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2025年08月18日

2025・2026年度経済見通し(25年8月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.2025年4-6月期は前期比年率1.0%のプラス成長

2025年4-6月期の実質GDPは、前期比0.3%(前期比年率1.0%)と5四半期連続のプラス成長となった。

国内需要は前期比▲0.1%の減少となったが、トランプ関税下でも輸出が前期比2.0%の増加、外需が前期比・寄与度0.3%のプラスとなり、内需の低迷をカバーした。

高水準の企業収益を背景に設備投資が前期比1.3%の高い伸びとなり、民間消費も同0.2%と増加を続けたが、民間在庫変動が前期比・寄与度▲0.3%の大幅マイナスとなったため、国内民間需要は前期比0.0%の横ばいにとどまった。公的需要は、政府消費が前期比0.0%の横ばい、公的固定資本形成が同▲0.5%の減少となり、前期比▲0.3%と3四半期連続で減少した。
 
2025年4-6月期のGDP1次速報と同時に、基礎統計の改定や季節調整のかけ直しなどから、成長率が過去に遡って改定された。2025年1-3月期の実質GDP成長率は民間消費の上方修正などから、前期比年率▲0.2%のマイナス成長から同0.6%のプラス成長へ上方修正された。この結果、実質GDPは2024年4-6月期から5四半期連続のプラス成長となった。
(関税引き上げ後も米国向け輸出数量は横ばい圏で踏みとどまる)
米国の関税引き上げ後の経済動向が徐々に明らかとなっているが、現時点でその影響は限定的にとどまっている。財務省の「貿易統計」によれば、2025年4-6月期の米国向け輸出数量指数(ニッセイ基礎研究所による季節調整値)は前期比0.4%となった。トランプ関税下でも米国向け輸出は数量ベースでは横ばい圏で踏みとどまっている。

4月から25%の追加関税が課せられている米国向け自動車輸出(金額)は4月に前年比▲4.8%と4ヵ月ぶりの減少となった後、5、6月は前年比で▲20%台の大幅減少となった。輸出数量は横ばい圏の動きとなっているが、輸出価格が大幅に低下したことが輸出金額の大幅減少につながっている。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移/米国向け自動車輸出の推移
貿易統計の輸出価格指数は円ベースのため、為替変動の影響が含まれるが、日本銀行の「企業物価指数」では、契約通貨ベースと円ベースの輸出物価指数が公表されている。米国向け自動車の輸出物価指数を契約通貨ベースでみると、3月の前年比▲1.5%から4月に同▲8.1%と低下幅が急拡大した後、5月以降は前年比で▲20%近いマイナスとなっている。

一方、財務省の「貿易統計」、日本銀行の「企業物価指数」をもとに、自動車以外の米国向け輸出物価指数を試算すると、円高の影響で円ベースでは低下しているものの、契約通貨ベースでは前年比でほぼ横ばいとなっている。
輸出物価(米国向け自動車)の推移/輸出物価(米国向け、自動車以外)の推移
米国向け輸出数量の推移 関税引き上げによる輸出への影響は、価格競争力低下に伴う数量の減少と数量の落ち込みを緩和するための輸出企業の価格引き下げに分けられる。米国向け自動車輸出は価格の大幅な引き下げによって数量ベースの落ち込みは避けられている。米国に輸出する自動車は日本の海外子会社が米国で販売しているケースが多い。米国でのシェアを維持するために、日本の親会社が関税引き上げ分のコストを負担していることが推察される。

自動車以外の米国向け輸出は契約通貨ベースで価格の引き下げを行っていないが、輸出数量は横ばい圏で推移している。これは、米国で関税引き上げ分の価格転嫁が本格化していないことから、米国の国内生産財に対する日本の輸出財の相対価格上昇が顕在化していないためと考えられる。
(関税引き上げの影響は今後顕在化する見込み)
しかし、先行きについては、米国で関税の価格転嫁が徐々に進むことが見込まれ、日本の価格競争力低下は避けられないだろう。また、自動車は輸出価格の大幅な引き下げによって輸出数量の落ち込みは緩和されているが、このことは国内の企業収益の悪化をもたらしている。実際、日銀短観2025年6月調査では、自動車の2025年度の経常利益計画が前回(3月)調査から▲24.9%の大幅下方修正となり、前年度比▲23.4%の大幅減益計画となった。輸出の伸びが若干下方修正されたことに加え、売上高経常利益率が前回調査から▲3.05ポイントの大幅悪化となったことが経常利益を大きく下押しした。輸出価格の引き下げが利益率悪化の主因と考えられる。
日銀短観の売上・収益計画 収益の大幅悪化を伴う値下げによるシェアの維持には限界があり、日本の主要自動車メーカーは米国での販売価格を引き上げ始めた。今後、米国向け輸出は日本の価格競争力低下を主因として数量ベースで落ち込むことが避けられないだろう。

自動車の関税率は27.5%から15%に引き下げられたが、元々の2.5%と比べれば依然として大幅な引き上げであることに加え、実行時期は決まっていない。また、相互関税が10%から15%に引き上げられたため、米国向けの平均的な関税率はこれまでと大きく変わらない。

今回の経済見通しにおける関税政策(対日本)の主な前提は以下の通りである。(1)相互関税は15%が継続、(2)鉄鋼、アルミニウム、銅は50%が継続、(3)自動車は2025年9月末までに現行の27.5%から15%に引き下げ、(4)半導体は15%(除外品を含めた平均)、医薬品は25%で2025年9月末までに賦課開始
海外経済の見通し(実質GDP成長率) 輸出の先行きを左右する海外経済を展望すると、米国は大型減税が景気を下支えするものの、関税引き上げに伴うインフレの加速が国内需要を抑制する。米国の実質GDP成長率は2024年の2.8%から2025年が1.7%、2026年が1.7%と減速することが予想される。また、関税率の引き上げ幅が他の国・地域よりも大きい中国は、経済対策がその悪影響を一部相殺するものの、実質GDP成長率は2024年の5.0%から、2025年が4.8%、2026年が3.9%へ減速することが避けられないだろう。一方、ユーロ圏は防衛・インフラ関連の財政拡張措置が景気の押し上げ要因となることから、実質GDP成長率は2024年の0.9%から2025年が1.1%、2026年が0.9%と関税引き上げ前とほぼ変わらないと予想するが、成長率自体は低い。

総じてみれば、今回の予測期間である2026年まで海外経済の成長率は低水準にとどまることを想定している。

日本の輸出は横ばい圏で推移してきたが、関税引き上げの影響が顕在化する2025年7-9月期には米国向けを中心に減少することが見込まれる。今回の見通しでは半導体、医薬品など一部の品目を除いて関税のさらなる引き上げは行われないことを想定しており、2025年度の終盤には関税引き上げに伴う輸出の落ち込みには歯止めがかかるだろう。しかし、米国、中国を中心とした海外経済の減速、世界の貿易取引の縮小による日本の輸出への下押し圧力の強い状態は当面続く可能性が高い。

また、今回の見通しでは、米国の利下げと日銀の利上げを背景に2026年度末にかけて1ドル=130円台半ばまで円高・ドル安が進行することを想定しており、このことも輸出の下押し要因となる。GDP統計の財貨・サービスの輸出は2024年度の前年比1.7%から2025年度に同0.9%へ減速し、2026年度も同1.2%と低い伸びが続くと予想する。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年08月18日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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