2024年12月27日

わが国の不動産投資市場規模(2024年)~「収益不動産」の資産規模は約315.1兆円(前回比+25.7兆円)。すべての用途が前回調査から拡大

金融研究部 主任研究員 吉田 資

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 事業部長 主任研究員 室 剛朗

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 研究員 藤野 玲於奈

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 研究員 宮野 慎也

文字サイズ

1.はじめに

日本の不動産投資市場は、コロナ禍を経ても、引き続き好調を維持している。日本不動産研究所「不動産取引市場調査」によれば、2024年上期の取引金額は約3.7兆円に達し、2007年上期(約3.1兆円)を上回って過去最高額を更新した。また、国土交通省「不動産証券化の実態調査」によれば、証券化の対象となった不動産の資産総額は、約40.7兆円(令和元年調査)から約59.8兆円(令和5年調査)へと5年間で約1.5倍に拡大した。

不動産投資市場の将来を見通すにあたり、投資対象となる「収益不動産」の資産規模がどれくらいであるのか、また、その内訳を「用途別」や「エリア別」に継続して把握することは重要だと考えられる。

そこで、ニッセイ基礎研究所と価値総合研究所は共同で、2021年1に開始し、今回で4回目となる「わが国の不動産投資市場規模」に関する調査を実施した。
 
1 吉田資・室 剛朗『わが国の不動産投資市場規模(1)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2021 年3 月12 日)
 吉田資・室 剛朗『わが国の不動産投資市場規模(2)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2021 年4 月19日)
 吉田資・室 剛朗『わが国の不動産投資市場規模(3)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2021 年5 月20日)

2. 「収益不動産ストック」の推計

2. 「収益不動産ストック」の推計

2-1.推計方法と推計結果
本調査では、事業者や個人に物件を賃貸することで、賃料収入を獲得できる不動産(以下、「収益不動産」)を調査対象とした。また、「収益不動産ストック」の内訳を把握するため、

(1)一定水準以上の面積基準や築年基準を満たす「収益不動産」
(2)機関投資家の投資意欲が特に強いスペックや立地要件を満たす「投資適格不動産」
(3)主要政令指定都市に立地するハイクラスオフィスである「コア投資不動産」

のカテゴリーに分類し、推計を実施した。

推計方法は、過去の調査と同様に、収益還元法に基づく「ボトムアップ・アプローチ」を採用した(図表―1)。まず、「着工床面積の積算」と「レンタブル比」のデータをもとに「賃貸可能床面積」を推計した。次に、推計した「賃貸可能床面積」と、「平均賃料」や「平均稼働率」のデータをもとに、「総収入」を推計した。続いて、推計した「総収入」と「平均コスト比率」をもとに、「NOI:営業純収益、Net Operating Income」を推計した。最後に、推計した「NOI」を「キャップレート」で除して、「収益不動産の総額」を求めた。

今回の調査では、「収益不動産」の資産規模は約315.1兆円(前回比+25.7兆円、+8.9%)、「投資適格不動産」の資産規模は約194.6兆円(前回比+15.6兆円、+8.7%)と推計された。前述の国土交通省の調査によれば、証券化の対象となった不動産の資産総額は、約59.8兆円である。この数値によれば、「収益不動産(315.1兆円)」の約19%、「投資適格不動産(194.6兆円)」の約31%が既に証券化されていることになる。
図表-1 推計手順
2-2.「用途別」にみた資産規模
(1) 「収益不動産」
「収益不動産(315.1兆円)」を用途別にみると、「オフィス」が約109.7兆円と最も大きく、次いで「賃貸住宅」が約83.2兆円、「商業施設」が約69.7兆円、「物流施設」が約35.5兆円、「ホテル」が約17.0兆円と推計された(図表―2)。

「オフィス」は前回比+6%、「賃貸住宅」は同+8%、「商業施設」は同+3%、「物流施設」は同+12%、「ホテル」は同+71%となり、すべての用途が前回調査から拡大した(図表―3)。

資産規模の推移を確認すると、「オフィス」、「賃貸住宅」、「物流施設」、「ホテル」は過去最高水準を更新した。一方、コロナ禍の影響で大きく縮小した「商業施設」は、順調に回復しているものの、2021年調査の資産規模には届いていない。

年金運用等の資産運用においては、基本となる資産構成割合(基本ポートフォリオ)を定めて、定期的にリバランスを行い運用するほうが、良いリターンを獲得できるとされる。公的年金等の資産運用では、各アセットクラス(市場ポートフォリオ)のリスク・リターンなどを考慮したうえで、積立金運用の基本ポートフォリオを定めている。そのため、基本ポートフォリオに不動産を組み入れる際には、不動産投資における「市場ポートフォリオ」の特性を把握することが重要である。
図表-2 「収益不動産」の資産規模(用途別)/図表-3 用途別資産規模の推移
国内不動産投資における「市場ポートフォリオ」となる「収益不動産」のセクター比率は、「オフィス」が35%(前回調査36%)、「住宅」が26%(同27%)、「商業施設」が22%(同23%)、「物流施設」が11%(同11%)、「ホテル」が5%(同3%)となる(図表―4)。

投資信託協会によれば、2024年3月時点の「J-REIT」のセクター比率は「オフィス37%」、「物流施設21%」、「賃貸住宅16%」、「商業施設14%」、「ホテル8%」である(図表―4)。「J-REIT」は「市場ポートフォリオ」と比較して、「賃貸住宅」と「商業施設」の比率が低い一方、「物流施設」の比率が高い。また、不動産証券化協会と三井住友トラスト基礎研究所の調査によれば、「不動産私募ファンド」のセクター比率は「オフィス37%」、「賃貸住宅21%」、「商業施設15%」、「物流施設13%」、「ホテル6%」である(図表―4)。「不動産私募ファンド」は「賃貸住宅」と「商業施設」の比率が低いと言える。
図表-4 「J-REIT」と「不動産私募ファンド」のセクター比率
(2) 「投資適格不動産」
次に、「投資適格不動産(194.6兆円)」を用途別にみると、「オフィス」が約74.1兆円(占率38%)、「商業施設」が約46.5兆円(24%)、「賃貸住宅」が約41.8兆円(21%)、「物流施設」が約20.5兆円(11%)、「ホテル」が約11.7兆円(6%)と推計された(図表―5)。

「オフィス」は前回比+5%、「賃貸住宅」は同+10%、「商業施設」は同+3%、「物流施設」は同+17%、「ホテル」は同+58%となり、すべての用途が前回調査から拡大した(図表―6)。
図表-5 「投資適格不動産」の資産規模(用途別)/図表-6 用途別資産規模の推移
2-3.資産規模推計の基礎データ
続いて、資産規模推計の基礎データとなる(1)建築着工床面積、(2)NOI、(3)キャップレートについて、その動向を確認する。
(1) 建築着工床面積の動向
国土交通省「建築着工統計調査」によれば、2023年の着工床面積は、コロナ禍前の2019年を100 とした場合、「物流施設(137)」と「住宅(109)」はコロナ禍前の水準を上回った一方、「オフィス(89)」、「商業施設(89)」「ホテル(36)」は下回った(図表―7)。
図表-7 建築着工床面積の推移(2019年=100)

(2024年12月27日「不動産投資レポート」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部

吉田 資
(よしだ たすく)

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 事業部長 主任研究員 室 剛朗

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 研究員 藤野 玲於奈

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 研究員 宮野 慎也

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【わが国の不動産投資市場規模(2024年)~「収益不動産」の資産規模は約315.1兆円(前回比+25.7兆円)。すべての用途が前回調査から拡大】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

わが国の不動産投資市場規模(2024年)~「収益不動産」の資産規模は約315.1兆円(前回比+25.7兆円)。すべての用途が前回調査から拡大のレポート Topへ