつあるが、営業時間短縮要請や外出自粛などの影響を強く受ける対面型サービス業は完全に取り残されている。
1 各統計の業種分類によって対面型サービス業の範囲は異なる
このように、日本経済は全体としては新型コロナウイルスの打撃から立ち直りつつあるが、営業時間短縮要請や外出自粛などの影響を強く受ける対面型サービス業は完全に取り残されている。
1 各統計の業種分類によって対面型サービス業の範囲は異なる
(ワクチンの効果をどうみるか)
緊急事態宣言は解除されたものの、一部の地域でまん延防止等重点措置が適用されるなど、対面型サービスを取り巻く環境は依然として厳しい。
日本は諸外国に比べてワクチン接種が遅れている。ワクチン接種が本格化すればソーシャルディスタンスの確保等が不要となり、外食、旅行などの対面型サービス消費が急回復するとの見方もあるが、過度の期待は禁物だ。
今回のワクチンは、極めて短期間で開発されたこともあり、有効性や副反応が未知数ということもあるが、それ以上に日本は欧米と比べて感染者数、死亡者数が圧倒的に少ないため、ワクチン接種によって受けることのできる恩恵が相対的に小さいという問題がある。
現時点では、人口100万人当たりの新型コロナウイルスの累積感染者数は米国の9.3万人に対して日本は0.4万人、累積死亡者数は米国の1,679人に対し、日本は73人である(2021/4/5時点)。累積感染者数、累積死亡者数ともに米国の約4%にすぎない(図表4、5)。
たとえば、ワクチンの有効性2が90%と仮定した場合、ワクチンによって救われる命は米国が1,511人(1,679×0.9)に対して、日本は66人(73×0.9)となる。一方、ワクチンには一定の副反応がある。副反応を考慮した上でワクチン接種に意味があるのは、ワクチンによって命が救われる人がワクチンの副反応によって亡くなる人よりも多い場合である。米国では副反応によって亡くなる人が100万人当たり1,511人未満であれば、ワクチンの効果はネットでプラスとなる。これに対し、日本では亡くなる人が100万人当たり66人未満でなければ、ワクチンの効果はネットでプラスとならない。米国は新型コロナによる死亡者数が多いので、副反応に対する許容度が高いのに対し、もともとの死亡者数が少ない日本では副反応に対する許容度が低いのである。
緊急事態宣言は解除されたものの、一部の地域でまん延防止等重点措置が適用されるなど、対面型サービスを取り巻く環境は依然として厳しい。
日本は諸外国に比べてワクチン接種が遅れている。ワクチン接種が本格化すればソーシャルディスタンスの確保等が不要となり、外食、旅行などの対面型サービス消費が急回復するとの見方もあるが、過度の期待は禁物だ。
今回のワクチンは、極めて短期間で開発されたこともあり、有効性や副反応が未知数ということもあるが、それ以上に日本は欧米と比べて感染者数、死亡者数が圧倒的に少ないため、ワクチン接種によって受けることのできる恩恵が相対的に小さいという問題がある。
現時点では、人口100万人当たりの新型コロナウイルスの累積感染者数は米国の9.3万人に対して日本は0.4万人、累積死亡者数は米国の1,679人に対し、日本は73人である(2021/4/5時点)。累積感染者数、累積死亡者数ともに米国の約4%にすぎない(図表4、5)。
たとえば、ワクチンの有効性2が90%と仮定した場合、ワクチンによって救われる命は米国が1,511人(1,679×0.9)に対して、日本は66人(73×0.9)となる。一方、ワクチンには一定の副反応がある。副反応を考慮した上でワクチン接種に意味があるのは、ワクチンによって命が救われる人がワクチンの副反応によって亡くなる人よりも多い場合である。米国では副反応によって亡くなる人が100万人当たり1,511人未満であれば、ワクチンの効果はネットでプラスとなる。これに対し、日本では亡くなる人が100万人当たり66人未満でなければ、ワクチンの効果はネットでプラスとならない。米国は新型コロナによる死亡者数が多いので、副反応に対する許容度が高いのに対し、もともとの死亡者数が少ない日本では副反応に対する許容度が低いのである。
また、ワクチンの効果が非常に高かった場合、感染者数の水準が大きく下がることはありうるが、感染者数がゼロとなることは考えにくい。気温の変化や変異株の出現によって増減を繰り返すことになるだろう。日々の感染者数、死亡者数の動きに一喜一憂する状況が変わらない限り、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などを通じた自粛要請と解除が繰り返され、対面型サービスの低迷は長期化する公算が大きい。
2 ワクチンの有効性はワクチン接種した人と接種しなかった人の罹患率の比率で求められる。また、副反応は死亡に限らないが、ここでは話しを単純化するために、死亡率を用いて議論する
2 ワクチンの有効性はワクチン接種した人と接種しなかった人の罹患率の比率で求められる。また、副反応は死亡に限らないが、ここでは話しを単純化するために、死亡率を用いて議論する
(感染者、死者をどこまで許容するのか)
ワクチンの効果が相対的に小さいことは必ずしも悲観的に考える必要はない。むしろ、ワクチンの効果が小さくなるほど新型コロナウイルスによる被害が小さいことを肯定的に捉えるべきだ。
ワクチンの効果が相対的に小さいことは必ずしも悲観的に考える必要はない。むしろ、ワクチンの効果が小さくなるほど新型コロナウイルスによる被害が小さいことを肯定的に捉えるべきだ。
日本では、新型コロナウイルスの流行前は、インフルエンザで毎年1,000万人以上の感染者が発生していたが、新型コロナウイルスの感染者数は1年以上が経過して約50万人である3(図表6)。死亡者数はインフルエンザの約3,000人に対して、新型コロナウイルスは約9,000人と多いが、これは2020年6月18日に厚生労働省から出された事務連絡4において、新型コロナウイルス感染症の陽性者で、入院中や療養中に亡くなった方については、厳密な死因を問わず、速やかに報告するよう求めていることが影響している可能性がある。たとえば、従来であれば肺炎や癌による死と報告されていた事例であっても、PCR検査で陽性反応が出れば、新型コロナウイルスによる死とされているのである。
新型コロナウイルス感染症は感染者、死者のカウントの仕方が従来と異なるため、その深刻度を把握しにくい。従来と同じ基準で考えるためには、新型コロナウイルスの感染拡大によって全体の死亡者が増えたかどうかを見る必要がある。
新型コロナウイルス感染症は感染者、死者のカウントの仕方が従来と異なるため、その深刻度を把握しにくい。従来と同じ基準で考えるためには、新型コロナウイルスの感染拡大によって全体の死亡者が増えたかどうかを見る必要がある。
死因別には、新型コロナウイルスによる死者数は3,459人の増加となり、自殺も912人増と11年ぶりの増加となったが、肺炎(▲15,645人)、心疾患(▲3,808人)、インフルエンザ(▲2,371人)などの減少が総死亡者数の減少に寄与した(図表8)。対人接触機会の削減、手洗い、うがい、マスクの着用といった感染防止策によって新型コロナウイルス以外の感染症等が抑制されたと考えられる。また、従来であれば肺炎などにカウントされていた死者が新型コロナウイルスによる死者としてカウントされている可能性が考えられる。
総死亡者数が減少したこと自体は喜ばしいことだが、そのために犠牲にしていることは少なくない。日本はもともと新型コロナウイルスの感染者数、死亡者数が国際的に少ない中でも一定の経済活動の制限を行ってきた。この結果、2020年の実質GDP成長率は▲4.8%となり、感染者数や死亡者数が圧倒的に多い米国の▲3.5%を下回った。その要因として経済対策の規模の違い(米国>日本)や潜在成長率の違い(米国>日本)もあるが、感染者数や死亡者数対比でみれば自発的な行動変容も含めた行動制限が過剰だった可能性もあるだろう。また、直接的な経済損失に加え、自殺者の増加、婚姻件数の激減など、対人接触を避けることによって生じる様々な弊害が表面化しつつある。
日本ではインフルエンザで毎年約1,000万人が感染し、約3,000人が亡くなっていた。それでも学級閉鎖や一時休校などを除いて特別な社会・経済活動の制限が行われなかったのは、一定程度の感染や死が社会的に許容されていたためと考えられる。感染症をゼロにすることは基本的に不可能であり、ワクチン接種の進展が対面型サービスの救世主になるとは限らない。新型コロナウイルスについて、日々の増減に一喜一憂するだけでなく、社会的にどこまで許容されるかを議論すべき時期が来ているように思われる。
3 正確にはインフルエンザの感染者数は推計受診者数、新型コロナウイルスの感染者数は陽性者数
4 「新型コロナウイルス感染症患者の急変及び死亡時の連絡について」https://www.mhlw.go.jp/content/000641629.pdf
総死亡者数が減少したこと自体は喜ばしいことだが、そのために犠牲にしていることは少なくない。日本はもともと新型コロナウイルスの感染者数、死亡者数が国際的に少ない中でも一定の経済活動の制限を行ってきた。この結果、2020年の実質GDP成長率は▲4.8%となり、感染者数や死亡者数が圧倒的に多い米国の▲3.5%を下回った。その要因として経済対策の規模の違い(米国>日本)や潜在成長率の違い(米国>日本)もあるが、感染者数や死亡者数対比でみれば自発的な行動変容も含めた行動制限が過剰だった可能性もあるだろう。また、直接的な経済損失に加え、自殺者の増加、婚姻件数の激減など、対人接触を避けることによって生じる様々な弊害が表面化しつつある。
日本ではインフルエンザで毎年約1,000万人が感染し、約3,000人が亡くなっていた。それでも学級閉鎖や一時休校などを除いて特別な社会・経済活動の制限が行われなかったのは、一定程度の感染や死が社会的に許容されていたためと考えられる。感染症をゼロにすることは基本的に不可能であり、ワクチン接種の進展が対面型サービスの救世主になるとは限らない。新型コロナウイルスについて、日々の増減に一喜一憂するだけでなく、社会的にどこまで許容されるかを議論すべき時期が来ているように思われる。
3 正確にはインフルエンザの感染者数は推計受診者数、新型コロナウイルスの感染者数は陽性者数
4 「新型コロナウイルス感染症患者の急変及び死亡時の連絡について」https://www.mhlw.go.jp/content/000641629.pdf
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年04月09日「Weekly エコノミスト・レター」)
このレポートの関連カテゴリ
03-3512-1836
経歴
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
斎藤 太郎のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/01/17 | 可処分所得を下押しする家計負担の増加~インフレ下で求められるブラケットクリープへの対応~ | 斎藤 太郎 | Weekly エコノミスト・レター |
2025/01/09 | 「財源がない」は本当か-「103万円の壁」引き上げを巡って | 斎藤 太郎 | 基礎研マンスリー |
2025/01/09 | 2024~2026年度経済見通し | 斎藤 太郎 | 基礎研マンスリー |
2024/12/27 | 鉱工業生産24年11月-10-12月期は2四半期ぶりの増産となるが、持ち直しのペースは緩やか | 斎藤 太郎 | 経済・金融フラッシュ |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2025年01月21日
気候変動 保険活用への影響-保険の“3つのA”はどのような影響を受けるか? -
2025年01月21日
EUにおけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向2024-ソルベンシーIIの改正指令が最終化- -
2025年01月21日
「人生会議」とは何か?~アドバンス・ケア・プラニング(ACP)は、最期まで自分らしく生き抜くためのキーワードか~ -
2025年01月21日
ベトナム生命保険市場(2023年版) -
2025年01月21日
今週のレポート・コラムまとめ【1/14-1/20発行分】
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【取り残される対面型サービス業-新型コロナウイルスの感染者数、死亡者数とワクチンの効果をどうみるか】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
取り残される対面型サービス業-新型コロナウイルスの感染者数、死亡者数とワクチンの効果をどうみるかのレポート Topへ