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- マスク着用のコミュニケーションへの影響(1)-コロナ禍の研究を経て分かっていること/いないこと
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2025年06月23日
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1――マスク着用は個人識別を難しくする可能性がある
1|マスク着用が個人識別を難しくする可能性を示した研究
マスク着用のコミュニケーションへの影響として、個人識別への影響が挙げられる。コロナ禍が始まったころ、それまでマスクをしていなかった同僚がマスクを着用し始めた時、誰だか気づくことができなかったことがある人がいるかもしれない。反対に、コロナ禍でマスクをした状態に見慣れていた同僚が、コロナ禍が明けてマスクを外すと、誰だか分からなかったという経験がある人もいるかもしれない。このように、マスクの着用は、個人識別を難しくする影響をもたらすことが、様々な研究で確認されている。
例えば、英国住民を対象に行われた実験では、2枚の写真が同一人物かどうかを当てるクイズが行われ、写真の人物がどちらか、もしくは両方マスクをしている場合には、どちらの写真もマスクをしていない場合に比べて、正答することが難しくなることを確認した1。他にも、オンラインで募った参加者を対象に行われた実験では、有名人の顔写真を見て名前を当てるクイズが行われ、マスク着用した写真だと、マスクを着用していない写真と比べて正答率が低いことが確認された2。
1 Carragher, D.J.& Hancock, P.J.B. (2020). Surgical face masks impair human face matching performance for familiar and unfamiliar faces. Cogn. Research 5, 59.
(https://cognitiveresearchjournal.springeropen.com/articles/10.1186/s41235-020-00258-x, 20250520 accessed)
2 Wong, H.K. & Estudillo, A.J. Face masks affect emotion categorisation, age estimation, recognition, and gender classification from faces. Cogn. Research 7, 91 (2022). (https://cognitiveresearchjournal.springeropen.com/articles/10.1186/s41235-022-00438-x, 20250520 accessed)
マスク着用のコミュニケーションへの影響として、個人識別への影響が挙げられる。コロナ禍が始まったころ、それまでマスクをしていなかった同僚がマスクを着用し始めた時、誰だか気づくことができなかったことがある人がいるかもしれない。反対に、コロナ禍でマスクをした状態に見慣れていた同僚が、コロナ禍が明けてマスクを外すと、誰だか分からなかったという経験がある人もいるかもしれない。このように、マスクの着用は、個人識別を難しくする影響をもたらすことが、様々な研究で確認されている。
例えば、英国住民を対象に行われた実験では、2枚の写真が同一人物かどうかを当てるクイズが行われ、写真の人物がどちらか、もしくは両方マスクをしている場合には、どちらの写真もマスクをしていない場合に比べて、正答することが難しくなることを確認した1。他にも、オンラインで募った参加者を対象に行われた実験では、有名人の顔写真を見て名前を当てるクイズが行われ、マスク着用した写真だと、マスクを着用していない写真と比べて正答率が低いことが確認された2。
1 Carragher, D.J.& Hancock, P.J.B. (2020). Surgical face masks impair human face matching performance for familiar and unfamiliar faces. Cogn. Research 5, 59.
(https://cognitiveresearchjournal.springeropen.com/articles/10.1186/s41235-020-00258-x, 20250520 accessed)
2 Wong, H.K. & Estudillo, A.J. Face masks affect emotion categorisation, age estimation, recognition, and gender classification from faces. Cogn. Research 7, 91 (2022). (https://cognitiveresearchjournal.springeropen.com/articles/10.1186/s41235-022-00438-x, 20250520 accessed)
2|マスク着用とサングラスではどちらがより個人識別に影響を与えるのかはわかっていない
マスクと同じく顔の一部を隠すサングラスの影響とマスクの影響を比較した研究も報告されている。マスクもサングラスも顔識別を難しくする影響が見られることは、これまでのいくつかの研究に共通しているが、マスクとサングラスのどちらの影響の方が大きいかについては、まだ一致した見解は得られていないようだ。英国住民を対象に行われた実験では、サングラスよりもマスクの方が個人識別を難しくする影響の方がやや大きかったと報告されている3が、同じく英国住民を対象に行われた別の実験では、サングラスの影響とマスクの影響の差はほとんど見られなかった4。一方、シンガポール系中国人を対象に行われた実験では、マスクよりもサングラスの方が、個人識別を妨げる影響が大きかったことが報告されている5。
3 Noyes, E. et al. (2021). The effect of face masks and sunglasses on identity and expression recognition with super-recognizers and typical observers. Royal Society Open Science.8(3). https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.201169
4 Bennetts, R.J. et al. (2022). Face masks versus sunglasses: limited effects of time and individual differences in the ability to judge facial identity and social traits. Cogn. Research 7, 18. (https://cognitiveresearchjournal.springeropen.com/articles/10.1186/s41235-022-00371-z, 20250520 accessed)
5 Or, C.CF. et al. (2023). Face masks are less effective than sunglasses in masking face identity. Sci Rep 13, 4284. (https://www.nature.com/articles/s41598-023-31321-4, 20250525 accessed)
マスクと同じく顔の一部を隠すサングラスの影響とマスクの影響を比較した研究も報告されている。マスクもサングラスも顔識別を難しくする影響が見られることは、これまでのいくつかの研究に共通しているが、マスクとサングラスのどちらの影響の方が大きいかについては、まだ一致した見解は得られていないようだ。英国住民を対象に行われた実験では、サングラスよりもマスクの方が個人識別を難しくする影響の方がやや大きかったと報告されている3が、同じく英国住民を対象に行われた別の実験では、サングラスの影響とマスクの影響の差はほとんど見られなかった4。一方、シンガポール系中国人を対象に行われた実験では、マスクよりもサングラスの方が、個人識別を妨げる影響が大きかったことが報告されている5。
3 Noyes, E. et al. (2021). The effect of face masks and sunglasses on identity and expression recognition with super-recognizers and typical observers. Royal Society Open Science.8(3). https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.201169
4 Bennetts, R.J. et al. (2022). Face masks versus sunglasses: limited effects of time and individual differences in the ability to judge facial identity and social traits. Cogn. Research 7, 18. (https://cognitiveresearchjournal.springeropen.com/articles/10.1186/s41235-022-00371-z, 20250520 accessed)
5 Or, C.CF. et al. (2023). Face masks are less effective than sunglasses in masking face identity. Sci Rep 13, 4284. (https://www.nature.com/articles/s41598-023-31321-4, 20250525 accessed)
2――マスク着用は感情識別を難しくする可能性がある
1|マスク着用が感情認識に影響する可能性を示した研究
マスクを着用した人を見ると、その人が誰だかわかりにくくなるだけでなく、その人が何を感じているのか分かりにくくなると感じたことがある人もいるのではないだろうか。これまで多くの研究で、マスク着用は、個人識別のみでなく、感情認識にも影響を与えている可能性があることが示されてきている。こうした研究は多くの場合、様々な感情を示した顔の画像を用いて行われてきた。マスクをつけた画像とつけていない画像を用意して、それぞれの画像に写る人物の感情を実験参加者に推測してもらう形である。
例えば、日本で大学生を対象に行った実験では、喜びや無表情の状態では、マスク着用による感情推測の正答率への影響はなかったが、悲しみと恐れの表情では、マスク着用によって正答率が下がる傾向が見られた6,7。この研究では、怒りの表情は、マスク着用でより認識されやすくなったことも確認されている。また、イタリア人を対象にした実験では、通常のマスク着用は、喜び、悲しみ、恐怖の感情認識を低下させる傾向があったが、無表情の読み取りへの影響は確認されなかった8。この研究では、通常のマスクのみでなく、透明のマスクをした場合の影響も検証されており、透明マスクの着用は、通常のマスクとは異なり、感情認識に影響がみられなかったことも報告されている。他にも、英国住民を対象にした実験では、マスク着用は、怒り、嫌悪、恐怖、喜び、驚きの感情認識を低下させるが、無表情の感情認識には影響を与えなかったことが報告されている3。さらに、英国で大学生を対象とした実験では、嫌悪、喜び、悲しみの感情はマスク着用によって認識が難しくなり、無表情については影響が見られず、怒りや恐怖の感情はマスク着用で認識されやすくなったことが報告されている9。
こうしたマスク着用の感情認識への影響の検証では、多くの場合、マスクをつけた顔とマスクをつけていない顔の画像が用いられてきたが、より実態に近い形で、全身の画像や、動画を用いた検証も行われてきている。例えば、マスクをつけた人とつけていない人の全身画像を利用した実験では、怒り、悲しみ、恐怖の感情については、マスクによる感情認識への影響は確認されなかったが、喜びについての感情認識を低下させる傾向が確認された10。他にも、実際に俳優がマスクをつけて演技をする動画を使った実験では、マスク着用は喜びや悲しみの感情認識を低下させることが確認された研究がある11一方、感情認識への影響は確認されなかった研究も報告されている12。
6 池田慎之介(2022). マスクを装着した表情からの感情認識に 社会的感受性が及ぼす影響. 日本認知心理学会第20回大会. ( https://www.jstage.jst.go.jp/article/cogpsy/2022/0/2022_52/_pdf, 20250520 accessed)
7 Ikeda S. (2023). Social sensitivity predicts accurate emotion inference from facial expressions in a face mask: a study in Japan. Curr Psychol. 14:1-10. (https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9926429/, 20250520 accessed)
8 Marini, M. et al. (2021). The impact of facemasks on emotion recognition, trust attribution and re-identification. Sci Rep 11, 5577. (https://www.nature.com/articles/s41598-021-84806-5, 2-250520 accessed)
9 Grenville, E. & Dwyer, D.M. (2022). Face masks have emotion-dependent dissociable effects on accuracy and confidence in identifying facial expressions of emotion. Cogn. Research 7, 15 (https://cognitiveresearchjournal.springeropen.com/articles/10.1186/s41235-022-00366-w, 20250520 accessed)
lem for emotion recognition? Not when the whole body is visible. Front. Neurosci. 16:915927.
10 Ross P and George E (2022). Are face masks a problem for emotion recognition? Not when the whole body is visible. Front. Neurosci. 16:915927.
(https://www.frontiersin.org/journals/neuroscience/articles/10.3389/fnins.2022.915927/full, 20250520 accessed)
11 Aguillon-Hernandez, N. et al. (2022). COVID-19 masks: A barrier to facial and vocal information. Front. Neurosci. 16:982899. (https://www.frontiersin.org/journals/neuroscience/articles/10.3389/fnins.2022.982899/full, 20250520 accessed)
12 Scheibe, S. et al. (2023). Empathising with masked targets: limited side effects of face masks on empathy for dynamic, context-rich stimuli. Cognition and Emotion, 37(4), 683–695. (https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/02699931.2023.2193385?rfr_dat=cr_pub++0pubmed&url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori%3Arid%3Acrossref.org#abstract, 20250521 accessed)
マスクを着用した人を見ると、その人が誰だかわかりにくくなるだけでなく、その人が何を感じているのか分かりにくくなると感じたことがある人もいるのではないだろうか。これまで多くの研究で、マスク着用は、個人識別のみでなく、感情認識にも影響を与えている可能性があることが示されてきている。こうした研究は多くの場合、様々な感情を示した顔の画像を用いて行われてきた。マスクをつけた画像とつけていない画像を用意して、それぞれの画像に写る人物の感情を実験参加者に推測してもらう形である。
例えば、日本で大学生を対象に行った実験では、喜びや無表情の状態では、マスク着用による感情推測の正答率への影響はなかったが、悲しみと恐れの表情では、マスク着用によって正答率が下がる傾向が見られた6,7。この研究では、怒りの表情は、マスク着用でより認識されやすくなったことも確認されている。また、イタリア人を対象にした実験では、通常のマスク着用は、喜び、悲しみ、恐怖の感情認識を低下させる傾向があったが、無表情の読み取りへの影響は確認されなかった8。この研究では、通常のマスクのみでなく、透明のマスクをした場合の影響も検証されており、透明マスクの着用は、通常のマスクとは異なり、感情認識に影響がみられなかったことも報告されている。他にも、英国住民を対象にした実験では、マスク着用は、怒り、嫌悪、恐怖、喜び、驚きの感情認識を低下させるが、無表情の感情認識には影響を与えなかったことが報告されている3。さらに、英国で大学生を対象とした実験では、嫌悪、喜び、悲しみの感情はマスク着用によって認識が難しくなり、無表情については影響が見られず、怒りや恐怖の感情はマスク着用で認識されやすくなったことが報告されている9。
こうしたマスク着用の感情認識への影響の検証では、多くの場合、マスクをつけた顔とマスクをつけていない顔の画像が用いられてきたが、より実態に近い形で、全身の画像や、動画を用いた検証も行われてきている。例えば、マスクをつけた人とつけていない人の全身画像を利用した実験では、怒り、悲しみ、恐怖の感情については、マスクによる感情認識への影響は確認されなかったが、喜びについての感情認識を低下させる傾向が確認された10。他にも、実際に俳優がマスクをつけて演技をする動画を使った実験では、マスク着用は喜びや悲しみの感情認識を低下させることが確認された研究がある11一方、感情認識への影響は確認されなかった研究も報告されている12。
6 池田慎之介(2022). マスクを装着した表情からの感情認識に 社会的感受性が及ぼす影響. 日本認知心理学会第20回大会. ( https://www.jstage.jst.go.jp/article/cogpsy/2022/0/2022_52/_pdf, 20250520 accessed)
7 Ikeda S. (2023). Social sensitivity predicts accurate emotion inference from facial expressions in a face mask: a study in Japan. Curr Psychol. 14:1-10. (https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9926429/, 20250520 accessed)
8 Marini, M. et al. (2021). The impact of facemasks on emotion recognition, trust attribution and re-identification. Sci Rep 11, 5577. (https://www.nature.com/articles/s41598-021-84806-5, 2-250520 accessed)
9 Grenville, E. & Dwyer, D.M. (2022). Face masks have emotion-dependent dissociable effects on accuracy and confidence in identifying facial expressions of emotion. Cogn. Research 7, 15 (https://cognitiveresearchjournal.springeropen.com/articles/10.1186/s41235-022-00366-w, 20250520 accessed)
lem for emotion recognition? Not when the whole body is visible. Front. Neurosci. 16:915927.
10 Ross P and George E (2022). Are face masks a problem for emotion recognition? Not when the whole body is visible. Front. Neurosci. 16:915927.
(https://www.frontiersin.org/journals/neuroscience/articles/10.3389/fnins.2022.915927/full, 20250520 accessed)
11 Aguillon-Hernandez, N. et al. (2022). COVID-19 masks: A barrier to facial and vocal information. Front. Neurosci. 16:982899. (https://www.frontiersin.org/journals/neuroscience/articles/10.3389/fnins.2022.982899/full, 20250520 accessed)
12 Scheibe, S. et al. (2023). Empathising with masked targets: limited side effects of face masks on empathy for dynamic, context-rich stimuli. Cognition and Emotion, 37(4), 683–695. (https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/02699931.2023.2193385?rfr_dat=cr_pub++0pubmed&url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori%3Arid%3Acrossref.org#abstract, 20250521 accessed)
2|マスク着用は感情認識のスピードを遅くする可能性がある
マスクは感情認識の結果に影響を与えるだけでなく、感情認識にかかる時間に影響することを示した研究もある。オンラインで集めた被験者を対象にした実験では、顔の下半分を隠した場合、嫌悪、恐怖、喜び、悲しみ、驚きを認識しにくくなったが、怒りについてはマスクによって認識しにくくなる傾向は見られなかった。そして、嫌悪、喜び、悲しみ、驚きについては、マスクを着用していない時と比べて、着用した際には、認識に時間がよりかかるようになったことが報告された。一方、怒りの認識にかかる時間は、マスクをしない時よりも、マスクをした時の方が、短かった13。他にも、イスラエルの大学生を対象に行われた実験やコソボで行われた実験でも、マスク着用は表情の読み取りの精度だけでなく、スピードに影響を与える可能性があることが確認されている14,15。
13 Williams, W. C. et al. (2023). Face masks influence emotion judgments of facial expressions: a drift–diffusion model. Sci Rep 13, 8842. (https://www.nature.com/articles/s41598-023-35381-4, 20250520 accessed)
14 Fitousi, D et al. (2021). Understanding the impact of face masks on the processing of facial identity, emotion, age, and gender. Front. Psychol. 12:743793. (https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2021.743793/full, 20250520 accessed)
15 Hysenaj, A. et al. (2024). Accuracy and speed of emotion recognition with face masks. Eur J Psychol. 29;20(1):16-24. (https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10936662/, 20250520 accessed)
マスクは感情認識の結果に影響を与えるだけでなく、感情認識にかかる時間に影響することを示した研究もある。オンラインで集めた被験者を対象にした実験では、顔の下半分を隠した場合、嫌悪、恐怖、喜び、悲しみ、驚きを認識しにくくなったが、怒りについてはマスクによって認識しにくくなる傾向は見られなかった。そして、嫌悪、喜び、悲しみ、驚きについては、マスクを着用していない時と比べて、着用した際には、認識に時間がよりかかるようになったことが報告された。一方、怒りの認識にかかる時間は、マスクをしない時よりも、マスクをした時の方が、短かった13。他にも、イスラエルの大学生を対象に行われた実験やコソボで行われた実験でも、マスク着用は表情の読み取りの精度だけでなく、スピードに影響を与える可能性があることが確認されている14,15。
13 Williams, W. C. et al. (2023). Face masks influence emotion judgments of facial expressions: a drift–diffusion model. Sci Rep 13, 8842. (https://www.nature.com/articles/s41598-023-35381-4, 20250520 accessed)
14 Fitousi, D et al. (2021). Understanding the impact of face masks on the processing of facial identity, emotion, age, and gender. Front. Psychol. 12:743793. (https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2021.743793/full, 20250520 accessed)
15 Hysenaj, A. et al. (2024). Accuracy and speed of emotion recognition with face masks. Eur J Psychol. 29;20(1):16-24. (https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10936662/, 20250520 accessed)
3|マスクとサングラスのどちらがより感情認識に影響を与えるかは感情によって異なる可能性
また、マスクの感情認識への影響をサングラスの影響と比較した研究もある。英国住民を対象とした実験では、嫌悪、恐怖、喜び、驚きの感情については、サングラスよりもマスクの方が感情認識を低下させる傾向が見られた。怒りについてはサングラスとマスクの間に影響の違いは見られず、悲しみについては、マスクよりもサングラスの方が、認識を低下させる影響が若干大きかった3。他にも、前項でも紹介した俳優が演技をする動画を用いた研究では、マスクの着用は、喜びと悲しみの感情認識を難しくする影響が見られたが、サングラス着用は、喜びと悲しみのどちらの感情認識への影響も見られなかった11。
加えて、韓国で行われた実験では、喜びや驚き、悲しみ、嫌悪、怒り、無表情については、サングラスを着用した場合よりもマスクを着用した場合に認識が難しくなる程度が大きい傾向が見られた。一方、恐怖については、マスクよりもサングラスを着用した場合に認識が難しくなる傾向があったことが報告されている16。また、顔の上部半分を隠した画像と下部半分を隠した画像を比較した研究では、顔の下部半分を隠した場合には、嫌悪感、喜び、悲しみの認識が顔の上半分を隠した場合よりも低下する一方、怒りと恐怖については、顔の上半分を隠した場合の方が下半分を隠した場合よりも認識が低下する傾向が見られた12。これらの研究からは、マスクとサングラスの影響は、感情によって異なる可能性がありそうだ。
マスクは多くの場合、感情認識を難しくしているが、怒りの感情の場合など、表情によっては、感情認識を容易にしている可能性があることも報告されている。これらのマスク着用の感情認識への影響を検証した研究からは、ポジティブな感情の方が、ネガティブな感情よりもマスクによって認識を難しくする影響を受けやすい傾向が指摘されている11。しかし、表情による違いだけでなく、実験に用いた画像の違いや、実験が行われた地域によってマスク着用の影響が異なる可能性も否定できない17。興味深い研究として、日本人は、マスクよりもサングラスの方が感情認識を難しくすると感じているのに対して、米国人は、サングラスよりもマスクの方が感情認識を難しくすると感じている傾向を示したものもある18。マスク着用の感情認識への影響については、影響があること自体は多くの研究で確認されてきているものの、その影響がどのような場合にどの程度普遍性を持つかについては、一致した見解に至っているわけではないようだ。
16 Kim, G et al. (2022). Impact of face masks and sunglasses on emotion recognition in South Koreans. PLoS ONE 17(2): e0263466. (https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0263466, 20250520 accessed)
17 河原純一郎他. (2023). マスクによる顔の部分遮蔽が対人コミュニケーションに及ぼす効果. The Japanese Journal of Psychonomic Science. 42 (1) 142-148.
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/psychono/42/1/42_42.25/_pdf/-char/ja, 20250520 accessed)
18 Nayani, F. Z. et al. (2023). Lay theories about emotion recognition explain cultural differences in willingness to wear facial masks during the COVID-19 pandemic. Current Research in Ecological and Social Psychology, 4.
(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666622723000023, 20250520 accessed)
また、マスクの感情認識への影響をサングラスの影響と比較した研究もある。英国住民を対象とした実験では、嫌悪、恐怖、喜び、驚きの感情については、サングラスよりもマスクの方が感情認識を低下させる傾向が見られた。怒りについてはサングラスとマスクの間に影響の違いは見られず、悲しみについては、マスクよりもサングラスの方が、認識を低下させる影響が若干大きかった3。他にも、前項でも紹介した俳優が演技をする動画を用いた研究では、マスクの着用は、喜びと悲しみの感情認識を難しくする影響が見られたが、サングラス着用は、喜びと悲しみのどちらの感情認識への影響も見られなかった11。
加えて、韓国で行われた実験では、喜びや驚き、悲しみ、嫌悪、怒り、無表情については、サングラスを着用した場合よりもマスクを着用した場合に認識が難しくなる程度が大きい傾向が見られた。一方、恐怖については、マスクよりもサングラスを着用した場合に認識が難しくなる傾向があったことが報告されている16。また、顔の上部半分を隠した画像と下部半分を隠した画像を比較した研究では、顔の下部半分を隠した場合には、嫌悪感、喜び、悲しみの認識が顔の上半分を隠した場合よりも低下する一方、怒りと恐怖については、顔の上半分を隠した場合の方が下半分を隠した場合よりも認識が低下する傾向が見られた12。これらの研究からは、マスクとサングラスの影響は、感情によって異なる可能性がありそうだ。
マスクは多くの場合、感情認識を難しくしているが、怒りの感情の場合など、表情によっては、感情認識を容易にしている可能性があることも報告されている。これらのマスク着用の感情認識への影響を検証した研究からは、ポジティブな感情の方が、ネガティブな感情よりもマスクによって認識を難しくする影響を受けやすい傾向が指摘されている11。しかし、表情による違いだけでなく、実験に用いた画像の違いや、実験が行われた地域によってマスク着用の影響が異なる可能性も否定できない17。興味深い研究として、日本人は、マスクよりもサングラスの方が感情認識を難しくすると感じているのに対して、米国人は、サングラスよりもマスクの方が感情認識を難しくすると感じている傾向を示したものもある18。マスク着用の感情認識への影響については、影響があること自体は多くの研究で確認されてきているものの、その影響がどのような場合にどの程度普遍性を持つかについては、一致した見解に至っているわけではないようだ。
16 Kim, G et al. (2022). Impact of face masks and sunglasses on emotion recognition in South Koreans. PLoS ONE 17(2): e0263466. (https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0263466, 20250520 accessed)
17 河原純一郎他. (2023). マスクによる顔の部分遮蔽が対人コミュニケーションに及ぼす効果. The Japanese Journal of Psychonomic Science. 42 (1) 142-148.
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/psychono/42/1/42_42.25/_pdf/-char/ja, 20250520 accessed)
18 Nayani, F. Z. et al. (2023). Lay theories about emotion recognition explain cultural differences in willingness to wear facial masks during the COVID-19 pandemic. Current Research in Ecological and Social Psychology, 4.
(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666622723000023, 20250520 accessed)
(2025年06月23日「基礎研レター」)
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03-3512-1882
経歴
- 【職歴】
2010年 株式会社 三井住友銀行
2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
2021年7月より現職
【加入団体等】
日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
博士(国際貢献、東京大学)
2022年 東北学院大学非常勤講師
2020年 茨城大学非常勤講師
岩﨑 敬子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/06/23 | マスク着用のコミュニケーションへの影響(1)-コロナ禍の研究を経て分かっていること/いないこと | 岩﨑 敬子 | 基礎研レター |
2025/06/19 | マスク着用のメンタルヘルスへの影響(2)-コロナ禍の研究を経て分かっていること/いないこと | 岩﨑 敬子 | 基礎研レター |
2025/06/16 | マスク着用のメンタルヘルスへの影響(1)-コロナ禍の研究を経て分かっていること/いないこと | 岩﨑 敬子 | 基礎研レター |
2025/06/12 | マスク着用の健康への影響-コロナ禍の研究を経て分かっていること/いないこと | 岩﨑 敬子 | 基礎研レポート |
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