2018年05月16日

QE速報:1-3月期の実質GDPは前期比▲0.2%(年率▲0.6%)-9四半期ぶりのマイナス成長だが、景気の回復基調は途切れず

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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●1-3月期は前期比年率▲0.6%と9四半期ぶりのマイナス成長

本日(5/16)発表された2018年1-3月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比▲0.2%(前期比年率▲0.6%)と9四半期ぶりのマイナス成長となった(当研究所予測4月27日:前期比▲0.1%、年率▲0.5%)。

外需は前期比・寄与度0.1%(年率0.3%)と成長率を若干押し上げたが、民間消費(前期比▲0.0%)、住宅投資(前期比▲2.1%)設備投資(前期比▲0.1%)の民間最終需要がいずれも減少したことに加え、民間在庫変動が前期比・寄与度▲0.1%(年率▲0.6%)と成長率を押し下げたことから、国内民間需要が6四半期ぶりに減少した。

実質GDP成長率への寄与度(前期比)は、国内需要が▲0.2%(うち民需▲0.2%、公需0.0%)、外需が0.1%であった。
 
名目GDPは前期比▲0.4%(前期比年率▲1.5%)と6四半期ぶりのマイナス成長となった。GDPデフレーターは前期比▲0.2%(10-12月期:同▲0.0%)、前年比0.5%(10-12月期:同0.1%)であった。国内需要デフレーターは前期比0.1%の上昇となったが、輸入デフレーターの伸び(前期比1.3%)が輸出デフレーターの伸び(同▲0.5%)を上回ったことがGDPデフレーターを押し下げた。
 
2018年1-3月期の1次速報と同時に基礎統計の改定や季節調整のかけ直しなどから過去の成長率も遡及改定され、2017年4-6月期から2017年10-12月期までの実質GDP成長率がいずれも下方修正された。特に2017年10-12月期については、民間消費、設備投資の下方修正などから、前期比年率1.6%から同0.6%へと大幅に下方修正された。

この結果、2017年度の実質GDP成長率は1.5%(2016年度は1.2%)、名目GDP成長率は1.6%(2016年度は1.0%)となった。
<需要項目別結果>
<需要項目別の動き>
民間消費は前期比▲0.0%と小幅ながら2四半期ぶりの減少となった。なお、2017年10-12月期が前期比0.5%から同0.2%へと下方修正されているため、2017年度後半の民間消費はほぼ横ばいにとどまったことになる。

雇用所得環境は改善を続けているが、1、2月の大雪の影響で外出が手控えられたこと、生鮮野菜の価格高騰による物価上昇ペースの加速で実質購買力が低下したことが消費を抑制したとみられる。家計消費の内訳を形態別にみると、外食、旅行などのサービスは前期比0.3%(10-12月期:同0.2%)と底堅さを維持したが、自動車、テレビなどの耐久財が前期比▲0.3%(10-12月期:同2.2%)衣料品などの半耐久財が前期比▲2.0%(10-12月期:同▲0.1%)、食料などの非耐久消費財が前期比▲0.3%(10-12月期:▲0.2%)の減少となった。
雇用者報酬の推移 雇用者報酬は名目で前年比3.2%(10-12月期:同1.9%)、実質で前年比2.0%(10-12月期:同1.2%)となり、いずれも10-12月期から伸びが加速した。名目雇用者報酬の伸びは1997年4-6月期(前年比3.6%)以来、約20年ぶりの高い伸びとなったが、後述するように雇用者報酬の推計に用いられる基礎統計(「労働力調査」(総務省統計局)、「毎月勤労統計」(厚生労働省))の問題によって過大となっている可能性があることには注意が必要だ。
住宅投資は前期比▲2.1%と3四半期連続で減少した。住宅投資は、雇用所得環境の改善や低水準の住宅ローン金利が下支えとなっているものの、相続税対策の需要一巡に伴う貸家の減少、マンションの販売価格上昇の影響などから、弱い動きが続いている。新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は2017年4-6月期の98.7万戸をピークに、7-9月期が95.5万戸、10-12月期が94.8万戸、2018年1-3月期が89.2万戸と水準を切り下げている。GDP統計の住宅投資は工事の進捗ベースで計上され着工の動きがやや遅れて反映されるため、2018年4-6月期も減少する可能性が高い。
 
設備投資は前期比▲0.1%と6四半期ぶりに減少したが、1次速報推計の基礎統計となる生産動態統計が大雪などから下振れしたことも影響している。日銀短観2018年3月調査では、2017年度の設備投資計画(含むソフトウェア、除く土地投資額)が前年度比5.3%(全規模・全産業)と前年同時期の前年度比1.0%(2017年3月調査の2016年度計画)を上回り、2018年度当初計画は前年度比2.2%と2017年度当初計画の同1.7%を上回った(ただし、2017年12月調査までと2018年3月調査では調査対象企業の見直しによる不連続が生じている)。

企業収益の大幅増加に伴う潤沢なキャッシュフローを背景に、設備投資は底堅さを維持していると判断される。1-3月期の法人企業統計の結果が反映される6/8公表予定の2次速報では、設備投資が上方修正される可能性もあるだろう。
 
民間在庫変動は前期比・寄与度▲0.1%(前期比年率▲0.6%)と成長率を押し下げた。製品在庫、流通在庫はプラス寄与となったが、1次速報段階では内閣府の仮置き値となっている原材料在庫、仕掛品在庫がそれぞれ実質GDP成長率を前期比・寄与度▲0.1%押し下げた。
 
公的需要は、政府消費、公的固定資本形成ともに前期比0.0%の横ばいとなった。公的固定資本形成は、2016年度補正予算の執行本格化から2017年4-6月期に前期比4.7%の高い伸びとなったが、その効果が一巡した7-9月期に同▲2.6%と落ち込んだ後、横ばい圏の推移が続いている。2017年度補正予算では、災害復旧等・防災・減災事業を中心に公共事業関係費が約1兆円積み増された。しかし、2016年度補正予算の1.6兆円に比べて規模が小さいこと、2018年度の当初予算が公共事業関係費は前年比+0.0%の横ばいとなっていることを踏まえれば、先行きの公的固定資本形成は弱めの動きとなることが見込まれる。
 
外需寄与度は前期比0.1%(前期比年率0.3%)と小幅ながら成長率を押し上げた。財貨・サービスの輸出が前期比0.6%(10-12月期:同2.2%)、財貨・サービスの輸入が前期比0.3%(10-12月期:同3.1%)といずれも前期から伸びが大きく低下した。

輸出は、自動車が好調を維持したものの、スマートフォンの販売不振から情報関連財の輸出が減少したほか、世界的な設備投資の拡大を反映し好調が続いていた資本財も伸びが一服した。輸入は、10-12月期の新型スマートフォンの発売に伴う通信機急増の反動や、国内需要の足踏みを反映し、弱めの動きとなった。
(雇用者報酬は過大推計の可能性)
2018年1-3月期の名目雇用者報酬は前年比3.2%と1997年4-6月期(前年比3.6%)以来、約20年ぶりの高い伸びとなったが、雇用者報酬の推計に用いられる基礎統計(「毎月勤労統計」(厚生労働省)、「労働力調査」(総務省統計局))の問題によって過大となっている可能性がある。
現金給与総額の推移 「毎月勤労統計」の現金給与総額(一人当たり)は2017年10-12月期の前年比0.7%から2018年1-3月期には同1.4%へと伸びを高めたが、「毎月勤労統計」は2018年1月より、事業所規模30人以上の抽出方法が従来の2~3年に一度行う総入替え方式から毎年1月調査時に行う部分入替え方式に変更された。この際、総入替え方式の時に行っていた過去に遡った改訂が行われないことになったため、前年12月と当年1月の間には断層が生じやすくなっている。

参考資料として公表されている共通事業所(「前年同月分」及び「当月分」ともに集計対象となった調査対象事業所)による現金給与総額の伸びは1~3月期の平均で公表値よりも▲0.7%低くなっており、2018年1月以降の賃金の伸び(公表値)が過大となっている可能性があることを示唆している。

また、「労働力調査」の雇用者数の伸びも2017年10-12月期の前年比1.0%から2018年1-3月期には同2.0%へと急加速したが、その内訳を雇用形態別にみると、このところ正規雇用(正規の職員・従業員)の増加幅を下回っていた非正規雇用(非正規の職員・従業員)の急増が目立つ形となっている。「労働力調査(詳細集計)」によれば、役員を除く雇用者数の増加幅は10-12月期の前年差80万人増から1-3月期には同138万人増へと急拡大したが、このうち非正規雇用が100万人増(10-12月期は11万人増)となっており、正規雇用は38万人増(10-12月期は69万人増)にとどまっている。さらに、非正規雇用の内訳をみると、外国人留学生を含む学生アルバイトが前年差34万人増と1-3月期の雇用増全体の約4分の1を占めている。
雇用形態別・雇用者数の推移 賃金水準が相対的に低い非正規雇用、特に学生アルバイトの増加は、一人当たりの平均賃金の押し下げ要因となるはずだが、毎月勤労統計のパートタイム比率は前年からほぼ横ばいとなっており、毎月勤労統計の賃金には、労働力調査で見られた雇用の非正規化に伴う一人当たり賃金の低下圧力は反映されていない。GDP統計の雇用者報酬(賃金・俸給部分)は、主として雇用者数を「労働力調査」、一人当たり賃金を「毎月勤労統計」を用いて推計するため、両統計の動きが基本的にそのまま反映されることになる。雇用者報酬は個人消費の動向をみるうえで重要な指標であるが、ここまでみてきたように、2018年1-3月期は過大推計となっている可能性がある。雇用者報酬の高い伸びをもって先行きの個人消費を楽観的にみることは避けるべきだろう。
4-6月期は潜在成長率を上回るプラス成長に復帰の公算も、下振れリスクは高まる)
2018年1-3月期の実質GDPは2015年10-12月期以来のマイナス成長となったが、景気の回復基調が途切れてしまったと判断するのは早計だ。1次速報でマイナスとなった設備投資、民間在庫変動は法人企業統計の結果が反映される2次速報で大幅に改定される可能性があるため、1次速報の数字はあくまでも暫定的なものと捉えるべきだろう。

また、民間消費は2四半期ぶりに減少したが、1、2月の大雪、生鮮野菜の価格高騰といった一時的な要因により下押しされており、消費動向を左右する雇用所得環境は着実な改善を続けている。生鮮野菜の価格高騰はすでに一段落しており、3月以降は天候も比較的安定している。実質所得の低迷を主因に回復力が脆弱であることは確かだが、一時的な下押し要因がなくなる4-6月期は民間消費が増加に転じるだろう。

IT関連財の在庫調整、原油高、米国の保護主義的な通商政策の影響など、ここにきて景気の下振れリスクはやや高くなっているが、現時点では4-6月期の実質GDPは民間需要の柱である消費、設備が揃って増加することで、潜在成長率を上回るプラス成長に復帰すると予想している。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2018年05月16日「Weekly エコノミスト・レター」)

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