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外国人問題が争点化した背景-取り残されたと憤る層を包摂する政策を

総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也
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1――参院選で争点化した外国人問題
ただ、外国人問題がここまで注目されるようになったのは、単に政党間の主張が激しくぶつかったことだけが要因ではない。有権者の関心がこの問題に向かわなければ、原発政策や夫婦別姓など、他の論点と同じく埋もれることになったはずだ。
そこで本稿では、今回の参院選で外国人問題に注目が集まった背景について整理し、政策的にこれから対処していくべき課題について考察する。
2――外国人問題が過熱した背景
ただ、有権者の関心が、どのような経路を辿って外国人問題に向かっていったのか、それを類推することはできる。例えば、国民的な合意形成のないまま進む政策があり、物価高騰で国民生活が苦しくなり将来不安が高まる中で、表面化し始めた政策上の課題に国民の不満が向けられたと、整理することもできるのではないだろうか。
日本の外国人政策は、短期・ローテーション型の受け入れから長期・定着型の受け入れへと変わってきている。その政策転換の流れを決定づけたのは、本格的な外国人労働者の受け入れ拡大を決めた2018年の入管法改正(出入国管理及び難民認定法改正)であったと思われる。この改正では、アベミクスで経済が浮揚する中、深刻化する人手不足対策として、建設・造船など14業種(2025年時点で16業種)における外国人労働者の受け入れを決めた。その際に創設された特定技能制度では、2号資格において在留期間の制限をなくし(更新可能)、有為な外国人材を本格的に定着させる方向へと政策の舵を切っている。
ただ、当時の世論調査をみると、経済的な必要性から外国人労働者の受け入れ拡大を容認する層と、外国人の急増で地域住民との摩擦が生じることを懸念する層の間で賛否が拮抗し、世論が2分された状態が確認される[図表1上]。この状況は、直近の世論調査でも大きく変わっていない。今回の参院選前後の世論調査を見ると、朝日新聞の結果にみられるように労働者としての側面では肯定的に受け止められる一方、生活者としての側面を含む、外国人との包括的な設問の立て方を採った読売新聞や日経新聞の結果をみると、賛否が拮抗している様子を確認できる[図表1下]。
これらの結果を踏まえれば、外国人の受け入れに賛成か・反対かの二元論で語る場合には、潜在的に議論が過熱しやすいという状況があったと言える。
今回の参院選では、国民民主党と参政党が現役世代の支持を背景に勢力を伸ばしている1。とりわけ、国民民主党は30代以下の若い世代からの支持が厚く、参政党は若い世代に加えて、40代・50代の壮年層にも支持が広がっている。選挙戦では、いずれの政党も外国人に対して規制強化を掲げ、国民民主党は「外国人に対して適用される諸制度の運用の適正化」を訴え、参政党は「日本人ファースト」を掲げて、外国人の受け入れに批判的な立場を取ってきた。
こうした不安や不満が、住宅取得や雇用獲得で潜在的に競合相手となり得る外国人と結びつき、反発や不安が強まって行ったとみることができる。
1 日経新聞「参政党を壮年層が支持、国民民主党は若者中心 参院選出口調査から」(2025年7月27日)
ここ最近、外国人の存在感は、以前より遥かに高まっている。2024年12月時点で日本に暮らす在留外国人は約377万人であり、同10月時点の外国人労働者数は約230万人、2024年の訪日外客数は約3,687万人と、いずれも過去最高を更新している[図表7]。2010年時点と比較すると、在留外国人は約1.7倍、外国人労働者は約3.5倍、訪日外客数は約4.3倍に増えている。
外国人は日本経済にとって、生活者としては内需拡大、労働者としては人手不足の緩和、訪日客としてはサービス消費の拡大などに貢献する。その一方で、外国人が急増している地域社会や観光地といった現場では、受け入れ態勢の整備が追い付かず、様々な問題も顕在化しつつある。
例えば、観光客が地域の受け入れ能力を超えて流入するオーバーツーリズムの問題は、インバウンド需要の拡大と共に大きくなっている。実際、オーバーツーリズムに関する報道量は、コロナ禍後の訪日外客数の回復と重なるように増加している[図表8]。さらに、外国人技能実習生が関わる事件も立て続けに起き、外国人に関する問題が認識されやすい状況があったことも事実である。
(2025年09月16日「研究員の眼」)

03-3512-1790
- 【職歴】
2011年 日本生命保険相互会社入社
2017年 日本経済研究センター派遣
2018年 ニッセイ基礎研究所へ
2021年より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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