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- 「仙台オフィス市場」の現況と見通し(2025年)
2025年08月07日
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3.仙台オフィス市場の見通し
以下では、仙台市のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「東北地方」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI3」(東北財務局)は、2020年第2四半期に「▲39」と一気に悪化した。その後は、回復と悪化を繰り返しながら推移し、2025年第2四半期は「+6.5」となった(図表-14)。
また、「従業員数判断BSI4」(東北財務局)は、人手不足を表わす「+22.0」(2020 年第1四半期)から「+5.3」(第2四半期)へ大幅に低下したが、その後は上昇傾向で推移し、2024年第2四半期は「+25.2」となり、コロナ禍前の水準を上回った(図表-15)。
また、「従業員数判断BSI4」(東北財務局)は、人手不足を表わす「+22.0」(2020 年第1四半期)から「+5.3」(第2四半期)へ大幅に低下したが、その後は上昇傾向で推移し、2024年第2四半期は「+25.2」となり、コロナ禍前の水準を上回った(図表-15)。
宮城県全体の就業者数は2年連続で増加している。また、「企業の経営環境」は一進一退の動きをみせているものの、「雇用環境」については人手不足感が強く、企業の採用意欲が高まっている。以上のことを鑑みると、仙台市のビジネスエリアの「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さいと考えられる。ただし、仙台市の生産年齢人口は今後も減少が続く見通し5であり、その動向については引き続き注視が必要である。
3 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
4 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
5 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」によれば、仙台市の生産年齢人口は、2030年には2020年比▲2.2%減少、2035年には同▲5.6%の減少の見通し。
3 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
4 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
5 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」によれば、仙台市の生産年齢人口は、2030年には2020年比▲2.2%減少、2035年には同▲5.6%の減少の見通し。
(2)テレワーク普及がオフィス需要に及ぼす影響
総務省「令和4年就業構造基本調査」によれば、仙台市におけるテレワーク実施率は21%で、全国平均(19%)と同水準であった。産業別では、「情報通信業」(70%)が最も高く、次いで、「電気・ガス・熱供給・水道業」(48%)、「金融業、保険業」(43%)、「学術研究、専門・技術サービス業」(40%)の順となっており、オフィスワーカー比率の高い業種でテレワークが普及している(図表-16左図)。また、従業員数の多い企業ほど、テレワークの採用が進んでいるようだ(図表-16 右図)。
コロナ禍を契機に普及したテレワークは、コロナ収束後も、育児や介護などにより就業時間や勤務地に制約のある人材の活躍を後押しする観点から、多くの企業で導入が検討されている。
宮城県「令和6年度労働実態調査」によれば、宮城県内の企業に、家族を介護する労働者への支援制度をたずねたところ、「テレワーク」との回答は15%であった。また、子どもを持つ労働者への支援制度をたずねたところ、「テレワーク」との回答は16%であった。今のところ、宮城県では、介護や育児の支援策として、テレワークを活用している企業は一定数に留まっている模様だ。
こうした状況下で、2024年5月に育児・介護休業法および次世代育成支援対策推進法が改正されたことに伴い、テレワークの導入が努力義務6とされた。法改正等に伴い、今後はテレワークを取り入れたフレキシブルな働き方(ハイブリッドワーク)のさらなる広がりが想定され、多様な働き方に即したオフィス利用や拠点配置を検討する企業の増加が予想される。引き続きテレワークの普及に伴うオフィス需要への影響を注視したい。
総務省「令和4年就業構造基本調査」によれば、仙台市におけるテレワーク実施率は21%で、全国平均(19%)と同水準であった。産業別では、「情報通信業」(70%)が最も高く、次いで、「電気・ガス・熱供給・水道業」(48%)、「金融業、保険業」(43%)、「学術研究、専門・技術サービス業」(40%)の順となっており、オフィスワーカー比率の高い業種でテレワークが普及している(図表-16左図)。また、従業員数の多い企業ほど、テレワークの採用が進んでいるようだ(図表-16 右図)。
コロナ禍を契機に普及したテレワークは、コロナ収束後も、育児や介護などにより就業時間や勤務地に制約のある人材の活躍を後押しする観点から、多くの企業で導入が検討されている。
宮城県「令和6年度労働実態調査」によれば、宮城県内の企業に、家族を介護する労働者への支援制度をたずねたところ、「テレワーク」との回答は15%であった。また、子どもを持つ労働者への支援制度をたずねたところ、「テレワーク」との回答は16%であった。今のところ、宮城県では、介護や育児の支援策として、テレワークを活用している企業は一定数に留まっている模様だ。
こうした状況下で、2024年5月に育児・介護休業法および次世代育成支援対策推進法が改正されたことに伴い、テレワークの導入が努力義務6とされた。法改正等に伴い、今後はテレワークを取り入れたフレキシブルな働き方(ハイブリッドワーク)のさらなる広がりが想定され、多様な働き方に即したオフィス利用や拠点配置を検討する企業の増加が予想される。引き続きテレワークの普及に伴うオフィス需要への影響を注視したい。
6 3歳未満の子を養育する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが、事業主に努力義務化。2025年4月に施行。
(3)スタートアップ企業の動向からみるオフィス需要
仙台市は東日本大震災以降、起業家支援に力を入れている。2024年3月に「仙台経済COMPASS~2030 年の仙台を見据えた羅針盤」を策定し、重点取組の1つとして、「世界にインパクトを与えるスタートアップの育成」を挙げている。特に、アントレプレナーシップ7の醸成に注力しており、2023年度より、学生や若者100名を対象とした経営者育成プログラム「仙台グローバルスタートアップ・キャンパス」を実施している。
また、2025年6月に、仙台市や東北6県等で構成される「仙台・東北スタートアップ・エコシステム・コンソーシアム」が、内閣府が推進する「第2期スタートアップ・エコシステム拠点都市」において、「グローバル拠点都市」に選定された。同コンソーシアムは、「課題解決先進地域の実現に向けた大学発スタートアップ創出」に取り組み、5年間でスタートアップ輩出・育成数500社以上、アントレプレナー育成プログラム受講者50,000人以上などを目標とするKPIを設定している。
こうした取り組み等を受けて、宮城県では、大学発スタートアップ企業も増え始めている。経済産業省「令和6年度大学発ベンチャー実態等調査」によれば、都道府県別大学発ベンチャー数は、宮城県が136社(前年比+17社・第9位)であった。また、東北大学は、2024年11月に、政府が創設した10兆円規模の大学ファンドで支援する「国際卓越研究大学」の第一号に選定された。ファンド資金等を活用して東北大発スタートアップ企業数を25年間で10倍に増やす計画である8。
また、東北大学青葉山新キャンパスの中に整備された3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu(ナノテラス9 )が、2025年4月より運用開始となった。活用分野は先端材料や電子デバイス、食品、創薬、エネルギーなど多岐にわたり、様々な社会課題の解決への貢献が期待されている。前述のコンソーシアムは、ナノテラスの利用を通じて大企業の進出を促進し、スタートアップ企業との協業機会を創出したいとしている。
これらの取り組みに後押しされ、今後も仙台市でスタートアップ企業が増えると見込まれる。オフィス需要の新たな担い手となる可能性もあり、今後の動向を注視したい。
7 企業家精神。新しい事業の創造意欲に燃え、高いリスクに果敢に挑む姿勢。
8 仙台市経済局スタートアップ支援課「仙台・東北から世界を変えるスタートアップの輩出を目指して」
9 「いわば「ナノまで見える巨大な顕微鏡」で、太陽光の10億倍もの強い光を照射することにより、物質をナノレベルまで見ることができる施設」(仙台市HPより)。
仙台市は東日本大震災以降、起業家支援に力を入れている。2024年3月に「仙台経済COMPASS~2030 年の仙台を見据えた羅針盤」を策定し、重点取組の1つとして、「世界にインパクトを与えるスタートアップの育成」を挙げている。特に、アントレプレナーシップ7の醸成に注力しており、2023年度より、学生や若者100名を対象とした経営者育成プログラム「仙台グローバルスタートアップ・キャンパス」を実施している。
また、2025年6月に、仙台市や東北6県等で構成される「仙台・東北スタートアップ・エコシステム・コンソーシアム」が、内閣府が推進する「第2期スタートアップ・エコシステム拠点都市」において、「グローバル拠点都市」に選定された。同コンソーシアムは、「課題解決先進地域の実現に向けた大学発スタートアップ創出」に取り組み、5年間でスタートアップ輩出・育成数500社以上、アントレプレナー育成プログラム受講者50,000人以上などを目標とするKPIを設定している。
こうした取り組み等を受けて、宮城県では、大学発スタートアップ企業も増え始めている。経済産業省「令和6年度大学発ベンチャー実態等調査」によれば、都道府県別大学発ベンチャー数は、宮城県が136社(前年比+17社・第9位)であった。また、東北大学は、2024年11月に、政府が創設した10兆円規模の大学ファンドで支援する「国際卓越研究大学」の第一号に選定された。ファンド資金等を活用して東北大発スタートアップ企業数を25年間で10倍に増やす計画である8。
また、東北大学青葉山新キャンパスの中に整備された3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu(ナノテラス9 )が、2025年4月より運用開始となった。活用分野は先端材料や電子デバイス、食品、創薬、エネルギーなど多岐にわたり、様々な社会課題の解決への貢献が期待されている。前述のコンソーシアムは、ナノテラスの利用を通じて大企業の進出を促進し、スタートアップ企業との協業機会を創出したいとしている。
これらの取り組みに後押しされ、今後も仙台市でスタートアップ企業が増えると見込まれる。オフィス需要の新たな担い手となる可能性もあり、今後の動向を注視したい。
7 企業家精神。新しい事業の創造意欲に燃え、高いリスクに果敢に挑む姿勢。
8 仙台市経済局スタートアップ支援課「仙台・東北から世界を変えるスタートアップの輩出を目指して」
9 「いわば「ナノまで見える巨大な顕微鏡」で、太陽光の10億倍もの強い光を照射することにより、物質をナノレベルまで見ることができる施設」(仙台市HPより)。
2023年に、台湾の半導体ファウンドリー11大手であるPSMCは、SBIホールディングスと提携し、宮城県大衡村に半導体工場を建設する計画を発表した12。自動車や通信インフラ向けの半導体を生産し、2029年以降を予定していた本格稼働時には売上高が年間約1,900億円に達する見通しであった13。しかし、2024年9月に、PSMCとSBIホールディングは、日本国内での半導体製造事業に関する共同事業の解消を発表し14、半導体工場の誘致計画は白紙となった。工場建設計画は、政府からの補助金交付を前提としていたが、「最低10年間は生産を続ける」との補助金要件などが提携解消の一因となった模様である15。
ただし、宮城県は、半導体など高度電子機械産業の誘致を今後も継続する方針である16。2025年3月に、「みやぎ半導体産業振興ビジョン」を公表し、半導体産業の誘致・集積に向けた基本方針を示すとともに、国内における半導体生産の重要拠点(「みやぎシリコンバレー」)の形成を目指すとしている17。半導体投資拡大がもたらすオフィス需要への影響について、引き続き動向を注視したい。
10 主として半導体(半導体集積回路,半導体素子)の製造に利用されるマスク・レチクル製造装置,ウェーハプロセス(電子回路形成)装置,半導体チップ組立装置などの各種製造装置を製造する事業所
11 顧客の設計データに基づき、半導体生産の「前工程」を受託して生産する事業形態。
12 JETRO ビジネス短信「PSMC、SBIホールディングスと合弁で宮城県に半導体工場設立を発表」(2023年11月2日)
13 共同通信「半導体の売上見通し1900億円/宮城新工場でSBI」(2023年11月10日)
14 SBIホールディングス株式会社 「PSMCとの日本国内での半導体製造事業にかかる共同事業の解消のお知らせ」(2024年9月27日)
15 朝日新聞「半導体工場白紙、補助金要件が壁に 台湾企業幹部が宮城県に説明」(2024年10月9日)
16 日本経済新聞「宮城・村井知事「半導体誘致を継続」 TSMC動向注目」(2024年10月18日)
17 宮城県「みやぎ半導体産業振興ビジョン~半導体生産の重要拠点形成を目指して~」令和7年3月
ただし、宮城県は、半導体など高度電子機械産業の誘致を今後も継続する方針である16。2025年3月に、「みやぎ半導体産業振興ビジョン」を公表し、半導体産業の誘致・集積に向けた基本方針を示すとともに、国内における半導体生産の重要拠点(「みやぎシリコンバレー」)の形成を目指すとしている17。半導体投資拡大がもたらすオフィス需要への影響について、引き続き動向を注視したい。
10 主として半導体(半導体集積回路,半導体素子)の製造に利用されるマスク・レチクル製造装置,ウェーハプロセス(電子回路形成)装置,半導体チップ組立装置などの各種製造装置を製造する事業所
11 顧客の設計データに基づき、半導体生産の「前工程」を受託して生産する事業形態。
12 JETRO ビジネス短信「PSMC、SBIホールディングスと合弁で宮城県に半導体工場設立を発表」(2023年11月2日)
13 共同通信「半導体の売上見通し1900億円/宮城新工場でSBI」(2023年11月10日)
14 SBIホールディングス株式会社 「PSMCとの日本国内での半導体製造事業にかかる共同事業の解消のお知らせ」(2024年9月27日)
15 朝日新聞「半導体工場白紙、補助金要件が壁に 台湾企業幹部が宮城県に説明」(2024年10月9日)
16 日本経済新聞「宮城・村井知事「半導体誘致を継続」 TSMC動向注目」(2024年10月18日)
17 宮城県「みやぎ半導体産業振興ビジョン~半導体生産の重要拠点形成を目指して~」令和7年3月
東京商工リサーチ「2025年4月「トランプ関税」に関するアンケート調査(東北・宮城版)」によれば、宮城県の企業にアメリカの関税引き上げが業績に与える影響をたずねた所、「影響は生じてない」(42%)との回答が最も多く、次いで「少しマイナスの影響がある」(31%)、「大いにマイナスの影響がある」(23%)の順に多かった。また、トランプ大統領の相互関税への対応については、「特になし」(59%)が最多で、次いで「設備投資・拠点開設を取りやめる(または規模を縮小する)」(24%)との回答が多かった。
トランプ政権は、2025年7月に、日本からの輸入品に15%の関税を適用すると公表し、当初予定していた25%から関税率を引き下げた。現時点では、地域経済等にマイナスの影響を及ぼすとの懸念は、やや後退しているものの、引き続きトランプ政権の政策動向を注視したい。
トランプ政権は、2025年7月に、日本からの輸入品に15%の関税を適用すると公表し、当初予定していた25%から関税率を引き下げた。現時点では、地域経済等にマイナスの影響を及ぼすとの懸念は、やや後退しているものの、引き続きトランプ政権の政策動向を注視したい。
(2025年08月07日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
経歴
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
2025年7月より現職
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/08/07 | 「仙台オフィス市場」の現況と見通し(2025年) | 吉田 資 | 不動産投資レポート |
2025/07/25 | 「札幌オフィス市場」の現況と見通し(2025年) | 吉田 資 | 不動産投資レポート |
2025/07/08 | わが国のホテル投資市場規模(2024年) | 吉田 資 | 基礎研マンスリー |
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【「仙台オフィス市場」の現況と見通し(2025年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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