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- 不確実性増す2017年の欧州-ECBの政策も弾力性が必要に
2016年10月21日
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政策金利据置き、資産買入れの期限延長議論も次回12月に先送り
APPの期限延長にあたり必要となるルールの見直し
ECBは、現在、前回9月8日の会合での決定に基づいて、関連委員会がAPPの円滑な実施のための選択肢を検討する作業を進めている。
ECBのAPPを通じた資産買入れ残高は、10月14日現在、1.3兆ユーロに達し、ECBの総資産残高は、ユーロ危機による市場の緊張の高まりで3年物長期資金供給(LTRO)が膨らんだ12年のピークを超える3.4兆ユーロに達している(図表3)。
APPの対象資産は、順次拡大され、現在は、国債やユーロ圏内に所在する国際機関や超国家機関等(以下では「国債等」と表記)を対象とするPSPP、金融機関が保有する資産を裏づけとして発行されるカバード・ボンドを買い入れるCBPP3、資産担保証券を買い入れるABSPP、社債を買い入れるCSPPの4種類のプログラムがある。
ドラギ総裁は否定するものの、買入れ対象債券の不足への懸念は根強い。4種類の資産のうち、15年3月に始まった国債等の買い入れ残高が1兆ユーロあまりと全体の8割強の圧倒的比重を占める(図表4)。しかし、国債等の買入れには、ユーロ圏が、財政統合を欠く単一通貨圏であるために、(1)ECBへの各国中央銀行の出資比率(Capital key)に応じた買い入れ、(2)1銘柄・発行体あたりの買入れは、債券を保有している投資家の多数決によって、事後的に償還期限や金利などの条件を変更できるようにする集団行動条項がついていない場合は33%(ついている場合は25%)を上限とするルールがある。また、(3)残存期間の制限(2~30年)、(4)買い入れ対象債券の利回り制限(中銀預金金利のマイナス0.4%を適用)によっても、買入れ対象の債券が絞られている。
ECBのAPPを通じた資産買入れ残高は、10月14日現在、1.3兆ユーロに達し、ECBの総資産残高は、ユーロ危機による市場の緊張の高まりで3年物長期資金供給(LTRO)が膨らんだ12年のピークを超える3.4兆ユーロに達している(図表3)。
APPの対象資産は、順次拡大され、現在は、国債やユーロ圏内に所在する国際機関や超国家機関等(以下では「国債等」と表記)を対象とするPSPP、金融機関が保有する資産を裏づけとして発行されるカバード・ボンドを買い入れるCBPP3、資産担保証券を買い入れるABSPP、社債を買い入れるCSPPの4種類のプログラムがある。
ドラギ総裁は否定するものの、買入れ対象債券の不足への懸念は根強い。4種類の資産のうち、15年3月に始まった国債等の買い入れ残高が1兆ユーロあまりと全体の8割強の圧倒的比重を占める(図表4)。しかし、国債等の買入れには、ユーロ圏が、財政統合を欠く単一通貨圏であるために、(1)ECBへの各国中央銀行の出資比率(Capital key)に応じた買い入れ、(2)1銘柄・発行体あたりの買入れは、債券を保有している投資家の多数決によって、事後的に償還期限や金利などの条件を変更できるようにする集団行動条項がついていない場合は33%(ついている場合は25%)を上限とするルールがある。また、(3)残存期間の制限(2~30年)、(4)買い入れ対象債券の利回り制限(中銀預金金利のマイナス0.4%を適用)によっても、買入れ対象の債券が絞られている。
これらの制限のうち、(1)のECBへの出資比率は基本的に経済規模に応じて決まっており、ECBはユーロ圏最大の経済であるドイツの国債等を最も多く買い入れている(図表5)。他方、ユーロ参加国の政府債務残高の名目GDP比の水準には、最も高いギリシャ(注1)から最も低いエストニアまで、ばらつきがある(図表6)。
政府債務残高の水準が低い、つまり財政が健全で格付けの高い国の場合は、PSPPによる買入れが当該国の国債市場に及ぼす影響が大きい。ドイツ国債の格付けは、オランダ、ルクセンブルクなどともに最高水準にある。ドイツの国債利回りは、英国の国民投票のEU離脱という結果が明らかになった6月24日以降、マイナス圏に沈んでいる(図表7)。
ECBのデータによれば、ユーロ圏の最高格付けの国債の場合は、中期年限までが(4)の買入れ対象債券の利回りの下限を下回っている(表紙図表参照)。
(注1)第3次支援プログラムによる財政再建に取り組んでいるギリシャは、PSPPの買い入れ対象とはなっていない。
政府債務残高の水準が低い、つまり財政が健全で格付けの高い国の場合は、PSPPによる買入れが当該国の国債市場に及ぼす影響が大きい。ドイツ国債の格付けは、オランダ、ルクセンブルクなどともに最高水準にある。ドイツの国債利回りは、英国の国民投票のEU離脱という結果が明らかになった6月24日以降、マイナス圏に沈んでいる(図表7)。
ECBのデータによれば、ユーロ圏の最高格付けの国債の場合は、中期年限までが(4)の買入れ対象債券の利回りの下限を下回っている(表紙図表参照)。
(注1)第3次支援プログラムによる財政再建に取り組んでいるギリシャは、PSPPの買い入れ対象とはなっていない。
(2016年10月21日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- ・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職
・ 2015~2024年度 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017~2024年度 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022~2024年度 Discuss Japan編集委員
・ 2022年5月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員
・ 2024年10月~ 雑誌『外交』編集委員
・ 2025年5月~ 経団連総合政策研究所特任研究主幹
伊藤 さゆりのレポート
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