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政策保有株式削減の進捗状況-進む損害保険、出遅れる銀行

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 高岡 和佳子
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1――政策保有に関する方針は各社各様である
政策保有株式を保有しない方針を宣言する企業もあるが、大多数の企業は、一定の条件の下で、政策保有株式の保有を表明している。一定の条件とは、取引関係の重要性や、取引先企業の成長性等を定期的に検証し、政策保有株式を保有する事の合理性が認められるといった条件である。また、政策保有株式の残高削減を掲げる企業もある。なお、3メガバンクは、2015年3月末時点から3~5年で少なくとも3割程度、政策保有株式の削減を目標としている2。一方、保有の合理性を失った場合の売却にあたり、市場への影響や取引先企業の事情等を考慮することも明言している(図表1)。
1 政策保有株式とは、一般的に企業が取引先や取引金融機関との間で持ち合う株式を指す。
2 2015年11月7日、日本経済新聞(朝刊)「3メガ銀、持ち合い株3割削減、市場評価、実行力でさも。」参照
2――大株主情報を用いて確認する理由と調査対象データの分類
株式の保有目的は、政策保有目的に限らない。短期的な資金運用によって運用益を得ることを目的として保有(売買目的有価証券)する場合もあれば、支配力や影響力を行使する目的で保有(子会社・関連会社株式)する場合もある。貸借対照表上、前者は「有価証券」、後者は「関係会社株式」として計上される。そして、売買目的有価証券でも、子会社・関連会社株式でもない株式は「投資有価証券」として計上される。「投資有価証券」として計上される株式のうち、もっぱら株式の価値の変動または株式に係る配当によって利益を受けることを目的とする場合は純投資目的であり、それ以外が政策保有目的に分類される。

更に、コーポレートガバナンス・コードの対象企業が上場企業であることから、非上場企業(上場持株会社の非上場子会社は除く)が株式保有主体であるデータも、調査対象から外した。
3 基礎研レポート『企業内容等の開示は機能しているか?~より具体的な保有目的開示に期待する』(2017年2月21日)
4 東京海上ホールディングス株式会社のコーポレート・ガバナンスの状況等によると、東京海上日動火災保険株式会社は2017年3月31日時点で、主として取引関係の強化を図ることを保有目的として、少なくとも222銘柄の上場株式を保有している。また、MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社のコーポレート・ガバナンスの状況等によると、三井住友海上火災保険株式会社は、2017年3月31日時点で、総合的な取引関係の維持・強化を目的として、少なくとも200銘柄の上場株式を保有している。
5 証券会社を大株主として掲載する上場会社は多くあるが、その半分以上が2015年3月と2017年3月時点で異なっている。
3――調査結果

この定義の下で、2015年のコーポレートガバナンス・コードの適用開始時に、政策保有銘柄の数が多かった企業は51企業であった。そして内訳は、一般事業会社が13、銀行が32、損害保険が6であり、やはり金融機関が圧倒的に多い(図表3)。
次に、政策保有銘柄の数が多い企業(51企業)は、それぞれ何社の大株主であるかを確認した。平均は133社、最も多い企業は1,055社に及ぶことが確認できた。政策保有銘柄の数が30以下に収まる企業が大多数を占める一方、一握りの企業が多数の政策保有銘柄を有している。つまり一握りの企業がハブ機能を担うことで、上場企業間の持合ネットワークが構成されている可能性が高い6。
6 基礎研レポート『問題公表による他社株価への影響~持合ネットワーク構造を用いた分析』(2017年9月1日)

しかし、グループ別削減目標と企業別削減率を比較すると、必ずしも順調とは言えなさそうだ(図表5)。みずほ銀行の削減率が最も高いが、みずほフィナンシャル・グループが掲げる3年間で3割削減という目標に照らせば、多少遅れ気味である。また、他のグループは5年間で3割削減を目標としているが、三菱東京UFJ銀行と三井住友銀行の削減率は、それぞれ11%と8%にとどまり、多少遅れ気味である。
(2017年12月18日「基礎研レポート」)

03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
高岡 和佳子のレポート
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