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- マスク着用のコミュニケーションへの影響(1)-コロナ禍の研究を経て分かっていること/いないこと
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2025年06月23日
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3――マスク着用は音声に影響を与えている可能性がある
マスク着用は、口元を隠すことによって、声の聞こえ方や発声にも影響を与える可能性がある。そこで、マスク着用が声にどのような影響を与えているかについても検証がおこなわれてきた。マスクをした場合としていない場合のスピーチを、音声なしの動画、音声のみ、音声ありの動画の3つに分けて、実験参加者に視聴してもらう実験では、マスクは両唇音(日本語では、ま、み、む、め、も、ぱ、ぴ、ぷ、ぺ、ぽ等)を理解しにくくさせる傾向が確認された11。マスクが両唇音を理解しにくくさせる傾向は、音声ありの動画や音声なしの動画を見た時だけでなく、音のみを聞いた場合にも確認されたため、口元が見えないことによって認識が低下したという影響だけでなく、マスクが両唇音の発声を妨げている可能性が指摘されている11。関連した研究に、16人の実験参加者にそれぞれマスクをした状態としていない状態でスピーチをしてもらい、その音声を分析した研究がある。この研究では、マスク着用は主に子音などの高い音を聞き取りにくくさせる傾向がみられた19,20。こうしたマスク着用による聞き取りにくさは、聞く人にとってストレスになるだけでなく21、より聞き取りやすく話そうとする必要性から、発声者にも影響を与える可能性がある。実際にいくつかの研究で、マスクをすると発声により努力を要するようになる傾向が報告されている22,23。
本項では、個人識別、感情認識、そして、音声といった、直接的にコミュニケーションに関わる要素へのマスクの影響について、コロナ禍を経た研究蓄積から示されてきたことを紹介した。マスクの影響の程度や、その普遍性についてはまだ確立されているとは言えない状況であるものの、私たちの多くが実感してきたように、マスク着用は、個人識別や感情認識、音声認識を難しくさせる影響があることが報告されてきている。そして、こうした影響の存在からは、マスク着用は、対面した人々の感情や非言語的やりとりなど、コミュニケーション全体に影響を与える可能性が示唆される。そこで次稿では、マスクの周りの人々の感情や印象といったより広い意味でのコミュニケーションへの影響について、これまでの研究で示されてきたことを紹介する。
19 The University of Sydney (2021). Study reveals how face masks hinder communication.
(https://www.sydney.edu.au/news-opinion/news/2021/03/30/study-reveals-how-face-masks-hinder-communication.html#, 20250520 accessed)
20 Nguyen, D.D. et al. (2021). Acoustic voice characteristics with and without wearing a facemask. Sci Rep 11, 5651. (https://www.nature.com/articles/s41598-021-85130-8#citeas, 20250521 accessed)
21 Giovanelli, E. et al. (2021). Unmasking the difficulty of listening to talkers with masks. i-Perception, 12(2), 1–11. (https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/2041669521998393#:~:text=Hiding%20the%20talkers%20behind%20a,listening%20to%20an%20unmasked%20talker, 20250521 accessed)
22 Karagkouni, O. (2023). The effects of the use of protective face mask on the voice and its relation to self-perceived voice changes. J Voice.37(5):802.e1-802.e14. (https://www.jvoice.org/article/S0892-1997(21)00149-1/abstract, 20250521 accessed)
23 McKenna, V.S. et al. (2022). Impact of face masks on speech acoustics and vocal effort in healthcare professionals. Laryngoscope. 132(2):391-397. (https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8742743/, 20250521 accessed)
本項では、個人識別、感情認識、そして、音声といった、直接的にコミュニケーションに関わる要素へのマスクの影響について、コロナ禍を経た研究蓄積から示されてきたことを紹介した。マスクの影響の程度や、その普遍性についてはまだ確立されているとは言えない状況であるものの、私たちの多くが実感してきたように、マスク着用は、個人識別や感情認識、音声認識を難しくさせる影響があることが報告されてきている。そして、こうした影響の存在からは、マスク着用は、対面した人々の感情や非言語的やりとりなど、コミュニケーション全体に影響を与える可能性が示唆される。そこで次稿では、マスクの周りの人々の感情や印象といったより広い意味でのコミュニケーションへの影響について、これまでの研究で示されてきたことを紹介する。
19 The University of Sydney (2021). Study reveals how face masks hinder communication.
(https://www.sydney.edu.au/news-opinion/news/2021/03/30/study-reveals-how-face-masks-hinder-communication.html#, 20250520 accessed)
20 Nguyen, D.D. et al. (2021). Acoustic voice characteristics with and without wearing a facemask. Sci Rep 11, 5651. (https://www.nature.com/articles/s41598-021-85130-8#citeas, 20250521 accessed)
21 Giovanelli, E. et al. (2021). Unmasking the difficulty of listening to talkers with masks. i-Perception, 12(2), 1–11. (https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/2041669521998393#:~:text=Hiding%20the%20talkers%20behind%20a,listening%20to%20an%20unmasked%20talker, 20250521 accessed)
22 Karagkouni, O. (2023). The effects of the use of protective face mask on the voice and its relation to self-perceived voice changes. J Voice.37(5):802.e1-802.e14. (https://www.jvoice.org/article/S0892-1997(21)00149-1/abstract, 20250521 accessed)
23 McKenna, V.S. et al. (2022). Impact of face masks on speech acoustics and vocal effort in healthcare professionals. Laryngoscope. 132(2):391-397. (https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8742743/, 20250521 accessed)
(2025年06月23日「基礎研レター」)
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経歴
- 【職歴】
2010年 株式会社 三井住友銀行
2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
2021年7月より現職
【加入団体等】
日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
博士(国際貢献、東京大学)
2022年 東北学院大学非常勤講師
2020年 茨城大学非常勤講師
岩﨑 敬子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
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