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コラム
2025年09月16日

外国人問題が争点化した背景-取り残されたと憤る層を包摂する政策を

総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也

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3――排外主義ではなく、包摂の拡大

[図表9]外国生まれ人口の割合(2024年) 1|国際的な潮流の日本への波及
外国人政策は、欧米でも政治的なイシューとなっている。例えば、米国におけるトランプ政権の誕生、フランスにおける国民連合(RN)の躍進、ドイツにおける極右政党ドイツのための選択肢(AfD)の支持拡大などである。これらは、格差拡大や生活実感の悪化が既存政治への批判につながり、それが大量に流入してくる移民への不安や不満と結びついて、排外主義を掲げるポピュリズム政党が支持を集めた事例である。

ただ、日本の場合、外国人人口が総人口に占める割合は2.8%と、先の事例にあった米国の15.2%、フランスの13.8%、ドイツの19.8%と比べれば、まだ低いと言える水準にある[図表9]。ストックで見る限りでは、外国人の存在が日本で決定的に大きな影響を及ぼしているとまでは言い難い。それでもフローで見れば、日本で暮らす在留外国人数は3年連続10%超で増えている。この急激な増加が、外国人に対する不安感を高めているということは考えられる。
2|外国人なしに回らない日本社会の現実
一方で、日本が置かれた現実は、よりシビアである。すでに日本は少子高齢化で人口減少が進み、社会の支え手である労働人口の縮小という供給面の制約に直面している。厚生労働省の推計によれば、2040年時点で介護職員は57万人不足し、厚労省の需要推計などから一定の仮定をおいて推計すると、看護職員も45万人ほど不足することが見込まれる。これらの人材は、高度なコミュニケーションや、精緻かつ非定型な作業が必要となるため、AI(人工知能)やロボットによる置き換えが容易ではない。社会保障制度は、人繰りの面で危機的な状況にあり、人材確保が喫緊の課題となっている。また、便利な生活の代名詞でもあるコンビニでは、外国人の存在なしに24時間営業を維持できなくなり、地域社会と密接に関わるタクシーやラストワンマイルを支える物流でも、増加する需要に追い付かない事態が生じている。現実問題として、外国人の力に頼らざるを得ない面は強く、安易な排外主義に陥れば、日本の将来に大きな支障を来しかねない。
3|外国人政策の重点は適正化にシフト
参院選の結果を踏まえた国会の議席状況から考えると、国内の外国人政策はしばらく厳格化する流れとなる。実際、今年5月には、2030年までに退去強制が確定した外国人数の半減を目指す「不法滞在者ゼロプラン2」が発表され、参院選後には特定技能以外の在留資格でも受け入れ上限を設けることに加えて、外国人の不動産取得や投機を規制する法案提出も検討されている。選挙期間中には、「外国人は相続税を払っていない」「生活保護受給者の3分の1は外国人」など、事実に基づかない議論も多くあったが、現在の外国人政策が「対症療法的で、統一方針がない」といった問題3があることも事実であり、それらの問題が適正化していくこと自体は望ましい流れと言える。

ここでの問題は、本格的に排外主義と結びついて、日本が内向きにクローズしてしまったとの印象を世界に与えないことだろう。そのためには、今回の動きは外国人政策の適正化であり、いま適法に在留・就労する外国人の権利や生活には、不当な影響を与えないことを明確に打ち出すことが必要である。曖昧さは不安につながる。明確な定義のもとで今後検討されていく措置が、外国人と日本社会との摩擦を減らすものであることを、しっかり説明していく必要がある。
 
2 正式名称は、国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン。不法滞在者とは「退去強制が確定した外国人のうち、令和五年改正入管法の例外として送還が可能となった者や重大な犯罪者など」と定義されている。
3 法務大臣勉強会「外国人の受入れの基本的な在り方の検討のための論点整理」(2025年8月)
[図表10]所得金額階級別世帯数の相対分布 4|分断を回避する仕組みの構築
同時に、社会の分断の目を摘む努力も必要である。今般の参院選で外国人問題が争点化した背景には、不満の発露という面もあったと思われる。現在の日本の世帯所得分布をみると、低所得世帯に属する年収200万円未満の世帯が約21.1%、その上に下位中間層に属する200万円以上400万円以下の世帯が約27.5%存在する[図表10]。

日本の分配政策は、低所得世帯は住民税非課税世帯として様々な支援策の対象となる一方、下位中間層はその支援対象からは外れるため、負担が急激に重くなり取り残されやすい。国内の分断を回避するには、低所得世帯や外国人が抱える問題に目を向けるだけでなく、下位中間層も包摂する仕組みを作っていく必要がある。そのためには、税・財政・社会保障の一体改革は、重要な課題として前に進める必要がある。支援策の段差をなくす給付付き税額控除や、現役世代に偏る負担構造の見直しなど、国民的な議論のもとで課題の解決に取り組む必要があるのではないだろうか。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月16日「研究員の眼」)

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総合政策研究部   准主任研究員

鈴木 智也 (すずき ともや)

研究・専門分野
経済産業政策、金融

経歴
  • 【職歴】
     2011年 日本生命保険相互会社入社
     2017年 日本経済研究センター派遣
     2018年 ニッセイ基礎研究所へ
     2021年より現職
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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