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2025年11月11日

東京オフィス賃料は上昇基調が強まる。REIT市場は6カ月連続で上昇-不動産クォータリー・レビュー2025年第3四半期

金融研究部 上席研究員 吉田 資

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1.経済動向と住宅市場

11/17に公表予定の2025年7-9月期の実質GDPは前期比▲0.7%(前期比年率▲2.7%)と6四半期ぶりのマイナス成長になったと推計される1。民間消費や設備投資が小幅な増加にとどまる中、輸出と住宅投資が大きく落ち込み、外需および住宅投資だけで7-9月期の成長率を年率▲3%近く押し下げたとみる。

経済産業省によると、7-9月期の鉱工業生産指数は前期比▲0.1%と2四半期ぶりの減産となったが、均してみれば横ばいでの推移が続いている(図表-1)。業種別では、電子部品・デバイスが前期比+4.5%と3四半期連続で上昇した一方、トランプ関税の影響により米国向け輸出が落ち込んだ自動車が前期比▲3.8%となった。

ニッセイ基礎研究所は、9月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2025年度+0.7%、2026年度+0.9%を予想する(図表-2)2。2026年以降は、関税引き上げの影響が和らぐことで輸出が持ち直す中、民間消費や設備投資を中心に国内需要が増加し、潜在成長率を若干上回る年率1%程度の成長が続くと予想される。
図表-1 鉱工業生産(前期比)/図表-2 実質GDP成長率の推移(年度)
住宅市場では、住宅着工戸数の減少が続いている。

2025年9月の新設住宅着工戸数は63,570戸(前年同月比▲7.3%)と6カ月連続で減少し、7-9月累計では約18.5万戸(前年同期比▲8.9%)となった(図表-3)。建築物省エネ法および建築基準法の改正(2025年4月施行)3を前にした駆け込み需要の反動により、4月以降は大きく減少している。
図表-3 新設住宅着工戸数(全国、暦年比較)
2025年9月の首都圏のマンション新規発売戸数は1,908戸(前年同月比+4.3%)と3カ月連続で増加し、7-9月累計では5,215戸(前年同期比+28.6%)と8四半期ぶりの増加となった(図表-4)。9月の1戸当たり平均価格は9,956万円(前年同月比+28.6%)、㎡単価は146.5万円(同+27.6%)、販売在庫は5,879戸(前年比+854戸)となっている。
図表-4 首都圏のマンション新規発売戸数(暦年比較)
東日本不動産流通機構によると、2025年9月の首都圏の中古マンション成約件数は4,475件(前年同月比+46.9%)と11カ月連続で増加し、7-9月累計では12,007件(前年同期比+40.6%)と4四半期連続の増加となった(図表-5)。中古マンション市場では価格の上昇と成約件数の増加が続いている。
図表-5 首都圏の中古マンション成約件数(12カ月累計値)
また、日本不動産研究所によると、2025年8月の住宅価格指数(首都圏中古マンション)は前月比+0.9%、過去1年間では+11.3%の上昇となった(図表-6)。
図表-6 不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2.地価動向

2.地価動向

地価は、住宅地・商業地ともに上昇している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2025年第2四半期)」によると、6四半期連続で全ての地区(全国80地区)が上昇となった(図表-7)。同レポートでは、「住宅地では、利便性や住環境の優れた地区におけるマンション需要に引き続き堅調さが認められたことなどから、上昇傾向が継続。 商業地では、再開発事業の進展や国内外からの観光客の増加もあり、店舗・ホテル需要が堅調であったこと。オフィス需要も底堅く推移したことなどから、上昇傾向が継続した」としている。
図表-7 全国の地価上昇・下落地区の推移
また、野村不動産ソリューションズによると、首都圏住宅地価格の変動率(10/1時点)は前期比+1.3%(前回+0.5%)となり21四半期連続でプラスとなった(図表-8)。値上がり地点の増加(前回比+13地点)と値下がり地点の減少(前回比▲5地点)が確認され、上昇エリアの広がりがみられる。
図表-8 首都圏の住宅地価格(変動率、前期比)

3.不動産サブセクターの動向

3.不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると、2025年9月の東京都心5区の空室率は2.68%(前月比▲0.17ポイント)、平均募集賃料(月坪)は20カ月連続で上昇し、21,092円(前月比+0.3%)となった。他の主要都市でも、空室率は前年比で低下し(図表-9)、賃料についても上昇基調が継続している4
図表-9 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2025年第3四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は34,082円(前期比+11.5%)と8期連続で上昇し、空室率は1.3%(前期比▲1.0ポイント)に低下した(図表-10)。同社は、「オフィス需要は活発な状況が続き、成約に向けた話が進んでいる募集床も多く、空室率が示す以上に品薄感は強まっている。2025年第4四半期はAクラスビルの供給予定が無いことから、年末にかけて空室率の低下傾向が続く」としている。

また、日経不動産マーケット情報(2025年11月号)によると、東京ビジネス地区における大型ビルの成約賃料水準は、22エリア中17エリアで半年前と比較して5%以上上昇した。東京駅周辺の大型ビルの成約賃料水準(月坪)は3.7万円~5.5万円で、半年前から上限が2000円、下限が1000円上昇し、2024年初めから上昇トレンドが継続しているとのことである。
図表-10 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
ニッセイ基礎研究所は、東京都心部A クラスビルの賃料見通しを9月に改定した5。空室率は、良好な需給バランスを背景に2028年まで低下傾向で推移した後、2029年に上昇へ転じ3%台となる見込みである。また、成約賃料(2024 年=100)は、2025 年に「112」、2028 年に「122」、2029 年に「118」となる見通しである(図表-11)。
図表-11 東京都心部Aクラスビルの成約賃料見通し
 
4 良好な需給環境を背景にいずれの都市も賃料が上昇している。2025年9月時点の平均募集賃料は、札幌(前年同月比+3.7%)・仙台(+1.2%)・横浜(+1.8%)・名古屋(+1.8%)・大阪・(+3.4%)・福岡(+3.3%)となっている。
5 吉田資『「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2025年9月時点)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2025年09月29日)

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年11月11日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   上席研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所
     2025年7月より現職

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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