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2025年08月18日

2025・2026年度経済見通し(25年8月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は2024年12月以降、前年比3%台で推移している。食料の上昇ペース加速を主因として2025年5月には3.7%まで伸びを高めた後、エネルギー価格の上昇率が大きく鈍化したことから6月には同3.3%まで伸びが低下した。

電気・都市ガス代の支援策は2023年1月以降、断続的(2023年1月~2024年5月使用分、2024年8~10月使用分、2025年1~3月使用分、7~9月使用分)に実施されているが、値引き額は縮小傾向にある。また、ガソリン、灯油等の「燃料油価格激変緩和対策」は、2022年1月から制度を変更しながら継続しており、現在は1リットル10円の定額に加え、ガソリン価格(レギュラー)が1リットル175円を超える部分について10/10の補助を行う仕組みとなっている。

政府は、ガソリン補助金は暫定税率の扱いについて結論を得て実施するまでの間、定額の価格引き下げ措置を実施するとしていた。7/30に与野党6党はガソリン税の暫定税率を年内に廃止することで合意し、8/1には野党7党が廃止時期を11月1日とする法案を衆議院に提出した。現在、ガソリン税の暫定税率分は1リットル25.1円となっている。暫定税率が廃止されると、ガソリン価格は27.61円(25.1円+消費税分)低下する。ただし、現状では1リットルあたり約10円の補助金(消費税分を含むと11円)が出されているため、暫定税率廃止と同時に補助金を終了すすると、差し引き16.61円(27.61円-11円)の値下げとなる。足もとのガソリン価格は170円台半ばだが、暫定税率の廃止によって150円台後半まで低下し、コアCPIは▲0.2%ポイント程度押し下げられる。

今回の見通しでは、暫定税率廃止前のガソリンの買い控えや、反動による需要の急増などの混乱を防ぐために補助金を段階的に引き上げた上で、11月にガソリンの暫定税率を廃止することを想定した。
物価高対策(エネルギー関連)による消費者物価への影響 エネルギー関連の物価高対策は2023年10-12月期まではコアCPI上昇率の押し下げ要因となっていたが、2024年1-3月期以降は押し上げ要因となっている。ガソリンの暫定税率の廃止によってコアCPIの水準は押し下げられるものの、前年比でみた押し下げ幅は限定的である。

エネルギー関連の物価高対策によるコアCPI上昇率への影響を年度ベースでみると、2022年度(▲0.6%程度)、2023年度(▲0.4%程度)は押し下げ要因となっていたが、2024年度(0.5%程度)、2025年度(0.3%程度)に押し上げ要因となった後、2026年度(▲0.0%程度)はほぼニュートラルになると予想している。
食料品(生鮮食品を除く)は2023年8月の前年比9.2%をピークに2024年7月には同2.6%まで鈍化したが、その後は輸入物価の再上昇に米価格の高騰が加わったことから再び上昇率が高まり、2025年6月には同8.2%となった。

川上段階(輸入物価)の食料品価格の上昇率は2023年夏頃に比べれば低水準にとどまっているが、川下段階(消費者物価)の価格転嫁率は高まっている。飲食料品の輸入物価は2020年秋頃から2023年末にかけて約60%の急上昇となった。この間、消費者物価の食料品(除く生鮮食品)の上昇率は10%弱にとどまっていた。これに対し、2023年初以降の飲食料品の輸入物価上昇率はピーク時でも15%程度と前回の上昇局面の4分の1程度にとどまっているが、消費者物価の食料品は15%程度と輸入物価とほぼ等しい上昇率となっている。人件費や物流費の価格転嫁に加え、物価高が継続したことで企業の値上げに対する抵抗感が薄れていることがこの背景にあると考えられる。

一方、帝国データバンクの「食品主要195社価格動向調査」によれば、2025年の飲食料品の値上げ品目数は2024年を上回るペースで増加しているが、先行き3ヵ月の値上げ品目数の増加ペースは頭打ちとなる兆しも見られる。消費者物価指数の食料の上昇率は当面高止まりするものの、2025年度後半にかけて伸び率は頭打ちとなることが見込まれる。
高まる食料(除く生鮮食品)の価格転嫁率/飲食料品の値上げ品目数と消費者物価
サービス価格は2023年後半以降、2%台前半の伸びが続いていたが、2024年度入り後は1%台半ばまで伸びが鈍化している。サービス価格の内訳をみると、家賃を除くサービスは2023年末頃の前年比3%台後半をピークに伸びは鈍化しているが、2%台の伸びを維持している。

一方、サービスの4割弱を占める家賃は、前年比0%台前半の推移が続いており、サービス価格全体の伸びを抑制している。ただし、東京都区部の家賃は住宅価格高騰などの影響から、コロナ禍の前年比0%から徐々に上昇率を高め、年度替わりの2025年4月には前年比1.3%と前月から上昇率が0.5ポイントの急拡大となった。消費者物価指数の家賃を都市階級別にみると、小都市B・町村(人口5万未満の市及び町村)は前年比でマイナス、小都市A(人口5万以上15万未満の市)、中都市(大都市以外の人口15万以上100万未満の市)は前年比0%台前半となっているが、大都市(政令指定都市及び東京都区部)は前年比0%台後半まで伸びを高めている。人口減少が顕著な地方では家賃の伸び悩みが続く公算が大きいが、大都市圏を中心に全国の家賃も徐々に上昇率を高めることが予想される。
家賃(全国、東京都区部)の推移/都市階級別・家賃の推移
サービス価格の動向を大きく左右する人件費は、高水準の賃上げを背景に増加が続くことが見込まれる。人件費や物流費を価格転嫁する動きが続くことから、サービス価格の上昇ペースは再び加速する可能性が高い。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 コアCPI上昇率は、電気・都市ガス代の支援策の影響で2025年7-9月期に3%を割り込んだ後、ガソリンの暫定税率が廃止される2025年末にかけて2%台前半まで鈍化するだろう。賃上げに伴うサービス価格の上昇を円高による財価格の上昇率鈍化が打ち消す形でコアCPI上昇率が日銀の物価目標である2%を割り込むのは2026年入り後と予想する。

コアCPIは、2024年度の前年比2.7%の後、2025年度が同2.7%、2026年度が同1.6%、コアコアCPI(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)は2024年度の前年比2.3%の後、2025年度が3.0%、2026年度が2.0%と予想する。
日本経済の見通し(2025年4-6月期1次QE(8/15発表)反映後)
米国経済の見通し
欧州(ユーロ圏)経済の見通し

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
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(2025年08月18日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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