2019年03月27日

韓国でも外国人労働者が増加傾向―外国人労働者増加のきっかけとなった雇用許可制の現状と課題を探る―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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5――今後の課題と日本に与えるインプリケーション

中小企業等の慢性的な労働力不足問題を解決するために、2004年8月17日から施行された雇用許可制は、どのような効果があっただろうか。まず、毎年数万人の外国人労働者が慢性的な労働力不足を経験している製造業を中心とする中小企業で働くことにより中小企業の労働力不足が少しは解消できたことは確かであり、これに対しては多くの先行研究が一致している。

図表17を見ると、中小企業の労働力不足率は2003年の6.23%から2014年には1.58%まで大きく改善されていることが分かる(最近は少し上昇傾向)。但し、李ギュヨン(2014)によると、外国人労働者の71.5%が訓練を必要としない単純作業に従事していた。

一方、外国人労働者を雇用している事業場の71.2%は外国人熟練技術者が必要であると答えている。従って、今後、外国人熟練技術者に対する企業の需要が拡大することを予想すると、雇用許可制のみならず、優秀専門外国人労働者の誘致戦略による優秀な外国人労働力の確保にもより力を入れる必要があると考えられる。
図表17 労働力不足人員と不足率の推移
外国人労働者の拡大は労働力不足を解消するのみならず、国に対するイメージを改善する役割もするだろう。幸いに、雇用許可制により雇用された外国人労働者の63.4%が韓国に対する印象が「良くなった」と答えており、「悪くなった」の13.9%を大きく上回っていた。韓流の影響があった可能性もあるものの、将来における16か国との交流等を考慮すると望ましいことであるだろう。

雇用許可制に対する海外での評価も悪くはない。例えば、ILOは2010年に雇用許可制を「アジアの先進的な移住管理システム」と高く評価し、2011年6月に国連は、腐敗防止及び剔抉(てっけつ)に対する革新性を認め、「公共行政大賞」を授与した。さらに2017年4月に世界銀行は、「雇用許可制は、情報アクセス性を容易に、アジア太平洋地域の外国人労働者の韓国での就業機会を大幅に増やした」と高く評価した。

しかしながら、労働界では雇用許可制を「反人権的奴隷契約」であると批判している。労働界が最大の問題点として指摘しているのが「事業場変更の制限」である。外国国籍の同胞に対する特例雇用許可制(訪問就業制)は職場の移動に制限がないものの、非専門就業ビザを受けて韓国に入ってきた一般雇用許可制による外国人労働者は職場の移動が3年以内に最大3回(延長した場合4年10ヶ月間に最大5回)に制限されている。さらに、職場の移動は使用者の承認がある時と事業場の倒産や賃金未払いがある時など、極めて例外的な場合に制限されている。労働界はこのような移動制限は外国人労働者の強制労働に繋がる恐れが高いと主張しながら移動制限の廃止を要求している。

また、外国人労働者の人権が侵害されるケースもいまだに残存している。慶尚南道の移住民センターは2018年7月に外国人労働者を対象とした人権侵害の事例を公表した。公表された資料によると、2017年から慶尚南道のある農家で働いていたカンボジア出身の女性労働者は農家の雇い主に体の特定の部分を触られたなど10回を越える性的暴行を受けたそうだ。

給料が払われないケースも少なくない。慶尚北道の高霊郡で金属加工工場の経営者が2018年10月に外国人労働者10人に対して約6000万ウォンの賃金を払わなかった容疑で拘束された。捜査の結果、立場が弱い外国人不法滞在者のみを雇い、意図的に賃金を未払いしたことが明らかになった。韓国の労働日報によると、2016年における外国人労働者に対する給料未払い額は678億ウォンで2012年の240億ウォンに比べて3倍も増加している5。さらに、支払われなかった給料の支払を要求したり、職場の移動を要求した外国人労働者が暴行を受けるケースも少なくない。

一方、供給側による問題もある。外国人労働者に占める不法滞在者の割合は大きく減っているものの、まだ20万人を超える不法滞在者が存在している(図表18)。外国人労働者の増加とともに外国人による犯罪件数も増加している。警察庁の発表資料を参考すると、2003年に6,144件であった外国人犯罪件数は2015年には35,443件に5倍以上も増加した。

さらに、雇用情勢がなかなか改善されない中で、「外国人労働者に仕事を奪われる」、「外国人労働者が増加すると単純労働の賃金が下がる」など今後の雇用や賃金削減を懸念する声も出ている。
図表18不法滞在者の推移
図表19 外国人犯罪件数の推移
今後、外国人労働者をより韓国社会に定着させるためには、人権侵害や賃金未払い等により外国人労働者が被害を受けないように、事業場に対する監視体制を強化する必要がある。雇用許可制の一つの原則である需要主導的制度(demand driven system)が使用者の権力を強化させる手段として利用されてはならない。外国人労働者に最低賃金や決まった賃金がきちんと払われるように使用者に対する教育や啓蒙活動も徹底すべきである。韓国全体の最低賃金の未満率が10%を超えている現状を考慮すると、外国人労働者の多くが最低賃金未満で働いていることがうかがえる。合法的で良心的に外国人労働者を雇用している使用者に対してはインセンティブを提供する反面、悪徳使用者に対しては処罰を強化すべきである。また、使用者の賃金未払いに対する対策として導入した「賃金未払い保障保険制度」の保険料を最低賃金の引き上げ率に合わせて引き上げる必要がある。「賃金未払い保障保険制度」の保険料は2004年に実施されてから一回も改正されていない。

日本でも2019年4月から外国人労働者に対する新たな在留資格をつくることが決まっている。最長5年間の技能実習を修了した外国人に、さらに最長で5年間、就労できる資格を与えることが主な内容で、対象は農業や介護など労働力不足が深刻な分野である。但し、現在実施されている「外国人技能実習制度」は、悪質な送出機関やブローカーの存在、違法な長時間労働や賃金不払いなどの人権侵害の問題点が指摘されている。就労できる期間を延ばすだけではなく、全体の内容を改善することが望ましい。韓国と同様に、急速な少子高齢化により将来労働力不足の問題を抱えている日本において、韓国の雇用許可制は、単純技能労働者に対する受け入れ対策として参考になる良い事例であるに違いない。福島大学の佐野孝治教授は、韓国の雇用許可制を日本が参考とすべき理由として、(1)年々高齢化が進み、外国人労働者の割合が低いなど日本と韓国社会は類似点が多いこと、(2)単純機能労働者を受け入れる際に、ドイツのように事業場移動が可能な「労働許可制」を導入することに比べて、「雇用許可制」はハードルが低く、「技能実習制度」からの転換が比較的容易であることを上げている。

今後、韓国が導入した雇用許可制や他の国の外国人労働者受け入れ対策の成功と失敗の事例を参考とし、より日本に適切な単純技能労働者受け入れ対策が導入されることを望むところである。
 
5 労働日報「昨年、外国人労働者の給料未払い687億ウォン…4年間で3倍も増加」2017年10月3日
参考文献

日本語
  • 国立社会保障・人口問題研究所(2017)「日本の将来推計人口(平成29 年推計)」
  • 厚生労働省(2002)「外国人雇用問題研究会報告書」
  • 佐野孝治(2017)「韓国の「雇用許可制」にみる日本へのインプリケーション」『日本政策金融公庫論集』第36号
  • 佐野孝治(2014a)「韓国の経験に学ぶ:人手不足対策、外国人雇用強化制度とは、第1回」労働新聞2014年7月7日
  • 佐野孝治(2014b)「韓国の経験に学ぶ:人手不足対策、外国人雇用強化制度とは、最終回」労働新聞2014年12月22日
  • 労働政策研究・研修機構(2015)「主要国の外国人労働者受入れ動向:ドイツ」
 
韓国語
  • 韓国雇用労働部「雇用許可制ホームページ」(한국고용노동부「고용허가제 홈페이지」)
  • 韓国統計庁「2017年出生・死亡統計暫定結果」(한국통계청「2017년 출생・사망통계 잠정결과」)
  • 韓国統計庁「将来人口推計」(한국통계청「장래인구추계」)
  • 中小企業庁「中小企業実態調査」(중소기업청「중소기업실태조사」)
  • 中小企業中央会(2018)「外国人材(E-9)雇用関連宿食費提供実態調査結果報告書)」
  • 중소기업중앙회(2018)「외국인력(E-9)고용관련 숙식비 제 공 실태조사 결과보고서))
  • 出入国・外国人政策本部(2018)「2017出入国・外国人政策統計年報」
  • 출입국・외국인정책본부「2017출입국・외국인정책 통계연보」)
  • 警察庁「犯罪情報管理システム」(경찰청「범죄정보관리시스템」)
  • 労働日報「昨年、外国人労働者の給料未払い687億ウォン…4年間で3倍も増加」2017年10月3日
    (노동일보「작년 외국인 노동자 임금체불 687억…4년새 3배 증가」2017년10월3일)
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2019年03月27日「基礎研レポート」)

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