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- ECB政策理事会-見通しに大きな変更なく、連続利下げを決定
2025年01月31日
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1.結果の概要:4会合連続利下げ
1月30日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・政策金利の引き下げを決定(預金ファシリティ金利で0.25%ポイントの引き下げ)
【記者会見での発言(趣旨)】
・多くの基調的なインフレ指標は中期目標への持続的な回帰に沿って進展している
・今回の決定は全会一致だった
・0.50%ポイントの議論はまったくなかった
・中立金利の議論は完全に時期尚早である
・我々は会合毎にデータに基づいて決定しており、特定のペースを確約していない
・関税政策の影響は世界全体に課される様々な関税率、貿易経路の変更、報復の有無などに依存し複雑である
2.金融政策の評価:中立金利の議論は依然として時期尚早
ECBは今回の会合で、ディスインフレ過程が順調に進んでいる(on track)との前回の評価を維持しつつ、市場予想通りとなる預金ファシリティ金利の0.25%ポイントの引き下げを決定した。今年6月に利下げを開始して以降、5回目の利下げ(9月以降は4回連続での利下げ)となった。また、景気やインフレ率、リスクに関する評価も、概ね前回12月の見通しの評価から変更がなかった。
記者会見では今後の利下げペースや中立金利、関税などの影響を含む経済見通しに関する質問が目立った。
ラガルド総裁は、現在は明らかに制限的な領域にいることから、方向性としては利下げであるが、データに依存して会合毎に決定を行うという従来通りの姿勢を維持、特定のペースは確約しないとを改めて回答している。なお、中立金利の議論については依然として時期尚早と言及する一方で、2月に新しいスタッフ推計が公表されるとの情報を提供した(ラガルド総裁はダボス会議で中立金利のレンジを1.75%から2.25%と言及したと報じられており、これと整合的な内容となると見られる)。また、経済停滞を懸念した0.50%ポイントの利下げは議論されず、経済は回復局面にあるとする一方で、サービスインフレの鈍化が見られていないことに対する質問に、粘着性の要因である賃金上昇率について、多くのデータが25年中の低下を裏付けていると回答するなど、ハト派的でもタカ派的でもない中立的な内容という印象だった。
なお、関税政策などの不確実性については、織り込むべき情報は次回3月会合で公表されるのスタッフ見通しに反映されるものの、すべてが反映できるわけではなく引き続き不確実性は残らざるを得ない点も指摘している。
今後については、中立金利までまだ一定の距離があるなか、景気回復局面が継続し賃金上昇圧力も緩和するなど見通し通りに推移すれば、次回3月の利下げを阻む障害は大きくないと見られる。一方で、中立金利に近づいた後の4月以降の利下げペースについては情報が限られており、当面の注目点となるだろう。
記者会見では今後の利下げペースや中立金利、関税などの影響を含む経済見通しに関する質問が目立った。
ラガルド総裁は、現在は明らかに制限的な領域にいることから、方向性としては利下げであるが、データに依存して会合毎に決定を行うという従来通りの姿勢を維持、特定のペースは確約しないとを改めて回答している。なお、中立金利の議論については依然として時期尚早と言及する一方で、2月に新しいスタッフ推計が公表されるとの情報を提供した(ラガルド総裁はダボス会議で中立金利のレンジを1.75%から2.25%と言及したと報じられており、これと整合的な内容となると見られる)。また、経済停滞を懸念した0.50%ポイントの利下げは議論されず、経済は回復局面にあるとする一方で、サービスインフレの鈍化が見られていないことに対する質問に、粘着性の要因である賃金上昇率について、多くのデータが25年中の低下を裏付けていると回答するなど、ハト派的でもタカ派的でもない中立的な内容という印象だった。
なお、関税政策などの不確実性については、織り込むべき情報は次回3月会合で公表されるのスタッフ見通しに反映されるものの、すべてが反映できるわけではなく引き続き不確実性は残らざるを得ない点も指摘している。
今後については、中立金利までまだ一定の距離があるなか、景気回復局面が継続し賃金上昇圧力も緩和するなど見通し通りに推移すれば、次回3月の利下げを阻む障害は大きくないと見られる。一方で、中立金利に近づいた後の4月以降の利下げペースについては情報が限られており、当面の注目点となるだろう。
3.声明の概要(金融政策の方針)
今回の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
(政策金利、フォワードガイダンス)
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
(資金供給オペ)
(その他)
- 理事会は、更新されたインフレ見通し、基調的なインフレ動向、金融政策の伝達の強さの評価に基づいて、本日、特に理事会が金融政策姿勢の操作に用いる預金ファシリティ金利など3つの主要政策金利を0.25%ポイント引き下げることを決定した
- ディスインフレ過程は順調に進んでいる(on track)
- インフレ率は総じて見通しに沿って進展しており、理事会の中期的な2%目標に今年にかけて戻ると見られる
- 基調的なインフレ指標のほとんどが、インフレ率が目標前後に持続的に落ち着くことを示唆している
- 域内インフレ率は依然として高く、特定部門の賃金や物価が過去のインフレ高騰に対して遅れて調整を続けていることが主因である
- しかし、賃金上昇率は予想通り鈍化しており、利益は部分的にインフレ率への影響を緩和している
- 理事会の最近の利下げは、企業や家計に対する新規貸出費用を段階的に低下させている
- 同時に、過去の利上げが信用残高に依然として影響し、満期が到来した貸出が高い利率で借り換えられているため、金融調達環境は引き続き制限的である
- 経済は依然として逆風に直面しているが、実質所得の上昇と段階的に解消される制限的な金融政策の効果により、時間が経過するにつれて需要回復が支えられるだろう
- 理事会は、確実にインフレ率を中期的な2%目標で持続的に安定させると決意している(変更なし)
- 理事会は適切な金融政策姿勢を決定するために引き続きデータ依存で、会合毎のアプローチを行う
- 特に金利の決定は経済・金融データに照らしたインフレ見通し、基調的インフレ率の動向、金融政策の伝達の強さへの評価に基づいて行う
- 理事会は、特定の金利経路を事前に確約しない
(政策金利、フォワードガイダンス)
- 理事会は3つの主要政策金利を0.25%ポイント引き下げることを決定した(金利の引き下げを決定)
- 預金ファシリティ金利:2.75%
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:2.90%
- 限界貸出ファシリティ金利:3.10%
- 25年2月5日から実施
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
- APPの元本償還分の再投資(内容の変更なし)
- APP残高は償還分を再投資しておらず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
- (PEPP元本償還分の再投資については、終了のため記載を削除)
(資金供給オペ)
- 流動性供給策の監視(現状認識の更新)
- 銀行は24年12月18日に貸出条件付長期資金供給オペで、残った借入の返済を行い、これによりバランスシートの正常化過程の当該部分が終了した
(その他)
- 金融政策のスタンスとTPIについて(変更なし)
- インフレが2%の中期目標で持続的に安定し、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
- 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう
4.記者会見の概要
政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
(冒頭説明)
(経済活動)
(インフレ)
(リスク評価)
(冒頭説明)
- (声明文冒頭に記載の政策姿勢への言及)
- 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい
(経済活動)
- 経済はユーロスタットの速報値によれば10-12月期に停滞した
- 短期的には引き続き弱さが続くと見られる
- サーベイ指標は製造業が引き続き縮小し、サービス業が拡大していることを示唆している
- 消費者景況感は脆弱で、家計は実質所得の上昇から大きく支出を増やす十分な自身を得ていない
- それにもかかわらず、回復の条件は整っている
- 労働市場はここ最近軟化を続けているものの、引き続き強靭で失業率は12月に6.3%の低さにとどまっている
- 強固な労働市場と高い所得は消費者信頼感を強め、支出増につながるだろう
- より利用しやすい信用もまた時間がたつにつれて消費や投資の活性化につながるだろう
- 貿易摩擦が激化しなければ、世界的な需要の改善に伴い、輸出も回復を支えるだろう
- 財政政策、構造政策は我々の経済をより生産的、競争的、強靭化させるよう実施されるべきである
- 我々は欧州委員会の具体的な行動計画である競争力コンパスを歓迎する
- マリオ・ドラギ氏の欧州の競争力強化のための提案と、エンリコ・レッタ氏の単一市場強化の提案を、さらに具体的かつ野心的な構造政策を伴う形で迅速に追求することが肝要である
- 政府はEUの修正された経済統治枠組み(economic governance framework)のもと、自身の確約を完全に遅延なく実行すべきである
- これにより、成長促進の改革と投資を優先させつつ、政府の財政赤字と債務比率を持続的な基準に引き下げる助けになるだろう
(インフレ)
- インフレ率は12月に前年比2.4%となり、11月の2.2%から上昇した
- 過去2か月と同様、この上昇は予想されていたもので、主にエネルギー価格の過去の急激な減少が計算から外れたことを反映している
- 12月の前月比上昇率と合わせて、エネルギー価格は前年比で4か月連続の減少となった後、若干の上昇に転じた
- 食料インフレは2.6%に、財インフレは0.5%にやや低下した
- サービスインフレは4.0%にやや上昇した
- 多くの基調的なインフレ指標は我々の中期目標への持続的な回帰に沿った進展をしている
- 域内インフレは、サービスインフレと近い動きをしており、賃金と一部のサービス物価が過去のインフレ高騰に対して大幅に遅れて依然として調整を続けているため、高止まりしている
- 同時に最近の兆候では、引き続き賃金上昇圧力が緩和していること、利益が緩衝の役割を果たしていることが示されている
- 我々はインフレ率が短期的には現在の水準前後で推移すると見ている
- その後、インフレ率は中期的な2%目標付近で持続的に落ち着くだろう
- 労働コスト圧力の緩和と過去の金融引き締めの消費者物価への影響が継続していることが、この過程を助けている
- 市場ベースのブレイクイーブンインフレ指標(inflation compensation)は、この秋に大幅に低下に転じたことが確認されたが、多くの長期的なインフレ期待は2%付近で推移している
(リスク評価)
- 成長率に対するリスクは引き続き下方に傾いている
- 世界貿易の摩擦拡大はユーロ圏の輸出停滞や世界経済の弱さにより成長率の重しになる可能性がある
- 信頼感の低さによって、消費や投資が予想通りの速度で回復しない可能性がある
- これは地政学的リスク、例えばロシアの正当化されないウクライナとの戦争や、中東での悲劇的な紛争によって増幅される可能性があり、エネルギー供給の混乱や世界貿易のさらなる重しになりうる
- 金融政策引き締めの効果がラグをもって予想以上に長く続けば成長率が低下する可能性がある
- 資金調達環境の緩和やインフレ率の低下が域内の消費や投資回復を加速させれば、成長率が高まる可能性がある
- インフレ率は賃金や利益が予想以上に上昇すれば、上振れする可能性がある
- インフレ率の上方リスクはまた、特に中東における地政学的緊張の高まりがエネルギー価格や運送費用を短期的に上昇させ、世界貿易を混乱させることが含まれる
- 加えて、異常気象や気候変動危機の展開が、食料品価格を予想以上に上昇させる可能性もある
- 対照的に、インフレ率は信頼感の低さや地政学的な事件によって消費や投資が予想通りの速さで回復しない、金融政策が予想以上に需要を低下させる、もしくは、予想外に世界経済が悪化することで低下する可能性がある
- 世界的な貿易摩擦の高まりはユーロ圏のインフレ見通しをより不透明にするだろう
(2025年01月31日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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