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生成AIの普及と活用-生成AIの活用はレガシ-システムの解消につながる!?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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5――生成AIの活用 (一般的なもの)
1|テキストの要約が効果的
生成AIの大規模言語モデルは、大量の文章をコンパクトに要約できることに特長があるといわれる。テキスト書類の全般的な要約を与えるとともに、その内容についての質問に回答することもできる。一般に、ビジネスでは、短時間で大量の文章の要点をつかむことが求められることが多い。その際に、生成AIの要約能力を活用することが考えられる。
また、法令や各種ルールやマニュアルを記したテキストを分析したり、類似の文書を比較して相違点を明らかにしたりする際にも生成AIが活用できる。
AIを利用した文字起こしツールは、会議の議事録やインタビューの応接録を正確に作成することができる。会議や打ち合わせで、発言ごとに話し手の違いを区別することもできる。さらに、前節のテキスト要約機能とあわせて、議論のポイントや概要を作成することもできる。
ただし、詳細で正確な議事録が作成できることは、ある種の問題を引き起こす可能性もある。例えば、インタビュー時に発言内容がAIで記録されることについて、十分に了解が得られていない場合、後にトラブルを引き起こす恐れがある。また、会議の参加者が、プライバシーなど少しでも個人の機微に触れるような発言を控えがちになるなど、“オフレコ”を一切許さない状況が、自由闊達な話し合いを阻害する可能性もある。
生成AIの大規模言語モデルの得意分野として、レポートやプレゼンの資料、メールなどを起草できる点が挙げられる。生成AIとしての本領発揮というところだろう。
作成するコンテンツの品質や完成度は、ユーザーの指示や機械学習の程度によって異なる。ただし、通常はとりあえず起草された資料があれば、それをユーザーが改良することは可能であり、労力の軽減や時間の節約になる可能性がある。
会議等で、議論のたたき台となる資料を作成することも考えられる。通常、たたき台となる資料には、作成者の視点や考えが入り込んでしまう懸念があるが、生成AIが作成すればそうした懸念を縮小できるものとみられる。6
6 ただし、生成AIが機械学習の際に用いた学習データの中に、特定の偏った考え方やプライバシー侵害・不当差別等の道徳・倫理的な問題が混入している恐れがあるため、作られた資料のチェックは欠かせないものと考えられる。
生成AIは、企業などで、職員の学習を促進するためにさまざまな方法で使用できる。職務訓練や知識習得での学習プラットフォームとして生成AIを活用するケースも出てきている。ある職務について、文章や音声などを使った説明をしたり、それに関するQ&Aを用意したり、習得事項に関するテストを行ったりするような、インタラクティブな活用が進められている。
インターネットが登場してから20年ほどの間に、物事を調べる際は、GoogleとWikipediaを用いた検索が日常的に行われるようになってきた。生成AIは、それに変わる情報源となる可能性がある。生成AIの利点として、質問者に応じた回答を作成したり、理解を深めるためのフォローアップの質問・回答をしたりできることが挙げられる。
ただし、生成AIが引き起こす「幻覚(ハルシネーション)」 (真実ではない“事実”や資料を作り出すこと) のリスクがある点は、利用者が注意しておく必要があるだろう。
6――生成AIのプログラミングへの活用
1|プログラミングを加速させる
ソフトウェアの開発には、以前から生成AIが用いられてきた。開発を加速するためのさまざまな統合AIツールが提供されている7。具体的な役割として、テキストでの指示に基づくプログラム生成、プログラムの確認、バグの修正、プログラム改良の提案などがある。これらは、開発者にとって実務を加速させるとともに、プログラミングの学習ツールとしても役に立つ。
7 主要なものとして、GitHub Copilot、Amazon Code Whisperer、GPT-4などが挙げられる。
プログラミングにおいては、本体のプログラムを正確かつ効率的に組み立てるとともに、その内容についてコメントや注記を付すことが重要となる。これは、プログラムの作成意図や改定履歴等を残すもので、プログラマーに一般的に受け入れられているベストプラクティスである。ただし、実務においては、労力や作業時間の関係で無視されたり、形式的なコメント付加にとどまったりすることがよく見られる。生成AIがこのコメントの作成を担うことで、組織内でのプログラムの伝承や共有化に役立つこととなる。
生成AIが特に得意なプログラミングの分野として、あるプログラムの言語から別の言語へのプログラムの言語変換があげられる。例えば、Pythonで作成したプログラムをGoogle Golangのプログラムに変換するといった作業である。
金融や保険の事業では、過去に作成して用いてきた業務プログラムが、レガシーシステムの一部として残っているケースがある。レガシーシステムでは、開発者の世代が定年退職を迎えて、職場からいなくなってしまっているようなケースも見られる8。こうした場合、システムの刷新を図ろうとしても、プログラムの言語変換がネックとなり、移行が進まないことがありうる。
生成AIがプログラムの言語変換の作業を担うことで、こうしたレガシ-システムの解消につながる可能性もある。
8 かつて保険会社ではAPLというプログラム言語が用いられていた。最近はほとんど使用されていないものと考えられる。
7――おわりに (私見)
今後もデータサイエンスの分野では、さまざまな展開が見られるものと考えられる。引き続き、その動向に注目していくこととしたい。
(参考文献)
「JEITA、生成 AI 市場の世界需要額見通しを発表」(一般社団法人電子情報技術産業協会, 2023年12月21日)
“What should an actuary know about artificial intelligence? (AAE, Jan. 2024)
“A Primer on Generative AI for Actuaries”(SOA Research Institute, Feb. 2024)
「マルコフ決定過程」(ウィキペディア)
(2024年07月30日「保険・年金フォーカス」)
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保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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