- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 不動産 >
- 不動産市場・不動産市況 >
- 不確実性の高まる世界において。不動産投資を再考する(2)-世界金融危機時のパフォーマンスから不動産のリスクと不確実性を考察する
2020年06月24日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
これらのリスクと不確実性は、各セクターの景気感応度と賃貸借契約の内容によるところが大きい(図表 9)。一般に景気感応度が高いセクターとしては「ホテル・都市型商業施設・オフィス」、また低いセクターとしては「郊外型商業施設・物流施設・賃貸住宅」が挙げられる。景気感応度が高いセクターほど、本来的にはインカムリターンのリスクが大きくなる。しかし、オペレーショナル・アセットであるホテルや商業施設は、長期の賃貸借契約期間に加えて、賃料固定型マスターリースや最低保証賃料などを採用することで、リスクを低減することが多い。また、物流施設は、オフィスや賃貸住宅と比較してテナント代替性に劣るため、長期の賃貸借契約を締結することでインカムリターンの安定性を確保しようとすることが多い11。これらのセクターでは、通常時の景気変動であれば、その影響を賃貸借契約などのスキームによって吸収することができるが、外部環境の悪化がある閾値を超えると、賃貸収入が大きく減少する可能性が高まる。つまり、ホテルや商業施設、物流施設においては、不動産の経済的なリスクを低減するために講じられる賃貸借スキームによって不動産のリスクを抑えることができるが、そのトレードオフとして外部環境の大幅な悪化等があった場合の不確実性を高めている。そのため、オフィスと賃貸住宅は、賃貸収入がアナログ(緩やかな曲線)に変化する傾向があるのに対して、ホテルや商業施設、物流施設は、賃貸収入がデジタル(段差のある非連続型)に変化する傾向がある。この不確実性の高さによって、ホテルや商業施設、物流施設の個別物件のインカムリターンを一般的な統計指標である平均や標準偏差をもとに評価すると、金融危機や景気後退における不確実性を過小評価する恐れがある。
11 例えば、都市型商業施設主体の日本リテールファンド投資法人の平均残存賃貸借期間は5.1年(2020年2月末)、郊外型商業施設主体のケネディクス商業リート投資法人は9.7年(2020年3月末)、物流施設の日本プロロジスリート投資法人で7.1年(2019年11月末)と、一般的な賃貸住宅の賃貸借期間である2年と比較して長い。
4. おわりに
本稿では、世界金融危機を振り返ることで、不動産セクター別のリスクと不確実性について考察し、それらは景気感応度や賃貸借契約の内容によるところが大きいとした。
また、冒頭で述べたように、新型コロナウイルスのパンデミックにおいては、世界金融危機では見られなかった3つの不確実性が顕在化する可能性がある。「デジタル化による不確実性」は短期的に顕在化する恐れは限定的だが、中長期的には不動産市場にAmazon Effect(アマゾン効果)をもたらすかもしれない。次に、「行動変容に伴う不確実性」では、少なくとも短期的には、社会的隔離政策がテナントの売上を直撃しているホテルや都心型商業施設において、インカムリターンが最も大きく減少する見通しである。また郊外型商業施設においても、裁量的消費や対面型サービス業の比重の高い物件では、賃貸収入が減少する懸念が強い。最後に、「賃貸借契約による不確実性」が顕在化すれば、多くの不動産セクターで不動産の価値の再評価が必要となるかもしれない。ただし、このような3つの不確実性に留意は必要であるとは言え、「歴史は繰り返さないが、しばしば韻を踏む」という言葉が示すように、前回の世界金融危機から学び、今回の危機や今後の不確実性に備えることはできるのではないだろうか。
また、冒頭で述べたように、新型コロナウイルスのパンデミックにおいては、世界金融危機では見られなかった3つの不確実性が顕在化する可能性がある。「デジタル化による不確実性」は短期的に顕在化する恐れは限定的だが、中長期的には不動産市場にAmazon Effect(アマゾン効果)をもたらすかもしれない。次に、「行動変容に伴う不確実性」では、少なくとも短期的には、社会的隔離政策がテナントの売上を直撃しているホテルや都心型商業施設において、インカムリターンが最も大きく減少する見通しである。また郊外型商業施設においても、裁量的消費や対面型サービス業の比重の高い物件では、賃貸収入が減少する懸念が強い。最後に、「賃貸借契約による不確実性」が顕在化すれば、多くの不動産セクターで不動産の価値の再評価が必要となるかもしれない。ただし、このような3つの不確実性に留意は必要であるとは言え、「歴史は繰り返さないが、しばしば韻を踏む」という言葉が示すように、前回の世界金融危機から学び、今回の危機や今後の不確実性に備えることはできるのではないだろうか。
参照文献
IMF. (2020). World Economic Outlook, April 2020 : The Great Lockdown. 2020/4/14.
吉田資. (2020). 「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し~新型コロナウィルスの感染拡大を踏まえて見通しを改定、不動産投資レポート、2020年5月27日. 参照先: ニッセイ基礎研究所: https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64535?site=nli
佐久間誠. (2020). 不確実性の高まる世界において。不動産投資を再考する(1)-新型コロナウイルス出現は必然か?感染拡大により顕在化した不確実性、不動産投資レポート、2020年5月28日. 参照先: ニッセイ基礎研究所: https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64554?site=nli
渡邊布味子. (2020). コロナ禍の下にある不動産、家賃モラトリアムのリスクを考える-コロナ禍が理由の家賃の延滞では契約解除が困難に、研究員の眼、2020年5月22日. 参照先: ニッセイ基礎研究所: https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64515?site=nli
IMF. (2020). World Economic Outlook, April 2020 : The Great Lockdown. 2020/4/14.
吉田資. (2020). 「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し~新型コロナウィルスの感染拡大を踏まえて見通しを改定、不動産投資レポート、2020年5月27日. 参照先: ニッセイ基礎研究所: https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64535?site=nli
佐久間誠. (2020). 不確実性の高まる世界において。不動産投資を再考する(1)-新型コロナウイルス出現は必然か?感染拡大により顕在化した不確実性、不動産投資レポート、2020年5月28日. 参照先: ニッセイ基礎研究所: https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64554?site=nli
渡邊布味子. (2020). コロナ禍の下にある不動産、家賃モラトリアムのリスクを考える-コロナ禍が理由の家賃の延滞では契約解除が困難に、研究員の眼、2020年5月22日. 参照先: ニッセイ基礎研究所: https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64515?site=nli
(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
(2020年06月24日「不動産投資レポート」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1778
経歴
- 【職歴】 2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行) 2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX) 2015年9月 ニッセイ基礎研究所 2019年1月 ラサール不動産投資顧問 2020年5月 ニッセイ基礎研究所 2022年7月より現職 【加入団体等】 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター ・日本証券アナリスト協会検定会員
佐久間 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/07 | ホテル市況は一段と明るさを増す。東京オフィス市場は回復基調強まる-不動産クォータリー・レビュー2024年第4四半期 | 佐久間 誠 | 基礎研マンスリー |
2025/02/26 | 成約事例で見る東京都心部のオフィス市場動向(2024年下期)-「オフィス拡張移転DI」の動向 | 佐久間 誠 | 不動産投資レポート |
2025/02/14 | Japan Real Estate Market Quarterly Review-Fourth Quarter 2024 | 佐久間 誠 | 不動産投資レポート |
2025/02/12 | ホテル市況は一段と明るさを増す。東京オフィス市場は回復基調強まる-不動産クォータリー・レビュー2024年第4四半期 | 佐久間 誠 | 不動産投資レポート |
新着記事
-
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~ -
2025年04月30日
「スター・ウォーズ」ファン同士をつなぐ“SWAG”とは-今日もまたエンタメの話でも。(第5話) -
2025年04月30日
米中摩擦に対し、持久戦に備える中国-トランプ関税の打撃に耐えるため、多方面にわたり対策を強化 -
2025年04月30日
米国個人年金販売額は2024年も過去最高を更新-トランプ関税政策で今後の動向は不透明に-
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【不確実性の高まる世界において。不動産投資を再考する(2)-世界金融危機時のパフォーマンスから不動産のリスクと不確実性を考察する】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
不確実性の高まる世界において。不動産投資を再考する(2)-世界金融危機時のパフォーマンスから不動産のリスクと不確実性を考察するのレポート Topへ