2023年10月31日開催

パネルディスカッション

中国リスクの軽減(デリスキング)と今後の国際戦略「コメント・討論」

パネリスト
川島 真氏 東京大学大学院総合文化研究科 教授
大庭 三枝氏 神奈川大学 法学部・法学研究科 教授
伊藤 隆氏 三菱電機 執行役員経済安全保障統括室長
三尾 幸吉郎 ニッセイ基礎研究所 上席研究員
コーディネーター
伊藤 さゆり 常務理事

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2023年10月「中国をどう理解し、どう向き合うか」をテーマにニッセイ基礎研シンポジウムを開催いたしました。

東京大学大学院総合文化研究科 教授 川島 真氏をお招きして「習近平3期目の内政と対外政策:中国といかに向き合うか」をテーマに講演いただきました。
 
パネルディスカッションでは「中国リスクの軽減(デリスキング)と今後の国際戦略」をテーマに活発な議論を行っていただきました。

※ 当日資料はこちら
   
 

4――コメント

■川島 ありがとうございます。お三方から大変素晴らしいお話を頂いて、大いに啓発されました。
4―1. ASEAN諸国とデリスキングについて
まず、大庭さんのお話です。やはり今日お話のポイントというのは、ASEANと東南アジアのどちらが適切か分かりませんが、東南アジアの国々の視点で考えることの重要性、ということだと思います。当たり前のようでありながら、どうしてもアメリカがとか、中国がとかというふうにして、大国を主語にして、どうしても東南アジアの国々を客体にしてしまうわけです。東南アジアではアメリカか中国かどちらかを選ぶことを嫌う。これは企業もそうです。先進国以外の多くの国々はみんなそうです。インドネシアであればインドネシアに即して考える。だから、インドネシアならインドネシアなりに世界を見て、中国からもアメリカからも両方から取れるべきものを取るという行動をとるのは、当然なわけです。どちらを選ぶのかということにはならないのです。ここがよく日本では誤解されるところです。ですから、とても重要だと思って、伺っていました。

二つ目に、やはり米中間の貿易関係をどのように見るのかということがあります。この点について、木村先生の説と猪俣先生の説があって、今、米中間の貿易が増えているように見えているのは一時的なもので、これから減ってくると私も思っています。これだけ、ある種のデカップリング、デリスキングといわれる現象が一部の産業において現れているので、その影響は出るでしょう。

しかし、先ほど少し私も申し上げたのですが、第3国経由とか、いろいろな形態が現れているので、そうした意味で米中2国間だけを見て判断できるかわからないと思っています。第3、第4の国を交えた米中の関係性は相変わらず続くのではないかと思います。恐らく多くの企業が、ある種のリスクヘッジといいますか、まさに企業にとってのデリスキングをやりつつ、影響を最小限にする方法をそれぞれ考えていくのだろうと思います。アメリカの政府も、まさか供給先を全部調べてあげて何かやるということもできないでしょうから、そうした意味で、恐らく象徴的な製品、についてチェックするというところにとどまる可能性もあります。やはり米中が自らデカップリングという言葉を使わなくなってきたこと自身が、それを示しているのだろうと思われます。従いまして、やはり米中関係を新冷戦などと、冷戦という言葉で捉えることは、やや誤解を生むのだろうなと思うところもございます。

また最後におっしゃったAutonomyですね。大変難しい言葉遣いだなと思います。Autonomyとは何かというのは難しいところがあって、恐らく東南アジアの国々それぞれが描くAutonomyの姿が多分違うので、Autonomies、つまり複数形なのだろうなと思うところもございます。

ただ、カンボジアは中国寄りだとよく言われますが、例えば今の福島あたりの食品等々に関して、カンボジアは輸入をするわけで、何でもかんでも中国に足並みをそろえるわけではありません。そのあたりも、白黒みんながつけるわけではないわけです。やはりAutonomyについては、何がAutonomyなのかということは、より一層知りたいところです。
4―2. サプライチェーンのデリスキング
それから伊藤さんの三菱電機の話は、これまた大変勉強になるところです。やはりこれだけ多くのアイテムを全部調べ上げて、2次、3次の供給先まで全部チェックするのは無理で、だからAIによる探査等もやっていくという、大変先端的なお話で、勉強になりました。

やはり地産地消が最近中国経済でキーワードになっていることもわかりました。多くの日系企業が、多分欧米企業よりも早く地産地消を導入して、リスクを回避していると思うのですが、地産地消するからこそ生じるリスクも当然あるわけです。つまり、中国の中に入り込んでしまえば、中国企業が背負っているのとほぼ同様のリスクを背負うことになるわけです。ですから、サプライチェーンの面で、先ほどの図ではバッテンが付いていましたが、国際的なところとつながることによるリスクは回避できるけれども、中国の中に入り込むと、中国企業と同様の政治的リスクをおいます。1~2年前にソニーが6月30日にコマーシャルを出して、7月7日夜10時にある製品を発売すると言ったら、それが盧溝橋事件の始まった時間とほぼ同じだから、国家の尊厳を傷付けると言って、広告法違反になって罰金を科せられることもあったわけです。

もう一つ最後のリスクについてさまざまご説明いただき、これも大変面白いというか勉強になりました。スライドの9ページ目ですが、いろいろなリスクが考えられるとされています。あともう一つあるとすると、例えば今回の台湾の総統選挙で郭台銘さんが立候補することを示唆することによって、反民進党票が国民党との間で割れるものですから、中国が郭台銘候補に取り下げるようにし向けるべく、郭台銘が社長で、中国に進出しているホンハイに圧力をかけるといったことが起きています。それから数年前ですが、民進党に近いファーイースタン(遠東)が多額の罰金を中国政府に課せられました。これも、中国政府が台湾独立派だと認定した民進党の政治家に近いとファーイースタンが認定されたことによります。つまり、中国が進めている台湾政策に反していると考えられる台湾企業に対して、またその台湾企業が中国国内に工場を持っている場合、そこに圧力をかけていくということを中国はすでにやっているわけです。

従って、例えば今、日系企業の多くが台湾有事のさまざまなリスクの調査をしていますが、それに際しては台湾に実際軍事侵攻があった場合にどうするかという話だけに尽きるものではないはずです。むしろ「有事前」の段階で起き得るであろうリスクについても注意を払うべきです。何が起きるかというと、中国に進出している日系企業で、台湾の特定の政治家、政党と特別な関係を持っていると思われるところに圧力がかかっていくとかいうことがあり得ます。中国に進出しているからこそ、あるいは中国で多くの利益を上げているからこそ、中国政府が行い得るさまざまな圧力があり得、そこにリスクがあります。

あるいは域外適用も考慮すべきです。中国の人が海外でやった行動が有罪になることはすでにありますが、これから外国人も対象になるかもしれません。そのあたりも私は心配です。日系企業の方で、とりわけ中国に厳しい発言をしている人が、中国で事業展開をしている場合、その方の中国における財産や、その方が中国に行ったときに何かされるということが起き得るのではないかと考えたりもします。
4―3. 中国経済の歴史と展望について
それから三尾さんの話も、大変頭が整理されるご発表でした。ありがとうございます。習近平政権の経済政策をどのように判断するか、なかなか難しいところだと思います。例えば、共同富裕です。これは習近平が打ち出した新しい概念です。また、習近平は、2021年、共産党成立100周年に絶対貧困をなくすと宣言し、実現したとも言っています。

その共同富裕ですが、いわば豊かになっていく時に、共同でみんなで豊かになっていくということなのですが、やはりこれは貧富の差が非常に激しいということを自ら認めているということでもあります。実はこれから一層貧富の差は激しくなっていくというときに掲げているスローガンなのだろうと面もあるのではないかと考えられます。これからデジタルインフラ建設を進めていくわけですから、5Gであれ何であれ、デジタルのインフラ建設を進めるとすれば、あの広い国土を全体に一気にはできないわけです。どうしても大都市中心になる。そうすると、新しいデジタルインフラの恩恵を受けられる人間と、受けられない人間がわかれます。だから、保険として共同富裕というスローガンが必要となる、という考え方です。習近平自身は、元々改革開放推進派ではなく、どちらかというと社会主義イデオロギーの台頭の中で生まれた指導者ですから、それを言うのが当然のようにも思えます。

他方、やはり中国はよく社会主義市場経済だと言いますが、これは、政治は社会主義で、経済が市場経済という意味ではありません。経済においても基本的に社会主義なのだけれども、資本主義的要素を取り入れて、社会主義の段階を進めるということを言っているわけです。そういった意味では、中国共産党は従来の方針は変わっていません。

それから格差の広がるもう一つの要因は、中国では相続税を導入できないということがあります。結局、子どもへ子どもへと財産が継承されています。ものを決めている方々が一番相続税を導入したくないという根本問題があります。

それから、三尾さんも挙げられておられた政府債務ですが、問題は中央政府の債務というよりも地方債務だという点ですね。中国の中央の財政はそこまでは悪くない。問題は地方政府の財政なのだろうと思います。この結果、地方における融資平台にお金が回りにくくなっています。今、中央政府が地方に地方債を発行することを認めていますが、これがうまく回るのかという大きな問題です。地方財政問題は、先ほど申し上げたような中国東北部とか、一部地域で非常に厳しい状況に陥っています。

それから、中国の経済成長率が2%前後にだんだん落ち着いていくというのもそのとおりです。おっしゃるように、それでも先進国並みはあります。ただ、違う面から見ると、やはり経済構造が確かに先進国的になって、経済規模も巨大なわけですが、1人当たりGDPが1万ドルから2万ドルにいかないところぐらいでピークアウトすることが問題です。今現在中国のGDPは、日本の4倍ですが、人口は中国が10倍いるわけです。ですから1人当たりGDPは日本より低くなります。中国は、GDPが全体としては大きくなっていても、1人当たりGDPが台湾にも及ばない、韓国にも及ばない。東南アジアのマレーシアより少しいいか、そのぐらいでピークアウトするとなると、中国の方々にとって受け入れられるかということになります。1人当たりGDPがちゃんと伸び切らないうちに中国の経済全体の成長が止まり始める。ここに大きな問題があって、それが政権の正当性にとっても大きな痛手になる可能性があるというところだろうと思います。

以上コメントでございます。ありがとうございました。

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