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- 働き方改革で労働時間の減少ペースが加速~ただし、サービス残業は増加の可能性~
2020年02月28日
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4――サービス残業の減少が足踏み
政府が働き方改革を推進する中、長時間労働の是正が進展し、このところ労働時間の減少ペースが加速している。ただし、長時間労働を把握する際に用いた「労働力調査」の労働時間は「毎月勤労統計」よりも長くなっていることに注意が必要だ。たとえば、2019年の月間労働時間(一人当たり)は、「毎月勤労統計」では139.1時間だが、「労働力調査」では155.9時間とそれよりも16.8時間も長い。両統計の乖離幅を時系列でみると、2013年の18.2時間から2018年には16.5時間まで縮小したが、2019年は16.8時間と若干拡大した(図表12)。
まず、「労働力調査」は報告者の認識や記憶違いによって労働時間が過大に報告されている可能性が指摘できる。たとえば、「労働力調査」で報告すべき労働時間は通勤時間・食事時間・休憩時間を除いたものだが、これらを含んだ労働時間を回答しているケースも一定程度存在している可能性がある。また、「労働力調査」は月末1週間の就業状態を回答する形式になっているため、月末1週間の就業時間、日数の精度が高いが、1ヵ月の就業日数については記憶違いが発生しやすいと考えられる。
認識や記憶違いの問題がないとしても、「労働力調査」は労働者が実際の労働時間を報告しているのに対し、「毎月勤労統計」は企業が残業手当を支給することを目的として管理・記録した労働時間を報告したものであるという大きな違いがある。したがって、「毎月勤労統計」では、管理監督者や裁量労働制適用者など労働時間規制の適用除外となっている労働者の残業時間は反映されていない。
労働政策研究・研修機構の「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査(2014年)」によれば、1ヵ月の労働時間は、通常の労働時間制(185.0時間)よりも、専門業務型裁量労働制(206.5時間)、企画業務型裁量労働制(197.2時間)、労働時間制の適用除外(205.6時間)のほうが長い。したがって、残業手当の発生しない管理監督者や裁量労働制の実労働時間が含まれる「労働力調査」はその分「毎月勤労統計」よりも平均労働時間が長くなる。
筆者が、同調査をもとに制度上手当の発生しない労働者の残業時間を除いた「労働力調査」の労働時間を調整すると、労働時間は6.4時間短くなる(2019年)が、それでも「毎月勤労統計」との差は残る。このかなりの部分は労働者が労働時間を会社に過少申告していることによって発生する、いわゆる「サービス残業」とみなすことができるだろう。
認識や記憶違いの問題がないとしても、「労働力調査」は労働者が実際の労働時間を報告しているのに対し、「毎月勤労統計」は企業が残業手当を支給することを目的として管理・記録した労働時間を報告したものであるという大きな違いがある。したがって、「毎月勤労統計」では、管理監督者や裁量労働制適用者など労働時間規制の適用除外となっている労働者の残業時間は反映されていない。
労働政策研究・研修機構の「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査(2014年)」によれば、1ヵ月の労働時間は、通常の労働時間制(185.0時間)よりも、専門業務型裁量労働制(206.5時間)、企画業務型裁量労働制(197.2時間)、労働時間制の適用除外(205.6時間)のほうが長い。したがって、残業手当の発生しない管理監督者や裁量労働制の実労働時間が含まれる「労働力調査」はその分「毎月勤労統計」よりも平均労働時間が長くなる。
筆者が、同調査をもとに制度上手当の発生しない労働者の残業時間を除いた「労働力調査」の労働時間を調整すると、労働時間は6.4時間短くなる(2019年)が、それでも「毎月勤労統計」との差は残る。このかなりの部分は労働者が労働時間を会社に過少申告していることによって発生する、いわゆる「サービス残業」とみなすことができるだろう。

ここで求めたサービス残業はあくまでも試算値であり、幅をもって見る必要があるが、時間外労働の上限規制の導入に伴い企業の労働時間管理がより厳格となったことが、手当の発生する残業時間を減らす一方、持ち帰り残業などのサービス残業を増やす一因になっている可能性も考えられる。2020年4月からはこれまで大企業が対象だった規制が中小企業にも適用されるため、サービス残業がさらに膨らむ恐れもある。
働き方改革を進める中で重要なことは、長時間労働を実態として減らすことで、表面的な残業時間が減ってもその分サービス残業が増えてしまえば意味がない。長時間労働の是正が実態として進んでいるかを見極める上で、「労働力調査」と「毎月勤労統計」の労働時間の乖離幅から導き出されるサービス残業の今後の動きが注目される。
4 試算方法の詳細は「残業時間の上限規制で残業代は本当に減るのか(基礎研レポート2018-03-28)」をご覧ください
<参考文献>
斎藤太郎(2018)「残業時間の上限規制で残業代は本当に減るのか」 ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018-3-28
内閣府(2020)「日本経済2019-2020 -人口減少時代の持続的な成長に向けて-」
日本銀行(2019)「働き方改革と企業の取り組み―働き方改革を生産性の向上に結び付けた先進例―」、2019年1月、日本銀行
労働政策研究・研修機構(2014)「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果」
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年02月28日「基礎研レポート」)

03-3512-1836
経歴
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
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