2024年09月27日

保険・年金関係の税制改正要望(2025)の動き-関係する業界・省庁の改正要望事項など

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――2025年度予算と税制改正の動きが始まる

8月末までに各省庁の概算要求が提出され、2025年度に向けた予算や税制改正の動きが始まったところである。例年と同じく、全体からすればほんの一部分ではあるが、保険・年金あるいはそれに近い金融商品に関する税制改正要望がどんなものかについてみてみる。

2――2025年度税制改正要望

2――2025年度税制改正要望

1|各業界団体の要望事項
主に保険、年金とその周辺の要望事項を列挙すると以下のようなものである。
 
<生命保険協会>
〇生命保険料控除の拡充 
現在の制度では、
平成23年12月までの契約は生命保険が所得税5万円、地方税3.5万円、個人年金保険もそれぞれ同額(合計控除額 所得税10万円、地方税7万円)、平成24年以降契約は、介護保険に重点が置かれたため分離して、一般、介護、個人年金それぞれで所得税4万円、地方税2.8万円、(合計控除限度額 所得税12万円、地方税7万円)となっている。

昨年の与党税制改正大綱において、子育て世帯に対する遺族保障についてはこれに2万円追加し、介護・個人年金より大きい6万円(地方税4.2万円)とすることが明記された。今回はそれに向けた具体的な施策の決定を要望している。

今回はこうした具体的な動きもあるためか、例年のように介護、個人年金などの拡充は、具体的に要望しているわけではないが、将来の国民の自助・自立のための環境整備の観点から、生命保険料控除制度全般を拡充する主旨の要望となっている。
 
〇企業年金保険関係
例年同様、特別法人税の廃止・少なくとも課税停止期間の延長、を要望している。一昨年、課税停止期間が3年延長(2025年度末まで)されたので、今年も大きな動きは期待しにくいが、他のいくつかの業界からも、引き続き撤廃要望がある。

また、働き方に中立的な税制改正の議論の際には、私的年金全体の今後の見直し(とりわけ拠出時・運用時・給付時の課税のあり方)において、私的年金全体の拠出限度額の見直し時に、年金制度のカバレッジの縮小が起きないよう一体的・慎重に議論を行うことを要望している。

また確定拠出年金・確定給付年金ともに、現在よりもさらに税務上必要な条件を緩和する方向で、いくつかの項目を要望している。
 
〇相続税関係
死亡保険金の非課税限度額は現在、「法定相続人数×500万円」であるが、さらに「配偶者分500万円+未成年の被扶養法定相続人数×500万円」を加算することを求めている。(例年と同様)
 
<日本損害保険協会>
〇火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実
自然災害の激甚化・頻発化に対応して、火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実などを要望している。内容は、積立率の引き上げや無税積立枠の拡大などである。またその取崩し基準の引き上げ(損害率50%→55%)も含まれている。
 
〇地震保険料控除
従来あった損害保険料控除制度が、2007年より地震保険料のみを対象とするよう改正され、現在の控除限度額は所得税5万円、地方税2.5万円である。近年の地震リスクがより大きなものに見直される中で、地震保険料そのものの水準は、2017、2019,2021と引き上げられてきた。それに対する地震保険料控除制度の方もさらに制度として充実させるよう、検討を要望しているが、具体的な数値などには言及されていない(昨年と同じ)。
 
〇企業年金関係
特別法人税の撤廃(生命保険協会と同じ)
<全国銀行協会>
〇企業年金関係
確定拠出年金制度に関連して、特別法人税の撤廃、制度のさらなる普及のための利便性の向上や優遇措置などを要望している。なお、これらは別途、厚生労働省の担当部署に対し、「確定拠出年金制度に関する改善要望について」として提出されている。

その他に、金融資産への課税の簡素化、中立化の観点から、金融商品課税の一体化1を要望している。昨年要望していたNISA(少額投資非課税制度)の恒久化は達成されたので、次にその利便性の向上に向けたいくつかの手当を要望している。
 
1 金融商品ごとに異なる課税方式の統一や、損益通算範囲の拡大(例えば、株式損失と利子所得の相殺とか)のことを指す。
<信託協会>
信託協会は信託、年金、金融制度全般、不動産などの分野について要望をまとめている。うち年金については特別法人税の撤廃を要望している。また、確定拠出年金の利便性をより向上させるような税制優遇範囲の拡大や手続きの簡素化につき、いくつか要望している。

また金融制度のなかでは、金融所得課税の一体化や、NISAの利便性向上にむけた要望を出している。
 
<経団連>
(9月27日17:00時点で、税制改正要望はまだ発表されていない。)
産業全般あらゆる分野の要望が盛り込まれている中で、金融・生命保険・年金の周辺では、例年、金融所得課税の一体化、生命保険料控除制度の拡充、特別法人税の撤廃、確定拠出年金制度の拡充など、各業界の要望を取り入れたものになっている。損害保険の火災保険等の異常危険準備金制度の充実も「住宅・土地・都市税制」のひとつとして取り上げている。NISAについても、昨年抜本的な拡充・恒久化がおこなわれたので、おそらくはその円滑な実施のための措置が要望されると思われる。
2|各省庁の要望
そもそも様々な業界がこの時期に税制改正要望をまとめるのは、今後予算・税制の検討が政府、省庁、最終的には国会にむけて検討が進められるタイミングに、時期を合わせているためである。ではその各省庁において、概算要求とともに、税制改正要望事項はどうなっているのか、をみる。
 
<金融庁>
NISAの抜本的な改正が2024年1月から実施されており、その普及も順調ということで、今回はさらなる利便性向上(デジタル化・簡素化)に向けた要望が出されている。

他には、金融所得課税の一体化などを要望している。また上記の生保業界の要望を受けて生命保険料控除拡充と相続税関係の事項を要望している。(なお、特別法人税の撤廃については、今回は要望されていない。)同様に損害保険業界の要望を受ける形で、火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実を要望している。
 
<厚生労働省>
現在、社会保障審議会において、公的年金制度のあり方(年金部会)、私的年金制度のあり方(企業年金・個人年金部会)の検討が行われている。ぞれらの結果を踏まえて税制上の所要の措置を講ずるよう要望している。

3――今後の動きについて

3――今後の動きについて

各省庁から財務省に要望が出されたあと、その要望に沿って財源と対費用効果などについて折衝がなされ、政府あるいは与党の税制調査会で議論がなされていくことになる。実質的には12月中旬の与党税制改正大綱の発表の中でかなり細部まで確定し、あとは、年明けの国会で予算案全体の中でそれを法律に反映させることで、正式に決まる。

(2024年09月27日「基礎研レター」)

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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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