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2025年04月30日

トランプ政権100日の評価-関税政策などの予見可能性低下が金融市場や消費者、企業マインド、支持率の悪化要因に

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

トランプ2期目の政権が発足して4月29日に節目となる100日を迎えた。トランプ大統領は政策公約の実現に向けて就任初日から足元まで歴代大統領に比べて突出した数の大統領令に署名した。ただし、3月4日に成立した不法移民の取り締まりを強化することを定めたレイクン・ライリー法と、3月15日に成立した25年度つなぎ予算以外に目ぼしい立法成果を挙げていない。

一方、関税政策では違法薬物や不法移民問題を背景にカナダ、メキシコに25%、中国に20%の関税方針を示すなど、政策公約に掲げていなかった政策について唐突に発表したほか、一度発表した政策について短期で修正を繰り返すなど迷走しており、政策の予見可能性は大幅に低下した。

これらの結果、金融市場は株価の乱高下、長期金利の大幅な上昇など大混乱に陥っているほか、消費者や企業のセンチメントは大幅に悪化しており、米景気後退懸念が高まっている。

本稿は就任100日を迎えるトランプ2期目の大統領令の署名状況や関税政策、金融市場や消費者・企業のセンチメント指標、支持率の動向などを概観し、政権の評価を行った。同大統領はインフレ抑制などの経済政策への期待から再選されたものの、経済運営に対する支持率が急低下するなど、26年の中間選挙に向けて暗雲が立ち込めている。景気後退懸念が高まる中、中間選挙を睨んで保護主義的な通商政策が軌道修正されるのか、税制改革で成果を上げられるのか、今後の動向が注目される。

2.トランプ政権2期目発足100日の評価

2.トランプ政権2期目発足100日の評価

(大統領令):歴代大統領に比べて突出した数に署名も、議会による法案成立数は低調
トランプ大統領は1月20日の就任初日に1937年以降の歴代大統領で最多となる42件の大統領令に署名した1。このうち、主要な経済政策関連では税制改革、不法移民の強制送還、関税政策、エネルギー規制緩和などの方針が示された。

その後も同大統領は政策公約に関連するものや、公約で提示していなかった政策も含めて大統領令を乱発しており、25年4月28日時点では193件と同時期の歴代大統領に比べて署名数が突出していることが分かる(前掲図表1)。
(図表2)民主・共和党間で政権交代が行われた初年度100日の状況 もっとも、大統領権限を使った大統領令を乱発しているものの、前述の通り議会による目ぼしい立法成果は上がっておらず、The American Presidency Projectの集計では4月24日時点で成立した法案数は5件に留まる(図表2)。これは民主・共和党間で政権交代が行われた歴代大統領の法案成立数に比べて低位に留まっているほか、トランプ政権1期目の24件も大幅に下回っている。

このため、上下院ともに与党共和党が過半数を占める安定政権となっているものの、議会での法案審議を迂回して大統領権限で政策実現を目指す議会軽視の姿勢が明確になっていると言えよう。
(関税政策):不透明な関税政策運営に伴い、政策の予見可能性は大幅に低下
トランプ大統領は関税政策に関する政策公約として、全世界からの輸入品に10~20%のユニバーサル関税、中国からの輸入品に60%の関税を賦課する方針を示していた。しかしながら、大統領再選後の24年11月に突如、違法薬物や不法移民問題を背景として中国からの輸入品に10%、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税を賦課する方針を示した。その後、中国製品に対する関税率を20%に引上げる一方、カナダ、メキシコの輸入品に対する関税方針は唐突な軌道修正を繰り返しており、本稿執筆時点(4月30日)では輸入金額の半分程度を占めるUSMCA適合品は非課税、非適合品に25%の関税がかかる状況となっている。この方針も何時修正されるか不透明である。

また、4月2日に発表された所謂「相互関税」についても当初は原則としてカナダ、メキシコを除く全ての国に4月5日から10%の関税を適用、米国との貿易赤字が大きい57ヵ国については個別に10%を超える関税率を9日から適用する方針が示された。しかしながら、9日に中国を除く56ヵ国については90日間の暫定措置として10%の関税率が適用されることが示されるなど、関税政策は二転三転している。

一方、中国に対しては前述の違法薬物や不法移民問題を背景とした関税引き上げに加え、相互関税で示された34%が予定通り実行されたほか、中国からの対抗措置を受けて対中関税率は145%まで引上げられた。

品目別では関税が設定されている鉄鋼・アルミ関税と自動車関税について25%の関税が賦課されているほか、半導体や医薬品については今後具体的な方針が示されることになっている。

現時点で示唆されている関税方針について地域別と品目別にまとめた(図表3)。
(図表3)トランプ関税一覧
これらの関税措置の結果、米国の平均関税率は24年の2.5%程度から、25年は現時点で18%と1934年以来の水準へ上昇することが見込まれている(図表4)。また、相互関税は90日後の猶予が終了する7月に一部の国で関税率が暫定の10%から上昇するとみられるほか、品目別に新たな関税が賦課されるとみられており、平均関税率は一段と上昇する可能性が高い。

一方、一連の不透明な関税政策によって米国の経済政策および通商政策の予見可能性は大幅に低下した。実際に、経済政策の変動が経済の先行きに与える不確実性を示す米国の経済政策不確実性指数は25年3月が297とコロナ禍で米国経済が混迷を深めた20年7月以来の水準に急上昇した(図表5)。また、米通商政策の不確実性指数は3月が5,736と1985年の統計開始以来で突出して高い水準となっており、通商政策の迷走が米経済の先行きに大きな不確実性を生じさせていることが分かる。
(図表4)米国の平均関税率/(図表5)米経済・通商政策不確実性指数

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年04月30日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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