2020年12月10日

米国経済の見通し-ソーシャルディスタンシングの解消や追加経済対策により、21年の成長率は堅調な伸びを予想

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(住宅投資)好調な住宅市場は21年に息切れする見込み
GDPにおける住宅投資は、新型コロナの影響で20年4-6月期に前期比年率▲35.6%の大幅な落ち込みとなったものの、7-9月期は6割超の大幅な伸びとなったため、住宅投資は既に新型コロナ流行前(19年10-12月期)の水準を上回って回復した。

また、住宅着工(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は10月が年率+75.5%となったほか、先行指数である許可件数(同)も+77.1と非常に高い伸びとなっており、住宅投資は10-12月期も引き続き高成長が持続する可能性が高い(図表12)。

住宅市場が急回復している要因としては、春先に落ち込んだ反動に加え、住宅ローン金利が史上最低水準に低下していることが挙げられる。もっとも、好調な住宅市場を背景に住宅価格が上昇しており、中古住宅を取得する際の住宅ローン返済額と所得を比べた住宅取得能力指数は20年9月が159.6と前回ボトム(18年6月)の137.9を上回っているものの、20年4月の171.7から低下しており、所得対比でみた中古住宅の取得能力は低下している(図表13)。これは、住宅ローン金利低下の恩恵より住宅価格上昇によって返済額が増加したことによるものだ。

今後、住宅ローン金利は緩やかに上昇に転じる可能性が高い中、住宅取得能力の一層の低下が見込まれるほか、販売住宅在庫の不足もあり、21年以降も足元の好調な住宅市場が持続する可能性は低い。このため、21年前半は一時的に住宅投資の伸びがマイナスに転じる局面を予想する。
(図表12)住宅着工件数と実質住宅投資の伸び率/(図表13)住宅取得能力指数
(政府支出、債務残高)ねじれ議会でバイデン次期大統領が目指す政策の実現は困難
20年10月からスタートした21年度予算は、12月11日を期限とする暫定予算で凌ぐ状況が続いており、与野党は早急に新たな歳出法案で合意する必要がある。マコネル院内総務は、予算審議と並行して追加経済対策を成立させたい意向を示しているが、暫定予算の期限切れまで十分な審議時間が残されていないため、期間1週間程度の暫定予算の準備も進めている。
(図表14)超党派提案による追加経済対策の概要 一方、12月1日に超党派で提案された予算規模9,080億ドルの追加経済対策案には、8月8日で期限切れとなった給与保護プログラム(PPP)を復活させるほか、7月末で期限切れとなった失業保険の追加給付について春先の経済対策で実施した週当たり600ドルから300ドルに減額する形で復活させること、州・地方政府に対する支援などが盛り込まれた(図表14)。もっとも、今回の経済対策案には家計に対する直接給付の第2段は盛り込まれなかった。

なお、追加経済対策案の予算規模は9,080億ドルとなっているもの、このうち、春先に決定した経済対策のうち、PPPなどの未実行予算など5,600億ドル分を活用するとしており、財源として新たに予算手当する金額は3,480億ドルに留まる。

年内の審議日数は少なくなってきているものの、ペロシ議長とマコネル院内総務が超党派の追加経済対策に好意的な反応を示していることから、年内に追加経済対策案で合意する可能性が高い。

一方、来年以降の財政運営も最優先課題は新型コロナ対応と追加経済対策とみられる。バイデン次期大統領は選挙期間中に直接給付の第2段を含む総額3兆ドル規模となる追加経済対策の実現を表明しており、議会に対して引き続き追加の経済対策を求めよう。
また、バイデン次期大統領は選挙期間中に政策公約として“Build Back Better”(より良い復興)をスローガンに主要な政策アジェンダを公表している。主要な政策は、企業や富裕層向けの増税、社会保障の充実、環境・インフラ投資などだ(図表15)。

このうち、増税策では所得40万ドル以上の個人に対して税率をトランプ大統領が実施した減税前の水準に戻すほか、企業に対しては法人税率を21%から28%へ引き上げることなどが柱になっている。米シンクタンクの「責任ある財政委員会」(CRFB)はバイデン次期大統領の政策公約に基づき今後10年間の財政コストを試算した。同試算によれば、増税により歳入が4.3兆ドル増加する一方、社会保障の充実に1.2兆ドル弱、環境インフラ投資などに4.5兆ドル弱支出することで、歳出全体で9.6兆ドルが見込まれている。この結果、利払い費も含めた財政赤字は5.6兆ドルとみられており、バイデン次期大統領は拡張的な財政政策を指向していることが分かる。

もっとも、ねじれ議会になる場合にはバイデン次期大統領が目指す大規模な追加経済対策や拡張的な財政政策は財政赤字の拡大に懸念を強める上院共和党の反対により実現する可能性は低い。このため、バイデン次期大統領は財政政策の軌道修正を迫られよう。
(図表15)主要政策アジェンダ
(貿易)堅調な輸入拡大を背景に成長率のマイナス寄与は継続
実質GDPにおける外需の成長率寄与度は20年7-9月期に3期ぶりのマイナス寄与となったが、輸出入の内訳をみると輸出が前期比年率+60.5%(前期:▲64.4%)となった一方、輸入が+93.1%(前期:▲54.1%)と輸入の伸びが輸出の伸びを大幅に上回ったことが大きい。

また、財・サービスの内訳では財輸出が+104.6%、財輸入が+110.0%となる一方、サービス輸出が+0.8%、サービス輸入が+25.9%と財に比べてサービスの伸びが緩やかに留まっている。とくに、サービス輸出のうち旅行は▲49.0%と依然として大幅なマイナスが持続している。
(図表16)貿易収支(財・サービス) 先日発表された10月の貿易収支(3ヵ月移動平均)は季節調整済で▲634億ドル(前月:▲628億ドル)の赤字となり、前月から赤字幅が6億ドル拡大した(図表16)。これは、輸出が40億ドル増加した一方、輸入の増加幅が46億ドルと輸出を上回ったためだ。このため、10月以降も引き続き外需の成長率寄与度はマイナスとなっているとみられる。

また、米国経済が新型コロナワクチンの効果などもあって順調に回復する一方、相対的に海外経済の立ち直りが緩やかに留まると見込まれることから、来年以降も外需の成長率寄与度はマイナスの状況が継続するとみられる。

一方、来年以降の外需はバイデン次期大統領の通商政策の影響を受ける。バイデン氏は通商交渉手段として関税を用いないことを明言しており、トランプ大統領が大統領権限で賦課した関税については解消される方向に舵を切るとみられる。もっとも、対中政策ではトランプ大統領と同様強硬姿勢を維持するとみられるほか、最近の発言では当面対中関税を維持することを示唆しており、短期的に対中関税が撤廃される可能性は低い。

また、米国が将来的にCPTPPに復帰する可能性はあるものの、お膝元の民主党議員や世論の反発が予想されるため、短期的な復帰は困難だろう。
 

3.物価・金融政策・長期金利の動向

3.物価・金融政策・長期金利の動向

(物価)消費者物価(前年比)の上昇は緩やか
消費者物価の総合指数(前年同月比)は、新型コロナの影響で20年5月に+0.1%まで低下した後、9月は+1.4%と4ヵ月連続で上昇したが、10月は+1.2%と回復が足踏みとなった(図表17)。10月の中身をみると、食料品価格が+3.9%と前月から横ばいとなった一方、エネルギー価格は▲9.2%と前月の▲7.7%からマイナス幅が拡大して物価を押し下げた。
(図表17)消費者物価指数(前年同月比)と原油価格 一方、物価の基調を示す食料品とエネルギー価格を除くコア指数は10月が+1.6%と、こちらも前月の+1.7%から低下した。また、新型コロナ流行前の20年2月(+2.4%)を大幅に下回っており、物価上昇圧力は限定的である。

労働市場の回復基調が持続しているため、コア指数は上昇が見込まれるものの、労働市場の回復ペースは緩やかに留まっていることから、コア指数が新型コロナ流行前の水準に回復するのは数年先となろう。

当研究所はコア指数が緩やかに上昇するほか、原油価格が足元の40ドル台半ばから21年末に48ドル、22年末に50ドルと緩やかに上昇し、前年同月比で物価を押し上げると予想している。このため、消費者物価の総合指数は20年に前年比+1.2%となった後、21年、22年ともに同+1.9%に上昇すると予想する。
(金融政策)現行の金融緩和政策を継続
FRBは、新型コロナによる米国経済、資本市場への影響を軽減すべく、20年3月以降、実質ゼロ金利政策、量的緩和政策、資金供給ファシリティ―の創設など、実行可能な政策を総動員して危機対応を行っている。次回(12月15日~16日)のFOMC会合では量的緩和政策に関するガイダンスが強化される可能性はあるものの、金融政策における追加緩和余地は乏しくなっている。
(図表18)政策金利およびPCE価格指数 一方、FRBは政策金利引き上げの条件として、インフレ率が持続的に物価目標の2%を下回っている場合には、暫くの間2%超の水準を許容する方針を示している。足元ではFRBが物価指標としているPCE価格指数が前年同月比+1.2%と物価目標を大幅に下回っているほか、FOMC参加者の9月時点の物価見通しでは23年末に漸く目標水準に到達することが示されている(図表18)。このため、実質ゼロ金利政策が解除される時期は早くても24年以降となる見通しである。

また、金融危機後の金融政策の正常化プロセスでは、15年12月の政策金利の引き上げに先立ち、13年12月から量的緩和の買い入れペースの縮小を開始し、14年10月に量的緩和政策を終了している。このため、前回FRBは量的緩和政策を終了して1年程度経過してから政策金利を引き上げていたことが分かる。このため、今般の量的緩和政策の終了時期は、政策金利の引き上げ時期が24年以降となることを踏まえると、予測期間の22年内は量的緩和政策を継続している可能性が高い。

一方、金融市場の流動性支援策として創設した資金供給ファシリティ―については、足元で金融市場が安定しているため活用が低位に留まっている。同ファシリティ―では連邦準備法13条3項に基づき、FRBが特別目的事業体(SPV)を設立し、社債や地方債などを買い入れるが、買い入れで発生する損失は財務省の為替安定化基金から拠出された担保金で賄われる仕組みとなっている。また、同ファシリティ―は12月末が期限の時限措置として設定されており、財務省のムニューシン長官は給与保護プログラムの流動性支援策(PPPLF)を除いて期限延長を行わず、未使用の基金については財務省に返還することを要求している。

もっとも、FRBは将来の金融市場の流動性低下に備えて同ファシリティ―の期限延長を求めているほか、バイデン次期大統領に財務長官として指名されているイエレン前FRB議長は期限延長に合意するとみられるため、これらの期限は延長されるとみられる。しかしながら、前述の超党派による追加経済対策の財源には、FRBからの未使用の為替安定化基金の返還分も含まれていることから、追加経済対策が実現した場合にはFRBは同ファシリティ―のための新たな財源の確保が求めれる。
(図表19)米国金利見通し (長期金利)21年末1.1%、22年末1.2%を予想
長期金利(10年国債金利)は、20年4月以降は10月まで概ね0.6~0.7%の狭いレンジでの推移となっていたが、その後は0.9%台にレンジが切り上がっている(図表19)。

当研究所は、米財政赤字の拡大に伴う米国債の供給増加もあって、長期金利は上昇を予想する。もっとも、ねじれ議会により大幅な財政拡張政策が実現する可能性が低下しているほか、実質ゼロ金利政策や量的緩和政策の継続により、長期金利の上昇幅は緩やかに留まり、21年末に1.1%、22末に1.2%を予想する。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年12月10日「Weekly エコノミスト・レター」)

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