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2025年09月16日

男性の育休取得の現状(2024年度)-過去最高の40.5%へ、産後パパ育休で「すそ野拡大」効果も

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――民間企業勤務の男性の育休取得率~2024年度調査は初の4割超、前年より10ポイント上昇

図表1 育児休業取得率(民間企業) 厚生労働省「令和6年度雇用均等基本調査」によると、2022年10月1日から2023年9月30日までの1年間における民間企業勤務の男性の育児休業取得率は40.5%となり、初めて4割台に到達した(図表1)。前年度(2023年度30.1%)から10.4%pt上昇しており、上昇幅の大きさが際立つ。なお、2023年度も前年度と比べて13%pt上昇しており、男性の育休取得率は2年連続で急激な伸びを示している。

この背景には、2022年10月に創設された「出生時育児休業制度(産後パパ育休)1」の浸透がある。近年の働き方改革の推進により男性の育休取得は徐々に進んできたが、制度の柔軟化により取得のハードルが大きく下がり、企業・従業員双方にとって利用しやすい環境が整ったことが追い風となっている。2024年度調査では、産後パパ育休を取得した割合は24.5%であり、男性育休取得者全体の60.6%を占める。

一方、女性の取得率は86.6%に達しており、依然として男女差は大きい。ただし、男性の育休取得率の上昇ペースを踏まえると、この差は着実に縮小しつつある。データからは、男性の育休取得が変化の潮目を迎え、「男性も育児に参加する」という価値観が社会に根付きつつある様子が伺える。

政府は男性の育休取得率を2025年度に50%、2030年度に85%とする目標を掲げている。この実現に向けて、企業に対する男性の育休取得状況の公表義務を段階的に拡大している。2023年4月から従業員数1,000名以上の企業が対象となり、2025年4月からは300名以上に拡大されている。さらに、100名以上の企業については、男性育休取得率等の数値目標の設定が義務付けられる。

本稿では、このような環境変化を踏まえ、厚生労働省「雇用均等基本調査」等を用いて、民間企業の男性の育休取得状況について産業や事業所規模等の違いに注目しながら分析する。
 
1 男性が従来の育休に加えて、子の出生後8週間以内に4週間まで2回に分割して取得可能。2週間前までに申し出ればよく(従来は1ヵ月前)、休業中も一定の範囲で就業可能であるなど柔軟な仕組み。同時期に従来の育児休業制度も改正され、育休を2回に分割可能となった。

2――産業別・事業所規模別の育休取得率

2――産業別・事業所規模別の育休取得率~制度浸透の加速と業種間格差、政策効果の波及に差

1産業別の状況~金融・IT等で継続的な高水準、産後パパ育休が「すそ野拡大」に貢献
産業別に2024年度の男性の育休取得率を見ると、首位は「鉱業,採石業,砂利採取業」(67.7%、2023年度より+42.6%pt)となり、次いで「金融業,保険業」(63.6%、同+19.8%pt)、「学術研究,専門・技術サービス業」(60.7%、同+17.9%pt)、「情報通信業」(58.1%、同+20.1%pt)までが5割を超えて続く(図表2・3)。直近5年ほどを振り返ると、「金融業,保険業」と「学術研究,専門・技術サービス業」、「情報通信業」は安定して上位に位置している(図表4)。

全16業種中11業種で育休取得率が上昇し、8業種では10%pt以上の大幅な上昇を示している。特に「鉱業,採石業,砂利採取業」の上昇が目立つほか、「情報通信業」や「金融業,保険業」、「製造業」(48.7%、+18.5%pt)、「医療,福祉」(31.7%、+18.0%pt)、「学術研究,専門・技術サービス業」でも2割前後の上昇となっている。背景には、前述の「産後パパ育休」の本格的な活用や、男性育休取得状況の公表義務化が企業の取り組みを加速させたことがあると考えられる。
図表2 産業別・男女別に見た育児休業取得率(民間企業、2024年度)
図表3 産業別・性別に見た2024年度の育児休業取得率(%)の順位および2023年度と比べた変化(民間企業)
図表4 産業別に見た男性の育児休業取得率の推移(民間企業)
産業別に男性の育休取得者のうち「産後パパ育休」を取得した割合を見ると、育休取得率の高さと必ずしも比例しない(図表5)。確かに育休取得率の高い「金融業,保険業」(73.9%)では取得者の7割超が「産後パパ育休」を利用しているが、その他の上位産業では半数程度にとどまる。一方で、育休取得率が相対的に低い「不動産業,物品賃貸業」(85.4%)や、平均程度の「複合サービス事業」(81.6%)では8割を超えている。これは、「産後パパ育休」制度の柔軟性(短期・分割取得や部分就業が可能)が、従来育休を取得が難しかった業種や職種でハードルを下げる効果を発揮していることを示唆しており、制度改正の狙い通り「育休のすそ野拡大」が進んでいると評価できる。

一方、2024年度に男性の育休取得率が3割を下回ったのは「生活関連サービス業,娯楽業」(15.8%、▲39.5%)、「不動産業,物品賃貸業」(19.9%、同+3.0%)、「教育,学習支援業」(23.5%、同▲0.6%)、「卸売業,小売業」(29.9%、+9.7%)である。特に「生活関連サービス業,娯楽業」は前年度に55.3%で首位であったにもかかわらず、大幅に低下した。この急激な変化には統計上の変動要因の可能性もあるが、調査期間(2022年10月~2023年9月)がコロナ禍収束による消費行動の平常化と重なっていることも影響している可能性がある。旅行・レジャー需要などの急回復により業界全体が人手不足に直面し、育休取得を申し出にくい状況が生まれた可能性も考えられる。こうした一時的要因に加えて、サービス業特有の繁忙期の不規則性や顧客対応の必要性といった構造的な業務特性と合わせて、継続的な注視が必要である。
図表5 産業別・産後パパ育休取得有無別に見た男性の育児休業取得率(民間企業、2024年度)
その他の低取得率業種については従来から制度利用が進みにくい傾向が見られるが、「卸売業,小売業」では前年度から約10ポイント上昇しており、制度浸透の兆しも見える。これらの業種では人手不足や不規則な勤務体系、パート・アルバイトなど多様な雇用形態の存在が制度周知や環境整備の課題となっているが、徐々に改善の動きも広がりつつあるようだ。

なお、既出レポート等2でも、男性の育休取得率が高い産業は共通点があると指摘している。(1)ダイバーシティ経営の強化に向けて戦略的に男性の育休取得を促進している企業が多いこと、(2)育休等の両立支援制度を利用しやすい正規雇用者が比較的多いこと、(3)職場に女性が多いために従来から比較的制度環境等が整っている、あるいは利用しやすい雰囲気があること、(4)裁量労働制やフレックスタイム制など柔軟な勤務制度が浸透し、業務における個人の裁量の幅が比較的大きいこと、などである。

こうした要因を踏まえると、継続的に上位を占める「金融業,保険業」「学術研究,専門・技術サービス業」「情報通信業」などは、組織的な取り組みと業務特性の両面で男性育休を取得しやすい環境が整っていると考えられる。一方、相対的に取得率の低い業種では、こうした環境整備が今後の重要な課題となるだろう。

女性の育休取得率を見ると、いずれの業種でも男性と比べて格段に高く、2024年度では全16業種中12業種で8割、6業種で9割を超えている。一方、8割を下回るのは「宿泊業,飲食サービス業」(57.3%、同▲11.8%pt)、「鉱業,採石業,砂利採取業」(63.2%、同▲36.8%pt)、「建設業」(66.9%、同▲22.1%pt)、「運輸業,郵便業」(77.5%、同▲12.3%pt)である。

「宿泊業,飲食サービス業」や「運輸業,郵便業」では、男性でも育休取得率が比較的低く、その背景には、パート・アルバイトなどの非正規雇用者の多さや人手不足があげられる。総務省「労働力調査(2024年)」によると、雇用者のうち非正規の割合は、全体では男性20.8%、女性51.0%だが、「宿泊業,飲食サービス業」では男性48.0%(全体より+27.8%pt)、女性75.7%(同+24.7%pt)、「卸売業,小売業」では男性25.5%(同+4.7%pt)、女性55.3%(同+2.3%pt)である。非正規雇用者も「子が1歳6か月までの間に契約満了することが明らかでない」場合は育休を取得可能だが、正規雇用者と比べると利用しにくい雰囲気や制度周知の徹底に課題があると考えられる。

さらに、「宿泊業,飲食サービス業」では、コロナ禍の収束以降に消費行動が平常化し、インバウンド需要も一層増す中で、人手不足により休業を申し出にくい状況も続いている可能性がある。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月16日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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