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コラム
2025年10月30日

米国で進む中間期の選挙区割り変更-26年の中間選挙を見据え、与野党の攻防が激化

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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■要旨
 
  • トランプ大統領がテキサス州に中間期の選挙区割り変更を指示し、2030年国勢調査前の異例な再編が実施された。
     
  • テキサスを契機に、共和・民主両党で区割り変更の動きが全米に拡大し、与野党の攻防が激化。
     
  • 過度なゲリマンダリングは「爆発葉巻現象」を招き、人口変化や有権者の反発で逆効果となる可能性がある。


■目次

トランプ大統領が2030年の国勢調査前の選挙区割り変更をテキサス州に指示
テキサスを発端に、両党で区割り変更の動きが拡大
共和党有利も、選挙区割り変更が「逆効果」となる可能性
 

トランプ大統領が2030年の国勢調査前の選挙区割り変更をテキサス州に指示

トランプ大統領が2030年の国勢調査前の選挙区割り変更をテキサス州に指示

米連邦下院(定数435、欠員3)では、現在与党共和党が219議席、野党民主党が213議席を占めている。このため、2026年の中間選挙で民主党が5議席を上積みすれば、共和党は過半数を失うことになる。

歴史的に見ると、1938年以降の22回の中間選挙のうち20回で、現職大統領と同じ党が下院で議席を減らしており、与党が中間選挙で敗北する傾向が強い1。トランプ大統領の支持率も、就任当初の50%超から足元では45%前後に低下している2

このため、政権内では中間選挙で下院過半数を失うことへの危機感が高まっており、トランプ大統領は2025年7月、テキサス州のアボット知事と同州議会(共和党多数)に対し、下院共和党の議席を5議席増やす目的で選挙区割りを変更するよう要請したと報道された。

これを受けて、同州議会は8月下旬に新たな区割り案を可決し、アボット知事の署名により成立した。選挙区割りの権限は州議会にあるため、与党が自党に有利な区割りを行う「ゲリマンダリング」は共和・民主両党で繰り返されてきた。ただし、通常は10年ごとの国勢調査結果を踏まえて区割りを見直すため、2030年の国勢調査前に変更するのは極めて異例である。

このような例外的なタイミングでの区割り変更は、「mid-decade redistricting」(10年周期の中間での区割り変更)と呼ばれる。一部の州では法律で明確に禁止されているものの、それ以外の州では法的制約がなく、2003年にもテキサス州で同様の変更が行われた実績がある3

テキサスを発端に、両党で区割り変更の動きが拡大

テキサスを発端に、両党で区割り変更の動きが拡大

テキサス州での変更により、民主党が下院過半数を奪取するハードルが上がったことで、民主党内にも危機感が広がった。民主党の地盤であるカリフォルニア州では、ニューサム知事が共和党から5議席を奪うことを目的とした選挙区の再編を決定。同州議会(上下両院)は8月下旬に変更案を可決した。

ただし、カリフォルニア州では通常、選挙区割りを独立した第三者委員会が担っており、州議会が直接変更するには法改正が必要である。そのため、11月4日に州民投票を実施し、議会による暫定的な区割り変更を可能とする法改正の是非を問うことになった。本稿執筆時点(10月29日)では、州民投票でこの変更が支持される可能性が高いとみられる。

一方、このような動きはテキサス州やカリフォルニア州にとどまらない。共和党基盤のミズーリ州やノースカロライナ州でも区割り変更案が可決され、さらに6州で検討が進む(図表)。これに対抗して、民主党基盤の5州でも同様の見直しを検討しており、与野党双方で区割り変更の動きが拡大している。
選挙区割りの検討状況

共和党有利も、選挙区割り変更が「逆効果」となる可能性

共和党有利も、選挙区割り変更が「逆効果」となる可能性

中間選挙を前に区割り変更が活発化する中、前回の選挙結果からは共和党基盤州における民主党勝利区が、民主党基盤州における共和党勝利区を上回っているため、変更の動きがさらに広がれば、最終的には共和党が下院で優位に立つ可能性があるとの見方もある4

しかし一方で、過剰なゲリマンダリングは「逆効果」を生む危険がある。自党が確実に勝てる区を多く作りすぎると、相手党の票が効率よく配分され、全国的に一方の党に有利な「選挙の波(wave election)」が起きた場合、逆に多数の選挙区を一気に奪われるリスクが高まる。実際、2010年代の共和党主導による区割り操作後、2018年の「ブルーウェーブ(民主党の波)」で、民主党が郊外の多くの選挙区を奪還した例がある。これは爆発葉巻現象(exploding cigar)と呼ばれる。

さらに、国勢調査を待たずに選挙区割りを変更する場合、都市化や郊外のリベラル化、世代交代などの人口動態や政治潮流の変化を誤って見積もる恐れもある。また、あからさまな党派的区割りは有権者の反発を招き、相手候補の支持率上昇や抗議投票を引き起こす可能性もあると指摘されている。したがって、当初想定した議席増加が得られる保証はない。

今後も下院で過半数を維持したい共和党と、そのような動きに対抗する民主党の選挙区割り見直しの動きは続くとみられる。一方、これまでみたように中間期の選挙区割り変更が当初想定した結果を得られる保証がないほか、政治的に有利な選挙区割りの変更が必ずしも米国政治の安定につながらない点に留意が必要である。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年10月30日「研究員の眼」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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