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2025年09月22日

若者消費の現在地(1)メリハリ消費の実態~データで読み解く20代の消費行動

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~選択と情報があふれる時代、若者はどのように消費行動を形づくっているのか?

私たちの日常は、数えきれないほどの選択にあふれている。商品やサービスは豊富にあり、情報も氾濫する中で、消費環境の最前線にいる若者たちはどのように消費行動を形づくっているのだろうか。

20代の若者は、収入が安定しているとは言い難い年代だ。社会に出て間もない人も多く、家計の余裕は決して大きくない。足元では、人手不足を背景に就職活動は売り手市場であり、大企業を中心に初任給の引き上げも相次いでいるが、物価上昇や住居費の高さなどを考慮すると、実感としてのゆとりはまだ限定的だろう。こうした環境下で、若者は「ただ節約する」のではなく、「ここには積極的に投資する」「ここは抑える」という明確なメリハリを持った消費行動を展開しているのではないだろうか。

本レポートシリーズ「若者消費の現在地~データで読み解く20代の消費行動」では、2025年6月に1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に住む20代を対象に実施したインターネット調査1の結果を基に、現代の若者の消費行動を4回にわたって多角的に分析していく。

第1回となる今回は、若者がどのようなジャンルにお金をかけ、どのようなジャンルを抑えようとしているのか、メリハリある消費の実態を明らかにする。この調査を通じて、若者が限られた予算の中でどのような消費の優先順位をつけているのか、その実態を探っていきたい。

なお、第2回では「選ばない消費(他者の影響が大きな消費)」の構造を、第3回では「選びたい消費」のこだわりを、第4回では「推し活とライフスタイルの変化」を取り上げる予定である。

1都3県を調査対象とした理由は、生活インフラや消費環境が整っており、全国の中でもトレンド感度が高い消費者層として、現代の特徴的な消費行動を把握しやすいと考えたためである。都市部の若者の消費行動は、今後の消費動向を読み解く上でも重要な示唆を含んでいると考える。
 
1 「若者の消費行動に関する調査」、調査時期は2025年6月、調査対象は1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に住む20代、インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用、有効回答数318、基本属性は性別は男性50.9%、女性49.1%、年齢は20~24歳48.7%、25~29歳51.3%、属性の詳細は付表参照。

2――お金をかけている消費ジャンル

2――お金をかけている消費ジャンル~体験・関係性重視の消費スタイルと属性別の特徴

1|全体の傾向~体験・関係性重視の消費スタイル、推し活と貯蓄・投資が同レベル
まず、若者が日頃、優先的にお金をかけている消費ジャンルをたずねた結果(最大3つまで選択可能)を見ると、最も多いのは「趣味(音楽、映画、ゲーム、読書、創作活動、サブスク、アプリ課金など)」(36.2%)で、次いで「日々の食事(自炊・食材の購入など)」(31.4%)、「外食・テイクアウト・デリバリー」(26.1%)、「旅行」(20.1%)、「美容(スキンケア、ヘアケア、エステなど)」(19.2%)、「交際費(飲み会、プレゼント、デートなど)」(18.9%)、「推し活(アイドル、アニメ、俳優、VTuberなど「推し」への支出)」(18.6%)、「貯蓄・投資」(17.3%)までが約2割で続いた(図表1)。

この結果からは、若者がまず自分自身の楽しみや興味関心を追求する領域に消費を優先させている様子がうかがえる。趣味が最上位に位置している点は象徴的であり、限られた予算の中でも「自分の充実感」を最優先にする姿勢が見て取れる。また、「旅行」「美容」「交際費」「推し活」といったジャンルも上位に入っているが、これらはいずれも“体験”や“つながり”を重視した消費である。単なるモノの購入ではなく、自己表現や人間関係の形成といった側面を伴っている点に特徴がある。

こうした傾向は、従来の「モノ消費」よりも「コト(サービス)消費」を優先する若者の消費スタイルを示している。デジタル化の進展や価値観の多様化を背景に、若い世代ほど体験や関係性に価値を見出す傾向は定着しており、今回の調査結果もそれを裏付けている。

さらに、「貯蓄・投資」の選択割合が比較的高いことも注目に値する。金額ベースで見れば必ずしも大きくはないかもしれないが、将来不安や資産形成への関心が他の消費行動と同等に高いことを示している。特に、交際費や推し活といった「楽しみの消費」と並列に選ばれている点に、この世代らしいバランス感覚があると言えるだろう。
図表1 日頃、優先的にお金をかけている消費ジャンル(複数回答、最大3つまで)
2|属性別の傾向~性別や職業、ライフステージが映し出す選択の違い
次に、属性別の傾向を見ると、消費ジャンルの選択には世代共通の特徴に加え、男女差や職業、ライフステージによる違いがあることが分かる(図表1(b))。

男性は「趣味」(43.2%、全体より+7.0%pt)や「貯蓄・投資」(22.8%、同+5.5%pt)が全体より高い一方、女性は「美容」(34.0%、同+14.8%pt)や「推し活」(25.6%、同+7.0%pt)、「交際費」(24.4%、同+5.5%pt)など自己投資や交流につながるジャンルが高くなっている。

未婚者は既婚者と比べて「趣味」や「推し活」など余暇や娯楽に偏りやすいのに対し、既婚者では「日々の食事」(60.0%、同+28.6%pt)や「住居・家具・インテリア」(6.7%、同+2.9%pt)といった生活基盤への支出が高まる傾向がある。子の有無によっても差があり、子がいる場合(参考値)は基礎的支出に重点を置く一方、子がいない場合は余暇や娯楽への支出が高い。

職業別に見ても、違いは鮮明である。公務員・会社員では「日々の食事」(37.9%、同+6.5%pt)や「貯蓄・投資」(23.0%、同+5.7%pt)が高く、自立して生計を支える立場ゆえに生活維持や将来設計を重視する傾向が強い様子が読み取れる。その結果、「趣味」(29.8%、同▲6.4%pt)は全体より少なく、娯楽的消費には相対的に抑制的である。

一方、パート・アルバイトでは「趣味」(56.3%、同+20.1%pt)や「推し活」(31.3%、同+12.7%pt)、「日々の食事」(40.6%、同+9.2%pt)、「外食・テイクアウト・デリバリー」(31.3%、同+5.2%pt)が高く、限られた収入を日常の楽しみや感情的な充足につなげている姿が浮かび上がる。専業主婦・主夫・無職・その他の層でも「推し活」(29.7%、同+11.1%pt)が高く、生活の制約がある中で推し活は重要な楽しみの拠り所となっている様子が読み取れる。

学生は「交際費」(29.1%、同+10.2%pt)が高く、友人や仲間との交流に積極的であることが特徴的だ。

個人年収別に見ると、200~400万円未満では「旅行」(25.6%、同+5.5%pt)や「ファッション」(19.5%、同+6.0%pt)が高く、自分の楽しみや外見への投資が目立つ。他方、400~600万円未満では「貯蓄・投資」(31.9%、同+14.6%pt)や「健康」(12.8%、同+7.5%pt)が高く、一定の安定収入を得る段階で将来への備えを意識する姿勢がうかがえる。ただし、この階層には男性や既婚、会社員・公務員が多いことから、年収そのものよりも性別やライフステージ要因の影響が強いと考えられる。

以上の結果からは、同じ20代でも置かれた環境や立場によって消費の優先順位が異なることが分かる。とりわけ、性別や職業、ライフステージといった要因が消費行動に強く影響しており、年収の多寡よりも生活のあり方や人間関係の位置づけが優先されている点が特徴的である。すなわち、20代の消費は「いくら稼いでいるか」よりも「どのように暮らしを組み立てているか」によって形づくられていると考えられる。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月22日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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