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「ブルー寄付」という選択肢-個人の寄付が果たす、資金流入の突破口
金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 高岡 和佳子
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世界銀行の報告書2によると、海洋・水資源の健全化には2030年までに少なくとも1兆ドルもの莫大な資金が必要とされているが、十分な資金が供給されていない。公的資金だけでは不十分なので、民間資金の流入が望まれるが、様々な原因で民間資金の流入が進んでいない。具体的には、ブループロジェクト3の多くが小規模プロジェクトであり、手続きやコストの面で非効率である、過去事例が少ないため効果やリスクの評価が困難であり、結果としてリスクが過大評価される一方で潜在的リターンが過小評価されやすいといった障壁がある。
金融機関が投資家(顧客)から預かった資金を運用する場合、顧客が不利益を被らないように、投資対象のリスクとリターンの評価を厳格かつ保守的に行わざるを得ないという側面がある。特に、過去のデータや成功事例が少ないブループロジェクトに対しては、その評価はより慎重になる。加えて、間接的にSDGs達成を支援したいという顧客の思いに応えるためにも、投資対象のプロジェクトが本当にSDGs達成に貢献するのかといった視点での判断も慎重にならざるを得ない。
そこで、個人が寄付という形で直接的にSDGs達成に向けた資金を供給するという別のアプローチ(以下、ブルー寄付)を検討したい。寄付は投融資とは異なり、基本的にリターン(収益)を求めない資金提供なので、リスク・リターンではなく使途の有益性や社会的インパクトが重要視される。個人が直接的に寄付するプロジェクトを選択する場合でも、寄付者の納得感を得るためには、プロジェクトの適切性、成果の可視化、適切な資金管理と透明性確保等は必要である。しかし、投資家保護ではなく公共的信頼が重視されるため、寄付者の納得感を得るための手段に技術的要件はない。寄付で多額の資金を調達することは難しいかもしれないが、ブループロジェクトの多くは小規模プロジェクトであり問題にないケースが多いだろう。
ブルー寄付を通じて、これまで資金が届きにくかったブループロジェクトの事例を積み重ねることができれば、その効果やリスクの適正な評価方法の構築にも役立ち、やがては、金融機関が投資判断を行うための客観的な根拠となり得る。ブルー寄付は、金融市場の厳格なルールを通さずに、ブループロジェクトへ資金供給できるだけでなく、ブルーファイナンスの障壁を乗り越えるための重要な触媒となる可能性を秘めているのではないだろうか。
1 SDGs 推進本部「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針改定版」(2023年12月19日)
2 World Bank. 2025. “Accelerating Blue Finance:Instruments, Case Studies, and Pathways to Scale”
3 海洋環境や生物多様性の保全(下水処理高度化を含む)、持続可能な海洋経済活動を推進する取組み
(2025年11月04日「研究員の眼」)
03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
高岡 和佳子のレポート
| 日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
|---|---|---|---|
| 2025/11/04 | 「ブルー寄付」という選択肢-個人の寄付が果たす、資金流入の突破口 | 高岡 和佳子 | 研究員の眼 |
| 2025/10/20 | ブルーファイナンスの課題-気候変動より低い関心が普及を阻む | 高岡 和佳子 | 研究員の眼 |
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