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2025年06月13日

年齢制限をすり抜ける小学生たち

生活研究部 研究員 廣瀬 涼

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1――小学生のおよそ2割がSNS上で“知らない人”とやりとりをしている

東京都が都内在住の小・中・高校生にスマートフォンなどを持たせている保護者2,000名を対象に実施した「令和6年度 家庭における青少年のスマートフォン等の利用等に関する調査1」によると、小学生のおよそ2割がSNS上で“知らない人”とやりとりをしているという実態が明らかになった。なかでも、小学4~6年生では23.6%、小学1~3年生でも22.2%が該当しており、学年が上がるにつれてその割合が高まる傾向が見られる。特筆すべきは、小学4~6年生の数値が前年度比で9.4ポイントも増加している点である。
図1「知らない人」とのやりとりの有無(全体) 
やりとりの内容を小学4~6年生に限定して見ると、「SNSでのメッセージの送受信」が61.9%で最も多く、次いで「音声通話・ビデオ通話をした」が42.4%となっている。また、「顔や体の写真・動画の送受信」が13.6%、「実際に直接会った」が10.2%と、実生活に影響を及ぼしかねないリスクの高い行動も確認されている。さらに深刻なのは、「犯罪と関係しているかもしれないバイトや仕事についてやりとりしていた」ケースも3.4%存在しており、低年齢層においてもSNSを通じた犯罪リスクが決して無視できない状況であることが浮き彫りになっている。

MMD研究所が、2022年以降に初めてスマートフォンを持った子どもがいる親1,000人を対象に実施した「2023年1月 初めてスマートフォンを持つ子どもと親への意識調査2」によると、小学生の26.8%が「トラブルに巻き込まれた経験がある」と回答している。中でも、実際にトラブルに遭遇したと答えた小学生のうち、最も多かったのは、「不適切な写真を送るように求められた、または意思に反して送られてきた」というケースで、その割合は18.3%にのぼった。
図2 子どもがスマートフォンを所有してからのトラブルに巻き込まれた経験
なお、こうした実態を反映するように、警察庁のまとめによれば、SNSやオンラインゲームを通じて犯罪に巻き込まれた18歳未満の子どもは、2024年の1年間で1,486人にのぼっている。内訳を見ると、中学生が715人と最多で、高校生が582人、小学生は136人となっており、小学生の被害者数は過去2番目に多い数字である3。犯罪の内容としては、「不同意わいせつ」や「略取誘拐」などの“重要犯罪”が最も多く、計458人。続いて、「児童ポルノ」が414人、「青少年保護育成条例違反」が345人と深刻なケースが相次いでいる。スマートフォンの低年齢化が進むなかで、小学生の被害も年々増加傾向にあることが、こうしたデータからも明らかとなっている。

このような問題意識から、本稿では、α世代(2012年~2024年生まれ)におけるSNSの使用状況を起点に、彼らのコミュニケーションや情報取得の環境について考察する。また、多くのSNSが13歳未満の利用を制限しているにもかかわらず、なぜ小学生がSNSを利用できてしまっているのか、その背景や実態についても考察したい。
 
1 都民安全総合対策本部「令和6年度 家庭における青少年のスマートフォン等の利用等に関する調査」結果 2025/04/30  https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2025/04/2025043010
2 MMD研究所「スマホデビュー時期は過半数が小学生、小6年が最多で14.9% トラブル経験は小学生が26.8%で増加傾向に トラブル回避で4人に1人が「何をすればいいか分からない」子どもの勉強時のスマホ活用は63.7%、お小遣いのキャッシュレス送金意向は45.4%と5.1pt増」 2023/01/23 https://mmdlabo.jp/investigation/detail_2170.html
3 読売新聞オンライン「オンラインゲーム通じた18歳未満の犯罪被害、2019年から倍増…親しくなって個人情報聞き出す」2025/03/13  https://www.yomiuri.co.jp/national/20250313-OYT1T50062/

2――α世代におけるSNSの使用状況

2――α世代におけるSNSの使用状況

まず、α世代(2012年頃~2024年に生まれた層)におけるSNSの使用状況を見てみよう。NTTドコモ モバイル社会研究所が2024年11月に実施した調査4によると、SNS(LINE、TikTok、Instagram、X(旧Twitter))の利用率は、小学4~6年生で63%、小学1~3年生で31%だった。具体的な内訳をみると、低学年(小学1~3年生)ではLINEの利用率が20%と最も高く、次いでTikTokが12%、XとInstagramはいずれも1%にとどまっている。

高学年(小学4~6年生)になると、LINEが61%、TikTokが29%、Instagramが15%、Xが7%といずれも増加傾向を示している。全体として、小学生のSNS利用は学年が上がるにつれて増加はするものの、メッセージ交換を目的としたLINEの使用が主であることがわかる。

一方で、総務省情報通信政策研究所「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査5」によれば、10代の1日あたりのSNS平均利用時間は平日で56分、動画共有サービスの利用時間は1時間52分と、動画コンテンツの方が長時間消費されている実態も明らかになっている。

また、産業能率大学の小々馬敦教授が2023年に出版した著書『新消費をつくるα世代』では、2022年9月に全国の10~40歳を対象に行われた「情報接触・価値観・消費行動」に関する調査結果が紹介されているが、この調査によれば、α世代が日常的に“自分の意思で”使っているデバイスは、テレビ(88%)が最も多く、次いでゲーム機(73%)、スマートフォン(50%)、タブレット(49%)、PC(24%)の順となっている。こうしたデバイス環境のもとで、個人アカウントを登録してSNSを利用しているα世代は39%にとどまり、実に61%がSNSを使用していないという結果が明らかになった。

では、SNSをほとんど使っていない彼らは、一体どこから情報を得ているのだろうか。同書で実施されたα世代へのインタビューによると、もっとも多くの情報源は「友人との会話」であり、次に多かったのがYouTubeであった。一方、XやInstagramといった発信型SNSについては、「見たことがない」と回答した子どもが6割以上にのぼり、これらのSNSとは距離のある情報環境にいることがわかる。

また、株式会社教育ネットが全国の小中学生3万3,294人を対象に実施した「ネット利用における実態調査(2023年4月~2024年3月)6」においても、小学生に最も多く使われているSNSはYouTubeであり、次いでLINEの利用率が高いことがわかっている。
図3 2023年度SNS利用率
このような背景を踏まえると、YouTubeがα世代にとって最も中心的な情報接触メディアとなっていることがわかる。実際、YouTubeは一般的には「オンライン動画共有プラットフォーム」として分類されるが、その認識は世代によって大きく異なる。2024年に株式会社ブックリスタが10代~40代の男女600人を対象に実施した「年代別SNSの意識調査7」によると、「YouTubeをSNSだと認識している」と答えた割合は、10代で77.1%と圧倒的に高かった。一方で、20代は31.3%、30代は25.8%、40代は32.3%と、他の世代ではいずれも3割前後にとどまっている。

この結果は、α世代を含む若年層にとって、YouTubeが「他者とつながる場」として機能していることを示唆していると考えられる。動画にコメントを投稿し、さらにそのコメントに対してリアクションがつく――こうした「ゆるやかな双方向性」のやりとりが、彼らにとってはSNS的なつながりとして認識されているのだろう。

一方、中学生になるとSNSの利用の幅が広がり、TikTokやInstagramなど、より発信性の高いプラットフォームの使用率も上昇する傾向が見られる。前述した、株式会社教育ネットにおいても、世代が上がるにつれてXやTikTok、InstagramなどのSNSの利用率が高まっていることが確認されており、α世代とそれ以上の世代とでは、情報接触のスタイルに明確な違いがあることがうかがえる。

そもそもYouTubeやLINEは“SNS”と分類されることが多いものの、それぞれ特定の利用目的に特化したプラットフォームである。たとえば、YouTubeは主に動画視聴を目的としたメディア型サービスであり、視聴者は基本的に一方的にコンテンツを「受け取る」立場にある。一方、LINEは、親しい人との非公開かつクローズドなメッセージのやりとりを前提としたコミュニケーションツールである。

これに対し、XやInstagram、TikTokといったプラットフォームは、自ら情報を発信し、それに対する他者の反応を通じてつながりを広げていく「公開型・発信型」のSNSである。我々が日常的に「情報に遭遇する」体験の多くは、こうした“発信型”SNS上で絶え間なく流れてくる情報を通じたものである。
 
4 モバイル社会研究所「小学生高学年のSNS利用率上昇傾向続き、3人に2人が利用している」2025/04/10 https://www.moba-ken.jp/project/children/kodomo20250410.html
5 総務省情報通信政策研究所「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」令和6年6月 https://www.soumu.go.jp/main_content/000953019.pdf
6 教育ネット総合研究所「~2023年度ネット利用における実態調査結果報告 第2弾~LINE利用率が小学校高学年で増加。小学6年生は67%」2024/07/12: https://lab.edu-net.co.jp/Press_release/PRESS_2024_2
7 まいどなニュース情報部「「“YouTube”はSNS?」…10代と20代以上で認識の違いが浮き彫りに」2024/08/01
https://maidonanews.jp/article/15364442

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
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(2025年06月13日「基礎研レポート」)

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生活研究部   研究員

廣瀬 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化論、若者マーケティング、サブカルチャー

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

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