2020年07月13日

超高齢社会の移動手段と課題~「交通空白」視点より「モビリティ」視点で交通体系の再検証を~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任   坊 美生子

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0――はじめに

高齢ドライバーによる重大交通事故が後を絶たない。2019年4月に東京・池袋で80歳代のドライバーが運転する自動車で母子が死亡した事故は社会に衝撃を与え、同年、75歳以上で運転免許を自主返納した人は過去最大の35万428人に上った1。しかし、75歳以上の運転免許保有者約583万人に占める割合はわずかだ2。2022年には、第一次ベビーブームで生まれた「団塊の世代」(1947~1949年生まれ)が75歳以上となっていくことから、これまで以上に75歳以上ドライバーが増え、重大交通事故も増加することが懸念される。

しかし、そもそも高齢者にとっては、マイカーの代替手段がないため、不安があっても仕方なく運転を続けているケースも多い。モータリゼーションの普及や人口減少によって、地方を中心に、バスは路線廃止が相次いできた。高齢者の単身世帯や夫婦のみ世帯が増え、送迎を頼める子供が身近にいないという人も多い。その状況で運転をやめると、次の日から外出が極端に難しくなる。外出頻度が減り、社会参加の機会が減ると、身体や脳の機能が衰え、要介護リスクや認知症リスクが高まることはよく知られている。

高齢者の移動手段には、現状で、マイカー以外にどのようなものがあるのだろか。本稿ではまず、現在運行されている交通モードの種類と特徴、課題を整理したい。次に、高齢者特有の歩行能力の低下について説明し、高齢者にとって、それらの交通モードが利用しやすいかどうかについて、改めて検証したい。そして今後、交通体系をどのように発展させていく必要があるのかを検討したい。
 
1 警察庁ホームページより。
2 警察庁「運転免許統計 令和元年版」より。
 

1――各種交通モードと課題

1――各種交通モードと課題

1事業用自動車(緑ナンバー)を用いた交通モード 
まずは、現状でマイカー以外にどのような移動手段があるのかを説明したい。移動手段を大別すると、電動車椅子や電動カート、杖などの歩行補助具を用いて自ら走行したり歩いたりする「自走・歩行パターン」と、他人が運転・運行する車両に乗せてもらう「輸送パターン」の2種類がある。「輸送パターン」には、飛行機や新幹線などの長距離輸送と、バスやタクシーなどの近距離輸送があるが、本稿は高齢者の日常生活を考察対象とするため、近距離輸送の交通モードに特定して分析したい。なお、「自走・歩行パターン」については、高齢者の健康維持の観点から重要なテーマなので、別の機会に論じることとしたい。

近距離輸送の交通モードを整理したのが、4ぺージの図表1である。始めに、車両に緑色のナンバープレートをつけたプロの交通モード(a)~(h)から説明したい。

まず、軌道を用いるものとして(a)LRT(Light Rail Transit=次世代型路面電車システム)がある。LRT車両は、低床式車両で高齢者にも乗降しやすく、環境負荷が少ない。地域にある既存の電車や路線バス等と連携させて交通ネットワークを形成するものとして、国が普及促進している。富山市で「コンパクトなまちづくり」の軸として2006年に開業した「富山ライトレール」は、同市が旧JR西日本富山港線の線路敷を利用して整備したものである3。LRTを導入するハードルとしては、大規模な公的補助が必要となること、軌道を新設するには自動車の乗り入れ規制を伴うため、市民の合意形成が必要なこと等がある。

(b)BRT(Bus Rapid Transit=バス高速輸送システム)は、バス車両を2台連節して一度に乗客を大量輸送したり、専用レーンを整備して遅滞を防いだりする新しい形のバス輸送である。鉄道よりも導入コストを抑えられる他、再開発やインバウンドによる乗客増加や、ドライバー不足に対応する手段としても期待されている。東京都が、新たな交通結節点に見込む虎ノ門と、人口急増中の臨海部を短時間で結ぶ手段として導入を決めたことでも話題となった4。東日本大震災で被害を受けたJR東日本気仙沼線で、線路敷を専用道路として整備、運行するなど、被災地における都市間輸送の鉄道の代替手段としても導入されている。ただし、専用レーンを新たに整備することはハードルが高く、車両購入費も高いことなどから、国内では2016年4月時点の導入実績は17か所のみである5

(c)路線バスは、全国で公共交通の中核を成してきたが、モータリゼーションの進展や人口減少などから、地方圏を中心に輸送人員が減少してきた。2002年の規制緩和の影響も受けて、路線廃止が相次いできた。国土交通省によると、全国の路線バス事業者の約7割が、事業収支が赤字となっている(2017年度)6。2017年度までの10年間に廃止されたのは総延長13,249kmで、全国のバス路線の3%を超えている7。ドライバーの高齢化や人手不足も大きな問題となっている。しかし、高齢者らにとっては依然代表的な移動手段であることから、各地域の実情に応じて、運行ダイヤの見直しや車両小型化等による費用縮減などを進めて収益性を向上させ、路線を存続することが求められている。

(d)タクシーは、ドアツードアで自宅から目的地まで送迎してくれるため、足腰の悪い高齢者には体の負担が小さい。しかし、鉄道やバスに比べて運賃が割高であり、日常的に利用できる層は限定される。輸送人員は、2006年度から3割以上落ち込んだ8。地方では、タクシー事業者が撤退したエリアもある。ドライバーの高齢化も進んでおり、平均年齢は59.9歳と、全職業平均42.5歳に比べて17歳も高い9。近年は、ICTの活用によって、異業種による新しいタクシー関連サービスへの参入が著しい。欧米では、UberやLyftなど、ドライバーと利用者をスマートフォンのアプリでマッチングするライドシェアが普及し、国内でも導入を主張する声があるが10、現状では道路運送法で認められていない。しかし、タクシーの利便性向上は大きな課題とされており、国土交通省は2018年度から相乗りタクシーや定額タクシー等の実証実験を盛んに行っている。

(e)コミュニティバスや(f)乗り合いタクシーは、過疎地等の路線バスが撤退したエリアや、交通手段がないエリアなどで自治体が主体となって運営するものである。ダイヤや経路などの決定は自治体が行い、実際の運行管理はバス事業者やタクシー事業者に委託しているケースが多い。縮小した公共交通を補完する手段として、全国で導入事例が増加している。コミュニティバスは、路線バスの走行が難しい狭隘な道路を走行することも多いため、小型バスを用いるケースが多い。しかし、もともと民間事業者にとって採算が合わないエリアを運行することから、事業収支は厳しく、自治体による補助金投入が必要である。また、路線を設定する際に既存の路線バスと経路が重なると、路線バス事業者の経営を圧迫し、結果的に撤退させる場合もある。

なお、乗合タクシーには、複数の乗客の予約に応じて、その都度経路や時刻を決定する「デマンド型」もある。需要が小さい地域で路線バスやコミュニティバスを運行すると一人当たりの輸送効率が悪く、空気だけを乗せて走る「空気バス」もあちこちに発生したため、需要に合わせて運行しようというものである。集落が分散している過疎地等で活用しやすい。逆に、需要が大きい地域で導入すると到着時間が遅れたり、運行費が膨張して自治体の財政を圧迫したりする。

次に、公共交通の供給量が少ない過疎地等において、目的の異なる輸送資源を有効活用しようというのが、(g)スクールバスや企業バス等の自主運行バスに住民が混乗するパターンである。これは、児童生徒や企業の従業員など、特定のグループを輸送していたバスを、後述する「自家用有償旅客運送」として登録することによって、一般住民も利用できるように変更するものである。ただし、混乗する住民が増えたり、住民の乗降ニーズに応じて運行経路を変更したりすると、従来からの目的地である学校や企業等の到着時間が遅れることになる。実施には、路線の工夫や、学校や児童生徒の保護者、企業関係者らの理解が必要である。また、自主運行バスが運行されていない時間に、空いている車両を活用して一般の住民を輸送したり、自主路線バスと既存の路線バス等を統合したりする方法もある。

ここまでは従来通りの旅客の分類であるが、貨物運送事業者のトラックやワゴン車等が、貨物と一緒に人を輸送しようというのが(h)「貨客混載」を利用した旅客運送である。
図表1 主な交通モードの種類と課題
交通行政においては原則、人を運ぶ旅客とモノを運ぶ貨物は制度が分かれており、従来はトラックで人を運ぶことはできなかった。しかし、輸送手段の確保や貨物運送の効率化のため、2017年9月から、過疎地に限って認められた。導入のハードルになるのは、ドライバーには新たに第2種免許を取得することが義務付けられ、事業者は、従来から配置している貨物の運行管理者に加えて、旅客の運行管理者を選任する必要があることである。また、これまで荷物を運んでいたワゴン車などには人を乗せる座席スペースが少ないという点もある。高齢者の移動手段の一つと位置付けられるようにするには、事業者側に参入メリットを持たせられるかが課題だろう。国土交通省自動車局への取材によると、2020年6月現在、国内でこの規制緩和を利用してトラックが人を運んでいる事例は把握していないという。
 
3 2020年3月に富山ライトレールは富山地方鉄道に合併された。
4 2020年春に試験運行を開始予定だったが、新型コロナの影響で延期された。
5 国土交通省 「地域公共交通の活性化及び再生の将来像を考える懇談会」(2016年6月15日)第1回資料より。
6 国土交通省交通政策審議会交通体系分科会第41回計画部会(2019年11月21日)資料より。
7 同上。
8 内閣府規制改革推進会議投資等ワーキング・グループ第7回(2020年2月28日)資料より。
9 同上
10 新経済連盟シェアリングエコノミー推進PT「ライドシェア実現に向けて」(2016年11月30日)など。
2自家用車(白ナンバー)を用いた交通モード(有償)
次に、白ナンバーの自家用車両を用いた交通モード(図表1(i)~(m))について説明したい。道路運送法では、自家用車を用いて、他人を有償で運送されることは禁止されている。その例外として認められているのが「自家用有償旅客運送制度」である。

自家用有償旅客運送には、市町村が主体となって行うものと、地域のNPO法人や社会福祉法人等が主体となって行うものがある。

市町村が主体となるものの中には、バスやタクシーなどの公共交通が不足した「交通空白地」において住民等の輸送を行う(i)「市町村運営有償運送(交通空白)」と、身体障害者等、公共交通を利用できない人たちを輸送する(j)「市町村運営有償運送(福祉)」がある。これらを導入するためには、首長と地元のバス事業者やタクシー事業者らで構成する「地域公共交通会議」で合意を得る必要がある。NPO法人等が主体として行うものの中には、同様に、交通空白地において住民等を運送する(k)「公共交通空白地有償運送」と、身体障害者らを運送する(l)「福祉有償運送」がある。この場合も、地元の首長やバス事業者、タクシー事業者らで構成する「運営協議会」で合意を得る必要がある。

乗客の安全確保のため、(i)~(l)のいずれのパターンでも、ドライバーは第2種免許を取得するか、第1種免許の他に、大臣認定講習を受ける必要がある。実施する際は、地元の運輸支局等に登録する必要がある。ドライバーは、運送の対価として運賃を得ることができるが、目安はタクシーの半額程度とされている。課題は、「乗客を奪われる」という懸念から、地元のバス事業者やタクシー事業者の合意を得るのが難しい点、運賃が安いことなどからドライバーの担い手が不足している点がある。国は自家用有償旅客運送でインバウンドにも対応できることを目指し、2020年通常国会で観光客も乗せられるようにする法改正を行った11

また(k)と(l)のパターンでは、介護保険法を利用することにより、介護保険事業から事業費の補助を受けられる場合がある。介護保険の分類で「訪問型サービスD(移動支援)」と呼ばれる制度である。ただし、利用者や事業内容には条件がある。まず、利用者の半数以上が介護保険法による要支援1または要支援2の認定等を受けていることである12。また、補助対象となる事業は、病院や買い物などに付き添う場合または、別の主体が開催する高齢者サロンや体操教室などへの送迎のみを行う場合である。なお、無償運送の(o)、(p)でも同様に、介護保険を利用した補助が受けられる。

自家用車を用いた有償運送ではこの他、要介護認定者等が利用できるパターン(m)がある。訪問介護事業所等の指定を受け、かつ一般乗用旅客自動車運送事業者の許可を受けた事業者の訪問介護員等が、病院への送迎など、訪問介護サービス等と連続したサービスとして利用者を輸送できる、というものである。ただし行先は、利用者の介護サービス計画で位置付けられたところに限られるため、高齢者が買い物や友人宅など、日常生活に自由に利用できる訳ではない。訪問介護士等の免許は第1種で良い。
 
11 初めて当該地域を訪れる観光客が、実際に自家用有償旅客運送を利用できるようにするためには、一定の車両とドライバーを確保した上で、アプリで検索して予約できるようにするなど、アクセスを容易にする装置が必要だろう。
12 半数に達していない場合でも、一部を補助してもらえるケースもある。
3自家用車(白ナンバー)を用いた交通モード(無償)
最後に、白ナンバーの自家用車を用いて、かつ利用者が無償で利用できる交通モード(図表1(n)~(p))について述べたい。無償と言っても、利用者が実費のみ負担する場合と完全無償の場合がある。完全無償は、市町村が高齢者サービスの一環と位置付けるなどして運行経費を全額補助し、利用者が負担なしで利用できる(n)「無料バス」などである。実際の運行は、地元の交通事業者に委託している場合もある。これに対し、地域のNPO法人や住民らが、ボランティアとして送迎し、燃料費、駐車場費、通行料の実費のみ利用者自身が負担するケース(o)もある。この場合でも、利用者が実費の他に、「お礼」としてドライバーに果物や野菜等を渡すことはできる。課題は、ボランティアによる運営のため、ドライバーの担い手不足が発生しやすい点である。また、無償の輸送は、道路運送法による規制が適応されないことから、利用者はドライバーの安全対策や自動車保険加入状況等に注意が必要である。その他、高齢者サロンや病院などが、会員向けに行う独自サービスとして、無償で送迎するパターンもある(p)。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
ジェロントロジー、モビリティ、まちづくり、労働

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