2024年09月24日

あの“同期”はなぜ飲み会に参加しないのか-Z世代のアルコールに対するスタンスについて考える

生活研究部 研究員 廣瀬 涼

文字サイズ

本レポートのポイント

1――はじめに

1――はじめに

株式会社東京商工リサーチが行った「2024年お花見、歓迎会・懇親会に関するアンケート調査」1によると、2024年の「お花見、歓迎会・懇親会」の開催率は29.1%であった。コロナ禍前(2019年:51.8%)と比較すると22.7ポイント下回り、前年(2023年:27.9%)からは1.2ポイントの増加にとどまった。
図1 「お花見」「歓迎会・懇親会」開催率推移
コロナ禍であった2022年は5.3%まで減少したため、当時と比較すれば大幅に増加傾向にあるものの、コロナ禍で浸透した生活様式の変化が定着し、会社や部署単位での飲み会が積極的に開催される雰囲気ではないのかもしれない。正にコロナ禍真っ只中であった2022年、とある企業の新入社員が自分たちの歓迎会に全員が欠席をした、といった投稿がSNSで注目された。翌年筆者はその投稿を基に、Z世代(1996~2012年の間に生まれた層)の価値観やプライオリティに関して執筆した『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか: Z世代を読み解く』2という本を出版した。彼らが飲み会に参加しなかった理由として、コロナ禍で社会が足並みを揃えて共闘している中で、わざわざコロナ感染・拡大の恐れがある集団での会食を率先して開くことに対する会社に対する疑問を抱いていたことや、会社へのプライオリティの低下に伴い自身の時間を優先することなどが要因であると考察した。

しかし、新型コロナウイルス流行が収束に向かうにつれ、「三密」に関する制限もなくなった結果、現在「新型コロナ」や濃厚接触回避を理由として、飲み会や懇親会が制限されることはほぼないと言っても過言ではないだろう。東京商工リサーチの同調査によれば、あくまでも「今年お花見、歓迎会・懇親会を開催した(予定含む)」と答えた企業が対象ではあるが、飲み会の開催に伴い「制限は設けていない」が90.4%(1,198社)と、開催企業の9割以上はコロナ禍前と同様、制限のない宴会形式で実施していることがわかった。
図2 「歓迎会・懇親会」について、現在制限を設けていますか?
 
1 株式会社東京商工リサーチ「お花見、歓迎会・懇親会」の開催率29.1% 慣習的な開催は限界? 訪日外国人と仲間うちが活況 2024/04/11 https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1198502_1527.html
2 https://store.kinzai.jp/public/item/book/B/14243/

2――職場での飲み会が嫌い!!

2――職場での飲み会が嫌い!!

企業でもそうだが、現在では、我々の多くがコロナ禍当時の制限を忘れて、家族や友達と食事をしたり、飲み会を楽しんでいるだろう。それではなぜ飲み会開催の水準は、コロナ禍前ほど回復しないのだろうか。前述した通り、コロナ禍に開催されなかったことで惰性的に開催が見送られているという見方もできるだろうが、そもそも若者に限らず、それ以前の世代においても会社での飲み会に対して否定的な意見をもっている層が少なくないということが大きな要因であろう。株式会社産労総合研究所が2021年に20~60代の男女を対象に行った「飲みニケーションは好きですか?」3という調査によれば、好きの計(好き:6.0%、どちらかというと好き:25.1%)が31.1%に対して、嫌いの計(どちらかというと嫌い:31.6%、嫌い:37.2%)は68.8%と、7割近くが職場での飲み会が嫌いであると回答している。同調査では、コロナ収束後職場の飲み会に参加したいか否かも聞いているが、「どちらかというと参加したくない」が24.2%、「参加したくない」が47.9%という結果であり、コロナが収束したとしても率先して参加しようとは考えていなかったことが伺える。
図3  職場の飲み会は好きですか?(n=215 男性:117, 女性:98)
図4 職場の飲み会は好きですか?(年代・男女別) (n=215 男性:117, 女性:98)
株式会社 R&Gが行った「職場の飲み会に関する意識調査」4によれば職場の飲み会は行きたくない人が73.6%で、「気を遣うから」「仕事とプライベートを分けたい」「話がつまらない・合わない」が上位の理由として挙がっている。気を遣っておもしろくない飲み会にお金や時間をかけるのは無駄と感じつつも、飲み会に参加しない事で生じる負の影響(出世に影響する・上司に嫌われる)などを考慮してしぶしぶ参加しているのが実態であろう。株式会社識学の調査からもわかる通り、職場での飲み会参加について「強制参加」が5.3%、「任意だが強制に近い」が36.3%と、“参加せざるを得ない空気”がある企業があるのも実情だ5
図5 あなたの職場の“飲み会”の参加について、近いものをお答えください。(n=300)
コロナ過での生活様式が浸透したことで、就業後のプライベートの時間を大切にしたり、在宅勤務が可能になり子育てと両立しやすくなったりと、時間を自身の“ために”充てることができるようになり、益々仕事とプライベートの境目が明確になっていく中で、わざわざ仕事の後に顔を合わせるのではなく、昼休憩を活用してランチ会などを開きコミュニケーションをとる職場も増えてきている。昼休憩中ではあるものの、就業時間内で済むという点や、お酒を強要されることがない点、参加者が節度を持っている点、飲み会に比べて費用が掛からないという点、スケジュールの調整が飲み会を開催するよりかは融通が利く点などが好まれている理由であろう。また、若者に限らず、飲み会がなくても特段不都合がなかったという経験をしてしまったため、わざわざそれを復活させる必要はないと考えるのが、飲み会に対して消極的な層の本音だろう。もし、満足いく給与をもらえていなかったり、やりがいのある(やりたい)仕事でなければ、ほとんどの消費者にとって、労働は消費(生活)するために、やりたくないけれどもしなくてはいけない事というネガティブな対象であるだろうし、それに対して自分の時間やお金を削るくらいなら、その嫌な労働をするためのモチベーションとなり、自身を満たすようなことにリソース(時間やお金)を割くのが合理的だろう。それ故に会社での人間関係は淡白なモノとなっていく。
 
3 株式会社産労総合研究所「独自調査:飲みニケーションは好きですか?」2021/02/05 
https://www.e-sanro.net/research/research_jinji/jijiromu/nominication/pr2102-1.html
4 株式会社R&G https://r-andg.jp/ 「職場の飲み会に関する意識調査」2024/07/26 https://www.fnn.jp/articles/-/734815
5 株式会社識学「“飲みにケーション”に関する調査ー職場の“飲み会”に参加したくない50.7%」 2024/01/30 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000107.000029010.html

(2024年09月24日「基礎研レポート」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   研究員

廣瀬 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化論、若者マーケティング、サブカルチャー

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【あの“同期”はなぜ飲み会に参加しないのか-Z世代のアルコールに対するスタンスについて考える】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

あの“同期”はなぜ飲み会に参加しないのか-Z世代のアルコールに対するスタンスについて考えるのレポート Topへ