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気候変動と食品ロス・廃棄物削減-消費者がすぐに貢献できる気候変動対策のポテンシャルは大きい

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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4――消費者目線での食品ロス・廃棄物の削減策
どういう食品のロスが、温室効果ガスの排出につながるのか。イギリス・オックスフォード大学の研究者などが運営するアワー・ワールド・イン・データに掲載されている食品1キログラムの生産に伴う排出量を見ると、次の通りとなっている。肉類や乳製品などのタンパク質の食品の排出量が多い。特に、牛肉や羊肉では、牛や羊の生育時に飼料を要することや、反芻家畜の曖気(げっぷ)にメタンガスが含まれていることなどから、豚肉や鶏肉と比べて多くなっている。牛肉や羊肉の生産・廃棄が増えると、温室効果ガスの排出増につながることがうかがえる。食品ロス削減の取り組みにおいては、特に、肉類や乳製品の廃棄は極力なくすことが重要といえる。
「てまえどり」とは、その名の通り「てまえ(手前)」から「とる」ことを意味する。食品を買う際、商品棚の手前にある期限が迫っているものを積極的に選ぶ購買行動が重要となる。
期限が気になりやすい牛乳や卵などでは、期限が長い奥の商品を選んで購入することもあるかもしれない。しかし、期限内に消費できる場合は、できるだけ手前に並んでいる期限が早いものを購入することが望ましい。そうすることで、商品の廃棄を減少させるメリットが期待できる。
消費者庁が2021年度に行った消費者意識調査によると、「てまえどり」を実践したとの回答は40%弱(「従来から実践している」と「店舗で掲示物を見て実践した」の合計)にとどまっている。食品ロスの削減のためには、「てまえどり」をさらに普及させていくことが重要と考えられる。
宴会などの外食時には、食品ロスが生じやすい。宴席では会話やアルコール摂取が進む一方、食事は二の次となりやすいためだ。これに対して、環境省は、「3010(さんまるいちまる)運動」の普及を啓発している。「3010運動」とは、宴会における大量の食品ロスを減らすため、乾杯から最初の30分間と、お開き前の最後の10分間は、自分の席で皆でしっかり食べる時間を設けよう、という取り組みだ。「3010運動」は、長野県松本市が発祥とされる。同市のホームページには「残さず食べよう!30・10(さんまる いちまる)運動」というコーナーがあり、次のように取り組みのポイントが記されている。宴会の幹事の声掛けのアナウンス例も記載されており、参考になるものと考えられる。6
6 松本市では毎月30日を「冷蔵庫クリーンアップデー」、10日を「もったいないクッキングデー」として、家庭向けの3010運動」も推進している。冷蔵庫クリーンアップデーには、庫内にある賞味期限・消費期限の近いものや、傷みやすい肉や野菜を使いきる。もったいないクッキングデーには、食べられるのに捨てている野菜の茎や皮を使って料理をする。
5――おわりに (私見)
今後、事業者や自治体での取り組みは加速していくものと考えられる。消費者の間でも、「てまえどり」や「3010運動」のような取り組みが普及していくものとみられる。その動向につき、引き続き、ウォッチしていくこととしたい。
食品ロス・廃棄物の削減の取り組みは、誰でもすぐに始められる身近な気候変動対策と言える。本稿をご覧いただいた読者も、今日から、取り組みを始めてみてはいかがだろうか。
(参考資料)
「食品ロス量の推移と削減目標」(消費者庁ホームページ)
“Food Waste Index Report 2024”(UNEP)
“Food Waste Index Report 2021”(UNEP)
“GHG Emissions of All World Countries”(JRC Science for Policy Report, European Commission, 2023)
“Greenhouse gas emissions per kilogram of food product”(Our World in Data)
「令和3年度消費者の意識に関する調査結果報告書 ―食品ロスの認知度と取組状況等に関する調査―」(消費者庁, 令和4年4月)
「残さず食べよう!30・10(さんまる いちまる)運動」(松本市ホームページ, 2025年2月4日閲覧)
(2025年02月04日「基礎研レター」)
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保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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