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2025年10月30日

潜在成長率は変えられる-日本経済の本当の可能性

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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■要旨

日本経済のコロナ禍からの回復が欧米に比べて遅れている背景として、潜在成長率の低さが指摘されている。しかし、潜在成長率はあくまで推計値であり、推計方法や使用データによって大きく異なるうえ、需要面から決まる要素の多い現実のGDP成長率に強く影響される。実際、日本銀行推計の潜在成長率やその構成要素であるTFP上昇率は、実質GDP成長率と非常に高い相関を示している。
 
先行きの成長率によって潜在成長率がどのように変化するかをシミュレーションすると、2027年度までの実質GDP成長率が0%の場合には潜在成長率もほぼ0%となるが、2%成長の場合には潜在成長率は1%台前半まで上昇することが確認された。
 
需要面からみると、日本経済の停滞は家計消費と設備投資の低迷に起因する。設備投資低迷が投資性向の低下によるものであるのに対し、家計の消費性向は高く、消費の原資となる可処分所得の伸び悩みが消費低迷の主因である。制度部門別の可処分所得分配率は、政府部門が上昇する一方で家計部門は低下傾向が続き、2023年度には過去最低を更新した。今後は、インフレ率に応じた所得税制の見直しなどにより家計の可処分所得を恒常的に増やし、消費を喚起することが求められる。
 
現在の潜在成長率は過去の日本経済を定量的に捉えたものであり、現時点の潜在成長率を所与のものとして日本経済の将来を考える必要はない。需要の拡大を通じて現実の成長率を高めることが、日本経済が長期停滞から脱するための鍵となる。

■目次

1――はじめに
2――潜在成長率を巡る問題
  (推計方法によって異なる潜在成長率)
  (潜在成長率の寄与度分解)
  (潜在成長率はもっと低いという見方も)
  (改定される潜在成長率)
  (現実の成長率との相関が高い潜在成長率)
3――潜在成長率の先行き試算
4――需要拡大が潜在成長率を引き上げる
5――まとめ

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年10月30日「基礎研レポート」)

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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