2021年02月05日

今年変更される固定資産税はどうなるのか-公的評価の動向と、不服申立制度について

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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1. はじめに

1月26日、国税庁は、大阪市内の3区域の相続税路線価について「令和1年以降、7月から9月までの間に、(中略)路線価が時価を上回る(大幅な時価の下落)状況が確認されたため」、補正を行うことを公表した(図表1)。また、4月には大阪市内と名古屋市内の計7区域について、同様の補正可能性があることが示されている(図表2)。

路線価とは、路線(道路)に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額で、相続税や固定資産税などの税額算定のもととなる価格である。相続税路線価と固定資産税路線価があり、相続税路線価は1年ごとに、固定資産税路線価は3年ごとに見直しされる。一般的に路線価といえば、毎年公表される相続税路線価を指す。

しかし、企業や個人でも多くの人には相続税はあまり関係がなく、固定資産税のほうが気になるのではないだろうか。
図表1 令和2年7月~9月分の相続税等の補正が行われる区域と地価変動補正率/図表2 令和2年10~12月分の相続税等の補正可能性のある区域

2. 都道府県地価調査と地価LOOKレポートの動向

2. 都道府県地価調査と地価LOOKレポートの動向

2021年は、3年に一度の固定資産税路線価の評価替えの年度である。評価替え年度の翌年度および翌々年度は評価額が据え置かれるため、2018年以降の3年間の価格変動を反映した価格として求めることになるとともに、2022年と2023年の評価額は据え置かれる。

公的な不動産価格の調査は、同じ不動産鑑定士が同じエリアを担当することも多く、同じ町内や類似する用途の価格推移には、整合性が保たれる。これらの調査には、公的鑑定評価(地価公示、都道府県地価調査)と、路線価調査(相続税路線価、固定資産税路線価)があり、またこれとは別に、四半期ごとに各地域の動向をまとめた地価LOOKレポートがある。そこでまず、最新の動向を確認するために、9月に公表された都道府県地価調査(令和2年)と、11月に公表された地価ルックレポート(令和2年第3四半期)の内容を確認してみたい。
(1) 都道府県地価調査の動向
都道府県地価調査は毎年7月1日を基準日として各基準地の価格を鑑定評価し、9月下旬に公表されるが、各基準地の価格は、2010年以降、上昇を続けてきた1。しかし、2020年は全国の平均変動率は前年比▲0.6%と3年ぶりの下落、三大都市圏の商業地では+0.7%など、多くのエリアで前年比±1%程度の動向となっている(図表3,4)。

さらに、「前年比」とは前年の7月から当年の7月までの変動を示すが、1月の地価公示と連続した半年ごとの推移として見てみると、令和1年の7月から令和2年の1月(コロナ禍前)までの価格上昇を、令和2年の7月(コロナ禍後)までの価格下落で相殺し、その結果若干のプラス又はマイナスとなった地点が多い。つまり、直近の公的鑑定評価の価格は、多くの地点で下落傾向である。
図表3 都道府県地価調査 平均変動率の推移/図表4 都道府県地価調査の平均変動率
相続税路線価の補正及び補正可能性が公表された地域は、いずれもインバウンド需要やホテル需要の強い都市型の商業地域である。図表5は、2015年から2020年の都道府県地価調査の調査地点の単年変動率のランキングである。1位は北海道のニセコ麓の市街地(5、18位にもランクイン)で、2015年には1m2あたり2.6万円であったが、2020年には9.9万円と、約4倍になった。ほかにも沖縄(2,6,9,10,11,14,20位)、大阪(4,7位)、白馬(19位)など、価格上昇の大きな原因は、インバウンド需要を背景としている。

ただし、2020年はエリアによって明暗が分かれた。北海道のニセコ、沖縄県の宮古島、長野県の白馬などは、上昇率を縮めながらも、2020年もランキングに入った(図表5)。しかし、2019年に訪日客数が多かった東京都、大阪府、京都府などのエリア(図表6)は、2020年はランキングには入らなかった。原因には、前年比で訪日客数▲100%近い水準が続く需要低下が(図表7)、インバウンド訪日客の絶対数が多く、多売で売り上げを伸ばしてきた都市部のホテルにより強く影響していることがあるだろう。
図表5 都道府県地価調査の単年変動率ランキング(2015年~2020年)
図表6 訪日客の訪問率(都道府県別、2019年、複数回答)/図表7 訪日客数(前年比) 
(2) 地価LOOKレポートの動向
また、全国の100地区を対象に調査が行われる地価LOOKレポートのエリア別の価格変動では、2020年第1四半期から明らかに変調している。直近の第3四半期の調査では、全体的に上昇地点が無くなるとともに横ばいが増加し、用途別では、商業地(68エリア)は、0~3%の下落が31地区(商業地の46%)で最多であり、3~6%の下落も8地区(同12%)と、下落している地区が増加している(図表8,9)。ただし、下落の幅は、2019年までの上昇に比べれば、まだ緩やかとなっている。
図表8 地価LOOKレポートの騰落(商業地)/図表9 地価LOOKレポートの騰落(住宅地)

3. 固定資産税路線価と固定資産税はどうなるのか

3. 固定資産税路線価と固定資産税はどうなるのか

公的評価の価格は、全体的には下落傾向であり、特にインバウンド需要を当てにしていた都市型商業地の下落圧力は強い。このままいけば、相続税路線価については、大阪市内と名古屋市内の計7区域に対しても、4月に補正が行われる可能性が高いだろう。

では、固定資産税路線価に対しても、相続税路線価のように、2020年1月以降の動向を反映して地価変動補正率が適用されることはあるのだろうか。
(1) 固定資産税路線価
まず、2021年の固定資産税路線価は、2019年まで上昇してきたエリアのほとんどが「上昇」となると思われる。評価額は、「3年間の資産額の変動に対応して均衡のとれた適正な価格」として求めるが、前回調査のあった2018年から2019年の末までの2年分は、エリアによっては公的評価額が単年で7割も上がるような地域もあった。2020年は市況が変調したが、それまでの上昇に比べれば、まだ下落は緩やかで、2年間の上昇を相殺するには至らないであろう。

例として、2地点の公的鑑定評価および路線価の数値を整理してみたい。まず1地点目は「ニセコ麓の市街地(虻田郡倶知安町)」である。図表5のとおり近年では前年比価格変動率が最も大きかったエリアとなっている。固定資産税路線価も、もちろん上昇となるはずであるが、固定資産税路線価の上昇幅は2018年以降の動向を反映するため、2020年の都道府県地価調査(表では地価調査)の前年比上昇幅32%より大きくなると思われる(図表10)。

また、2地点目は「道頓堀戎橋の北側のたもと(大阪市中央区宗右衛門町)」である。図表1の地価変動調整率適用地点であり、同様に近年の価格上昇は大きかったが、コロナ禍の影響の最も大きなエリアの一つとなっている。2020年以降、価格は明らかに下落しているが、厳しく見積もって2021年の前年比価格変動率が▲45%(2020年の地価公示の前年比価格変動率45%を相殺と仮定)となったとしても、固定資産税路線価は前回比で+7%となる(図表11)。

つまり、固定資産税路線価は、今まで価格の上昇してきた多くの区域では2021年の前年比価格変動率よりも高く、直近の価格下落圧力が高くても、固定資産税路線価は上昇する可能性が高い。
図表10 公的鑑定評価と路線価の変動率(虻田郡倶知安町北1条西2丁目18)/図表11 公的鑑定評価と路線価の変動率(大阪市中央区宗右衛門町7-2)
(2)固定資産税の計算
固定資産税は、「課税標準額という土地や建物の価値に相当する額に税率をかけて求める」が、固定資産税路線価の変動がそのまま価格に反映されるわけではなく、前年の課税標準額を反映した、今年の課税標準額(評価額とは別の価格)に基づき算出される。

特に、地価変動の大きい都市部においては、課税標準額が前年に比べて大きく上昇しないように固定資産税額を調整する措置が設けられており、「本来の課税標準額」との差がなくなるまで、この措置は続けられる。例えば東京23区の場合、上昇幅は基本的に「前年の課税標準額+今年の『本来の課税標準額』×5%」以下に制限される。

また、過去の価格上昇幅が大きく、「本来の課税標準額」までの調整が終わっていなければ、本来の固定資産税より低い税額から上方への調整が続き、路線価が下がっても税額は下がらない。
(3)固定資産税額
以上のとおり、今回の評価替えでは「本来の課税標準額」が上昇する場合が多いうえに、税額の調整過程にあって、固定資産税額の上昇が継続となるケースが多いだろう。

また、相続税は国税で、固定資産税等は市町村税(東京都23区は都税)である。固定資産税が市町村民税に占める割合は大きい(図表12)ため、政治判断の余地は少なく、減免にあたる変動補正率や、税率の引き下げは行われにくいだろう。不動産業界では増税を見越している団体も多く、与党に対して税額の据え置き要望をあげている。それを反映してか、2021年度については、「負担調整措置等により税額が増加する土地について、前年度の税額に据え置く特別な措置を講ずる」こととなった。今年については一旦安心してよいだろう。

一方で、2022年以降の固定資産税ついては現状では未定であるが、昨年と同等以上の税額を払うことになる可能性を残している。多くの地域では、コロナ禍下の例外的な措置として固定資産税・都市計画税への減免(中小企業・小規模事業者)や1年間支払いを猶予する措置が既にとられていることから、減額などの措置などは難しいのではないかと思われる。
図表12 固定資産税と市民税が自治体の歳入に占める割合

4. 固定資産税の増税に納得できない場合は

4. 固定資産税の増税に納得できない場合は

増税に納得できない場合は、固定資産税に不服を申し立てる制度である(1)審査請求、(2)訴訟の検討をすることになろう。

それぞれの手続きには期限がある点には注意が必要である。(1)審査請求については、納税通知書を受け取った日の翌日から起算して3カ月以内に、課税者である市町村(東京23区の場合は東京都)に設けられた審査委員会に対して、書面を提出する必要がある。また次の段階の(2)訴訟については、(1)の審査委員会の決定の通知の翌日から6カ月以内に提訴する必要がある(図表13)。

この制度により、「市町村税に対する不服申し立て請求が認みとめられる割合」は明らかではないが、2019年の国税に対する不服審判についての数値はある程度参考になるだろう。(1)審査請求等に対する認容割合はそれぞれ13%程度、(2)訴訟については請求の一部または全部が認められた割合が9.7%で、あわせて20%程度は不服の申し立て等が認容されている。制度の利用は時間と手間のかかる作業である上に、認容率は低く、よほどの不満でなければ、申し立てしない人のほうが多いのではないだろうか。

なお、同一区域内の課税標準額を確認できる、台帳の縦覧制度(期間は4月1日から数か月、市町村により異なる)は、活用するとよいように思う。
図表13 固定資産税の請求と審査・訴訟の流れ(東京都の場合)

5. おわりに

5. おわりに

2021年は、3年に一度の「固定資産税路線価の評価替え」の年である。2019年までの価格上昇エリアの上昇率は高く、一方でコロナ後の土地価格の下落率はまだ緩やかであるため、3年間を通すと、「上昇」となるエリアが多いだろう。

しかし、固定資産税には、相続税のように地価変動補正率が適用されたり、追加の固定資産税の減免措置がとられたりすることはないと思われる。これまで価格が上昇してきた地点の多くは課税標準額の調整がまだ終わっていない地点が多いと推定され、個人や多くの大企業は昨年と同等以上の固定資産額を払うことになるだろう。また、不服申立制度もあるが、その認容率は決して高くはない。

固定資産税の増額は、不動産の収益性をさらに低下させる要因となる。増税額が大きい不動産は市場の評価も低くなり、投資効率の良い不動産とそうでない不動産の選別がさらに進むことになるのではないだろうか。
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年~ 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2021年02月05日「不動産投資レポート」)

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