2016年12月08日

2016~2018年度経済見通し~16年7-9月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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2. 実質成長率は2016年度1.2%、2017年度1.0%、2018年度1.2%

(成長率見通しを上方修正)
2016年7-9月期のGDP2次速報を受けて、11/15に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2016年度が1.2%、2017年度が1.0%、2018年度が1.2%と予想する(11/15時点ではそれぞれ0.9%、0.9%、1.1%)。
基準改定前後の実質成長率(四半期)の比較 2016年7-9月期の成長率は下方修正されたが、2016年4-6月期が上方修正され、2016年度入り後の2四半期を合わせた伸びは1次速報時点よりも若干高まった。さらに、1次速報以降に公表された経済指標が想定よりもやや強めだったこと(10月の貿易統計、建築着工統計等)などを受けて2016年度下期の見通しを若干上方修正したため、2016年度の成長率見通しは0.3%の上方修正となった。2017年度、2018年度はトランプ氏の米大統領選挙勝利以降の円安の進行を反映し、輸出、設備投資を上方修正したことなどから、それぞれ0.1%上方修正した。
2016年7-9月期は輸出が前期比1.6%の高い伸びとなったことがプラス成長の主因となったが、4-6月期には同▲1.3%と落ち込んでいたこと、輸出の押し上げに寄与した新型スマートフォン向け部品の好調が一時的に終わる可能性が高いことを考慮すれば、基調としては横ばい圏の動きが続いていると判断される。海外経済の低成長が続く中、2016年初からの大幅な円高による下押し圧力がしばらく残るため、10-12月期以降は輸出が景気の牽引役となることは期待できない。

一方、民間消費は2016年4-6月期が前期比0.1%から同0.2%、7-9月期が前期比0.1%から同0.3%へ上方修正され、相次ぐ台風の上陸など天候要因による下押し圧力がある中でも、雇用所得環境の改善を背景に緩やかに持ち直しているという姿に改められた。足もとでは、夏場の天候不順を受けた生鮮野菜の価格高騰という新たな悪材料が浮上しているが、一時的な下押し要因がなくなれば、消費は回復の動きが明確となる可能性が高い。

また、公的固定資本形成は7-9月期には前期比0.1%とほぼ横ばいにとどまったが、2016年度補正予算による押し上げもあり先行きは増勢ペースを強めることが見込まれる。2016年度後半は外需のマイナスを国内需要の増加がカバーする形となるだろう。

実質GDP成長率は、輸出、設備投資の低迷が続く2016年度中は年率ゼロ%台にとどまるが、2017年度入り後は円高の悪影響一巡に伴う企業収益の改善を背景に設備投資が回復すること、輸出が持ち直すことなどから概ね年率1%台の成長が続くだろう。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
(消費回復持続の鍵を握る2017年春闘)
民間消費は2016年1-3月期から3四半期連続で増加し、経済成長の中心となりつつある。消費持ち直しの主因は、雇用者数の大幅増加や物価上昇率の下落から実質雇用者報酬が高い伸びとなっていることである。2016年度の実質雇用者報酬は前年比2.3%となり、2005年度(同2.2%)以来、11年ぶりに2%台の高い伸びとなることが見込まれる。

今後も天候要因や株価下落による逆資産効果など一時的な要因により下押しされるリスクはあるが、実質所得の増加を主因として2016年度末にかけて民間消費は回復基調を強める可能性が高い。

2017年度の消費動向の鍵を握るのは春闘賃上げ率の行方である。当研究所ではマイナスが続いている消費者物価上昇率は2016年度末にはプラスに転じ、その後伸びを高めていくと予想している。こうした中、賃金の伸びが高まらなければ実質賃金は大きく低下してしまう。
実質雇用者報酬の予測/春季賃上げ率と所定内給与
賃上げを巡る環境は厳しい。直近(2016年10月)の失業率が3.0%、有効求人倍率が1.40倍と労働需給は逼迫した状態が続いているが、足もとの企業収益の悪化、消費者物価の下落が逆風となりそうだ。11/25に連合が発表した2017春季生活闘争方針では、賃上げ要求水準が「2%程度を基準(定期昇給分を除く)」と前年と同水準となっていること、企業経営者が政府の賃上げ要請をある程度受け入れることを考慮し、今回の見通しでは2017年度の春闘賃上げ率を2.15%と2016年度(2.14%)とほぼ同水準と想定した(2018年度は2.40%)。実際の賃上げ率が前年度を大きく下回るようなことがあれば、実質所得の低下を主因として消費が腰折れしてしまうリスクが高まるだろう。
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)上昇率は、原油価格下落に伴うエネルギー価格の低下を主因として2016年3月からマイナスが続いている。人手不足に伴う人件費の上昇などを背景にサービス価格はプラスの伸びを維持しているが、原油価格下落に伴うエネルギー価格の大幅低下に加え、ここにきて円高による輸入物価低下の影響を受けやすい食料品、耐久財などでも上昇率の鈍化が目立つようになっている。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 原油価格(ドバイ)は1月中旬の1バレル=20ドル台半ばを底に足もとでは50ドル台まで上昇しており、電気代、ガソリンなどのエネルギー価格はすでに下落率が縮小し始めている。2016年度末までにエネルギー価格は前年比でプラスに転じるだろう。

また、既往の円高による物価下押し圧力はしばらく残るが、ここにきて円安が急進しており、2017年度入り後には前年よりも円安水準となることが見込まれる。コアCPI上昇率は2016年度中にはプラスに転じ、2017年度入り後にはゼロ%台後半まで伸びを高めることが予想される。原油価格上昇によるエネルギー価格の上昇率は2017年後半がピークでその後は伸びが低下するが、景気回復持続に伴う需給バランスの改善や賃上げ率の上昇を背景に2018年度には1%程度まで伸びが高まるだろう。ただし、2018年度中に日本銀行が目標としている2%に達することは難しいだろう。

コアCPI上昇率は2016年度が前年比▲0.2%、2017年度が同0.7%、2018年度が同0.9%と予想する。
 
日本経済の見通し(2016年7-9月期2次QE(12/8 発表)反映後)
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2016年12月08日「Weekly エコノミスト・レター」)

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【2016~2018年度経済見通し~16年7-9月期GDP2次速報後改定】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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