コラム
2020年05月14日

緊急事態宣言 一部解除へ

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

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1――緊急事態宣言を一部解除

5月14日、政府は新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言の一部解除を決定する。特に重点的に感染拡大防止に向けた取り組みを進める13の「特定警戒都道府県」のうち、茨城県・愛知県・岐阜県・石川県・福岡県、及び特定警戒都道府県に指定されていなかった34の県について、緊急事態宣言が解除する。一方、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、京都府、大阪府、兵庫県、北海道の8都道府県については解除せず、改めて21日に解除するか否かを判断するとのことだ。

5月4日に「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(以下、基本的対処方針)」が改定され、特定警戒都道府県以外の34県について、一定の感染防止策を前提に社会・経済活動の再開が一部「容認」されたこともあって、既に連休明けに休業要請などの緩和・縮小に動いている地方自治体もある。今回の緊急事態宣言の一部解除によって、自粛要請の緩和・縮小がより進んでいくものと見られる。徐々にではあるが、社会・経済活動の再開の道筋が見えてきたことは、ポジティブに捉えたい。

とは言え、すぐさま人々の生活がコロナ以前に戻り、経済が力強いV字回復を果たすのは容易ではない。4月7日に7都府県を対象に緊急事態宣言が発出されてから、1か月以上が過ぎた。巣ごもり消費、オンラインサービス活用、テレワーク、「3密」を避ける行動など、我々の生活様式も変化しつつある。そして、完全にウイルスが終息していない中では、気軽に旅行やレジャー、外食も出来ないという人も多いだろう。観光や外食業界などの中小企業では、資金繰りが行き詰まり、事業継続が困難になっているところも多い。先行きが見通せない中、経済へのダメージは想定以上に大きくなっている。

今回、緊急事態宣言が解除される県は、日本のGDPに占める割合でみると約5割を占める[図表1]。人口で見ても、全国のおよそ半分だ。解除された府県の消費が元の水準に戻ると仮定すれば1ヵ月間で6兆円程度の消費が回復することになる。ただし、東京圏や大阪圏が緊急事態宣言の対象になっている限り、経済の本格回復は見えてこない。緊急事態宣言が解除された39県についても、東京圏・大阪圏との人の往来(出張、旅行など)が制限される上、感染拡大防止に向けて「新しい生活様式」を引き続き徹底せざるを得ず、経済活動が元の水準にすぐさま戻るわけではない。日本経済のV字回復の道は、非常に厳しいと言わざるを得ない。
[図表1]緊急事態宣言(外出自粛)による影響

2――手探りの出口戦略、分かりやすい「フォワードガイダンス」を期待したい

ウイルスとの戦いにおいて、出口戦略を策定し、実行するハードルは高い。緊急事態宣言の発出や自粛要請の開始・強化よりも、緊急事態宣言の解除、自粛要請の緩和・終了の方が難しい。

海外に目を移すと、経済への悪影響が長引き、失業や倒産が増加して社会不安が増す中、生活・事業の制限に反対する声も意識して、社会・経済活動の再開を急ぐ動きも見られる。しかしながら、感染の第2波、第3波が無いとは言い切れない。制限を緩和したドイツでは、1人の患者から何人に感染を広げたかを示す「実効再生産数」が再び1を超えたとされる。韓国でもナイトクラブで集団感染が確認されて、出口戦略の難しさが改めて認識されている。

当初は、感染拡大を早期に食い止め、事態を収束させた後に、景気刺激策等で経済のV字回復を果たすという「短期決戦」が意識されていた。しかし、予想以上に手ごわいウイルスを前に、戦略を「長期戦」へとシフトさせていく必要に迫られている。「After コロナ」だけでなく、「With コロナ」の世界も意識せざるを得ない状況だ。事態の収束に時間がかかることを念頭に、感染拡大防止と社会・経済活動の両立を模索しなければならない。

長期戦に臨むためには、政府や地方自治体がビジョンを示し、国民・市民がそれをしっかりと理解・共有し、双方が上手にコミュニケーションを図っていく必要がある。足もとでは、先行きの不透明感から、多くの人々が不安やストレスに苛まれている。企業も先が見通せない中で、いつまで事業を縮小すれば良いのか、どれほど手元資金を確保したら良いのか、いつ再開に向けて投資を加速させたら良いのか、分からないことが多く立ちすくんでしまう。

だからこそ、政府や地方自治体には、感染症対策や医療の専門家だけでなく、経済学や社会学など多方面の研究者の意見も取り入れながら、出口戦略として分かりやすい指針を作り、示していくことが期待される。金融政策で言うところの「フォワードガイダンス」に似た発想だ。大阪府による自粛要請の解除に向けた独自基準(大阪モデル)の公表や、政府の専門家会議による緊急事態宣言の解除に向けた目安公表などの動きは歓迎したい。

感染状況や医療体制などには地域差があり、社会や経済の状況も全く同じというわけではない。自粛の要請(施設の使用制限の要請など)は、地域における感染状況などに応じて、各都道府県の知事が適切に判断する必要があり、政府だけではなく、地方自治体及びその知事の役割も極めて重要になってくる。外出や休業の自粛要請をどのような条件で緩和・解除し、どのような手順で社会・経済活動を再開していくのか、再び感染拡大が広がった場合にどのような条件になったら休業要請が出されるのか、といった具体的なロードマップが求められる。説明責任や決定プロセスの透明性を高めていくことも必要だ。今後、どのようなロードマップが示され、実行されていくのか。今問われているのは、民主主義や地方分権の「真価」であると言うこともできるだろう。
 
 

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総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

経歴

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