2020年08月19日

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3-2. スタートアップ企業の成長
総務省統計局「経済センサス」をもとに算出した「開業率3」によると、2014年から2016年の福岡市の開業率(年平均)は7.4%となり、全国主要都市の中で最も高い(図表-15)。過去を遡っても、2012年から2014年が10.3%(第1位)、2009年から2012年が2.9%(仙台市に次いで第2位)と、常に上位に位置している。
図表-15 全国主要都市の開業率
福岡市の高い開業率の背景には、(1)オフィス賃料等のビジネスコストが首都圏に比べて廉価であること、(2)空港からの市内へのアクセスなどの交通利便性が高いこと、(3)他の主要都市を比べて人口増加率が高く平均年齢が若いこと等が挙げられる4が、自治体の積極的な支援施策も起業を後押ししている。

福岡市は、2014年5月に国家戦略特区「福岡市グローバル創業・雇用創出特区」に指定され、この特区制度を生かし、「スタートアップビザ5」の導入や「スタートアップ法人減税6」、「スタートアップ賃料補助7」、「スタートアップ支援拠点8」の開設などを行ってきた。また、2020年7月にはスタートアップ支援の「グローバル拠点都市」に選定された。国内だけなく海外に対しても起業人材を誘致するなど、他の主要都市に先んじた起業支援策を講じてきた。

上記の起業支援に後押しされ、多くのスタートアップ企業が福岡市で起業し、オフィス需要の一翼を担っている(図表-16)。
図表-16 福岡発スタートアップ企業の拠点所在地と入居ビル
しかし、コロナウィルスの感染拡大後、スタートアップ企業の企業業績も急速に悪化している。一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンターによれば、2019年の国内ベンチャー投資額は2164億円(前年比+59%)となり、調査開始(2013年)以来の最高額に達した。しかし、2020年第1四半期の国内向けベンチャー投資金額は387.4億円となり、前期比で▲173.5億円となった(図表-17)。

デロイトトーマツベンチャーサポート「COVID-19(新型コロナウィルス)のスタートアップ企業への影響」によれば、「新型コロナウィルスが事業へ与える影響」に関して、約8割のスタートアップ企業がマイナスの影響があると回答した。「事業に影響を与える期間」について、半数以上のスタートアップ企業が6ヶ月以上と回答した(図表-18)。また、同調査では、「従業員の雇用整理の取組状況」について、約2割のスタートアップ企業が従業員の削減に着手していると回答している。

コロナウィルスの感染拡大を受けて、スタートアップの企業業績は悪化しており、業績回復には時間を要すると考えられる。また、一定数のスタートアップは雇用整理に既に着手している。以上のことを鑑みると、スタートアップ企業が福岡のオフィス需要を牽引することは当面難しく、今後、オフィス需要が鈍化していく可能性が高い。
図表-17 国内ベンチャーへの投資額/図表-18 新型コロナウィルスのスタートアップ企業への影響
 
3 ある特定の期間において、「新規に開設された事業所数(年平均)」を「期首において既に存在していた事業所数」で除した値。
4 野村敦子「スタートアップの集積拠点を目指す福岡市の取り組み」日本総研 Research Focus 2018年7月19日
5 外国人が国家戦略特別区域で起業活動を行う場合、起業に必要とされる「経営・管理」の在留資格の認定要件を緩和。
6 一定の要件を満たした国家戦略特区内のスタートアップ企業に対して、最大5年間、法人所得の20%を控除する処置。
7 外国人が福岡市内で創業するときの住居および事業所の賃料の一部を補助。
8 2017年4月に、福岡市中央区の旧大名小学校跡地に、官民共働型スタートアップ支援施設「「Fukuoka Growth Next」を開設。
 

4. 福岡中心部で進む再開発

4. 福岡中心部で進む再開発

日本不動産研究所「全国オフィスビル調査(2019 年1 月時点)」によれば、福岡市は、新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルの割合が39%と、主要都市の中で最も高い(図表-19)。福岡中心部では築年数が40年以上経過したオフィスビルが目立っており、これらの建て替えを促す目的で、天神地区では「天神ビックバン」プロジェクト、博多駅前では「博多コネティッドボーナス」が進行中である。
図表-19 新耐震基準以前(1981 年以前)に竣工したオフィスビルが占める割合
4-1. 「天神ビックバン」プロジェクト
天神地区9では、容積率や航空法の高さ制限の緩和等により再開発を誘導する「天神ビックバン」プロジェクトが2015年よりスタートしている(図表-20)。このプロジェクトでは、2024年までの10年で30棟の建替えを誘導し、延床面積を約44.4万m2から75.7万m2に拡大、雇用数を約4万人から9.7万人に増加させるという数値目標を掲げている。2021年9月には、「天神ビックバン」プロジェクトの第1号案件となる「天神ビジネスセンター」(延床面積:約6.1万m2)が竣工予定である。

2022年以降も、「天神ビックバン」の優遇施策を活用した再開発が複数予定されている。旧大名小学校跡地では、積水ハウスや西日本鉄道を中心とする企業グループが25階建て(高さ111メートル)の複合ビル(ホテル「リッツ・カールトン」・オフィス棟等)を開発し、2022年末に開業予定である10

西日本鉄道とイオンは、「福岡ビル」、と「天神コアビル」、「天神第一名店ビル」の3棟を9 階建ての複合ビル(延床面積:約13.8万m2、オフィス:約4.6万m2)に一体開発し、2024年に開業予定である11。福岡地所も、「メディアモール天神(MMT)」を、隣接する複数のビルと併せて19階建て(高さ約90m)の複合ビルに建て替えを行い、2024年末の開業予定である12

また、明治通りと天神西通りが交わる交差点に立つ「天神西通りビジネスセンター」(延床面積:約1万m2)と「住友生命福岡ビル」(延床面積:約1.1万m2)は、2024年末までの完成を目指し、一体的な再開発を行う予定である13
図表-20 「天神ビックバン」対象エリア/※ 「天神ビックバン」の主なプロジェクト
 
9 天神交差点から半径約500mのエリア
10 西日本新聞 「「リッツ・カールトン」建設スタート 福岡市・大名小跡地で複合ビル起工式」(2019年7月25日)
11 西日本鉄道・イオン「「福ビル街区建替プロジェクト」街区全体の同時開発決定」」(2019年11月28日)
12 西日本新聞 「福岡市・天神、新たに19階建てビル “名物ビル”も…再開発で建て替え続々」(2019年12月2日)
13 西日本新聞 「天神西に新複合ビル 福岡地所など2棟一体整備 24年末までに 「ビッグバン」加速」(2020年1月21日)
4-2. 「博多コネティッドボーナス」
博多駅周辺の再開発に関して、福岡市は2019年5月にビルの建替えを促す優遇処置制度「博多コネティッドボーナス14」の概要を公表した。この制度の対象となるエリアは博多駅を中心とする半径500mの範囲で、10年間で20棟の建替えと目指すとしている(図表-21)。この建替えにより、延床面積が約34.1万m2から約49.8万m2に拡大、雇用数は約3.2万人から約5.1万人に増加するとの経済波及効果を試算している。

博多駅東一丁目敷地(旧博多スターレーン跡地)では、NTT都市開発が「博多コネティッドボーナス」を活用した開発を計画しており、オフィスを含む複合施設が2022年に竣工予定である。

西日本シティ銀行は福岡地所と共同で、「博多コネクティッド」を活用した保有ビル(本店本館ビル・本店別館ビル・事務本部ビル)の連鎖的な建て替えを行い、2025年の完成を目指す。延床面積は現行の約2.6万m2から2倍以上に拡大する見込みで、一部をテナントに貸し出すとしている15

JR九州、福岡地所、麻生の3社で構成する企業グループは、「福岡東総合庁舎敷地」を活用して、11階建てのオフィスビル(延床面積:約1.9万m2)を建設し、2024年に開業予定である16。また、JR九州は2019年3月に発表した中期経営計画において「博多駅空中都市構想」を発表し、博多駅南側の在来線路上に、12階建ての複合ビルの建設を計画しており、2028年までの完成を目指すとしている17

このように、福岡市では、「天神ビックバン」プロジェクトや「博多コネティッドボーナス」を背景に、多くの大規模開発計画が立ち上がっている。目標通りに開発が進めば、オフィスビルの総ストック(延床面積)は、天神地区では約1.7倍、博多駅前地区では約1.5倍に拡大する見込みである。
図表-21 「博多コネクティッド」対象エリア
 
14 つながり・広がりが生まれる広場の創出など、賑わいの拡大に寄与したビルの容積率を最大で50%拡大する等の優遇処置。
15 西日本新聞「西シ銀新本店 25年完成 正式発表 「博多再開発の象徴に」」(2019年12月20日)
16 日刊産業新聞 「博多駅東の総合庁舎敷地/オフィスビル建設へ/JR九州など24年めど」(2019年9月3日)
17 朝日新聞「博多駅南に複合ビル 在来線上に12階建て JR九州 【西部】」(2020年3月10日)
 

5. 福岡オフィス市場の見通し

5. 福岡オフィス市場の見通し

5-1. オフィスビルの新規供給見通し
福岡におけるオフィスの新規供給面積は2010年以降、年間10,000坪を上回ることはなく、低水準の新規供給が続いている。2019年の新規供給面積は約5,600坪となり、前年(約7,300坪)から減少した(図表-22)。総ストックに占める過去10年間の新規供給面積の割合は4.9%となり、主要都市の中でも最も低い水準である(図表-23)。

しかし、2021年以降には、「天神ビックバン」プロジェクトの第1号案件となる「天神ビジネスセンター」(2021年)、旧大名小学校跡地(2022年)での開発等、大規模ビルの開発が予定されている。また、博多駅前地区でも、博多駅東一丁目敷地(2022年)等で「博多コネティッドボーナス」を活用した開発が計画されている。
図表-22 福岡オフィスビル新規供給見通し/図表-23 主要都市の新規供給動向(2019年ストック対比)
上記の大規模開発に伴い、2021年と2022年の新規供給面積は、年間10,000坪を超えると見込まれる。今後3年間(2020年~2022年)の総ストックに対する供給の割合は5.4%と、主要都市の中で最も高水準になる見通しである(図表-24)。
図表-24 今後3 年間の新規供給予定(2019 年ストック対比)
5-2. 賃料見通し
福岡市の成約賃料は堅調な需給環境を反映し、上昇基調で推移している。2019年の成約賃料は、前年比+1.3%となり、過去最高水準を更新した(図表-25)。

しかし、今後については、福岡市は主要都市の中で最も高水準の新規供給が予定されていることから、空室率の上昇が見込まれる。福岡のオフィス賃料は、現時点の高い水準から更に上昇する可能性は低く、弱含みで推移すると予想する。

加えて、新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受けて、企業の業績は急速に悪化している。また、オフィス需要を牽引することを期待されたスタートアップ企業も業績が悪化しており、今後、順調に業績を伸ばすことは困難な状況にある。コロナウィルスの感染拡大が及ぼす影響を考慮18した福岡の成約賃料は、従来の予測を下方修正し、2019 年の賃料を100 とした場合、2024年は90へ下落すると予測する。

福岡市では、「天神ビックバン」プロジェクトや「博多コネティッドボーナス」を背景に、多くの大規模開発計画が立ち上がっている。計画通りに開発が進めば、オフィスビルの総ストック(延床面積)は、天神地区では約1.7倍、博多駅前地区では約1.5倍まで拡大する予定であり、その開発の進捗次第ではオフィス需給が更に緩和する懸念がある。長期的に福岡オフィス市場を見通す上で、コロナウィルス感染症による企業業績の悪化に対する経済対策や企業支援等の状況と実際の企業業績動向ともに、福岡市中心部の再開発進捗動向にも注視する必要がある。
図表-25 福岡のオフィス成約賃料見通し
 
18 斎藤太郎「2020・2021 年度経済見通し-20 年1-3 月期GDP2 次速報後改定」(2020.6.8)Weeklyエコノミストレター、ニッセイ基礎研究所などを基に経済見通しを設定。
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

(2020年08月19日「不動産投資レポート」)

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【「福岡オフィス市場」の現況と見通し(2020年)~新型コロナウィルスの感染拡大を踏まえた市場見通し】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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